社会人大学院での学習を通してビジネスパーソンに生じる内面的変化の影響プロセスに関する研究のまとめ

こんにちは、Elephant Career代表の秋山です。

この記事では、105人の社会人大学院在学生・修了生へのインタビューを定性分析してわかった、大学院の良さについて伝えていきます。

社会人大学院で生まれ変わった人

私は、都内の理系大学を卒業したのち、ITベンチャー企業に就職し、3年目から人事として評価報酬制度やキャリア開発などを担当してきました。働く中で、現場で得た経験・知識だけで人事として自信をもって働き続けることが難しいと感じ、社会人大学院に進みました。

私にとっての大学院は、人事としての経験値を上げるだけでなく、人間的な成長を促してくれる場所でした。ただ、この大学院の良さはなかなか言葉にし辛い。「結局何がよかったの??と聞かれても、言葉に窮することが多くもどかしい場面が多々ありました。

社会人が学ばない国として不名誉なレッテルを貼られてしまっている日本ですが、大人が学ぶことの良さをちゃんと言語化することで「学んでみるか!」と立ち上がる人が増えたらいいなという思いを込めてこのプロジェクトを立ち上げました。

プロジェクトの概要

  • 社会人大学院生・修了生105人へのインタビュー
    • インタビュー期間:2022年2月〜2022年12月
    • 進学時年齢:25〜50才
    • 入学年度:2012〜2022年
    • 分析手法:主題分析
      • 演繹的に既存理論を当てはめることや、帰納的にデータから概念をカテゴライズできる点が、105名という大量インタビューの分析を効率的に行えると考えたため
      • 質問項目
        • これまでの経歴を教えてください
        • 社会人大学院に行こうと思ったきっかけを教えてください
        • 社会人大学院での最大の学びは何ですか
        • 家族や職場との兼ね合いで大変だったことはありますか

        仕事を楽しんでる人は学びたがる

        きゃーインタビューも分析もめっちゃ大変だった〜。でもとても面白い結果が出ました!以下が結果のプロセス図です。このプロジェクトを通して新たに気が付けたポイントを3つ抜粋してみます。

          1.ダイバーシティ・対話・忙しさがディープラーニングを促進する

          社会人大学院の特徴を挙げると、①学習者の層が多様である②対話やディスカッション、内省を重要視する授業形式である③仕事との両立があります。これらは、MacDonald(2002)が提唱する変革的アンラーニングの3つの段階に当てはまり、深い学びを促進する環境が自ずと作られていることがわかりました。

          第一段階「受容」は、自分の前提を覆す視点や観点が存在する可能性を受け入れ、それらの観点を検討し受け入れる準備をするプロセスで、さまざまな業界・年齢・バックグランドの学習者が集まる社会人大学院という場所は、「受容」が促進される環境だといえます。

          第二段階の「認識」は、代替的な視点の確からしさと、自分自身の視点に存在する限界を認めるプロセスです。対話・ディスカッションをベースに進む社会人大学院の講義は、他者の代替的な視点を取り入れ、自信の視点の限界を認識する機会だといえます。

          最後の第三段階「悲嘆」は、これまで確信と安心をもたらしていた中核的な視点を手放して、折り合いをつけるプロセスです。仕事や家族時間と両立をしながら、ハードな環境で、膨大なタスクをこなす必要のある2年間は、今までの仕事の進め方・考え方では通用しない。その中で、折り合いをつけながら、新しいやり方を取り入れていくプロセスは、まさにディープアンラーニングだといえます。

          私の最大モヤモヤだった「大学院の何が私を成長させたのか」に、ついに答えが出ました!多様性・内省・ハードワーク。この三つが重なることで、自己を変革させるようなアンラーニングが起こり、それが成長への繋がったんだと腹落ちしまいた。あーーすっきり!

          2. 学びには、従業員・ワークエンゲージメントが高い状態が必要

          2つ目の気づきは「どんな人が大学院に行こうと思うのか」という疑問への一つの答えです。社会人大学院で学ぼうとする人は、共通して従業員エンゲージメント・ワークエンゲージメントが高い状況にあることがわかりました。ここからは仮説ですが、どちらかが低い人は、それの改善のために「転職」という選択をするが、両者が高い人の場合は仕事環境はそのままに「学び」に投資する傾向にあるのではないかと考えました。

          インタビューコメント例

          「1つは、今の会社に可能性も感じているからです。会社自体に様々なリソースがあり、経営上も新たな事業創出に力を入れているので、この会社で自分がやりたいことができるチャンスがあると考えてます。」

          インタビューコメント例

          「若い世代を支える助産師たちの働き方をつくるためには社会の仕組みから見直す必要も出てくるでしょう。そのためには、これまでのように自分の感覚だけで動くのではなく、知識やスキルをきっちりと身につけた上で活動したいという想いが、少しずつ膨らんでいきました。」

          3. 小我を捨てて大我に生きるようになる

          「スキル・知識を身につけたい」「目の前の課題を上手く解決したい」「人脈を作りたい」など小我をきっかけとした学習でも、スキル・知識を身につけディープアンラーニングした学習者は、自分に強みを見出し精神的な余裕が生まれ、より大きな目的・志、言い換えれば大我に生きるようになることがわかりました。

          神谷(2004)は著書「生きがいについて」の中で、「小さな自我に固執していては精神的エネルギーを分散し、消耗するほかなかったものが、己を超えるものに身を投げ出すことによってはじめて建設的に力を使うことができるようになる。これはより高い次元での自力と他力の統合であるといえる。」と述べています。

          「己を超えるものに身を投げ出す」機会は仕事ではなかなか得にくいもの。いくら従業員・ワークエンゲージメントの高い社会人大学院生であっても、生活に直結する報酬を会社に握られる環境の中で、己の見え方・成果を完全に無視して、身を投じることは難しいことが多い。一方、社会人大学院は成績がつくとはいえ、生活に直結することもなく、より自由に建設的に議論できる環境です。自分の手の内を明かして、相手と本気で議論する経験は、大我を育てる絶好の環境ではないでしょうか。

          研究からの示唆

          最後に、このプロジェクトから見えた示唆を企業向け、ビジネスパーソン向け、大学向けそれぞれをまとめて終わります。

          企業:従業員の学びモチベーションを上げるために必要なこと

          1. 金銭的な補助・柔軟な仕事環境の整備
          2. ワークエンゲージメントを高める施策
          3. 異動やストレッチなアサインメント

          ビジネスパーソン:良い学びを得るために必要なこと

          1. 入学して後悔している人は0人!飛び込もう
          2. 仕事が好きだけど物足りなさを感じるなら、社会大学院おすすめ

          大学:良い学びを提供するために必要なこと

            1. 実践に役立つテーマやプログラムの設計
            2. 働きながら学びやすい環境づくり

                参考:先行研究

                • 入学のきっかけについて
                  • 兵藤(2011)によれば、国内の経営学系大学院における社会人の学び直し目的の上位には、「専門的な知識等の習得」「論理的思考力の向上」「基礎的なスキルの習得」「人脈の充実」がある。また、大学院での学習による成果の上位には、「論理的思考力の向上」「人脈の充実」「専門的な知識等の習得」「教養の深耕」が挙げられる。目的と得られた成果の上位順位が入れ替わる傾向があることに注目。
                • 学習の阻害要因について
                  • 柳田・小林・廣松(1997)によれば、社会人大学院生が抱える学習の阻害要因として、研究に充てる時間の不足感を挙げている。勤務先の了解を得ていたとしても、社会人大学院在学の条件になっていることが多く、仕事との両立に課題を抱える人が多い。
                • 私が実感した内面的な変化について、社会人大学院の学習効果として記述されている先行研究は見当たらなかった。そこで、自らの知識やスキルを棄却し、新しい知識・スキルを取り入れるプロセスである「アンラーニング」に着目した。
                • アンラーニング
                  • Hislop et al.(2014)は、アンラーニングを、フェージング、ワイピング、ディープアンラーニングの3つに分類した。MacDonald(2002)は、変革的アンラーニングを提唱し、これはディープアンラーニングと多くの共通点を持つ。Argyris・Schon(1996)は、「問題ある状況」の体験である「疑念」が、内省・探求のプロセスつまりアンラーニングを促すという。人が効果的に変化し、新しい前提・知識・実践を学ぶことができるのは、変革的アンラーニングやディープラーニングが引き起こされる。
                • 学習について
                  • 三宅(2016)は、学習の目標は次の3つの性質を持つべきだと述べています。可搬性(portability):学習成果が、将来必要になる場所と時間まで「もっていける」こと。活用可能性(dependability):学習成果が、必要になった時にきちんと「使える」こと。持続可能性(sustainability):学習成果が、修正可能であることを含めて「発展的に持続する」こと。

                さいごに

                インタビューにご協力いただいた在学生・修了生のみなさん、分析をサポートいただいた犬伏さん、いつもElephant Career運営をサポートしてくれるチームのみんな、修了後も一緒に研究を続けてきたLDC一期生のみんな、報告会でアドバイスをくださった中原さん、心からありがとうございました。皆さんのおかげで、なんとかなんとかアウトプットできました。これからも一緒に学ばせてください!

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