助産師でありYouTuberであり一児の母が「いま学ぼう」と思った理由 神奈川県立保健福祉大学大学院

社会人大学院の経験談を紹介する「先輩インタビュー」
今回は、来春に神奈川県立保健福祉大学大学院のヘルスイノベーション研究科へ入学予定の大貫詩織さんです。

大貫さんはシオリーヌの愛称で活動する助産師 / 性教育YouTuber。2019年に開設したYouTubeチャンネルの登録者数は17.4万人(22年12月現在)にのぼります。他にも書籍を通じて性にまつわる知識を発信するなど、活動のフィールドはどんどんと広がっています。華々しく活躍をするシオリーヌさんですが「なぜこのタイミングで大学院への進学を決心したのか?」。その理由について詳しくお話を伺いました。



大貫 詩織さん

1991年、神奈川県生まれ。神奈川県立保健福祉大学看護学科卒業。総合病院の産婦人科病棟で助産師として勤務した後、精神科児童思春期病棟で若者の心理的ケアを学ぶ。2017年より性教育に関する発信活動を始め、19年より「シオリーヌ」としてYouTubeチャンネルで動画投稿をスタート。動画配信のほか講演会やイベント、本の出版などを通して性にまつわるさまざまな情報を発信している。

https://www.youtube.com/@shiorine

卒業・修了した大学・大学院:神奈川県立保健福祉大学大学院 ヘルスイノベーション研究科(来春入学予定)
入学年月(年齢):2023年4月(31歳)
卒業予定年月(年齢):2025年3月(33歳)

性教育を専門に発信する助産師になりたい

——— シオリーヌさんは「性の話をもっと気軽にオープンに」をテーマに性教育YouTuberとしてもご活躍ですが、今日は「なぜいま大学院で学ぼうとするのか?」といったお話をじっくりお聞きしたいと思います!

よろしくお願いします!

——— ちなみにどちらの大学院へ進学予定でしょうか?

23年4月から、神奈川県立保健福祉大学大学院のヘルスイノベーション研究科に入学予定です。学部時代は看護学科で学んだ母校ですが、2019年に新設された比較的新しい研究科のため新鮮な気持ちです。

神奈川県立保健福祉大学大学院 ヘルスイノベーション研究科とは:

ヘルスイノベーション研究科(SHI)は「未病」を研究対象とし、世界に先駆けて学問体系化を目指す、これまでにない研究・教育機関です。公衆衛生学をベースに、保健・医療・福祉にイノベーションを起こす上で必要な視点やスキルを磨くカリキュラムが充実。経営管理・イノベーション手法など、多面的な視点から導く課題解決・プロジェクト実行力などの高い知識を得るための科目を学び、次世代のヘルスイノベーターを目指します。

引用:神奈川県立保健福祉大学大学院 ヘルスイノベーション研究科 HP

——— 大学院のお話を伺う前に、シオリーヌさんの簡単なご経歴を教えていただけますか。

大学卒業後は、2014年から総合病院の産婦人科病棟で助産師として3年間勤務しました。2017年1月ごろから性教育の講演活動を始めて、同年の4月に神奈川県内の精神科児童思春期病棟に看護師として転職。その後、YouTubeの活動を開始したのが2019年ですが、同じ年に精神科の病院を退職しました。それ以降は、個人で活動をしてきましたね。2022年10月に株式会社Rineを設立して現在に至る、と大きく言えばそういった流れでしょうか。

——— ありがとうございます!ちなみに、助産師として性教育のお仕事を始めるきっかけは何だったのでしょうか?

そもそものきっかけは、病院で妊産婦さんたちと出会うなかで、妊娠・出産・避妊についての正しい知識を得る機会のなかった女性の多さに驚いたことでした。助産師は産婦人科にきてくださった方には知識を伝えることはできますが、それでは遅いんですよね。もっと早いタイミングで性に関する必要な知識を適切に伝えることができないか、このまま病院で待っているだけではダメだ、という想いが芽生え始めたのが3年目の時期でした。

同時に、想像以上にハードな助産師の仕事に対して「このまま年齢を重ねても働き続けることはできるのだろうか?」という疑問も生まれていた時期でした。一度立ち止まって自身のキャリアを考えたときに、性教育を専門に発信する助産師になってみようと思い立ったのです。

——— それから思春期病棟で看護師として働くようになったのはなぜでしょう。

知人の学校などで講演活動を始めて見ると、思春期の子たちのケアについて知らないことが多すぎると気づいたんです。知識だけでなくて、若い人たちが安心して話せるような大人側の言葉遣いなどの配慮や精神的なサポートを行えるスキルも全然足りないことを痛感しました。そこで仕事を通じて若い人たちと接する機会をもっと増やそうと思春期病棟に転職しました。

 

続けてきたYouTubeの発信。だけどどこか自信を持てなかった

——— そして2019年にYouTubeをスタート。現在ではたくさんの方が視聴する人気チャンネルです。

一番届けたい若い世代の人たちにダイレクトで情報を届ける目的でYouTubeを始めました。たくさんの方が見てくださるようになって、とてもありがたいと思う一方で、どこかで心もとなさを感じている自分がずっといましたね。

 

——— どういうことでしょうか?

私がいまの活動を始めたときは、性教育を専門として活動する助産師はほぼいなかったため、自分がその道を切り拓いていきたいという想いを持っていました。とてもありがたいことに、YouTubeチャンネルを開設してからは「シオリーヌさんのように性教育を発信する助産師になりたい」といった声を頂くことが増えました。でも私の場合はいろいろな偶然や幸運が積み重なった結果なので、この働き方は再現性が低いんですよね。

若い世代を支える助産師たちの働き方をつくるためには社会の仕組みから見直す必要も出てくるでしょう。そのためには、これまでのように自分の感覚だけで動くのではなく、知識やスキルをきっちりと身につけた上で活動したいという想いが、少しずつ膨らんでいきました。

 

——— そこで大学院への進学を考えたのでしょうか?

はい。助産師がユース支援する専門家となるために「必要な技術とは何か」「どうやって質の担保をするのか」といったテーマに現在は関心があります。すでにそういった支援活動をしている助産師の皆さんの間にはどんな共通点があるのか、といったことも探求したいですね。さらに今後は自社で産後ケア事業の立ち上げを検討しているため、ビジネスについて学べることも楽しみにしています。

 

——— 進学を考えた時期ですが、シオリーヌさんの新刊には妊娠7カ月のときと書いてありました。

そうですね。私は以前から3年くらいの周期で、自ら変化を求めようとするんです。転職も、性教育の講演活動も、YouTubeを始めたときもそう。3年くらい経つと「もう1つ上のレベルへ成長したい」という気持ちが自分のなかでむくむくと芽生えてくるのです。大学院進学を考えたのは、ちょうどそのタイミングでした。

 

キャリア、働き方、家族の在り方。未来の選択肢の一つに

——— 進学先として、神奈川県立保健福祉大学大学院のヘルスイノベーション研究科を選んだのはなぜだったのでしょうか?

そもそもは、学部の助産師課程で非常に充実した時間を過ごさせてもらったため母校に信頼感があったこと、そしてヘルスイノベーション研究科の授業内容に関心があり理念にも共感できたことが大きな理由です。その他の要素を挙げるなら3つほどあります。

1つ目は通いやすさです。子育て中のため、通える範囲にキャンパスがあることは重要でした。その他にも、授業が平日夜と土曜日にしかない点、一部の授業はオンラインを通じて家から受講できる点も大きかったです。

2つ目が英語です。この学校は、授業の8割が英語で行われるそうです。いつか英語を修得したいという漠然とした気持ちはあったので、いい機会だと思いました。英語が読めれば、海外の性教育や助産師の働き方の事例もキャッチアップできます。私の性格上、後に引けない環境に身を置かないと勉強しないので(笑)。

3つ目として、とある教授との出会いも重要でした。その教授は産婦人科医の先生をしながら、6人のお子様の子育てもしている方でした。大学院の出願前に、目指したいと思えるロールモデルのような先生と会えたことも、「ここで学びたい」と思えたポイントでした。

 

——— そういう偶然の出会いが大事だったりしますよね。

そうですよね。私は物事がとんとん拍子に進むとき、その道は合っていると信じるようにしているんです。大学院を選ぶ際もそうでした。ある日、仕事の出張で泊ったホテルの目の前にヘルスイノベーション研究科のキャンパスを見つけたので、「明日、見学に行ってもよろしいでしょうか」と連絡をしたところ、先ほどの先生が面談をしてくだったので、巡り合わせのようなものを感じましたね。

 

——— ちなみに、進学に対してのご家族の反応はいかがでしたか?

大学院に行きたいことを夫に初めて話したタイミングでは、子どもが保育園に通い始めたら受験の準備をして、2歳になるタイミングで入学する予定で話をしたのですが……途中で気が変わっちゃって1年早めて入学することになりました(笑)。突然の申し出にも関わらず夫は快く応援してくれたので、とてもありがたかったです。

 

——— 私も突発的に入学を決めました(笑)

大学院の進学を応援してくれたときもそうですが、以前からよく「協力的な旦那さんでいいですね」という風におっしゃっていただくんですね。夫が1年間育休を取って、私が早くから仕事に復帰したときもそうです。もちろん、こうやって学べることは家族のサポートなしでは不可能なので、すごく恵まれていると感謝しています。でも同時に、女性だからこそ言われがちなことだなぁとも思うんです。うちの家庭は私が大黒柱なので、仕事をすることで家族を養うという役割も一緒に背負っているつもりですが、母親が働いていると周りからは「やりたいことをできていいね」と自己実現の側面のみで捉えられがち。だからこそ今後は、私自身のキャリアや働き方を発信することで「こういう家族の在り方もあるんだ」と誰かの選択肢を一つでも増やせたら嬉しいです。



家族を大事にしながら、挑戦したっていい

———大学院でこれから学ぶにあたって意気込みを聞かせてください。

助産師が活躍するフィールドを広げることに貢献したいので、大学院ではたくさん学びたいと思います。私は助産師という仕事が大好きなんです。学部時代の教授がよく話してくれたのは「その人の人生の黒子であり続けろ」ということでした。「出産を終えたお母さんに、助産師のおかげでなく、自分の力で産めたと思ってもらえたら大成功なんだよ」と。

つまり助産師は、その人が主体性を発揮することをサポートをするプロフェッショナルなんだと思います。若い人たちに接するときも同じです。その人らしい生き方を主体的に選べるように、そばで支え続けることのできる仕事です。だからこそ、助産師が専門性を発揮できる場所をもっと増やしていきたいと思います。

 

——— 本日はありがとうございました!最後に、シオリーヌさんの今後の目標を教えてください。

「家族を大事にしながら、仕事でも成果をあげること」が30代の大目標です。ちなみに、20代の目標は「性教育専門の助産師として生きていくこと」でした。仕事も大事にしたい、けれど子どもとの時間も大事にしたい。いまって「キャリア」か「家族」かの二者択一を迫られる風潮がありますが、正直なんて希望のない社会なのだろうと思ってしまうんです。

家族を当たり前のように大事にしながら、きちんと成果をあげる女性の姿は私だけでなく未来を担う若い女性たちを勇気づけるはず。だからこそ、自分自身がそういう女性になりたい、それがいまの私の目標です。

Elephant Letter

毎月、大人の学びに効くコンテンツをお届けします。

ステータスを選択してください
close

Elephant Letter

毎月、大人の学びに効くコンテンツをお届けします。

ステータスを選択してください
close

Elephant Letter

毎月、大人の学びに効くコンテンツをお届けします。

ステータスを選択してください
コメントを残す

CAPTCHA


関連キーワード
おすすめの記事