大学院と仕事の両立はタフ、それでもMBAに行くべき理由。 早稲田大学経営管理研究科

社会人大学院の経験談を紹介する「先輩インタビュー」
今回は早稲田大学経営管理研究科(ビジネススクール)を卒業された森田真里さんです。

森田さんは人事の仕事をする中で限界を感じ、自分ののびしろを見出そうと大学院への進学を決めました。転職と大学院での学びを同時期に経験された森田さん。大学院で得られたものは大きかったようです。しかし、転職したてのMBAには覚悟も必要なようで……。

MBAに挑んだ人だからこそ分かる、現実的な話も聞くことができました。特に転職と大学院進学の両方を検討されている方にとっては、とても参考になるインタビューだと思います。


森田真里さん

大学時代から教育に興味を持ち、教育大手出版社のベネッセコーポレーションへ入社。高校生のキャリア教育に関わったことがきっかけとなり、人事の道を志す。同グループ内で介護事業を担うベネッセスタイルケアの人事へ異動し、当時最年少人財開発部長に着任。その後、人事領域の更なる探究、挑戦のためファーストリテイリング、また、HR系SaaSスタートアップを経験。今年、ベネッセコーポレーションに出戻り、再び人事という仕事から経営に向き合う日々。

卒業・修了した大学・大学院:早稲田大学経営管理研究科
入学年月(年齢):2021年4月
修了年月(年齢):2023年3月

自分の力量に限界を感じ、MBAに挑むことを決める

—————まずは経歴から教えていただけますか。

新卒で株式会社ベネッセコーポレーションに入社し、高校生向けキャリア教育関連の教材制作・法人・間接営業に従事しました。その後、社内の公募制度にて介護・保育領域に異動し、新卒採用の責任者として年間350名の目標達成をリードしました。

2020年の7月に株式会社ファーストリテイリングに転職し、ユニクロ事業の採用領域で経験を積みながら大学院でビジネスを学び始めました。そこでの短期留学制度を活用し、4ヶ月ほどフランスで過ごし、帰国後の2022年5月にスタートアップの株式会社KAKEAIへジョインし、カスタマーサクセス、Salesを経て、アライアンス、ビジネスパートナーの開発を担っていました。

この通り、大学院で学び始めたのは、ちょうどファーストリテイリングに転職したあたりです。最初はグロービス経営大学院を単科で履修し、その後、2021年4月に早稲田大学経営管理研究科へ入学し、2023年3月に卒業しました。






—————転職と同時期に大学院にも入学したんですね。なにかきっかけはあったのでしょうか。

ベネッセで介護事業の人財開発部のマネジャーとして部下のマネジメントをする中で、自分の経験やスキルといったものに限界を感じるようになったことがきっかけです。

部門に与えられた目標を起点に立案する事業計画が、会社の業績は当然のこと、部下の評価やモチベーションを左右する。そうか、自分の視座が組織の限界値を決めてしまうのかと。自分自身のヒューマンスキルも含めて、ビジネスパーソンとしての複合的なスキルが、事業にそのまま反映されていくことはやりがいでもあるものの、一方で畏れでもあったんです。

逆に言えば、自分にのびしろを作ればその分だけ組織も成長するとも考え、以前より関心のあったMBAに挑むことを決めました。最初はグロービスの単科受講で学びましたが、学びを重ねていくうちに、体系的に学びたいと思うようになり、早稲田大学のビジネススクールへの進学を決めました。


—————早稲田以外にも受験はされたのですか?

一橋か早稲田かというのは迷いました。受験したのは早稲田大学ビジネススクールのみです。



—————その二校は理論よりも実践を学べる大学院ですよね。一橋ではなく早稲田を選んだのはなぜですか?

2点あります。1点目は、通いやすさ。夜間主コースでしたので、会社からも家からも、ある程度近くにある必要があり、当時アクセスがしやすかった早稲田は魅力的でした。2点目は、指導を受けたいと感じた教授がいたこと。一橋も早稲田も、特定の領域で尊敬している教授がいるのですが、より実務に近い領域(当時の関心ごとは競争戦略、経営戦略でした)を専門にもち、直接的に指導が受けられそうな教授が多かった早稲田を選びました。



大学院で「自分の強み」を見つけた

—————早稲田大学での、最大の学びについて教えてください。

学んだことはたくさんありますが、大きく分けると三つです。

一つ目は、「人事」というものを捉えなおせたこと。

経営やマーケティングにおいて、「人」に関する問題は常につきまといます。MBAでは、人事を経営戦略という文脈で捉えなおすことで理解が深まり、仕事をしていく上での視野が広がったと思います。

二つ目は、自分の強みを理解できたこと。そして仕事においてはその強みを武器に最大限に生かしていこうと思えたことです。

これまでは苦手なこととか自分の弱みといったものを、きれいに補填して仕事をしていきたいという気持ちがありました。しかしMBAの学びの中で、自分の強みがだんだんとはっきりしてきて、この強みを武器に伸ばしていくべきだということが分かりました。やっぱり、強いとこでしか良さは出せない!と気づいたんです。この気づきを得られたことは自分の中で大きかったです。これは、企業における経営戦略、競争戦略と同じですね。

三つ目はネットワークです。利害関係なく、人生を逞しく生きる仲間を持てたこと、人生を時に先導してくれる素晴らしい教授たちに出会えたことはお金には変えられない価値です。






—————ちなみに、森田さんから見た「自分自身の強み」はなんですか?

一人に対して個別にフォーカスし、その人がありたい姿や望む形を一緒に探し、深く寄り添うような支援は得意で、自分の強みだと気付きました。

ビジネスパーソンは全体を俯瞰して判断することが求められますし、私もそれが嫌いではありません。むしろ人事という仕事においては組織という一つの集合体を切り口にビジネスにコミットするわけですが、人は組織のために動く前に、個人として実現したい夢や目標があって、それを叶えることが原動力になるのだろうと思うわけです(笑)

こういうわけで、目の前の社員に対しての動機付けやコンサルティングを重視するあまり、知らず知らずのうちに個人を支援することが増えるようになり、振り返ると私の強みになっていたように思います。


—————全体をきれいに描いたり、物事をスピーディーに正しく判断したりということはもちろんできた方がいいけど、何かのスペシャリストになるということも大切ですよね。

そうですよね。

総合職では「ジェネラリストになれ」と言われます。

でも、ジェネラリストである一方で、何かのスペシャリストになるのでもいい。どのように生きていこうとも、自分の納得する方向を選び取る強さをMBAで身につけました。これは、大学院で得た自信や強さだと認識しています。


—————MBAで学んだことで、「肩の荷が降りた」ということなのでしょうか。

おっしゃる通りです。MBAに入るって、なんだか意気揚々なイメージがありますけど、実際は迷いがあったり、暗闇の中にいる状態だったり、何かを探している状態だったりします。大学院で共に学んだメンバーの多くも実際そうでした。ジェネラリストだけど自分の強み、自分の領域がなんなのか分かっていない状態。

そういう状態の中、「自分の強みはここなんだ!」とある程度特定できたことに、とても安心しましたし、同時に、決めることは勇気のいることでした。


MBAと転職の両立には覚悟が必要

—————では、大学での研究・生活・学びにおいて、これは裏切られたな!ということを教えていただけますか。いい意味でも悪い意味でも構いません。

MBAというのは世の中から見てすごくポジティブなレピュテーションになるかというと、実際はそうでもないということです。また、即座に経営に返せるかが難しい領域でもあります。

MBAを学び始める前は、自分の中にも憧れのようなものがありました。しかし今は、必ずしもキャリアを華々しく飾ってくれるというものではないんだなということを強く感じています。周囲に理解をしてもらい、いざというときに(授業で早退しなくてはいけない時など)協力してもらうことも、日常の業務での実績が伴って初めて成り立つことです。そういった意味では、夜間でのMBAは覚悟がないとできないことかもしれません。



—————これは特に日本の会社とか、日本のMBAでは顕著かもれませんね……。海外だとMBAが一つのパスポートになっていて、取得すれば年収の倍増が約束されていたりということが当たり前になっているようです。日本だとそれがないので、覚悟が必要というのは本当にその通りだなと感じます。取った後もみなさんいろいろと努力されていますよね。

そうかもしれないですね……。日本の転職市場においては、時にMBAが重荷になってしまうこともあるかもしれない、と思います。


—————MBAを取得するにあたって、仕事のほうもやはり大変だったのでしょうか。

職場のメンバーには多くの迷惑をかけたと思っています。

平日は夕方から大学院の授業があり、授業以外にも深夜や早朝、土日に勉強していました。

大学院に定期的に通うとなると、どうしても仕事と向き合う時間が減ってしまい、人に仕事をお願いするのが当たり前のような状況になってしまったんです。仕事を良くするために大学院に通っているのに、仕事がないがしろになってしまうという、主従関係が逆になってしまったような感覚でした。

在学中に転職したこともあり、大学院での時間を優先するがあまりに、職場の人間関係の形成が後回しになったので、余計に大変でした。例えば、MBAに通う前から職場で人間関係が構築されていて、「この人はこれまで会社にこんなふうに貢献してきた人だよね」という信頼の土台がある状態だったらまた違ったんですが、転職したてなのでそういうのもなくて。自分自身のマネジメント不足を痛感しましたね。



—————そうだったんですね……。新しい人間関係を築きながら自分の学びも進めていくというのは、なかなかハードルが高いんですね。

特に3月まで勤めていたKAKEAIはスタートアップということもあり、会社も大変な成長期でした。大学院の友達で同じ時期にスタートアップに転職した人が何人かいるんですが、その人たちは休学したり、大学に来なくなってしまったりした人もいます。

やはり転職と同時期に大学院へ通うことは難しいことなのだなと、周りを見ても感じました。



—————私が大学院で学んでいたときの同期もそうでした。4人くらい転職したんですが、全員休学していました。

そうですか……。私も見通しが甘かったところが多かったと思います。学び始めた頃はハイテンションになってしまっていた感じがありました。MBAで学んだことを仕事に生かすんだ、と勢いづいていたというか(笑)私の場合は転職で新しい職種に挑戦してしまったので、そこも難易度が高めでした。でも、それも含めていい学びだったと思います。

本音で全部話してしまってますけどいいんでしょうか? 全然綺麗な話じゃないですけど、大丈夫ですか?(笑)



—————いえ、むしろ聞かせていただけてありがたいです。MBAってキラキラしただけのものではなくて、学ぶにあたってはちゃんと覚悟が必要だよということは多くの人が知っておいたほうがいいと思うんです。大学院に行かれた方は、案外そこの部分をオープンに語ってくれないので……。私自身も大学院と仕事の両立でパンクしそうになった話とか、自分のダメだった部分の暴露話はどんどんするようにしています(笑)。
やっぱりMBAで学び始めるときって、ハイになりますよね。

詩乃さんでもそういうことがあったんですね。私も当時はアカデミックハイというんでしょうか、そういう状態になっていました。我々のように仕事をしながら夜間の大学院で学ぶとか、そういった人たちは自分で自分のことをケアしてあげることも必要ですよね。



福祉国家フランスに留学


—————フランスに留学されたということでしたが、その話も聞かせていただけますか。

フランスへは早稲田の交換留学で行きました。海外で英語力を高めたいという思いとグローバルな視野を広げたいという思いがあったので、とにかく海外留学というものに挑戦してみたかったんです。

また、介護事業にいたときから、福祉国家としてのフランスにずっと興味がありました。フランスにおけるライフスタイルとか、シニアの生き方といったものを直に学んでみたくて、フランスへの留学を決めました。

無鉄砲に決めた留学でしたが、行ってよかったです。提携先の大学での授業はどれもおもしろくて。サステナビリティマーケティングとか、シニアのライフスタイルとか。

授業は全部英語でやってくれたので、学びに支障はありませんでした。



—————4ヶ月という短い時間でも、英語力は伸びるものですか?

多少は伸びたと思います。でも英語力が伸びたことよりも、英語の習得はここまででやめよう、と区切りをつけられたことが大きかったです。

これまでの人生で、取り憑かれたように英語を勉強してきたんです。TOEICもずっと受け続けていて。どこまでやればいいかが分からなくて、英語を学ぶことをやめられませんでした。

だけど学び続けた成果が出て、TOEICは満点近くまでいき、グローバルなところで挑戦したいという夢も、留学という形だけどいったん叶い、自分の中で英語というアジェンダはとりあえずボリュームダウンしてもいいなと思えたんです。フランス留学を機に、自分の中で区切りがつき、前に進めたような感じがしました。


—————何事もとことんやり込む森田さんの姿勢がこのエピソードからも窺えます。フランス留学によって、英語の学びが一つのゴールを迎えたんですね。


大学院は、「Who I am」を語れるようになる場所

—————受験準備はどんなことをしましたか? また、大学院に通うにあたっての費用は自費でしょうか。

アガルートに通って準備しました。当時はコロナの第一波のときだったので、全てオンラインで論文添削の通信講座を受講しました。(結果として、当時私が受けた試験は面接とレジュメの提出だけでした。)

費用は自費です。奨学金を二種類、奨学金機構と大学院からいただいています。奨学金機構のものは返済義務があり、大学からのものは返済の必要がないものでした。訓練給付金もいただきました。



—————卒業された今、思っていることをお聞かせください。これからどんな進路を思い描いていますか。

人事の道を進んでいきたいと思っています。その中でも、経営の課題と人事(組織・個人)を繋いでいくことに興味があります。会社の経営課題を解決するために、人事としてどのような手を打っていくか考え、実行していくところに、自分の時間を思いっきり使いたいと思っています。いつかは、友人が立ち上げたスタートアップを、人財開発の面で支えるのが夢です。


—————人事のキャリアを歩んでいくんですね!この2年間を振り返って、森田さんにとって大学院とはどんな場所でしたか?

なかなか形容が難しいんですが……「踊り場」でしょうか。

自分の領域を定められて、自分の強みを強みと言えるようになる場所。そのために立ち止まってもいい場所。「Who I am」が語れるようになる場所。私にとって大学院はそんな場所です。


—————踊り場、とてもしっくりきます。世の中には大学院進学に迷われている方も多いと思います。どんな人に大学院進学を勧めますか?

「Who I am」が分からない人自分が闇の中にいるような感じがして、人生に迷っている人。自分がそうだったので、そういう人たちに勧めたいです。



—————本日はありがとうございました!





執筆者:aida


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