社会人大学院の経験談を紹介する「先輩インタビュー」
今回は名古屋商科大学大学院マネジメント研究科を卒業された髙木美希さんです。
病院で麻酔科医として働く中で、自分たち医師の考え方と、経営を担う事務方の考え方とに大きな溝を感じた髙木さん。その溝を埋めるためには経営を学ぶ必要があると考え、大学院に進学されました。
在学中に結婚・妊娠を経験、卒業後すぐにお子さんを出産され、現在は0歳のお子さんを育てながら名古屋の病院で働かれています。お忙しい子育ての合間を縫って、貴重なお話を聞くことができました。
2012年京都府立医科大学医学部卒。福岡徳洲会病院で2年間の初期研修を修了し、3年目同院救急部に在籍。4年目から湘南鎌倉総合病院で麻酔科医として勤務。麻酔科専門医取得後、医業と並行して自主制作映画出演など芸能活動を開始。2021年10月から日本赤十字社愛知医療センター名古屋第二病院(以下、第二日赤病院)麻酔科に所属。現在育休中。趣味はヨガ、ウォーキング、旅行など。
卒業・修了した大学・大学院:名古屋商科大学大学院
入学年月(年齢):2020年9月(33歳)
修了年月(年齢):2022年9月(35歳)
●子供をお腹に抱えながら、修士論文を書き上げた
—————今日はよろしくお願いします。以前インタビューさせていただいた方に髙木さんを紹介してもらい、今日インタビューできるのをとても楽しみにしておりました!名古屋商科大学大学院マネジメント研究科に通われていたと言うことですが、卒業はここ最近されたのですか?
名古屋商科大学大学院は4月入学と9月入学があって、私は9月入学だったので、2022年の9月に卒業しました。
私には生後2ヶ月の子供がいるんですが、修士論文を書いている時期に妊娠していることが分かったんです。単位は取り切っていたんですが、修論を書いている途中もつわりがひどくて。なんとか修論を書き終わり、卒業してすぐに出産しました。
卒業、出産、子育てと畳み掛けるようにライフイベントが発生していて忙しいです(笑)。今は育休を取っているのでまだ少し余裕はある方なんですが……。
—————2ヶ月のお子さんがいらっしゃるんですね。子育てがお忙しい中ありがとうございます……!育休はいつくらいまで取られる予定なのですか?
育休は3月まで取って、4月に仕事復帰する予定です。今住んでいる名古屋は10月から入園の募集が始まるので、それくらいから保活を始めていました。入園できるかどうかの結果は3月に分かると聞いています。万が一入園できなくても、職場が育休を伸ばしてくれると言ってくれているのでそこは助かっています。
—————結果が分かるまでドキドキですね…!
●チームとして働くことに魅力を感じ麻酔科医に
—————大まかな経歴をお聞かせいただけますか。
医師として働き始めて11年目になります。現在は麻酔科医として、名古屋の第二日赤病院で働いています。
学生時代は京都で過ごしました。京都府立医科大学の医学部を卒業し、卒業後の2年間は初期研修医として福岡徳洲会病院に務めました。3年目以降どこの科に進むかを自分で選べるのですが、初期研修医としての2年間では決めることができなかったので、同じ病院の救急部に残りました。救急部はシフト制なので、シフトが休みのときに色々な病院を見て検討し、4年目からは麻酔科医として働くことを決め、神奈川県の湘南鎌倉総合病院に麻酔科医として移りました。
—————福岡から神奈川というのは大きな異動のように感じます。
福岡徳洲会病院と湘南鎌倉総合病院は同じグループで、グループ内の異動だと引越し代が出るなどといったメリットがあるんです。
ちなみに「医局」という言葉もたまに聞かれると思うんですが、医局は主に大学の組織のことなんです。徳洲会は民間のグループ組織なので、医局に所属していなくても関係なく勤めることができました。
当時はプライマリーケアと言って、専門を一つに絞るのではなく色々な病気を診ることができる医者ってかっこいいよねという風潮があり、私もそういった医者に憧れを感じていたので麻酔科医を選びました。麻酔科医の仕事は全て一人でやるのではなく、手術というミッションに外科医や看護師、臨床工学技士と一緒に、一丸となってチームで立ち向かうというところも魅力でした。
●「現場の医師」と、「経営の事務方」の間に溝を感じた
—————大学院に進もうと思ったのは何がきっかけだったのですか?
湘南鎌倉総合病院で働いているときに、月に一回医局会という全体ミーティングのようなものがあって、そこでいつも事務方から病院の収益データが報告されていました。その会議に参加するたびに、「私たち医師と事務方は考え方が大きく違うな」ということをいつも感じていたんです。
私が医師として働きはじめるにあたって、研修でいつも言われていたことがあります。それは「患者さんを差別なく見ましょう」ということです。生活保護を受けている人も、VIPも、同じように治療していきましょうと。
また、「検査を乱れ打ちしてはいけない」ということも叩き込まれました。たかが検査一つと言えどその検査にも高い医療費がかかっていて、それが国費を圧迫することになる。医療費を湯水のように使うのはだめだ、と。
その一方で、毎月の医局会では事務方からその月の病院の収益、外来件数や手術件数について報告され、「収益を上げるために手術件数を増やしてください」などと言われるんです。
「差別なく患者を診て、かつ国費の圧迫を抑える」という医者のプライドのようなものと、「病院として利益を上げる」という事務方の主張が対立してしまって、両者の間には大きな溝ができてしまっているように感じました。
私たち自身が病院で働いてお給料をもらっている以上、病院として収益をあげることを無視していたらだめじゃん、とは思うんです。でも「お金のことなんか気にしないぞ」というプライドのようなものもどうしてもあって、もどかしさを感じていました。
—————具体的に、どういった場面でそのもどかしさを感じたのですか?
例えば、麻酔科の部長が事務方の事務長と話しているのを聞いているとき。事務長は麻酔科の部長に対して、とにかく「手術件数を増やしてください」ということを言いにくるんです。いやいや増やせと言われても、うちが断っているわけじゃない、外科が手術を入れてきたらうちもちゃんとやるから、みたいな感じなんですが、なかなか事務長には分かってもらえないみたいで。
あとは、患者さんの病気について事務方と共有したとき。病院内で医師から事務方に患者さんの病名を伝えて、事務方はその病名に付けられてる診療報酬点数を点数表で見て、患者さんに対して請求に出すという流れがあるんです。あるとき、虫垂炎という一般の人も知っているような病名を事務方に電話で伝えたら、「あ、もう一回言ってもらっていいですか」と何回も聞き返されて。「ちゅう…す…い…えん、ですね」と必死に一文字一文字電話の向こうで書き取っているんです。同じ病院で働いているのにこの知識の差はなんだ、とショックを受けました。
そして、向こうは病名や病気についての知識がなくても仕事ができてしまっているのだから、こちらが何を考えて仕事をしているのかなんて知るはずがないよな、と思ってしまったんです。だからこの感じで話しててもいつまでも分かり合えるわけがないよな、と。
じゃあこの溝をどうやって埋めたらいいのかと考えたときに、まずは事務方が何を考えているのかが分からないと自分も同じ土俵で話ができないと思ったんです。そのためには経営とか経済の勉強が必要だと考えるようになりました。
●学生時代の恩師に背中を押され、大学院へ一歩踏み出せた
—————そこからどのようにして大学院へとつながるのでしょうか。
5年目になったときに麻酔の専門医の資格を取ったんです。この資格を取ったら一人前だっていう意識が自分の中にあったので、そこで一区切り着いた感じがしました。専門医の資格を取ったあとは、大学院に行くのか、さらに細分化された資格を取るのか、または海外に留学して研究するのか、色々な道があったんですが、どれもなんとなく気が進まなくて。
どうしようかなと思いながら一年くらい過ごしているうちに、コロナが来たんです。手術件数は減り、趣味でやっていたヨガの教室も閉まってしまいました。そうした状況の中で、Facebookで「経済の勉強してみたいな」とつぶやいたんです。そしたら知り合いの先生から反応があって、「してみたらいいじゃん!」とすごくフランクに言われたんです。それが大学院に進む大きな後押しになりました。
そうか興味があるのならやってみればいいんだなと思って、そこからMBAについて本格的に調べ始めました。
—————ずっとなんとなくもやもやしていたものはあったけど、コロナ禍の中でその先生の言葉がきっかけになり、そこから本腰を入れて考え始めたということなんですね。
背中を押してくれたその先生には感謝しています。その先生も医師で、私が大学時代イギリスに体験留学をしたときにその留学を主催してくれた方なんです。その先生と私は大学がかぶっているわけでもなかったんですけど。
その先生自身も当時留学生としてイギリスにいたんですが、「もっと日本の医学生にも留学の機会を増やしてあげたい」と言って留学を主催するくらい、熱意やエネルギーがある方で。そんな人に「やりなよ」と言われたら、「やらなきゃな」と素直に思えました。
—————その先生もすごい方ですね。MBAについては以前からご存知だったんですか?
MBAの存在自体を知ったのは、その先生とやりとりをする少し前のことです。
私が参加していた「EM Alliance」という救急医療に興味がある医師・医学生の集まりからなるメーリングリストの中で、メンバーの中ですでにMBAを取った人が「MBA合格体験記」というものをかなりの分量で流してくれて。そこでMBAという学位があるのだと知りました。
そこからちょこちょこMBAという単語を見かけるようになり、先生とのやりとりをきっかけに本格的に調べ始めるようになった、という流れです。
●大学院は「新しい視点を得られる場所」
—————名古屋商科大学大学院を選択するにあたり、何か軸はあったのですか?
Facebookを経由して、大学時代の先輩から当時神戸大のMBAに通っていた人を紹介してもらい、その人から大学院について色々話を聞きました。
大学院は国立と私立があり、私立の中で国際認証を取っているものは慶應大学大学院や名古屋商科大学大学院があるといったことなどを、ネットのページなども見せてもらいながら教えてもらいました。調べていくうちにオンラインで体験会や説明会をやっているものがあり、その中でグロービス経営大学院と名古屋商科大学大学院が目に留まったので、その二つを主に調べていました。
グロービスは平日の夜に通うというのがネックで、候補から外しました。平日は仕事が何時に終わるか分からないので通うのは難しそうだなと。名古屋商科大は土日に学ぶというスケジュールが私の生活スタイルにも合っていましたし、説明会での営業もうまくて(笑)。説明会のときに営業の方から「9月に入学できる今年度の最後の試験が来週あります」と言われ、それならと急いで志望動機を書いてギリギリで提出し、面接に望むという形になりました。営業の方に急かされたというわけでもないですけど、勢いで決めて進んだ感じでした。
—————なんだか運命のようにも思えますね。名古屋商科大学大学院で学んでみてどうでしたか。
ビジネスとして継続していくことの大切さとか、病院も企業だという認識が深まりました。あとは色々な方向からの視点をもてたのがよかったです。今までは院長の文句をいうことも多かったのですが、院長には院長の立場、診療科の部長には部長の立場があるし、ただ文句を言うのは違うなと思えるようになりました。
——色々な方向からの視点、確かに大切だと思います……!パートナーや勤務先への説明で困ったことなどはありますか?
実は私、大学院在学中に結婚したんです。ですので入学時には家庭への説明というのは必要ありませんでした。ただ入学してからの土日は想像以上に忙しくて…。あまり家庭での時間が取れず、パートナーにも「なかなかゆっくりする時間がないね」と言われることが多々ありました。平日も就業後に図書室を利用してレポートを書いていましたし、就寝が深夜の2時や3時になることもあり、体力的に辛かったです。
職場では土日にシフトを入れないように調整をお願いする必要はありましたが、特に何かを言われたり困ったりすることなどはありませんでした。私は役職についているわけでもなく一般社員という扱いだったので、何かから下ろされたり外されたりといった、冷遇みたいなものもありませんでした。
—————今後、学びをどのように生かしていきたいだとか、こんなふうに活動していきたいなどといった、展望のようなものはありますか?
現在働いている名古屋の第二日赤病院は、病院内に経営塾があるんです。なので育休復帰後は、まずはそこに参加してみたいと思っています。医療経営士という民間資格の勉強会があるらしいので、そういったものに顔を出してみようかなと。
あとは自分の生きがいとして、以前行なっていた芸能活動を再開していきたいです。元々お芝居をするのがすごく好きだったんです。宝塚に入りたいと思っていた時期もあるくらい。大学では演劇部で活動していて、一時はミュージカル劇団に所属していたこともありました。
就職後も2年くらいモデルや自主制作映画の役者として活動していました。それもコロナ禍でストップしてしまっているんですが、また自主制作映画などに出演していけたらいいなと思っています。監督さんから案件をもらうのが大変なので、そこが頑張りどころですが。いつか子供を撮影現場に連れて行って、私が演じている姿を見てもらいたいです。
—————麻酔科医という本業以外にも、大学院・経営塾・芸能活動といったように、常に2足のわらじを履いているんですね。そういう生き方がすごく素敵だと思います。最後に、髙木さんはどんな人に大学院を勧めたいですか。
現状に悩んでいる人でしょうか。そのような人は、まず一歩を踏み出してみればいいのではないかと思います。
悩んでいる人というのは、視野が広くて何か別のことまで見えてしまい、課題を見つけてしまっている人だと思うんです。今いるその場所で答えを見つけるのはなかなか難しいと思うので、別の視点を得るために環境を変えてみるのもよいのではないかなと。
視点を増やすという意味で、大学院はとてもいい場所だと思います。自分とは全く別の仕事をしている人や、普通に仕事をしているだけでは出会えないような人たちと一緒に学ぶことができるので、行ってよかったなと思います。
—————貴重なお話がたくさん聞けてよかったです!本日はありがとうございました。
執筆者:aida