社会人大学院とは何か

社会人大学院への入学準備7ステップの第二弾では「そもそも、社会人大学ってなに?」という疑問にお答えしていきます。

さて、コロナ禍以降、大学院で学びたいと考える社会人が増えています。将来不安に加え、テレワークが普及したことにより増えた自由時間を自分の仕事や将来の目標に活かせる学びに使いたいと考え、行動に移す人が多いのではないかという分析もあるようです。

実際コロナ禍の前後で慶應MBAの倍率は+0.5人ほど増えており、海外MBAにいけなくなった人が国内に流れているという見方もできそうですね。このページでは社会人大学院がスタートした経緯に始まり、一般的な大学院との違いや学べる分野、学びの特色など社会人大学の概要について説明します。

約30年前にスタートした社会人大学院

社会人が大学院で学ぶ機会が増えたきっかけは、1989年の大学院設置基準改正に遡ります。研究者だけでなく社会の各方面で活躍できる人材養成を目的に加えられるようになったり、夜間の修士課程を設置できるようになったり、それまで学部と一体化していた大学院が制度の弾力化によって別個の存在意義を持ったのです。

実はこの年の4月、筑波大学大学院は制度改正に先駆けて、社会人を対象とした日本で初めての夜間大学院修士課程をスタートしていました。各専攻の平均倍率は22倍で50倍を超える専攻もあり、ニーズの高さが伺えます。新制度によって社会人の入学者が増加すると共に、大学院側も社会人が学びやすい環境づくりを進めていき、1998年には通信制の大学院が制度化されました。

さらに2003年に制度化されたのが、専門職大学院です。技術進展や社会・経済のグローバル化により求められるようになった高度な専門職業人の養成に、目的を特化して生まれました。文科省のデータによると、この15年後の2018年には専門職大学院入学者の52.5%を社会人が占めています。

社会人大学院とは「社会人が学びやすい大学院」

ところで、「社会人大学院」という言葉は広く一般的に使われていますが、はっきりした制度上の定義があるわけではありません。そこでElephant Careerでは、入試制度やキャンパスの所在地・授業時間など様々な面で社会人が通いやすい大学院を「社会人大学院」と定義しました。結果として、社会人大学院の多くが専門職大学院に該当します。

筑波大学大学院の夜間修士課程は、1998年の創設時に社会人大学院の原型と言える制度を整えていました。キャンパスは都心のオフィス街からアクセス便利な東京都文京区大塚に所在し、入学者選抜は研究計画書・小論文・口述試験・調査書のみで外国語の科目試験はなし。費用負担も比較的安く抑えられ、授業は平日の夜2コマ・土曜の午後4コマ。1年目にほぼすべての単位を取得でき、2年目は論文に集中できるカリキュラムに整えられていて、仕事を持ちながら学ぶ人にしっかりと配慮していたようですね。

高度なプロフェッショナル人材を養成する場

研究者を養成する一般的な大学院には、修士課程と博士課程が設けられています。修士課程は標準修業年数を2年とし、幅広く深い学識を養い研究能力と専門的な職業を担う能力を培うことを目的としています。修士号取得には単位取得だけでなく、修士論文作成が条件になります。博士課程は標準修業年数5年で、自立した研究者として社会の様々な方面で活躍できる高度な研究能力と基礎となる学識を得ることを目的としています。修了には博士論文の審査と試験合格が必要です。多くの大学院は修士課程を前期博士課程(2年)とし、そのまま後期博士課程(3年)に進むことも修士号を取得して社会に出ることも可能です。

一方、専門職大学院は研究者ではなく、国際的に通用する高度な専門職業人の養成に特化した大学院と定義されています。アカデミックな理論とその応用を学び、高度なプロフェッショナルに求められる専門的な学識や能力を養うことが目的です。そのため一般の修士課程とは異なり、修士論文は制度上では修業の必須要件ではありません。修業年数は法科大学院が3年で他は2年、取得できる修士号はビジネススクールなら経営学修士(MBA)、教職大学院なら教職修士、というように専門分野ごとに異なります。



時間や場所にとらわれず学べるように

日本国内にある専門職大学院は、平成28年現在で法科・教職大学院を除いても79を数えます。その半数以上を私立が占め、キャンパスも東京都内や大都市に集中する傾向が見られますが、近年は国公立や地方の大学院も増えています。また、遠隔授業システムの整備やオンライン授業への対応も進んでいるため、学びの地域格差は少しずつ埋められているようです。

平日夜間と週末に授業を集中させるパートタイムはもちろん、1年で修了できるコースも増えています。実務に活かせる学びがスピーディーに身につくのは、社会人にとってありがたいことですね。

実務現場でのアウトプットに活かせる学び

目的や取得できる学位・修了要件だけでなく、専門職大学院には一般の大学院とは異なる様々な特色があります。

実務家教員が3割以上

実務家教員の割合が教職大学院は4割以上、法科大学院は2割以上、その他の専門職大学院は3割以上と定められています。専任の教員数は研究補助指導教員以外に一般の大学院修士課程の1.5倍とされ、一人ひとりの学生に行き届いた指導が行えるように配慮されています。

現場を意識した授業スタイル

アカデミックな理論と実務の現場のブリッジとなる学びを実現するために、専門職大学院では豊富な授業スタイルを採用しています。双方向・多方向のディスカッションや質疑応答が基本となるため、必然的にプレゼンテーションやグループワークが多くなります。

1. フィールドワーク(現地調査)

企業や人へのインタビュー調査や行動観察(エスノグラフィ)など、設定したテーマの実践事例についての実地調査。グループワークとして行う場合もあります。

2. ワークショップ

あらかじめ与えられた課題について事例やアイディアを各学生が持ち寄り、グループワークやディスカッションを行います。教員のファシリテーションのもと、分析や考察を深めていきます。

3. シミュレーション

テーマに則ってある条件を設定し、その条件下でモデルプランを策定。モデルプランから想定されるメリット・デメリット、期待できる効果などについて検証します。

4. ロールプレイング

ある設定の下で各学生に役割を割り当て、それぞれの立場を演じることで疑似体験する手法です。実務で起こりうる想定外の課題が浮き彫りになり、コミュニケーションスキルの向上にも役立ちます。

多様化する社会人のニーズに応える

MBAやMOT・会計・法学など広く知られている分野から心理・環境・アートまで、専門職大学院で学べる領域は拡大しつつあります。またMBAの中でも組織行動やマーケティングなどに特化した大学院も登場し、より専門的なスキルを求める社会人に応える方向へシフトしています。

分野によって一定の年数の実務経験が入学要件とされている大学院がある反面、臨床心理士指定大学院のように実務未経験者のキャリアチェンジに注力する大学院もあります。入学準備の際には、自分のキャリアが要件を満たすかどうかチェックが必要です。



ケースメソッドとプロジェクト研究

経営上の課題解決能力を養うMBAやMOTのカリキュラムには、企業経営や販売戦略などの実例をもとに討議する「ケースメソッド」が多く組み込まれています。「プロジェクト研究」は教員と学生が特定の研究プロジェクトに取り組み、計画の立案・調査実施・結果分析まで行うものです。あらかじめ複数のテーマを提示し、どのプロジェクトに参画するか学生に選択させる大学院もあります。


修士論文の意義と負担

制度上では専門職大学院の修了要件に修士論文は含まれていませんが、修士論文を書かなければ修了できない大学院もあります。仕事をしながら学ぶ学生の場合、論文作成に必要な先行研究リサーチや調査・分析や研究論文のフォーマット習得にかける時間が大きな負担になることは間違いありません。その一方、思考力が磨かれるだけでなく独自の研究から新規事業や事業改革の糸口が見つかることもあり、修士論文がまったく実務に役立たないわけではないのです。

修士論文を課さない代わりに、リサーチペーパーの提出や独自のプロジェクト研究が必要な大学院も多くあります。学術的な貢献が求められる論文と異なり、リサーチペーパーは課題解決に結びつく提案など実務上価値がある内容であれば良いため、社会人学生にとっては比較的負担が軽いと言えるでしょう。


学ぶことでイノベーションを起こしたい

以上が社会人大学院についての概観でした。

ところで、海外では社会人が大学で学ぶことが一般的で「社会人大学院」と表現すると「???」という顔をされるそう。例えば、米国の部長以上クラスのMBA取得率は40%(人事部長62%、営業部長445%、経理部長43%)で一度働きはじめた人が大学にもどり学ぶことは当たり前の世界。わざわざ「社会人大学院生」というラベルを付けなくても、大学には働いている人が大勢いる環境のようです。一方日本の役員クラスの大学院修了者割合は6%に過ぎません。

日本においても、働きながら学び・学びながら働くことが当たり前になり、実務とアカデミックの融合が進めば、新しいイノベーションやサービスが増えたり人生を楽しく生きる人が増えるのではないかと、Elephant Careerは考えています。

引用:国際比較:大卒ホワイトカラーの人材開発・雇用システム -日、米、独の大企業

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