「キャリアと人生を捉え直す機会に」社会人大学院での学びを経て会社員から経営者へ

社会人大学院の経験談を紹介する「先輩インタビュー」

今回は、 グロービス経営大学院を修了された村中 謙太郎さんです。
大学院での学びや仕事、独立、そして今後の展望について語っていただきました。

人材紹介業界で長年キャリアを積み、現在は独立して経営・組織コンサルティングと父親向けのキャリア支援事業を展開する村中さん。グロービス経営大学院での学びが、キャリアや人生にどのような影響を与えたのか、詳しくお話を伺いました。

村中 謙太郎さん

株式会社クイック(東証プライム)で18年間、人材紹介事業に携わり、法人の採用支援、個人の転職支援に従事。執行役員やグループ会社社長として事業を統括した後、2023年に株式会社YOU ARE HEREを設立。国家資格キャリアコンサルタント。

卒業・修了した大学・大学院:グロービス経営大学
入学年月(年齢):2015年4月(37歳)
修了年月(年齢):2018年3月(40歳)  

20歳で父親になったことから始まるキャリア

———まず、これまでのキャリアについて教えてください。

私は大学生だった20歳の時に父親になったんです。当時は本当に未熟で、子育てと仕事と学業など、目の前のことに対処するだけで毎日精一杯でした。

娘が生後3ヶ月の時から保育所に預けはじめたのですが、保育所の先生方が仕事の範囲を超えて親身に支えてくださったおかげで、なんとか生活と子育てを両立させ、社会に出ることができました。本当に助けていただいてばかりで、もう感謝しかありません。保育士の先生方は、私が人生で初めて出会った「真のプロフェッショナル」であり、この時の経験から、働く人々を支える仕事に興味を持つようになったんです。

その後、IT企業で営業職を経験し、27歳の時に、人材紹介事業の立ち上げ期にあった株式会社クイックに入社しました。当時は30名ほどの組織でしたが、事業が成長する中、32歳の時からは部長として事業・組織の統括を任されるようになりました。クイックには18年間在籍し、最終的には執行役員として300名規模の組織のマネジメントを担当していました。

2023年に株式会社YOU ARE HEREを設立し、現在は法人向けの経営・組織コンサルティングと、個人向けのキャリア支援を行っています。

———社会人大学院に進学されたきっかけは?

37歳の時、2015年にグロービス経営大学院に入学しました。30代前半から部長としてマネジメントをしていたのですが、事業と組織が大きくなるにつれて、これまでの経験だけでは対応しきれない課題が増えていきました。関わるメンバーの人数も増え、自分が直接経験していない職種をマネジメントする機会も増えるなど、コミュニケーションの取り方に悩むことが多くなっていたんです。何とか事業をより良いものにしていきたい気持ちは強かったのですが、自分の成長が必要だと感じ始めていました。

とはいえ、会社では事業責任者としての立場にあり、周囲に悩みを打ち明けることが難しいと感じていた時期でもありました。そんな時、高校時代からの友人に相談したところ、その友人がグロービスで学んでいたこともあり、1科目から受講できる単科生制度を勧めてくれたんです。

すぐにクリティカルシンキングの授業を実際に受けてみたのですが、講師や受講生とのディスカッションをベースに進める授業から得られる学びの深さに驚きました。うまくできずに打ちのめされる感じもあったのですが、「これこそ今の自分に必要な学びだ!」と思い、正規のMBAプログラムに進学することを決めました。私自身、大学時代は子育てとアルバイトを言い訳に勉強をしてこなかったんですが(笑)、素直に学びたい気持ちが芽生えていたんです。

グロービスを選んだ理由は、ビジネスの現場ですぐに役立つ知識とスキルを身につけたかったからです。自分は在野の実践家だと思っていましたので、日々悩みながら学び、実践する意欲的な仲間とのディスカッションから得られる刺激や学びに期待がありました。また、グロービスの講師はシビアな現場で実践を積み重ねてきた方ばかりで、話に説得力がありました。リアルな成功体験や失敗談、そして実践的な知見を惜しみなく提供してくれる点も魅力に感じました。

大学院での学んだフレームワークをビジネス現場でも応用

———大学院での学びで特に印象に残っていることは?

リーダーシップに関する授業の中でも、「組織行動とリーダーシップ(OBH:organizational behavior leadership※OBL)」の授業が印象に残っています。そこで学んだ組織を分析する際の7つの要素(7Sフレームワーク)は、実際の仕事でとても役に立ちました。

例えば、クライアントの事業や組織、また自社の状況を分析する際に、このフレームワークを使うことで、課題をより構造的に把握できるようになりました。問題を整理しやすくなるだけでなく、課題の発見や解決策を考えるプロセスもスムーズになり、関係者との合意形成や意思決定も速く行えるようになりました。

それと、7Sはキャリアを考える際にも応用できるんです。人と組織の領域を扱う私にとっては欠かせないフレームです。

———学びを通じてどのような気づきや成長がありましたか?

フレームワークを実践で使えるようになったことには成長を感じています。

以前は、フレームワークの存在は知っていても、実際にどんな時にどう使うのかがわかっていませんでした。グロービスでの学びを通じて、フレームワークを理論上の道具としてではなく、ビジネスの現場で起きる具体的なシーンで活かせるようになりました。社内外を問わず、起きている事象を構造的に捉え、対話や合意形成、意思決定を進めるためのツールとして、現実の問題解決に役立てられるようになったのは大きかったです。

でも、最大の気づきや成長といえば、仲間を頼るようになったことです。グロービスにはさまざまな強みを持つ方々が集まり、互いに教え合い、支え合っています。議論は率直で、何をやるにも前のめりで積極的なんですよね。そんな風土に触発されました。人を信じて頼ること、そして自分が輪の真ん中に入っていくことから始まるのだと学びました。仕事の現場でも素直に仲間を頼るようになり、意外と頼ることで相手は応えてくれるものだと実感しました。起業前後も、グロービスの仲間たちに多くの協力やアドバイスをもらい、本当に助かっています。

仕事と学業の両立、大学院でのインプットを仕事でアウトプットする日々

———仕事と学業との両立は大変だったのではないですか?

大変でした!人生で一番勉強した時期だと思います。「自分ってこんなに頑張れるんだ」と自分自身に驚いたほどです(笑)。

仕事を早めに切り上げて学校に通い、22時に授業を終えた後は、講師やクラスメイトと懇親会と称して飲みに行き、終電で家に帰る。40歳手前でよくそんな生活を送っていたなと思います。でも、その懇親会(飲み会)が、とても重要な時間だったんです。授業で学んだことを、自分の会社やビジネスに引き寄せるとどうなるのか、お酒も入れながらフランクに話し合うことで、学びがグッとリアルになるんですよね。

また、私はマネジメントの立場にあったので、学んだことをすぐに実際の仕事で試すことができたのも大きかったです。実際にやってみると、うまくいかない部分や、自分の理解が浅いところが見えてくるんですよね。そうやって学びと実践を繰り返すサイクルが自分の中でできていったので、成果が出る手応えと自分の能力の成長を感じ続けることができました。

土日も授業やケーススタディの読み込み、勉強会、レポート作成などに追われる日々でした。科目によっては参考図書を読んだりもしましたが、とにかく時間が限られているので、速読のスキルが身につきました(笑)。すべてを満遍なく読むのではなく、「自分は何を知りたいのか」という問いを持ちながら読み、必要な情報を素早くキャッチするコツを掴んだんです。このスキルは今もかなり役立っていますね。

誰もが自分らしさを大切にし共に歩んでいける組織や社会を創りたい

———大学院修了後、キャリアにどのような変化がありましたか?

修了直後、学んだことを全部注ぎ込んでいこうと意気込んでいたところ、思いがけず部署異動を言い渡されたんです。立ち上げ当初から13年、全力で取り組んできた部署からの異動でしたので、正直動揺もしましたが、実はこの時に、学びの成果を大きく実感することになったんです。

異動先の部署について、まずはフレームワークを使って外部環境や内部環境を整理し、現状を体系的に把握しました。その上で現場のヒアリングを進めることで、比較的早い段階で事業の現状を掴むことができ、新たに一緒に働く仲間ともスムーズに認識を共有することができました。そのおかげで、早い段階から協力体制を築けたことは大きかったです。

また、マネジメントのアプローチやリーダーシップのスタイルにも変化がありました。事業の方向性や、大事にしている価値観を改めて明確にするために、業界全体や競合他社はどうなっているのか、その中での自社の特徴や強みは何か、それらがどのように社会への貢献に繋がるのかを具体的に示しました。その上で、社員一人ひとりが自分の仕事と事業のビジョンをどのように結びつけられるかを丁寧に伝え、組織全体のコミュニケーションが活性化するように取り組みました。一朝一夕で成果が出るものではありませんので、部長やマネージャーと何度も対話を重ね、地道に進めていきました。学ぶ前の自分にはなかったやり方ですが、仲間と一緒に大事なことの実現に向けて取り組んだことは、とても貴重な体験になりました。

———今は独立をされてますが、それはどんな思いで?

45歳で退職し、新たなスタートを切ったんですが、そこに至る数年間は本当に多くのことを考えさせられる時期でした。コロナ禍の混乱やロシアとウクライナの戦争などを目の当たりにし、これまで当たり前だと思っていた社会や価値観を見直す機会が増えました。そんな中、娘が社会人となり、彼女の成長を感じながら、自分は次の世代や社会にどう貢献していくのかを考えるようになりました。リモートワークが拡がり、働き方の急激な変化が起きる中、多くの人がこれからのキャリアの在り方を見つめ直す時期なのだと感じていました。こうした出来事が重なり、「残りの人生で何をすべきか」という問いが自分の中に立ったんですが、それにはグロービスでの体験も大きく影響しています。

グロービスには、責任ある立場でお仕事をされているミドル世代のビジネスパーソンが数多くいらっしゃいます。みなさん、責任感が強く、社会や組織に貢献したいという思いから熱心に仕事に取り組まれ、活躍されているのですが、その一方で、立場ゆえに多くの悩みを抱え、周囲に相談できずにいる方も少なくありません。

人生100年時代と言われる今、30代から40代のビジネスパーソンは、まだまだ長いキャリアが続きます。キャリアの折り返し地点に立ち、「このままでいいのだろうか」と悩む方のお話を直接聞く機会も多々ありました。

これまでキャリア支援や転職支援に長く携わってきましたが、転職だけがキャリアの選択肢ではありません。副業、複業、起業、社会人大学や大学院で学ぶことなど、さまざまな選択肢が広がっています。この年代の方々が、自分らしく活き活きと働くことは、周囲に大きな影響を与えますし、次世代を担う若者や子供たちにとっても大事なことだと思うんです。そういう意味で、ミドル世代が活き活きと働ける環境をつくっていくことは、今取り組む価値のある社会の課題だと感じたんです。

娘が社会人となり、子育てと事業責任者としての経験を経て、ここからは自分が貢献できる社会の課題に向き合いたいという思いから、新たなステージに踏み出しました。会社名「株式会社YOU ARE HERE」には、誰もが自分らしさを大切にし共に歩んでいける組織や社会を創りたい、そんな願いを込めています。

———現在はどのような活動をされているのでしょうか?

今は、法人向けと個人向けの2つの軸で活動しています。法人向けには、これまでの事業運営や組織マネジメントの経験を活かし、経営者やマネジメント層を対象に経営・組織コンサルティングやメンタリングを行っています。

個人向けには、父親向けのキャリア支援サービスを開始しました。ミドル世代のビジネスパーソン、中でも子育て中のお父さんを対象に、より自分らしい人生とキャリアをデザインできるように支援するプログラムを提供しています。会社での役割や、父親としての責任を懸命に果たそうとするあまり、現実と自分が本当にありたい姿とのギャップに悩む方が数多くいらっしゃいます。「会社や組織のため」「家族のため」に全力で向き合い続けるうちに、いつの間にか「自分のため」を後回しにしてしまうことがよくあります。特に男性は、自分の悩みを話すことに抵抗があり、ひとりで抱え込んでしまいがちです。

父親に特化したプログラムは珍しいかもしれませんが、こうした父親ならではの悩みがあるからこそ、私自身の経験と知見を活かしてこのプログラムを作り上げました。

このプログラムでは、まず自分が本当に大切にしたいことを深く掘り下げ、人生のあり方を見つめ直します。会社や家庭での役割は、つい社会や他者の期待にすり替わってしまいがちですが、このプログラムでは、物事の判断基準を他者や組織ではなく、自分自身にしっかりとフォーカスを当てます。その上で、転職などの手段にとらわれることなく、人生と仕事を切り離さず、より自分らしい生き方とキャリアを描くことを目指します。

グロービスで学んだことのひとつなのですが、自己理解を深める上で、他者との対話はとても効果的なんです。その実体験もありますので、個別相談に加えて、似たような課題を抱える方々によるグループ対話の場を設け、共に学び合い、応援し合える機会も提供していきたいと考えています。

———最後に、社会人大学院への進学を考えている方へメッセージをお願いします。

私自身がそうではなかったので反省の意味も込めてなのですが(笑)、明確な目的を持って進学されることをお勧めします。

「何を学びたいのか」「学びをどんな場面でどう活かしたいのか」という具体的なイメージを持っているかどうかで、学びの効果は全然変わってくると思います。

私の場合は、組織のマネジメントとリーダーシップスキルの向上が主な目的でしたが、「組織の何の課題を解決するためなのか」「事業のどの部分を改善したいのか」といった点をもっと早い段階で明確にしていれば、さらに効果的に学べたのではないかと感じています。

とはいえ、学んでみて初めて気づくことも多いので、予想外の学びや新しい発見を期待して、ぜひ飛び込んでいただきたいです(笑)。

私にとって一番の嬉しい予想外は、仲間や友人が増えたことです。事業や組織マネジメントの学びと実践を通じて、リーダーとしてのあり方や自分の人生について深く考える機会を得られたのは、仲間の存在があったからこそです。悩みを共有し、対話する中で、自分ひとりでは気づけなかったことがたくさんありました。こうした関係性が、困難を乗り越え、より良い方向に進む力になったんです。

このような環境があったおかげで、仕事と学びの両立がうまくいったのだと思います。仕事で壁にぶつかってキツい時も、学びの中に解決のヒントがあるかもしれない、あるいは誰かに相談することで糸口が見つかるかもしれないと考えることができ、心を前向きに保つことができました。

そのためには、周囲の理解と協力を得ることもとても大事だと思います。私は通学していることを会社にあまりオープンにしていなかったのですが、今思うと、ちゃんと伝えておいたほうがよかったかなと思っています。ご家庭がある方や子育て中の方は、いかに家族の時間を確保し、理解を得て応援してもらえるかが大事だと思います。周囲の協力を得ることで、より学びに集中でき、学んだことを実践する機会が増え、結果として、学びのインパクトを大きくできると思います。

———まとめ

村中さんの経験は、社会人大学院での学びが単なるスキルアップだけでなく、キャリアと人生の転換点になり得ることを示しています。ビジネスパーソンとしての成長と同時に、自己実現の道を切り開くきっかけにもなるのではないでしょうか。

社会人大学院での学びは、確かに時間とエネルギーを要する挑戦です。しかし、それは単なる学位の取得以上の価値をもたらす可能性があります。自己との深い対話、多様な背景を持つ人々との交流、実践的なビジネススキルの習得など、総合的な成長の機会となります。
村中さんのように、この経験を通じて新たなキャリアパスを見出す人もいれば、現在の仕事により深い意義を見出す人もいるでしょう。いずれにせよ、社会人大学院での学びは、自身のキャリアと人生を捉え直す機会となり、自身が大事にしたいあり方に基づいて、将来を描く力を養う機会となるはずです。

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