働きながら学ぶ人を紹介する「先輩インタビュー」
今回は、グロービス経営大学院を修了された西 眞一郎さんです。
パチンコホール大手の株式会社マルハンで、マーケティングマネージャーとして変革に挑む西さん。現場で築きあげてきたキャリアを捨ててまで、変革に取り組む決意をしたのはなぜなのか。志を実現するために進んだ大学院で、何を獲得しどう実践に活かしているのか…
「どうしても実現したい未来がある」とおっしゃる西さんの言葉には、志を貫くために進む人ならではの説得力があります。理想に向かって足掻いている人たちみんなに、勇気をくれるインタビューです。
(株)マルハン マーケティングマネージャー。これからはブランドが重要な時代と理解し、グロービス経営大学院卒業後に資格を取得。ブランドマネージャー認定協会でブランディングの講師を務めながら社内変革を推進中。
卒業・修了した大学・大学院:グロービス経営大学院
入学年月(年齢): 2019年(42歳)
修了年月(年齢):2021年(44歳)
●変革という志を起点に大学院進学を決めた
—————まずご経歴をお伺いしたいのですが、マルハンにはどんな経緯で入社されたんですか?
私は社会人になるまで勉強なんていらない、と思っていたタイプで。営業力を発揮して真面目に仕事に取り組めばいい、と考えていました。高卒でトリマーの仕事をした後、20歳ぐらいの時にマルハンでアルバイトとして働き始めたんです。そのまま正社員になり、ずっとパチンコ業界にいます。もう25年ほど経ちますね。
—————アルバイトから社員になろうと思ったきっかけは、何だったんでしょうか?
パチンコが好きだったし、給料もそんなに悪くなかったですし。正社員になったら?と先輩から誘われた記憶もあります。当時は業界自体が、プロダクトライフサイクルで言うと導入期から成長期に入るくらいでしたから、自分のキャリアの未来を描けたんですよね。それからエリア長として数十店舗を見る立場になったんですが、自分の志を実現するために41歳で現場を離れる決断をしました。
—————キャリアを捨ててまで成し遂げたいことがあった、ということですか?
会社を変えたい、変革したい、という志です。当時は今よりももっと漠然としていて、大学院に通ううちに「志」としてブラッシュアップされてきたんですが。現場の営業職では会社を変えることはできないのでエリアを離れ、本社に行きました。
—————どんなことがきっかけで、会社の何をどう変えたいと思われたんですか?
マルハンは毎年新入社員を100人ぐらいずつ採用していて、その多くが大卒の方たちです。私もエリア長として採用に携わっていて、彼らから「なぜ大学を出てまでパチンコ業界で働くのか」と親に反対された、彼女と別れてきた、などという話を聞いていました。それでも、彼らは当然夢を持って入社してきているんですよね。一方で業界は衰退期に入っていて、売上も下がり続けている。私もそれを知っているのに、本心とは裏腹に彼らに「いい会社に入ったね」と嘘をついてしまった…。この嘘を嘘でない、本当のこととして実現しなくちゃいけない。若い人が夢を叶えられる会社にしなくちゃいけない、それができるのは私しかいない、と思ったんです。
—————自分の言葉の矛盾を正すために動いた…?
そうです、本社へ行ったのとほぼ同じタイミングで、変革を起こすためのスキルを獲得したいと考えて大学院にも通い始めました。
—————社内に変革を起こすためには大学院で学ぶ必要がある、と思われたのはなぜだったんでしょうか?
実は、会社でGMAPというグロービスのテストを受けたことがありまして。経営やマーケティング、人的資源管理、組織行動、会計やファイナンスなどの知識や論理的思考力を測るテストです。社員にどんなスキルがあるのか把握するために行われたんですが、平均点ぐらいしか取れませんでした。自分には知識が足りないんだ、と痛感しましたね。自分のこれからのキャリアを考えても、後輩のために道を作るとしても、とにかく知識が足りない。
私はマンガが大好きなので「ワンピース」で例えると、ルフィが海賊王になるという志を実現させるためには、スキルと仲間の二つが重要じゃないですか。なのに、当時の自分には志しかなかった。大学院に行く方のほとんどは、キャリアビジョンのためのスキルアップが一番の目的だと思いますが、私は完全に志が起点でした。
●どうしても実現したい未来のために調整を徹底する
—————西さんはいい会社に入ったね、と言ったことに違和感を持たれた。でも、この違和感を「口先だけでいいことを言うなんてみんなよくやっていることだし、まあいいか」と見逃す人も結構いるじゃないですか。それでもこの業界に貢献したい、自分が変えないといけない、と思う責任感はどうやって芽生えたんでしょうか?
私のエネルギーは一種の怒りなんです。初めは個人的な腹立たしさ、つまり「私憤」でした。自分が嘘をついていることに対する腹立たしさや、若い社員がキャリアに夢を描けないことへの憤りですね。でも、これが私憤のままだと誰か悪者を見つけてやっつける、勧善懲悪になってしまう。だから私憤をコントロールして「公憤」、みんなのためになる腹立たしさに変えています。そうしないと、自分が本当に志す変革にたどり着けない。組織に置いて改革が失敗するか成功するか、ここがポイントになると考えています。
志があるとは言っても一時は会社を辞めようか、独立して自分で会社を興そうか、など色々悩みました。でも最初に言い出した自分が辞めてしまったら、変革を続ける人がいなくなってしまう。リトルホンダじゃないですけど、人生において何をやりたいか自分に問いかけると、このまま転職や独立の道を選んだらきっと一生後悔するだろう、と思ったんです。何だか偉そうなこと言って、すみません(笑)。
—————いえ、すごく共感する部分があります。先ほどワンピースのルフィの話をしていらっしゃいましたけど、改革を一緒に進める仲間もいらっしゃるんですね。
はい、仲間の重要さは大学院に入ってから気づいたことなんですが、仲間作りからスタートしました。実は本社に行ってから、会社がカンパニー制になりまして。私は西カンパニーの所属だったんですが、東カンパニーの社長に「今やっていることをこっちへ来てやってほしい」と呼ばれて、東に移りました。そうしたら同じ会社なのに、面識のある人も一緒に働いたことがある人もほとんどいなくて、転職したのと変わらない感じだったんですよ。そこからプライベートな時間も削って、時間をかけて「お前が言うんだったらしょうがないなあ」と言ってもらえる関係性を築いていきました。1年半経ってようやく、色々なプロジェクトがスタートできるようになったんです。
—————社内の人たちに志を共有して、一緒にやってくれませんか、と呼びかけたということですか?
そうですね、特に立場が自分より上の人たちには、丁寧に説明しました。まず、パチンコ業界の枠を超えて、私たちがどんな社会課題を解決していく企業に生まれ変わることができるのか、皆で考えませんか?ということ。次に、パチンコ業界を若い人からも受け入れられる業界に変えませんか?ということ。この2つを話してから、定量データをもとにマルハンの現状と将来の課題を提示して、「一緒にやりましょうよ!」と呼びかけたり「これやりたいんですが、やり方がよくわからないんで教えてください!」とお願いしたり。あとは家族ぐるみで仲良くなれるように、一緒に食事に行ったり。アメリカでよくある、ホームパーティーみたいな感じです。
—————なるほど、そこまできっちりやらないと、特に大企業は変えられないのかもしれないですね。
私には、どうしても実現したい未来がありますから。そのために準備して仲間を作る、調整する、ということですね。
—————そうか…私、協調性ゼロと判定されたことがあるくらい調整が苦手なので、見習わなくては。
本当は組織には、周囲を気にせず率先して動く人が必要なんですよ。組織も生物と同じで、変異と適応の繰り返しですから。変革を起こす人が絶対必要だということを理解している組織は、強いですよね。
●志を実現するために仲間を作るスキルを獲得
—————もともと営業力に自信があったとおっしゃっていましたが、ずっと前から志のために腹を括れる人だったんですか?
そうですね…例えば市場を発見する能力と市場を作る能力って、別だと思っているんです。これがビジネスチャンスだという気づきを得ても、そのチャンスを掴んで市場を作れるかどうかはまた別の話で。私はもともと市場を作る能力はあった、と思っています。変革も同じで、気づいても実行できるとは限らない。そういう意味では動けるタイプなんでしょうね。
—————仲間を作って巻き込んで調整して、ということも得意だったんですか?
いや、私は小学校中学校までいじめられていて、そのせいで長い間、友達の作り方がわからなかったんですよ。だから友達の作り方を自分で勉強したし、大学院でも人的ネットワークについて研究して、能力を獲得したんです。
—————当たり前にやってきたことではないからこそ、体系的に言語化できるし、方法を人に教えられる、ということでしょうか。
そうですね。東カンパニーに入った時、100人以上いる東カンパニーの全員に、1時間ずつ時間をもらって1on1させてもらったんです。これが一番大事だと思っていました。たくさんの人と仕事以外のことでも雑談できるようになっていきましたし、今も朝出社すると必ず全員におはようございます、と挨拶しに行きます。特に上層部の方とは挨拶だけでなく、今進めているプロジェクトについて相談したり意見を聞いたり。ひと言ふた言でもお話しするようにしていますね。
—————やはりそういうことをやらないと、会社を変えることはできないんでしょうか?
方法はいくつもあると思います。トップ直属のプロジェクトとして進めるとか、外部のコンサルなどを主体にするとか。ただ、若い人たちだけを仲間にして集めてもポジションパワーでうまく進められない場合があるので、上の人たちにも賛同してもらうことが非常に重要だと思いますよ。
●本気で叱ってくれる人に出会えた喜び
—————大学院進学の際に検討したのは、グロービスだけだったんでしょうか?
はい、GMAPで知っていたということもあってまず体験クラスを受けました。マーケティングの授業でヘルシア緑茶のケースをやったんですが、これがもう、むちゃくちゃ面白くて。何だこれは?!エンターテイメントじゃないか!と思ったんです。みんなでディスカッションするのも、知らなかったことを知るのも、純粋に楽しかったですね。
—————マルハンの方がそうおっしゃると、重みがあります!大学院での最大の学びは何だったんでしょうか?
何と言っても、ネットワークです。人・モノ・カネ・ITなどあらゆる分野で困ったら相談できる人ができました。それと、社外に真剣に叱ってくれる人ができたことが本当に嬉しかったですね。
—————そんなに深い関係が築けたなんて、すごいですね。
その方は同期ではないんですがグロービスのつながりで知り合って、コロナの影響を受けて困っているフグの養殖業者さんのブランディングを一緒にやりませんか、と私が誘ったんです。別のグロービスの友人も巻き込んでクラウドファウンディングを始めたんですが、ちょっとやり方に迷ってしまったこともあって、まったく達成できなかったんです。その方にはスタンスから仕事の進め方まで、すべてにおいて甘い!とすごく叱られました。この年齢でこの立場になると、誰かに叱ってもらえることなんてほとんど無いんですよ。こんなにちゃんと叱ってくれるなんてむちゃくちゃ嬉しかったし、いい経験になりました。
—————叱られて嬉しいなんて、子どもが聞いたらびっくりしそうですが(笑)。
自分がリーダーとしてビジネスを立ち上げた時、売上という責任をどう達成していくのか、商品を買ってもらうためには何をしないといけないのか、など本当に勉強になりましたね。
●ネットワークの重要性に気づきリレーションパワーを強化
—————大学院に行って、いい意味でも悪い意味でも裏切られた、期待と違った、ということはありましたか?
ネットワークがこれほど重要だと気づかされたのは、いい裏切りでしたね。スキルだけ獲得すればいい、と思い込んでいましたから。「人的ネットワークづくりの教科書」という書籍も共著で出しましたし、2年目はずっと人的ネットワークの研究をしていました。もう、一人の強いリーダーシップだけで志を実現できる時代ではないんですよね。ルフィみたいに、俺一人じゃダメなんだ!お前らがいないと困るんだ!と言えないと達成できない。それから「パワーと影響力」というクラスが、本当に面白かったですね。どうやって人を動かすか、という内容です。
—————これはリーダーシップとは違うんですか?
ちょっと違います。人が動く理由にはメリットorデメリット、感情、無意識の3つがあるんです。相手がメリットデメリットで動く人なのか、感情で動きやすいのか、それとも無意識つまり本能で動くのか見極めて訴えかける。自分が持っているパワーとしては、「公式の力」と言われるポジションパワー、スキルや実績・カリスマ性などのパーソナルパワー、リレーションパワーの3つがある。どのパワーで相手のどこに訴えかけるか。これを3カ月間学ぶ、という授業です。
—————面白いですね!
私はリレーションパワーが足りないとわかったので、そこに力を入れて強化しました。
—————単科履修ができるなら授業を受けてみたいです。
グロービスだと本科目だけだと思います。学び放題の動画はありますよ。
●子どもみたいに好奇心が赴くままに学べばいい
—————入学までの準備として特別にやったことなどはありますか?
嫁さんに話したぐらいです。子どももいないし、私が自由な性格なのを知っているので何の問題もありませんでした。そんなに勉強ばっかりしてて大丈夫?と言われたぐらいで。自分のお金を使ってプライベートな時間に大学院へ行ったわけですから、会社にも許可を得る必要もなかったですし。職業訓練給付金はもちろん、貰いました。始業時間が9時なので、毎日朝5時に起きて3時間ぐらい勉強に充てていました。
—————修了後に勉強を続ける方と、学んだことを活かす方向にフォーカスする方がいらっしゃるんですが、どちらのフェーズですか?
完全に実践フォーカス、と言うかアジャイルに勉強と実践を回している感じですね。特に勉強のための時間を意識していなくても、興味があれば何でも勉強してみます。私は子どもみたいに好奇心で動くところがあるので、プログラミングや英語も学びました。今45歳なんですが、45歳の初体験をどれだけできるか、46歳になったら46歳の初体験をどれだけできるか、と常に更新していくようにしているんです。年齢を重ねると初体験が減っていく、自分の世界が狭まってしまいますから。若い人と話すのも本当に好きで、若い人から何かを学ぼうとする謙虚さはずっと持ち続けていたいと思っています。
●どんな「失敗」でも成長できれば「成功」になる
—————今後のキャリアイメージとしては、まず志を達成するということでしょうか?
そうですね、私のマイルストーンとしては、会社のパーパスを作り上げ、パーパス軸の新規事業を一つ立ち上げて成功させる。また、既存事業のブランディングで売上132%を達成する。ここまでを3年でやる計画でした。ただ、パーパスの浸透には時間をかけたほうがいいというアドバイスを頂いて、4年計画に延びています。その間に副業として、ブランディングのビジネスをやるつもりです。会社の仕事としてリブランディングをやっていますが、大企業なので時間がかかる。もっとスピーディーに自分で全部ドリブンできる事業をやりたいですね。
大学院を修了した人は、小さくても何か事業を始めたほうがいいと思っています。何か始めるってすごくエネルギーがいる、いい反応も悪い反応も起こる。悪い反応が起こると怖いから、アクションを起こさず評論家になってしまう人が多いんじゃないでしょうか。私は失敗と成功の基準を、成長に置くようにしています。恥をかいたりお金や名誉を失うことがあっても、成長できれば成功なんです。
—————成長しない自分がそこにいるなら、失敗しているということなんですね。
●学べば世界が変わる、未来が変わる
—————西さんにとって、働きながらアカデミックに学ぶ、社会に出てから学ぶことはどんな意味があったんでしょうか?
学ぶって自分の世界を広げること、未来を変えることだと思っています。例えば、こうやって秋山さんと出会ってお話しする前と後では、世界が変わっていますよね。これも学び。自分の世界を広げたいと思うなら、ずっと学び続ける、未来を変えていくのがいいと思います。
—————最後に、どんな人に進学を勧めますか?
未来に不安がある人には、学びを勧めたいです。学ぶって本当に楽しいですし。グロービスの授業は本当に面白かった。授業時間があっと言う間に過ぎちゃいましたからね。
—————今日はコーチングを受けたみたいな気がします。ありがとうございました!
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