
社会人大学院の経験談を紹介する「先輩インタビュー」
今回は、立教大学大学院経営学研究科経営学専攻リーダーシップ開発コース(LDC)在学中の山口 晴美さんです。
子育てをしながら社会人大学院で学ぶ。そんな選択をする人が増えています。今回は、社内弁護士として活躍する傍ら、2人のお子さんを育てながら立教大学大学院経営学研究科リーダーシップ開発コース(LDC)に通う山口さんにお話を伺いました。育児と仕事、そして学びの両立に挑戦する彼女の経験から、社会人大学院進学を考える方々へのヒントが見えてきます。
コンサルティングファームの社内弁護士として活躍する傍ら、2児の母として育児にも奮闘中。現在は育児経験とリーダーシップの関係性に関心がある。育児経験が経験資本として認知される社会の実現を目指し、2024年4月立教大学大学院経営学研究科リーダーシップ開発コース(LDC)入学
浜谷 祐子・中原 淳著: 育児は仕事の役に立つ 「ワンオペ育児」から「チーム育児」へ
著書 :世界一!具体的な育児分担の教科書: 家庭にも仕事にも役立つ「おうちマネジャー」のススメ
研究内容:育児家庭でのリーダーシップを仕事に活かすには
在学中の大学・大学院: 立教大学大学院経営学研究科経営学専攻リーダーシップ開発コース(LDC)
入学年月(年齢):2024年4月
修了年月(年齢):2026年3月
●弁護士業一筋!
——— 山口さん、今日はよろしくお願いします。まずは、これまでのキャリアについて教えていただけますか?
はい。私は現在企業の法務部で社内弁護士として働いています。社会人経験は10年になりますね。
弁護士を目指したきっかけは小学生の時なんですが、その当時いじめられた経験もいじめた経験もあって...。そんな中で、元極妻から弁護士になった大平光代さんの本に出会ったんです。その方が、少年犯罪を扱う弁護士という形でつらい経験を活かしていく姿に感銘を受けて。「私のこの経験も、将来誰かの役に立つかもしれない」と思ったのが始まりでした。
———へー!小学生の時からそんな明確な夢があったんですね。
(笑)......とはいえ、途中で木村拓哉さん主演の「HERO」を見て検事に憧れたり、紆余曲折はありましたけどね(笑)
でも、その思いは持ち続けて、大学を出て法科大学院に進学し、司法試験に合格。司法修習を経て今の会社に入社しました。3年半ほど勤務した後、2年間課長補佐として金融庁へ出向しました。出向から戻った時にマネジャー職について、その後産休・育休を経て復職して2年勤務して再び産休・育休で今に至ります。
———そんな弁護士業一筋の山口さんが、10年間のキャリアの中で「法学系の大学院進学」を考えたことはなかったんですか?
キャリアアップのために法律系の大学院とか、日本にいながら海外の学位が取れるところとかも考えていました。子どもを産んでから国立大学の博士後期を受けようかなって思って、実際出願したこともあったんですけど。なんだかしっくりこなかったんですよね。
———学び続けるということ自体は山口さんの中にあったんですね
あー、それでいうと私のパートナーが大学で教鞭をとっているので、学ぶということが空気のように存在しているということが大きな要因かもしれないですね。学び続けるのは当たり前というよりごくごく自然なこと、のような感じです。「海外の人と仕事するには博士号あった方がいいんじゃない?」とかナチュラルに言われました(笑)しかも第一子が0歳の時にですよ?(笑)
———す...すごい......(笑)!でも、みんながそういう感覚だったらめちゃめちゃ世の中変わりそうですね
●大反響のラジオ出演が大学院進学のきっかけに
———いろいろな大学院を検討された結果、立教大学大学院経営学研究科経営管理コース(LDC)に進まれたとのことですが。
きっかけは、育児なんです。第一子を出産して復職してから、マネジャーの仕事がすごくやりやすくなったんですよ。それで「育児って、実はリーダーシップの訓練になるんじゃないか」と思い始めて。
ある時、社内向けのラジオで「育児は仕事の役に立つ!?」というテーマで話す機会があったんです。その時の反響が予想以上に大きくて。それで「似たようなことを言っている人、他にもいるんじゃないか」とネットで調べたら、中原淳先生の本に出会ったんです。
———あ、LDCの中原先生ですね。
はい。その本に育児経験がリーダーシップ行動にどう役立つかという研究が載っていて。「この先生の下なら、自分の実践知を理論化できるかもしれない」と思ったんです。それでメールを送って中原先生にコンタクトをとったところ、LDCの説明会があると知って。ただ、実はその説明会を聞いて、一度諦めかけたんですよ。
———それはなぜ?
LDCって、独特の文化があるじゃないですか(笑)ニックネームで呼び合ったりみたいな。最初は「ついていけるかな」と不安になって。でも、さっき話した、育児を経験することで仕事がやりやすくなったのはなぜか、そして育児と仕事のバランスにもがいている周りの人たちと比べて私が人よりうまくいったのはなぜか、根拠をもって知りたかったんですよね。そしてそれを人にも還元したい。だからどうしたら私のこの実践知や持論を理論を元に体系化できるのか、そしてちゃんと言葉に落とし込めるのかっていうのを知りたくて、決意を固めてLDCに志願しました。他の大学院も検討はしましたけど、中原先生がいらっしゃるのもあるし、やっぱりLDCにいってみようと。
———実際に入学されてみていかがでしたか?
最初は正直、構えすぎていたかもしれません。入学当初第二子妊娠中だったこともあって、周りの同期が「なんか困ったことがあったら何でも言ってね!」って言ってくれたんですけど、弁護士という職業柄何でも安請け合いしてもらうっていうのに抵抗があって(笑)――これが組織市民行動なのか!と。でも、そうやって優しい心で外の世界と触れながら、みんな純粋に学んで、純粋にフィードバックし合う。そういう環境の中で、だんだん私も心のコリがほぐれてきたような感じでしたね。
———何か発見とかありましたか?
私自身についての発見が多かったですね。同期からは「分かりやすい人」だと言われるんですが、私自身はそうは思っていなかった。でも、実際に学びの場でフィードバックをもらううちに、自分の特徴が見えてきました。
あとは読書量についても。同期生の中では「本をよく読むキャラ」として知られているんですが(笑)、これも比較する機会がなければ気づかなかった。4月の入学以来250冊くらい読んでいて...。
———すごい読書量ですね!
(笑)でも、これも完全に職業病かもしれません。弁護士って、文章を速く読むのが当たり前なので。ただ、比較する機会がこれまでなかったんですよね。LDCに来て初めて「自分の強みなんだ」と気づきました。
●子育てをしながらの学びのリアル
———学びの中で苦労されたことは?
第二子を出産した11月頃がちょうど、みんながグッと成長する大事な時期で...。授業を聞いていても、どんどん周回遅れになっているのを感じて。すごく焦りました。特に辛かったのは、グループワークの中間報告会の質疑応答で、同期のみんなは前期とはレベルの違う、深い質問をしている。でも自分は追いついていないから、うまく質問できないし回答もできない。そういう状況がありました。
———その状況をどう乗り越えられたんですか?
乗り越えたというか、年末年始に中原先生から「本を10冊読んで復習しなさい」と言われて(笑)必死で取り組みました。そしたら初夢に中原先生が出てきて、ピリ辛フィードバックを受ける夢まで見て...(笑)その後、正夢になったというか、グループワークの最終報告が振るわなくて落ち込んで帰った日、パートナーに「第二子はあまり笑わないね〜」なんて言ったら「え?よく笑うよ?」と...。育児の醍醐味まで見逃している自分に気づいちゃったりしてダブルパンチで凹みました...。
———辛い(笑)
実際、私の同期は入学時点で0歳児の親は3人もいたし、育児を言い訳にできない状況だったというか(笑)でも、みんなそれぞれ家庭の状況も、仕事の内容も違います。だからこそ、お互いの経験から学べることが多かったですね。

———みんなすごいなー。頑張って生きてんだなー。私が大学院行ってた時は自分のことだけで手一杯だったので、マジで尊敬します。
●子育てが教えてくれることをキャリアに
———次の1年に向けた意気込みも教えてもらえますか。
はい。育児経験を職務経歴書に書けるような世の中にしたい。育児から得られるリーダーシップやチームワークのスキルを、本人が言語化できて、応用できるようになって、さらにきちんと社会に認知してもらえるような仕組みを作りたいんです!
例えば子ども4人育てながら課長の仕事してます、とかって絶対マルチタスクができる人材だし、マネジメント能力も高いって容易に想像できるけど、そういうことって職務経歴書には絶対書けないし、その人のスキルとしてなかなか認知されないじゃないですか...。
ただ、まだ具体的に何をすればいいのかは言語化できていなくて。これからLFP(学内プロジェクト)に取り組みながら、その過程で自分の将来のキャリアも含めて言語化していきたいと思っています。
———それは面白い視点ですね!現在進行形で模索されている感じなんですね。
そうですね。社内の非公式育児・パートナーシップコミュニティでもヒアリング活動してみたり...。模索中です。
———育児だって仕事だよね、っていうみられ方がされるだけでもあがりそうですよね〜GDPとか(笑)
———ちなみに育児と学業の両立で実践的なアドバイスはありますか?
これは私なりに工夫していることなんですが、「パッケージ化」をおすすめします。例えば、金曜日の夜は授業があるので、上の子は決まった動画を見る時間にして、動画を見てじっとしている間に夫が上の子の爪を切るとか。そういう、親も子も気持ちよくいられるような時間の過ごし方の「パッケージ」を作っておくんです。
土曜日も授業があるので、子どもの好きそうな親子参加の習い事を入れて、その後の予定まで決めておく。パートナーも自分で一から遊びを考えるより、パッケージを持っておくと楽になります。この考え方は仕事でも使えますよ。
———なるほど。その方が毎回考えなくて済みますもんね。
———最後に、社会人大学院進学を考えている方へメッセージをお願いします。
私はよく「ベストなタイミング」について聞かれるんです。でも、実はベストなタイミングなんてないと思います。小さい子どもがいるからできないと言ってみても、10年経ったら中学受験があるからできない、20年経ったら親の介護があるから...と、理由はいくらでも見つかります。結局、「お金がない」か「時間がない」か、どちらかの理由になると思うんですが、実はそれは言い訳なんですよ。両方が十分にある時なんて、そもそもありません。だから、やりたいと思った時が、その人にとってのベストなタイミングだと私は信じています。
———力強いメッセージですね。本日は貴重なお話をありがとうございました。
ありがとうございました。この記事を読んで、一歩を踏み出すきっかけになる方がいらっしゃれば嬉しいです。