グローバルに働く人を増やしたい。社会構想大学院大学

社会人大学院の経験談を紹介する「先輩インタビュー」
今回は社会構想大学院大学を修了された五十嵐篤さんです。

自身がこれまで経験したことをグローバル人材育成に生かせないかと考えていた五十嵐さんは、コロナ禍をきっかけに大学院入学を決められました。

大学院進学につけても何につけても、「自分で決める」ことが大切だと言う五十嵐さん。
日本をよくしたいという熱い思い、学びを学びと捉えないことなど、興味深いお話をたくさん聞くことができました。



五十嵐 篤さん

欧州資本日本法人代表取締役社長。早稲田大学卒業後、日本企業5年、東南アジア企業(マレーシア現地)12年、米系資本日本法人5年を経て現職。日アジア米欧資本4社で、営業/事業開拓、事業戦略、組織/人的マネジメント経験を積む。MBA(英)/ 実務教育学修士(日本)/ キャリアコンサルタント/キャリアコーチ。

2023年10月より慶應義塾大学大学院後期博士課程、社会人コースに入学。

卒業・修了した大学・大学院:社会構想大学院大学
入学年月(年齢):2021年4月(47歳)
修了年月(年齢):2023年3月(49歳)

ずっともっていた、グローバル人材を増やしたいという思い

—————簡単にご経歴を教えていただけますか。

現職は、欧州系資本の日本法人の社長をしています。2021年4月に社会構想大学院大学へ入学し、今年の3月に修了しました。



—————大学院に進学したきっかけはなんだったのですか?

きっかけとして一番大きかったのは、コロナ禍になって時間がたくさんできたことです。コロナ前は海外出張も多かったし、家族と旅行に行くこともたくさんあったんですが、それができなくなってしまって。

コロナ禍における会社のオペレーション体制を確立させる必要はありましたが、半年くらいしたら落ち着いて比較的時間ができたので、大学院に行くことを決めました。

グローバル人材を増やすために、自分のやってきたことを伝えられればという思いをずっともっていたんです。

私自身はグローバル人材っていうほど特別立派なキャリアではありません。ものすごく努力したというわけでもないし、現在は、極めて頻繁に海外へ出張しているわけでもない。それでも、日本法人としては小規模の会社の社長としてそれなりに充実して仕事をしているわけです。

私でもできるんだから、たくさんの人がグローバル人材として活躍できるだろうなと思った。だから自分のやってきた経験を棚卸しして、他の人にも伝えることができればいいなと。

日本国内にも仕事のチャンスはたくさんありますが、海外にはもっと多くのチャンスがある。そして海外の人たちと一緒に仕事をするというのは、ビジネスとしても個人のキャリアや生き方としても、メリットが非常に大きいと思うのです。

だから、もっと普通に、当たり前くらいに、海外の人と仕事をする人が増えてもらいたい。そう考えたときに、自分の経験とか武勇伝だけ話しても仕方がないんですよね。武勇伝を話せば面白いかもしれないけれど、武勇伝は「教えられる」わけではない。武勇伝のようなものではなく、再現性のあることを伝えることができるようになりたかった。



—————コロナ禍でできた時間、その貴重なタイミングを逃さずに大学院進学を決めた、ということだったんですね。そう考えると、強制的に余白を作ってみると何か新しいことを思いついたりするのかもしれませんね。

そうですね。出張が多い仕事だったので、コロナ禍では本当に時間が出来てしまって。コロナ禍での特別体制のオペレーションを築いて、きちんと回るようにするのは少し大変でしたけど、一度その仕組みをつくってしまえば、しっかり回るので。

私がやらなければいけないことというのは、コロナ禍でのオペレーションの仕組みをつくるという特別なことが過ぎれば、コロナ禍だから特別に私がやることは、徐々に減っていきました。


社員には自分で決断してもらう

—————私は今人事コンサルをしていて、色々な会社の社長さんとお話をすることが多いんですが、「仕組みを作っても社員がその通りにやってくれない」とか、「そもそも仕組みを作るのが大変」ってみなさんおっしゃるんです。
五十嵐さんのところは、どうしてそんなに上手くいったんでしょうか。

そうですね、実務に長けたメンバーが揃っているというのは大きいと思いますが……。

コロナ禍は非常事態なので、ある程度はトップダウンで決めないといけないとは思います。ですが、政府の方針にあまりバタバタ、右往左往しないように気をつけてはいました。臨機応変に対応しよう、とそういう話は社員とよくしていました。

あとは、決定権を社員にもってもらうことを大切にしています。社長が決めなきゃいけないことはもちろん私が決めますが、社員が自分たちで決められるところはなるべく社員自身で決めてもらうようにしています。

例えば出張の可否についても、コロナ禍における政府の方針というのはありましたが、最終的に出張するのかしないかは自分たちで判断するしかない。

意見が分かれたら自分たちで考えて、話し合って決めようと、はっきり伝えていました。

そうすると、みんな自分で考えるようになるんです。自分で考えるだけで他の人に何も言わないというわけではなく、自分で考えて、それを周囲にもはっきり伝えていこうということです。

何か迷うことがあったら、自分でよく考えて、そして上司や職場の関係者に相談しようねと伝えていました。

部下が相談を持ちかけてきたら、私はまず、「あなたはどうしたいの?」と聞くようにしています。それに対していくつかアイディアや意見を部下や社員は話すので、私は彼・彼女の意見やアイデアを聞いた上で、私の意見や考えを伝えます。それが相談だと思うんです。私の考えは私の意見であって、正解ではないので、話し合ったうえで、部下にある程度の決断を委ねるようにしています。



—————五十嵐さんと他の社長たちとの違いはなんなのだろうと考えたときに、仕組みがうまく回らないと困っている社長たちは、部下から「これどうしましょう」と相談されたときにたくさん巻き取ってしまっている気がします。社員が自分で決定権をもてると責任が生まれて、自立する。それで会社がうまく回るんですね。

コロナ禍という特別な状況でも、会社もある程度うまく回ってるし、出張も増えそうな感じもなかったので、何か他にやれることないかなと探していたときに、今まで自分がやってきたことを教えるのがいいかもと思い、前々から少し気になっていた社会構想大学院大学のWeb説明会に参加してみました。

半年間のプログラムを受講してすぐ教壇に立つことを目的にした講座もあったのですが、私は、急ぐ理由もなかったですし、もうちょっとじっくりやりたかった。だから、短期6ヶ月の講座ではなく、2年間の大学院にしました。

海外で働きながら、英語でのMBAをとった経験があったので、働きながらでも中期的に学ぶことはできるだろうという感覚があったことも、入学してみようという精神的な支えにもなりました。

私が入学を検討したとき、社会構想大学院大学の実務教育研究科はちょうど一期生の募集のときで、そこにも興味を惹かれました。

私は自分がやりたいと思ったこととか面白そうなことは即座に決めるタイプなので、他の大学院は検討していません。通常は、研究したいことがあれば、「◯◯大学の◯◯先生の研究室で学びたい」となると思うんですけど、私は研究テーマもきちんと決めていない状態で入学しました。しっかりとした研究テーマについては、入学してから指導教員と相談しながら決めていきました。



—————研究テーマをもたないまま入学するというのは珍しいですね。「面白そうだから」という理由で入学するのも素敵です。

ありがとうございます。グローバルについて研究したいという漠然とした思いはあったんですけどね。

最初は一般企業の人材育成研修のようなところを研究しようかなと思ったんですが、研究計画書のたたき台を書いてみてもしっくりきませんでした。

それより個人のキャリアに注目してみたら、しっくりきたんです。元々外国語ネイティブではなかったり、特別なエリートではないような人だったけど、今はグローバル人材として充実して働いているような人たちは、どうしたらそう変わっていったのか、そういう事を知りたいと思い、研究をしようと決めました。



グローバル人材になるための要素は、「周囲からの影響」と「自分自身による決断」

—————研究テーマについて詳しく教えていただけますか?

私の研究したテーマは「グローバル人材へのキャリア発達プロセス」です。

研究対象者は、「子どものころには家庭の内外で多文化・多言語環境になかったが、様々なキャリア径路を経て、異なる言語・異文化背景の人たちと働いてきた人たち」としました。

いわゆるグローバルや外国人と接点のある家庭や学校の環境で育ってきたわけではない彼ら彼女らが、キャリア発達の過程でなにを経験し、葛藤し、迷い悩み、意思決定し、行動したのか、また、意思決定や行動に影響を与えた要因には何があったかについて、分析・考察を行ないました。

研究の結果、グローバル人材へのキャリア発達には、周りの環境や人が大きく関係していることが分かりました。

例えば、海外留学している人や、駐在員として海外で楽しそうにやっている人が周りにいれば、自分も海外に行ってみようかなという気になります。

そういった代理経験というか、観察学習に依るものが大きい。

そして、その影響してくる人というのは、自分に近い人が多いことも分かりました。自分に近い人ができていれば、自分にもできるんじゃないかと思える。

「自分と似たような田舎町出身なのに海外行けてるんだから自分も行けるじゃんと思った」というような話も、インタビューの中では聞こえてきました。



—————めちゃくちゃ分かります。私もこのElephant Careerっていうメディアをやっていて、大学院進学に一歩踏み出すには「自分と経歴が似ている人がやっているから自分にもできる」という感覚が大事だと気づいたんですけど、それと似ていますね。環境とか、どこに身を置くのかってところが、人間にとって大事なんですね。

近しい人の経験を見て、最終的に自分で意思決定することも大事だと思います。

海外に出た後は、最初はうまくいかないことも多いわけですよ。

でも決めたのは自分なので、「ここでうまくいかないからやめるっていうのはできないよな。このくらい苦労してもしょうがないよな」と思えるのです。

自分自身を無理やり説得しているようなところもありますが、自分で決めたことで、うまくいかないことがあってもがんばらなきゃ、と思えるのは、諦めない・粘る・なんとかしようとする、そんな精神的な支えとなり、とても大きいと思います。自分で決めちゃったら、誰にも文句を言えないじゃないですか。



—————自己決定論ですね。なんでもそんな気がしてきました。私も自分で会社やるって言っちゃったし、自分からはやめられないなと、ひいひい言いながら毎日やっています(笑)。

「自分で決める」がキーワードなんですね。


日本に変化をもたらす人材を増やしたい


—————大学院に行って、いい意味でも悪い意味でも裏切られたなと思うことはありますか?

自分は現在、大学院の修士課程を経て後期博士課程にいるのですが、修士課程に通い始めた当初は、自分が後期博士課程に行くなんて全く思っていませんでした。そこがいい意味で裏切られたことでしょうか。五十嵐が博士過程で研究するなんて……と、20代前半に卒業した大学の同期は今頃笑っていると思います(笑)。

私が博士課程に進んだのは、やりたいことができたからなんです。

僕が今感じていることは、残念なことですが、全てではないにせよ、一定数の日本人の海外に行こうとする理由が、「日本はダメだ」からという話を聞くこと。例えば、「日本は忖度が多いし、給料は安いし、長時間労働だし」など。

環境や待遇が日本より海外が良いなどの理由から、海外に興味がある人はたくさんいて、その人たちは英語などの外国語も自分から一生懸命勉強するし、おそらく仕事もできる。ある意味グローバル人材と言ってもいい。

そういう人たちは、日本がダメだから、将来が展望出来ないから、みたいに考えて、日本を出て海外に行く。彼ら彼女らは、必死に学んで、がむしゃらに働いて、異環境に適応しながら、それぞれの国や地域で頑張って、キャリアを築くことでしょう。でも、そうすると、日本の中はいつまで経っても変わらないわけですよ。

もちろん、海外に出た人たちが日本に戻ってきて、海外で得た知見や経験を活かして、日本の仕組みやビジネスに変化をもたらしてくれたらいいなといういう思いはあります。ただ、海外で適応しキャリアを築いた人が日本に戻ってくるかは分かりませんし、今から、海外で学ぶ・働くつもりでいる人が、すぐに戻ってきて、なにか新しい行動をしていくのは難しいですよね。

じゃあ日本の中はいつになったら変わるのかと言ったら、日本の課題や状況を変えるのは、やっぱり、日本の中にいながら頑張る人たちだと思います。

例えば、海外経験はせいぜい一年とか決して多くはないけれど、世界各地に拠点を置く日本企業の日本本社で働いて、海外の人とも仕事をする人。

他には、出稼ぎで海外から日本に働きに来た外国人を雇って日本人と外国人が共に働く仕組みをつくってビジネスや職務を遂行している人。この日本人とだったら一緒に働きたいと、外国人側からも思われる人。

そういった、日本国内にいながら海外や外国人と関わったり共に仕事をしている人たちのキャリア形成のプロセスを研究したいなと思い、後期博士課程に進みました。

私、コーチングもやっているんです。私はこれまで働く業界を変えてきていますが、それぞれの職務で、人とのコミュニケーションを自分の1つの強みにして、組織運営してきました。

業界や製品などに特別で専門的な知見が極めて豊富なわけではないけれど、コミュニケーションを軸に、組織をまとめながら課題をクリアしていくということをやりたかった。そして、性別や年齢、国籍関係なく一緒に仕事をしていける人が増えればいいなといったところから、コーチングを学ぶ価値は高いと考え、学び始めました。今では、人と関わる仕事をする以上、コーチングは誰にとっても、身につけておくといいことがあるくらいに、学んでよかったと考えています。



—————コーチングって社長にとってめっちゃ大事ですね。社長としては、コーチングされるよりもコーチングできるようになった方がいいですもんね。

大学院に進学するのか、それともコーチングを学ぶスクールに入るのかについては、かなり悩んだところです。

コーチングのスクールは一年半で、大学院は二年で、コーチングも結構、時間も費用もかかるわけで、どうしようかなと迷ったんですが、思い切って二つとも、リモートでも出来るし、ほぼ同時に始めました。


—————大学院とコーチング、二つとも始めたんですか?!すごい…!(笑) 

実は、さらにプロティアンキャリアにも参加していて。11月には新潟大学でキャリアやこれからの働き方についての授業を仲間と、ボランティアとしてですが、実施予定です。

そういうこともしているので、自己紹介する時には、「経営者」「研究者」「キャリア支援者」という肩書きで自分を紹介しています。これらの3本の軸は関連し結びついていることがあると感じているので、これからもこの複数の役割をを大事にしていこうと思っています。



—————五十嵐さんのような生き方、憧れます……!






学びを趣味に昇華させる

—————修士課程への受験準備はどんなことをしていましたか?

友人に相談して、提出書類の添削してもらったくらいです。社長としての経験もあるし、一期生だし、内心落ちる可能性は低いとは思っていました。

一期生だからこそなのか、同期にとてもユニークな人がたくさんいました。あの業界じゃ有名人じゃん!って人とか。



—————一期生って狙い目だし、一期生ならではの魅力があるのですね。入学にあたり、ご家族への説明に苦労したといったことはありましたか?

妻から反対されるようなことはなかったですが、全部自分で勝手に決めて進めてしまうので、よく怒られてはいます。後期博士課程に進むことも合格してから報告したので、どうして受験する時に言わないの?、いつも事後報告だよね、とコテンパンに怒られました(笑)。とはいえ、妻は反対するつもりはないということで、理解はしてもらっています。



—————なんだか、すごくいい関係性ですね。費用の方は自分で払われたんですか?

自費ですが、2年目の学費は一部を会社の研修教育費から充てました。だいたい大学院での学費全体の2割弱くらいかな。



—————五十嵐さんにとって大学院とはどういう存在か、そしてどのような人に大学院進学を勧めたいか、お聞かせください。

自分の新しい生き方に出会う場所、でしょうか。新しい人とも出会えるし、自分の生き方の選択肢が増えると思います。

大学院は、「行きたいと思う人」に勧めます。行きたいという思いがあるのであれば、行ったほうがいい。行くとなったら行くための方法はたくさんありますから。

行きたいという自分の思いや、自分はどうしたいのかという気持ちを大切にしてほしいです。行きたいことに対する細かい理由などは重要ではなく、あなたはどうしたいか?が大切だと思います。

私は後期博士課程に入学しましたが、研究を極めたいとか、世の中に貢献したいとか、そういった思いは正直あまり大きいわけではありません。私の場合は、率直に言えば、「面白そうだから行く。」それだけです。

それでもどうして大学院に行くのかと聞かれたときは、趣味だと答えてます。「趣味で博士課程に行くってどういうことですか?!」と言われますけど(笑)……。



—————学びが趣味、ということでしょうか。

学ぼうとも、あまり思ってないんです。学んでいる感覚は正直ありません。大学院に行けば何か面白いことに出会えそうだから、行っている。だから、「趣味」って言葉で表しているんですが……。


—————確かに。「学び」っていうワードがいけないんだよな……。そのワードによって、大学院に足が向かない人も大勢いる気がします。

大学院に行くというのは、一般的には、「学び」ですよね。それを趣味と言ってしまうのは、確かに伝わりにくい気もするので……。私が大学院に行くのは、趣味と冒険の中間、といったところでしょうか。

だから、「大学院に行く=学び」だと硬く捉えるのではなく、趣味感覚・冒険感覚で、行きたいと思うのであれば行ってみてほしいです。



—————社会人大学院の話はもちろん、経営者として必要なことについてもとても勉強になりました。ありがとうございました!






執筆者:aida


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