社会人大学院の経験談を紹介する「先輩インタビュー」
今回は、 デジタルハリウッド大学大学院に通学中の渡邊 壽美子さんです。
お茶の水女子大学文教育学部卒業後、企業研修会社に就職し、人材開発に関する研究開発や、多数の企業の人材育成プロジェクトに参画。現在、東京経済大学 経済学部 特命講師として、キャリアデザイン科目やプロジェクト学習の特別ゼミを指導。
・日本アクションラーニング協会認定 シニアアクションラーニングコーチ。
・MBA(筑波大学大学院)
・NPO法人 ODネットワークジャパン理事
・一般社団法人日本フューチャーラーナーズ協会 理事 事務局長
卒業・修了した大学・大学院:デジタルハリウッド大学院
入学年月(年齢):2023年4月(53歳)
修了年月(年齢):2025年3月(54歳)
●営業採用で新卒入社した研修会社で調査研究部門へ
———渡邊さんとは、私(秋山)がアクションラーニングの資格取得の際にコーチとしてお世話になりました。今回はこのような機会をいただけて本当に嬉しいです!改めてですが、まずはご経歴についてお聞かせください。
はい。私はお茶の水女子大学の文教育学部教育学科を卒業しました。教育社会学のゼミで、電子メディアの発達と子供の社会化について研究していました。卒業後は、富士ゼロックス総合教育研究所に新卒で入社しました。
———富士ゼロックス総合教育研究所での仕事内容はどのようなものだったのでしょうか?
私は営業採用だったんですが、たまたま調査研究部を作りたいという部長がいて、私が配属されたんです。そこで人材開発白書の作成や、様々な企業の人事担当者との研究会の運営などを担当しました。当時は、小林陽太郎さんという経済同友会でも活躍されていた富士ゼロックスの社長のもと、新しい人材開発の発信にも力を入れていた時期でした。私は研究会事務局として、研修参加者の取りまとめをしたり、いろんな会社の人事の人を集めて研究会を実施したり、大学の先生との打ち合わせや、アンケート調査の実施、データ入力の依頼、統計解析のサポートなどをおこなっていました。
———その後、キャリアの転換点があったそうですね。
はい。約3年間調査研究部で働いた後、教材開発の部署に異動しました。そこで企業向けのカスタマイズ教材の作成を担当するようになりました。例えば、航空会社の空港地上職向けの接客マニュアルなどを作成していました。ビデオ教材の作成や、トレーナー向けのトレーニング商材やマニュアル制作をしていました。これが異動後の初仕事で凄く面白いと感じました。
その後リサーチ部門の立ち上げがあり、当時の上司が関わっていたことや、自身が人材白書の作成をしていた経験もあって、私も携わることになったんです。今でいうエンゲージメントサーベイのようなものですね。調査研究部として、調査の設計や調査会社に外注依頼をする傍らで、リサーチ部門の業務として教材作成をしていました。10件くらい常にプロジェクトを抱えていて、今思えばよくやってたなって思います。
リサーチの調査結果をお客様企業の人事部長に報告する機会があったのですが、説得力を持たせることができないと感じました。これは勉強しないとまずいなと思い、MBAでも取ろうと思い、29歳で筑波の大学院の進学を決めたんです。
———なるほど。説得力を持たせるという意味で、大学院の進学を決めたんですね。大学院進学の時期が私と全く同じです!
29歳ってモヤモヤする時ですよね。自分なりに一生懸命やってきてはいたけど「このままでいいのか」と悩む時期だったんです。統計学なども自学習のみで見よう見まねでやってきていたので、ちゃんと学びたいと思いました。思い立って調べ始めたのが、受験の願書提出の締切1週間前だったので、急いで研究計画書を作成して提出しました。試験にもなんとか受かることができました。
———すごいですね!ほとんど準備無しだったんですね(笑)
この機会を逃すと1年後になるので、思い立ったらすぐって感じで動きました。私って瞬間芸なんです(笑)いろんなことに興味があって、興味を持ったらすぐに行動するタイプなんです。
その頃会社ではPSS(プロフェッショナル・セリング・スキル)という営業プログラムを販売していました。具体的には、売れる営業担当者のコミュニケーションスタイルをスキル化してトレーニングにするというもので、それが凄く好評だったんです。しかし、当時はスキル教育は整っていましたが、営業マネージャーの教育プログラムは構築出来て無かったので、大学の研究では、営業マネージャーの行動特性がチームに与える影響を分析するということをテーマに取り組みました。
———実際通ってみてどうでしたか?
結構大変でした!入学前に呼び出しがかかって、ほぼ毎日数学の補習に行ってました。ちゃんと調べずに入学したこともあり、ベクトルとか微分積分とか、難しくてとんでもないとこに入っちゃったなって思ってました。週末はビール飲みながら微分積分の勉強をやってました(笑)。当時はAIも無かったので自分で計算機で計算していました、数学は必修科目だったんです。追試を3回くらい受けて、なんとかクリアしました。プログラミングも必修で大変でした。
●大学院での学びを生かし新プログラムで貢献
—————卒業後はどのようなことをされていたんですか?
筑波大学卒業後、社内の新規事業の人事コンサルティングの部門に入りました。好業績の人はどういう行動をしているのかをインタビューをして、どの役職や部署にはどういう能力が必要なのかをまとめていました。
コンサルのインタビューに行って、研修の設計内容に落としこむ、という仕事を何十社に対してもやってました。
卒業後、他社からも声がかかることがありましたが、研修調査・分析・設計・実施といった、川上から川下まで幅広く関われる自社の仕事が面白いと感じ、そのまま同じ会社に残ることに決めました。ただ、同時期に友人のコーチングも受け始めたこともあり、実はインテリアコーディネーターにも興味があったことを思い出したんです。そこで、日本で初めてインテリアコーディネーターの仕事を広めた方が開いている学校に通い始めたんですよ。仕事の出張移動中に製図の宿題をやったりしてました。それで資格は受かったんだけど、実際に現場で働くイメージが持てず、改めて今の仕事の方が良いなと思い直すことになったんです。そんな時に筑波大学の先生からグローバルリーダーの研究開発のお誘いを貰ったんです。グローバル企業5地域と日本を含めた18社くらいの会社のあらゆる職種のデータを取って書籍を出したんです。
グローバルリーダーの研究を進めて行く中で、アクションラーニングに出会い、自社の事業にも取り入れることにしたんです。
研修を実施しても定着しないことが当時の課題だったので、アクションラーニングを導入することでセミナーのフォローアップにもなると確信し、経営陣にも提案し、合意を得て予算も確保することが出来ました。これが凄く反応が良くて、親会社の全部長にも導入し、アワードも受賞しました。
———筑波大学での学びが本業でもしっかり活きてますね!
そうですね。MBAで営業のリーダーシップ研究をしていたことは全て役に立ったと思います。数学とかは役に立ったのかよく分からないけど(笑)
●デジタルハリウッド大学大学院での新たな挑戦
———今はデジタルハリウッド大学院に進学されてるんですよね。なぜこの大学院を選んだのでしょうか?
新規事業開発でデジタルラーニング分野を担当していましたが、土地勘がなくて、正直あまりうまくいきませんでした。自分の手でデジタルラーニングの事業を作りたいと思い、学び直そうと思いました。筑波大学の博士課程に通うことも考えてましたが、大学院の受験と娘の受験と重なったこともあり、自分の受験どころではありませんでした。そのため、娘の受験が落ち着いたタイミングで受験ができるデジタルハリウッド大学大学院(以後DHGS)への進学を決めました。
———実際入学してみてどうですか?
一言でめちゃくちゃ面白いです!DHGSは実務家教員が多く、最先端のことをやっている先生が授業をしているので、実践的な学びに繋がっています。デジタルラーニングのコースを作りたい自分にとってはベストな環境だと感じています。さらに、アカデミックな先生もいっぱい居て、日本語論文、英語論文の書き方も凄く丁寧に授業で教えてくれました。その学びを生かして、今年は学会発表や紀要など、論文を3本アウトプットしようと思っています。1本は英文で論文を書きました。
AIも積極的に活用している先生が多いですね。AIを活用して学ぶとはどういうことなのか、実感しながら、学びを深めています。また、せっかくDHGSに入学したので、アプリを作れるようになりたいと思っていました。基本的なプログラミングの知識は学びつつ、難しいことはAIに質問したり、コードもAIに書いてもらいながら、簡単なアプリを完成させることができました。AI活用についてはよいやり方をいち早く学ぶことができ、仕事にも役に立っています。刺激を受けて、現在勤務している東京経済大学のゼミの学生にもAIを積極的に活用してもらおうとAIコーチの仕組みを取り入れています。
———ゼミはありますか?
DHGSでは、ゼミのことをラボと言っています。調査研究することも大事ですが、「実装せよ」といわれます。つまり自分で手を動かして、自分でデモをして、自分なりの独自のものを創造することに価値をおいているわけです。また、エンターテインメント要素も大事にされています。
私は、1年生のときは、教育でデジタルテクノロジーを活用する佐藤昌宏先生のラボと、映画監督の落合賢先生のラボに所属しました。2年生の今は、佐藤先生のラボとメタバースの三淵啓自先生のラボに所属しています。
映画制作のラボでは、短編映画のシナリオをつくったり、ビジュアル作品を作って評価し合ったりしました。メタバースのラボでは、バーチャル茶室を作るプロジェクトで活動しました、あまり3DCGをつくるのが得意ではないのですが、得意な方と一緒に組んでやっています。
———研究テーマは何ですか?
修了課題は佐藤先生にご指導いただいていますが、バーチャルチームにおける効果的なリーダーシップがテーマです。オンラインゲームの会話分析や企業で勤める方の定量調査をもとに研究しています。ひと昔前は、バーチャルチームというのはグローバル企業の一部のエリートの課題でしたが、これからは、多くの人がバーチャルチームで働く可能性があります。
実際に職場で会って仕事をしていない人に、どう影響力を発揮するのが効果的なのか調査研究しています。また、研究するだけではなく、リーダーをサポートするため、AIを活用したリフレクションツールなども開発中です。新しいリーダーシップコースが、少しでもリーダーの助けになればよいと思います。DHGSの修了課題の形式は様々です。論文執筆の人も、作品をつくる人もいます。私はビジネスプランとデモコンテンツの形式で、これから最後の追い込みです。
———社会人大学院で学ぶことの魅力は何だと感じていますか?
社会人になってからの課題意識をもとに探求し、学びたいことを体系的に学べるということが魅力ですね。また、一緒に探求する仲間ができること、先生も含めてネットワークは宝物になります。まさかこの年で大学院にまた入ると思わなかったですが、社会人の経験があるからこそ、テーマを自分なりに突き詰めていくことは、その後の人生を切り拓いていくものだと思います。また、29歳のときに大学院に通っていなかったら、大学教員の仕事はできなかったと思います。後になって考えると、選択肢が増えていくことはあるのではないでしょうか。魅力は色々ありますが、何よりも、新しいことを学ぶことはとても楽しいし、幸せだなと感じます。
———最後に、社会人大学院への進学を考えている人へのメッセージをお願いします。
今思うと大学院に通い始めた時期が自分にとって人生のターニングポイントだと感じています。また、デジタルや生成系AIは、今後働く上で欠かせないものになってきます。教育に携わる者にとっては、なおさら重要ですので、もう年だからとあきらめず思い切って飛び込んでよかったと思います。
デジタルハリウッド大学大学院は、デジタル技術を用いてビジネスを考えていく人にとっては、とてもよい環境だと思います。モノや作品をつくったり、ビジネスにしたりしたいイノベーティブでユニークな人が集まっています。気になっている人はぜひ、説明会などに参加してみてください。
あとがき
すみ子さんへのインタビュー、本当に楽しかったです!私自身29歳で大学院に進学した経験があり、共感する部分が多くてついつい話が弾んでしまいました。年齢に関係なく、「やりたい!」と思った時が始めどき。そんなすみ子さんの前向きな姿勢に、私も元気をもらいました。このインタビューが誰かの背中を押すきっかけになれば嬉しいです。