大学院は初心の楽しさを知れる場所!進学をサポートするmercari R4Dの姿勢 株式会社メルカリ

社会人としての顔を持ちながら大学院に通う人と企業にフォーカスする「学ぶ大人が集まるカイシャ」。

今回インタビューしたのは、株式会社メルカリで働きながら博士課程で学ぶ大嶋悠司さんと松薗美帆さん。そして、社会人博士支援制度を運営するmercari R4Dの、井上眞梨さんと藤本翔一さんです。

mercari R4Dは、社会実装を目的として2017年に設立したメルカリの研究開発組織です。価値交換工学や量子情報技術、ELSI(倫理的・法的・社会的課題; Ethical, Legal and Social Issues)など、幅広い研究を行っています。今回、mercari R4Dが実施するさまざまな取り組みや、博士課程進学を支援する制度である「mercari R4D PhD Support Program」を利用する社員2人の思いなどをお聞きしました。


メルカリの、博士課程進学への考え方や、博士課程の支援制度に興味がある方必見です!
※記載は2024年4月時点の情報です。



大嶋悠司さん

生成AI/LLMチームのTech Lead。2019年7月にMLエンジニアとして株式会社メルカリに入社し、EdgeAIチームのTech Lead/Engineering Managerを経て、現在のチームでは生成AI・LLMを商用利用するプロジェクトや他チームの導入サポートをリードしている。メルカリに入社前はOSS開発を中心に活動しており、Dockerの開発やKubeFlow/Katibの立ち上げ、開発のリードを行った。

卒業・修了した大学・大学院:奈良先端科学技術大学院大学
入学年月(年齢):2022年10月(32歳)
修了予定年月(年齢):2025年9月(35歳)

松薗美帆さん

株式会社メルペイ UXリサーチャー。新卒で株式会社リクルートに入社し、2019年より現職にて新規事業立ち上げやUXリサーチの仕組みづくりなどに従事。社会人大学院生として北陸先端科学技術大学院大学 博士前期課程修了。現在は同学博士後期課程にて応用人類学の研究中。共著書「はじめてのUXリサーチ」。

卒業・修了した大学・大学院:北陸先端科学技術大学院大学
【博士前期課程】
入学年月(年齢):2020年4月(28歳)
修了年月(年齢):2024年3月(32歳)
【博士後期課程】
入学年月(年齢):2024年4月(32歳)
修了予定年月(年齢):2027年3月(35歳)

井上眞梨さん

株式会社メルカリ 研究開発組織R4D (Manager)。慶應義塾大学大学院 理工学研究科 前期博士課程(修士)修了、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)にて、IT分野の動向俯瞰や戦略提言、研究開発プロジェクトの支援等に従事。2021年10月に入社後、ELSI研究の推進、社会人博士支援制度やメルカリデータ提供などの活動に尽力。

藤本翔一さん

株式会社メルカリ 研究開発組織R4D (Research Administrator)。東京大学大学院 総合文化研究科 修士課程修了、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)にて、研究開発プロジェクトのマネジメントや新規事業立上げ、報道対応等に従事。2020年4月に入社後、共同研究の企画運営やコーディネート、研究評価制度、社会人博士支援制度等を担当。

mercari R4Dとは?未来を見据えて幅広い研究に挑戦

—————まずはmercari R4D(以下R4D)について、簡単にご紹介お願いします。

井上眞梨(以下井上):R4Dとは、株式会社メルカリが2017年に設立した研究開発組織です。組織名の“D”には、4つのDの意味が込められていて、「研究開発(Research and Development)にとどまらず、未来の社会に実装される(Deployment)ことを想定したデザイン(Design)をおこない、ときには既存概念や技術を破壊しながら(Disruption)、新しいものを生み出す」というのが、チームが目指しているところです。

会社の既存のプロダクトに直接的に貢献していくというよりも、メルカリグループが目指している世界観、「限りある資源を循環させ、あらゆる人が可能性を発揮できる未来」の実現をターゲットとし、アカデミックな観点からアプローチしています。




—————立ち上げから6〜7年くらい経っていると思うのですが、印象的だったプロジェクトはありますか?

井上:たとえば、東京大学と共同で「価値交換工学」に関する研究開発を行っています。大学と共同研究を始めるときには、実施したい研究テーマに合った先生に個別にアプローチをするといった流れが多いですが、価値交換工学では、東京大学と包括連携をしており、研究課題の探索から実施しているという特徴があります。


—————他にも印象的な事例はありますか?

井上:「ELSI(Ethical, Legal and Social Issues)研究」にも力を入れています。大阪大学ELSIセンターと共同研究を行い、研究が社会実装された際に起きうるまだ顕在化されていないさまざまな社会課題に取り組んでいます。


制度への印象と自身が抱えていた課題感

—————大嶋さんと松薗さんにお聞きしますが、社会人博士支援制度「mercari R4D PhD Support Program」ができたときの第一印象を教えてください。

大嶋悠司(以下大嶋):制度ができたときはメルカリの姿勢が反映されていて、すごくいいことだなと思いました。アカデミック領域へも投資する、それも推奨するだけでなく進学を考えるメンバーをサポートするという制度までちゃんと用意するという点がとてもいいなと。

ただ、一方で研究所ではよくある支援方法ですが、事業会社ではあまり事例がなく、業務との両立の難易度も高くなると思ったので、うまくワークするんだろうかっていう不安はちょっとありましたね。


—————制度ができたときには、すぐに使おうと思いましたか?

大嶋:そうですね。上司にもいいんじゃないと言われました。



—————松薗さんはいかがでしたか?

松薗美帆(以下、松薗):制度ができたと聞いて、ありがたいと思いました。もともと2020年から自費で修士に通っていました。修士で終わるつもりでしたが、この制度を見て、博士まで進んでもデメリットはないと前向きに思えるようになったのは結構大きいです。私が研究している人文社会学分野も支援対象に入っているというのが、結構レアで嬉しかったです。




—————お2人とも良い印象を持たれたんですね。進学の経緯について教えてください。まずは大嶋さんからお願いできますか?

大嶋:私はメルカリに機械学習エンジニアとして入社していました。機械学習に関する技術がすごい好きで、機械学習の技術を利用してメルカリの新しい機能開発をしていました。しかし、機械学習に対する理解をもっと深めないと良いものを作れないと思い始めて、であれば博士としてしっかり学んだほうがいいと思って、進学を決意しました。


—————もっと理解を深めようと思ったきっかけはありますか?

大嶋:例えば機能を開発するだけであれば、すごく深いところまで理解しなくても作れることも多いですが、世の中のあと1歩、2歩先を見据えたリリースは難しくなります。世界に先駆けて開発するためには、深い知識が必要で論文の読み込みなどをしなければいけません。そういうことを考えたときに、論文のフィールドで学ぶほうがいいと思ったのがきっかけです。


—————未来を見据えてなにか開発するといった会話は、社内でされていますか?

大嶋:あると思います。メルカリのバリューの中に明言はされていませんが、エンジニアたちの中で共通認識としてあります。


—————ありがとうございます。松薗さんはインタビュー当時、進学のきっかけとして「ジェネラリストに戻ろう」とおっしゃっていたと思います。あらためて博士に行こうと思った理由を教えてください。

松薗:修士でやりたいことがやりきれなかったなという思いがあったので、博士まで行ってみようと考えました。

私の研究テーマは「デザインと人類学」で、人類学の知見をデザインに応用する研究をやりたかったのですが、修士の限られた時間の中では、やりたかったことの10%ぐらいしかできていません。もっと深いところまで研究するために、進学を決意しました。

また、現在は企業でのデザイン実務に人類学を応用する研究をしているのですが、今後はデザイン教育の現場をフィールドに研究するのも面白そうだと考えていて、いつか大学教員も目指したいと思っています。将来のことを考えると博士は必要だと思うので、今のうちにチャレンジしておこうと考えました。キャリアの選択肢を考えたときに、博士を頑張ろうと思えたのは制度のおかげです。



大学院は初心の楽しさを知れる場所!経験を積んだからこそ見える景色

—————仕事と研究内容が重なっていることで、メリットはありますか?

大嶋:そうですね。メリットしかありません。前の部署ではマネージャーだったので、自分でコードを書くことはあまりありませんでした。なので実務と研究の乖離に悩むこともありました。

今の部署ではマネージャーじゃなくて いちIndividual Contributorとして、機械学習を使ったアプリを実装しています。研究をするうえで領域が近いので、双方のナレッジをどちらの場面でも使えて楽になりました。特にデメリットは感じていないですね。



—————松薗さんはいかがですか? 

松薗:私は仕事で携わっているサービス開発のデザインプロセスを事例として、修士論文を書きました。自身の実践を研究として捉え直すことは、その後の仕事にもプラスになりました。



—————私も悩んだことなのですが、アカデミアの言葉をそのまま現場に持っていくと、共通言語になってないため、うまく伝わらない場面などがありました。お2人はそういった難しさは経験されましたか?

大嶋:機械学習エンジニアは特殊かもしれませんが、共通言語として困ることはありませんでした。アカデミアで使ってるワードは、そのまま機械学習エンジニアとしても日常的に使うことになるので、コミュニケーションは普通に取れますね。

一方でその研究分野において現状これが最先端の技術となっても、そのままサービスとしてリリースできるわけではありません。ただ、この部分は2019年入社以来、ペーパーを読みながらサービス開発をして学んできたので、基礎知識を使いながらバランスを見てスムーズに変換できているかなと思います。博士で学んだ知識以外にも、自分で学んできたスキルがあったからこそ今はあまり困りません。



—————実際にそれでサービスを作ろうとなると、変換が必要なのでしょうか?

大嶋:そうですね。例えば評価の仕方が実際のサービスで使われるデータと全然違うことはよくあります。綺麗なデータだとうまく処理できますが、ユーザーからの入力にはうまく対応できないということはよくあります。その辺を見極めるスキルは必要です。


—————ありがとうございます。松薗さんはいかがでしょうか?

松薗:修士論文の内容を学会で発表するだけではなく、実務家向けのイベントやメディアの取材でも話したこともあります。そういった場面ごとに、わかりやすい言葉に翻訳するよう心がけています。

実際に反響はその度々でもらえていて面白いなと思いますし、学会で発表したことによって、これまでにはなかった人類学者の方とのつながりも増えました。いろいろなところから反応がもらえるのは、仕事と研究を両立していていい点だなと思いました。



—————お2人にとって大学院での学びは、業務上や生き方でなにか影響がありましたか?

大嶋:実際に研究している人たちの意見や技術に対する姿勢に直に触れられることは、大きなメリットです。生成AIの分野は期待している人たちの意見が目立ちやすくて、振り回されがちになります。博士課程で学んでいく中で、研究している人の意見に触れられるので、振り回されることがなくなりました。

自分の生き方みたいなポイントだと、初心を思い出せました。私はメルカリで5〜6年くらい働いて、エンジニアとしてはそこそこのポジションです。しかしたちまち博士課程になると1年目のまだまだひよっこな人間になるので、教えてもらうことしかありません。慢心しなくて済みますね。やはり自分はエンジニアとしては頑張ったかもしれないけれど、違う領域に行ったら未熟で、学ぶべきことがたくさんあると再認識できました。

博士課程には20代前半の方もいるので、そういった人たちに教えてくださいという立場になります。なかなか得がたい経験です。



—————松薗さんは、これから博士ですよね。いかがでしょうか?

松薗:大嶋さんの話はすごく共感できます。キャリアを積んでプロフェッショナルになってくると、ときには自分の専門性を一度手放してでも新しいことをやらないと、自分のキャリアが広がらないと感じます。私も大学院の研究はゼロレベルからスタートだったので、できない自分に久しぶり出会えて面白かったなというのはあります。

また大学院は好きなことを探求できる楽しさもありますよね。自分の関心のある研究テーマを掲げると、アカデミアや実務家の人が興味を持って声をかけてくれたりするので仲間が増えたり、同じ関心の人に出会いやすくなったりします。



R4Dから見た2人の活躍と進学中の働き方

—————お2人のお話を踏まえて、R4Dの井上さん・藤本さんにお聞きしたいのですが、こういった制度利用者の会社や周囲へのなにか影響があれば教えていただきたいです。

井上:博士課程での経験やスキルは、研究以外の場でも大いに活かされるものではと考えていて、大学等での活躍はもちろん、民間企業でも力を発揮するのではと考えています。実際、この制度の中で博士号取得者が生まれるのはもう少し先になりますが、制度利用者の皆さんは研究でも業務でも活躍されている方ばかりです。



—————業務で活躍している人がいるというのは良いですよね。

井上:そうですね。そのような活躍する方々を見ているためか、社内では、博士課程進学に関する柔らかい段階での問い合わせが増えてきた印象があります。

藤本翔一(以下藤本):結構こういう制度って人事部で担当されてる会社さんが多いかなと思うのですが、メルカリでは、研究開発組織のR4Dで運営しているので、積極的に相談に答えられる環境を整えられているなと思います。




—————ちなみにメルカリさんだと、制度を利用する方は就業日数を週0〜5日まで選べるとお聞きしましたが?

藤本:制度としては、業務時間を週0日、3日、4日、5日(フル)の4つから選べます。クォーターごとに変更することもできます。もちろん、事前にチームやマネージャーとのすり合わせが必要になります。制度を利用しているお2人も一時期業務時間を減らして働いていました。


—————差し支えない範囲で構いませんが、制度を利用した方の仕事の量が減る場合、周りはどのように調整するのでしょうか?

松薗:メンバーが減る分、チームとして受けるプロジェクトを減らして優先度を付けています。

大嶋:こっちもそうですね。短期的にはおっしゃるとおり、私が減った分は周りに影響がいく。それは避けられないと思います。労働力が減る状況が継続する場合は、プランニングのときに見直すことになります。スケジュールを決めるときにこのクォーターのリソースはこんなもんだから、こうしようというふうに決定しますね。

ただ、そういう意味では、やっぱり自分のワーキングタイムが減ることは周りに影響が出るのは正直避けられないと思います。

井上:周りの影響は私達も気にしていて、支援にあたっては、ご本人はもちろんのこと、そのマネージャーさんとも話をするようにしています。具体的な状況を随時伺いながら、制度にフィードバックすべき点がないかを検討し、よりよいものへアップデートすべく取り組んでいます。

大嶋:私が所属している部署では、博士課程に行くと言って「いいね」と応援してくれる人しかいなかったので、来月から私のワーキングタイムは半分になりますと言っても、冷たい目を向けられることはありませんでした。



4人がそれぞれ掲げる今後の野望

—————最後にそれぞれお聞きしたいんですけれども、野望を教えていただけますか?

藤本:さまざまな業務の現場で研究課題を見つけたメンバーの人たちが博士課程に行くことで、R4Dにとっても新しい研究の切り口が見つかったり、進学メンバーを起点にさまざまな大学や研究室との連携なども深まってきたらいいなと思っています。制度を利用する人がいろいろな大学院に行くことで、メルカリもR4Dも組織としても強くなってくると思います。そして博士号を取った人たちが活躍する循環が生まれたら嬉しいです。



—————ありがとうございます。井上さんはいかがでしょうか?

井上:まさに藤本が言ってくれたことが、私達が社会人博士支援制度を展開している理由です。個人的には、支援している方々個人にも焦点を当てて発信を強化していけるといいなと思っています。社会人博士支援制度の意義はもちろんのこと、個人個人の体験や思いも乗せることで、さまざまな方々にとって自分ごとに捉えやすくなるのではと考えるためです。制度を利用した方の財産になるような発信にもしていければと考えています。


—————大嶋さん・松薗さんにもお聞きしますが、この先の仕事でこんなことやっていきたいという野望があれば、ぜひお聞きしたいです。

大嶋:メルカリにおいてこうなればいいなということで話すと、博士課程で論文を初めて書いたのですが、非常に大変ですごく学びの多い作業でした。ただ論文を書くこと自体は、別に大学じゃないとできないわけではありません。会社でも論文は書けるはずです。博士課程に行く人がもっと増えるのはいいし、それ以上にその会社の中で論文を書く人も増えればいいなと思っています。

例えば私がチームの中で論文の執筆をもっと促進したり、メルカリっていう名前がついた論文のパブリッシュがどんどん増えたりすれば、世界的に見て大きな宣伝になると思います。メルカリは何だか論文をたくさん出してると印象付けられますよね。そこを伸ばせたら会社にとっても、エンジニアにとってもいい影響があると思います。



—————松薗さんはいかがですか? 

松薗:大嶋さんがおっしゃってたような企業内での研究は私も続けていきたいです。私の分野だと大企業の研究所に所属されている方はよく自社の事例などを研究発表されているのですが、メルカリのようなスタートアップの事例はほとんど見ません。論文などの発信を通して、企業でのデザイン実践知を広く知ってもらえると、色々とフィードバックももらえるだろうと思っています。

また、個人的には人文社会学を経営に活かすチャレンジもしたいと思っています。これは研究のアプローチだけではなく、企業にいる立場を活かした実践も重要だと考えています。研究や実務の両輪を活かして、少しでも実現に近づけられたらというのが野望です。




—————ありがとうございます!とてもおもしろいお話を聞けました!


メルカリR4Dさんの採用情報はこちらから

https://r4d.mercari.com/careers/

インタビュー:秋山 詩乃
執筆者:堀口 祥子
撮影: Takeru Ichii

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