文化人類学の知見を生かしユニークなUXリサーチャーに 北陸先端科学技術大学院大学

働きながら学ぶ人を紹介する「先輩インタビュー」

今回は、UXリサーチャーとして働きながら、北陸先端科学技術大学院大学(JAIST)の 知識科学系 博士課程前期社会人コースに在学中(M3)のmihozonoさんです。

いろいろな文化や生活、価値観を体験するのが好きで、バックパッカーとしてこれまで訪れたのはなんと30ヶ国にものぼるそう。

本を出したり、非常勤講師で働いたりと大活躍されているmihozonoさん。仕事への思いや大学院進学のきっかけ、大学での過ごし方などを伺いました。

 

mihozonoさん

国際基督教大学教養学部卒、文化人類学専攻。株式会社リクルートジョブズに新卒入社し、人材領域のデジタルマーケティング、プロダクトマネージャーに従事。株式会社リクルートテクノロジーズに出向し、UXリサーチチームの立ち上げに携わる。2019年より株式会社メルペイにて、新規事業立ち上げやUXリサーチの仕組みづくりなどに取り組む。北陸先端科学技術大学院大学博士前期課程に社会人学生として在学中。著書「はじめてのUXリサーチ」。

卒業・修了した大学・大学院:JAIST(北陸先端科学技術大学院大学)
入学年月日(年齢):2020年4月入学(28歳)
修了年月日(年齢):2023年3月終了予定(31歳)

定性データを扱うUXリサーチの面白さに目覚める

——— これまでのご経歴を教えてください。

文化人類学専攻で大学を卒業したあと、人材領域のデジタルマーケティング、プロダクトマネージャーに従事しました。プロダクトマネージャーとして見よう見まねでUXリサーチを始めたところ、UXリサーチって面白い!とハマりまして。UXリサーチャーとして転職しました。




———研究計画書を拝見しました。とても興味深い研究ですね!UX リサーチで何を解き明かそうとしてるんですか?

ビジネスの現場では定量データのほうが使われることが多く、定性的なデータはサービス改善などには使われているものの、それだけではもったいない、経営レベルの意思決定にも活用できないかとずっと思っていました。

UX リサーチが戦略段階から入ったほうがサービスは絶対に良くなるはずなのに、なぜうまく入れないのか。自分の実力不足もありますが、定性的なものを扱うがゆえの難しさもあるように感じたので、経営側から見た使いづらさの要因とか、どんな形にするといいのかといったことを研究したいなと思っています。




———この研究をするために行うリサーチも定性リサーチで?

はい、社員インタビューと経営層インタビューをやろうと思っています。それから、リサーチクエスチョンを少し変えて、アクションリサーチというか、こちらから質的データを活用するワークショップなどを提供して、そこを通して理解や学びが深まったかという調査も入れようと考えています。




———リサーチクエスチョンを変えようとしているのは阻害要因や促進要因を特定するのが難しいからですか?

博士過程を視野に入れているからです。研究室でもこのテーマで博士まで行くのであれば、修士でここまで、博士でここまでというのを明確にしたほうが良いというアドバイスをもらいまして。そこで、修士ではサービス開発現場と経営に少し広げるくらいにとどめて、もう少し大きい経営的な視点からの阻害要因とか促進要因みたいなものは博論に持っていくのが現実的かなと今は思っています。




———進学のきっかけは同僚の影響だったとお聞きしました。

前職の時、大学院か海外のデザインスクールに行きたいなと思って調べてたんですが、当時の同僚にはそういう人がほとんどいなくて、行った場合のキャリアがどうなるのか全然想像つかないし、お金もすごくかかるしで、その時は進学をやめました。

そのあと転職し、今の職場に博士号を持っている同僚がいて。研究と実務をつなげている姿を見て「こういう感じなら大学院に行ってみたいな」と思いました。それが進学のきっかけです。




———デザインスクールではなく、なぜ大学院へ?

実は一度、デンマークの CIIDというデザインスクールのサマースクールに参加したことがあります。いろんな国の人と一緒にグループワークで実践的にやれるのは面白かったんですけど、誰もやったことない現場で実践して、それを研究にするのも自分には面白いかもしれないなあと思いました。




———UX リサーチを研究したいと思ったら、他の学校に行く人もいるんですか?

そうですね。 UX分野だと工学系とかデザイン系に行かれる方が多いのかもしれません。私の場合、学部で専攻していた文化人類学の視点を活用したかったので、そういう研究をしている先生を探しました。

たまたま知り合いで文化人類学系で大学院まで進んだ方がいたので、連絡取って相談にのってもらいました。そのとき、私がやりたい分野の先生は日本では少ないことを教えてもらい、それぞれの先生のお話を聞いた上で進学先を決めました。




———そもそも何で学部で文化人類学を選んだんですか?

最初は開発学をやろうとして大学に入ったんですけど、リベラルアーツ教育で2年間いろいろな授業を取る中で文化人類学の授業にビビッときたんです。開発対象として途上国を見るのではなく、対等に相手の文化を理解するほうが面白そうだなと。社会人になっていろんな職種をやりましたが、やっぱり質的なリサーチに戻ってくるというか、これが好きなんだろうなあって思います。

学際的な授業が面白くてM1で必修単位をすべて取得

———受験準備はどんなことを?

大学院の受験準備はよく知らなかったので調べました。JAISTに入った人の体験記みたいなブログとかを読みあさって、なるほどこういう感じなんだとなんとなく理解して。先生には研究室でこういうことやりたいと伝える面談をさせてもらったので、そのときに研究計画書をちょっと見ていただいたり、プレゼンがあるからこういうこと準備しとくといいですよみたいなことは教えてもらいました。研究計画書の書き方は先生に渡されたものを参考にしてやりました。

あと、説明会には出ました。ただ、なんとなく雰囲気は感じられたものの、正直よくわからなかったです。自分のnoteでも受験体験記が一番読まれてるので、多分みなさんも情報がなくて探してるんだろうなと思います。




———他に迷った大学はありましたか? 

筑波大学です。文化人類学のビジネス応用をやられている先生がいたので。ただ、そちらはMBAコースだったので、自分の学びたいこととは違うかなと思いました。




———学費も高いのでは?

国立なので、年間 50万ほどです。先に副業をいっぱいしてお金の心配をなくしてから進学しました。学費を気にしなくて良いなら、武蔵野美術大学の造形構想専攻クリエイティブリーダーシップコースも行きたかったのですが、私立で学費が高いのでさすがに完全自費ではきついなと思い、早い段階で選択肢から消えました。




———何か不安はありましたか?

長期のフィールドワークを経験せず、文化人類学のオーソドックスな道を通らずにいきなり応用人類学をやるのはどうなんだろうと悩みました。ただ、やりたい分野が明確だったので、必然的に進学先は決まりました。JAISTは名前の通り科学技術に強い学校で、伊藤泰信先生はJAISTでは珍しい文系(社会科学)の研究者です。その研究室に属するということは、学内でマイノリティになるともいえます。ただ、その分やられている研究もユニークで興味深くもありました。先生は医療現場での文化人類学の実践にも取り組んでいるので、ゼミには医師や看護師の方もいて、研究テーマにも多様性があります。




———大学院生活はどんな感じでしたか?

1 年目は授業をかなり詰めて受けていましたが、コロナでオンライン授業になったので、すごくやりやすかったですね。家で仕事して、 5 時とか 6 時とか早めに上がって10時くらいまで授業があるのが1週間続くという週が月に1、2回。土曜日は1日授業。 1 年目はほぼ大学と本業で一杯一杯でした。

2 年目は授業は取り終わっていたので本当は修論をやる予定だったんですが、本を書くことになりまして。研究を一時中断することとなりました。

3 年目は大学で非常勤講師をやることになり、そちらに手一杯で研究自体はあまり進んでいない状態です。そろそろ取り掛からないといけないですね。




———大学での最大の学びは何ですか?

まだ修論を書き始めていなくて授業を受けたぐらいなんですけど、実務にリンクしている授業が多いんです。我流でやってきたことを学び直すことができました。学際的な学科なので理系から経営系まで授業の幅があって面白く、 1 年間に授業を詰め込んであっという間に単位を全部取っちゃいました。

生きた問いを持てる社会人こそ大学院へ進むべき

——— 卒業後に思い描く姿はありますか?

UXリサーチの仕事を続けていくと思います。今の分野でもっと専門家としてやっていくにはアカデミックな経験も役立つと考えています。アメリカだと私の職種の方はPh.D.を持っている方が結構いらっしゃるようなので。

一方で、ずっと専門性を尖らせていくキャリアを選ぶかどうかはわかりません。少しジェネラリストに戻ってみようかなとも思いますし。ジェネラリストに戻るにしても専門性を持っていることは強みになると思っています。

研究だけの道に進むことはないかもしれませんが、研究と実務の両輪をやりたいです。




——— 人生で大事にしていることはありますか?

仕事もプライベートも、弱い立場に置かれている人の価値を証明したいとずっと思っています。実は、UXリサーチの仕事はこれに近い。1人の声にすごく価値があるっていうことを証明できる仕事なんです。一人一人の物語の面白さ。それを研究でも示せたらいいなと。




——— mihozonoさんにとって、社会に出てから学ぶのはどういうことですか?

私は社会人になってから”生きた問い”が生まれました。 1人1人のこんなに面白い話を何でみんな聞いてくれないんだろう?という切実な問いが出てきてからのほうが私はモチベーションが高くやれていると思うし、研究の新規性にもつながっています。ですから、生きた問いを持って「これをもし証明できたら」「こういうことがわかったら面白そう」と研究する人がもっと増えても良いんじゃないかと思います。




——— どんな人に大学院をおすすめしますか?

生きた問い、切実な問いを持っている人は研究というフィールドで試してみてもいいんじゃないかなと思いますね。 何かを突き詰めたいとか、不合理に怒りを感じてるとか、そういうものを持ってる人。同じようなことに興味があって熱量も近い人たちにゼミで出会えるので、仲間と共に問いを深めていきたい人には、会社とはちょっと違う出会いがあるように思います。

大学院に行くと、ストイックな人がこんなにいるんだなと驚きますよ。既に博士を取ってるのに別分野でまた博士を取ろうとか。そういう人を見てると、すごく刺激をもらえます!

撮影:ヒロセ ミサキ

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