大学院は「腰を据えて学ぶ」ことを大人が経験できる場所 名古屋大学大学院

働きながら学ぶ人を紹介する「先輩インタビュー」
今回は名古屋大学大学院の人文学研究科に在籍中の讃岐 綾奈さんです。

子どものころから歴史、特に西洋史に惹かれていた讃岐さん。そのなかでもギリシャへの関心を抱きつつも、大学卒業後は会社員に。人事でのキャリアを積み上げながら、同時に数年間かけて頭の片隅にあった、会社を辞めて大学院へ進学するという選択肢を2021年についに選びとります。いまはフルタイムの学生として、ギリシャの歴史にまつわる研究をしています。温めていた進学の想いに素直になろうと決めたきっかけは?

そして、実際に入学してみて見えてきたこととは?讃岐さんにじっくりお話を伺いました。

 

讃岐 綾奈さん

法政大学法学部を卒業後、新卒で専門商社に入社し、人事部で新卒採用や社宅管理などを担当。その後自動車部品メーカーへ転職し、社内教育・研修を担当。現在は名古屋大学大学院で西洋古代史を学びながら、リモートで株式会社モトーレン札幌の新卒・中途採用を担当。

卒業・修了した大学・大学院:名古屋大学大学院人文学研究科 在籍中
入学年月(年齢):2021年4月(30歳)
修了年月(年齢)2023年3月(33歳)※予定

西洋史にロマンを感じた子ども時代

——— そもそも、讃岐さんが歴史に興味を持ったきっかけは何だったんですか?

小学生のときに母親が連れて行ってくれた「世界四大文明展」がきっかけだった気がします。その展覧会の子ども用の図録が大好きでした。エジプト文明について書かれているページを読んでは「すごいなぁ」ってずっと思っていた子どもでしたね。

 

——— エジプト文明が気になっていた小学生……すごい。

そうそう、家にクレオパトラの伝記漫画もありました。何度も読み返していたのですが、とある小さなコマで、少女時代のクレオパトラに対して侍女が「あなたには、ギリシャの血が入っていますよ」という話をする場面がありました。実際、エジプトの最後の王朝にはギリシャ系の血が入っているんですが、当時の私は「紀元前3000年からピラミッドを建てるような長い歴史を持つエジプトの王朝に血が混じるなんて、ギリシャすごい!何者?」と思ったんです。

 

——— のちの大学院での研究に繋がる「ギリシャ」には、そのあたりからご興味があったんですね!

そうですね。私は物事の原点を知ることが好きな性格のようです。西洋の人にとってギリシャが「古典」と呼ばれているのを知るのはもうちょっと先のことですが。そもそも、日本の近代化のお手本にもなった西洋の文化や文明。その西洋の古典ということは、日本とギリシャは一見すごく遠いけれど、実は無関係ではないんですよね。

 

「このまま死ねない」と大学院進学を決断

——— それでは法政大学の学部時代には西洋史を学んできたのでしょうか。

いえ、進学のときは文学部史学科に入ろうか悩んだのですが、当時は海外留学にも興味があり、必修でイギリスに行くことが出来る法学部国際政治学科を選びました。ただ、一般教養で西洋史の授業を取るようにしていて、学部時代でも勉強はしていましたね。

 

——— そして、就職後は人事をされていたんですね。

そうですね。新卒入社した会社では、もともとシステムエンジニアを希望していたのですが1年目の冬から人事部に配属されました。それからずっと人事畑を歩んできました。前職の自動車部品メーカーでも、本社人事として新人教育から階層別教育、語学教育、選抜者教育など幅広く担当していました。

 

——— 人事のお仕事自体はどうでしたか?

キャリアを積んでいくならこのまま人事かなとは思っていました。企業の大事な財産である「人」に関われることは、とてもやりがいがあり、奥深いものですから。もちろん仕事なので、楽しいこともあればそうでもないこともあるんですけれど(笑)。また、年齢のことを考えて「このまま人事だけでキャリアを積んでいって大丈夫だろうか……?」とふと思ったりしたことはありましたね。

 

——— そのなかで大学院進学を考えたのはどういった経緯でしょうか?

実は大学院進学は社会人になってすぐくらいの早い段階からイメージはありました。ただ最初の頃は、定年退職後に大学院で勉強したいなぁくらいに思っていました。本格的に大学院進学を考え出したのは、3年くらい前で、ちょうど仕事で悩んでいた頃でしたね。転職も考えましたが、何かをガラッと変えたいと思っていて。。。

そんな折に、新型コロナウイルスの流行がありました。当時は不安も大きくて、自分のどうにもならないところで死んでしまうかも、と初めて思いました。そう考えたときに「いや、このまま死ねないな」って思ったんです。それなら、好きなことを1回はやってみるか、と。そして好きなことといえばギリシャだと。そうやって進学に向けて本格的に動き始めました。

 

——— その後、フルタイムの学生になるために退職することになりますね。決断をすることに不安はなかったですか?

試験に落ちたらどうしようとは思いましたが、大学院へ行くことに対する不安は当時はそんなに大きくなかったです。夫にも相談していたのですが、彼も博士課程まで研究をしていた経験があり、何かを突き詰めることに関して応援してくれる人なので、後押しがあったのはとてもありがたかったです。

 

——— 5~6年間、気持ちを熟成していた方には初めてお会いしたかもしれません

分野の問題もあるかもしれないですね。例えば「MBAを取得しました」なら仕事に活かせるイメージが湧きやすいのですが「人文学で古代史を学びました」となると、当時の私のなかではその先は研究者の道に進むくらいしか考えづらかったので、それなりの覚悟が必要だと思っていました。

「人って、2000年前でも人だよね」

——— 2021年4月から名古屋大学大学院に入学されますが、讃岐さんの現在の研究内容についてお聞きしたいです。

ギリシャのポリスの一つで、特にヘレニズム期に繁栄したロドスというところを扱っています。私は、そのロドスの社会について、外国人という観点から研究しています。

 

——— 外国人。ロドスに外から入ってきた人ということでしょうか。

はい、そうです。ポリスでは市民権がとても重要だったんですね。当時の古代ギリシャは直接民主制で市民権がないと政治にも参加できません。ちなみに市民とはそのポリスで生まれた男性を指してました。ですから、外国人は市民ではありません。ただ、ロドスではどうやら外国人でも市民権を得ている人がそれなりにいて、結構裕福な外国人も多かったみたいなんです。ロドスの繁栄に寄与したのは、市民だけでなく外国人の力も大きかったようで、そんな外国人を取り巻く社会制度はどのようなものだったのか、逆にロドスは外国人をどう見ていたのか、市民と外国人の繋がりはあったのかなど、様々な観点から研究しています。

 

——— おもしろいですね。現在の世界で起きていることにも当時のギリシャで起きていたことと似た構造がありそうです。

そうですね、歴史を学んでいて一番おもしろいのがまさにそこです。当たり前のことなのですが、感情を持った人間たちが、色々な環境の中で悪戦苦闘して生きていた。それっていまの私達となにも変わらないなって思うんです。「人って、2000年以上前でも同じ人だよね」と感じることが私にとっては歴史を学ぶおもしろさであり、ロマンでもあります。

当時のロドスで暮らしていた彼らについてもっと知りたいんですが、残っている史料は少なく、ほとんどは歴史の闇に消えてしまっています。それでも彼らのことを少しでもわかりたくて、どうしたらよいだろうかと考えて、最近は研究ではない道もあるのかなと思うようになりました。例えば、史料からわからない部分を想像で埋めながら物語を書くということもその一つです。また、当時のギリシャの香りをどうにか再現してみるとか。

もちろん、また働きながらコツコツとギリシャのことを興味・関心の赴くまま調べることも一つですね。こういった道もまた、好きなギリシャに関わる方法なのではと考えるようになってきました。


——— なるほど!そういうアプローチもあるんですね!

研究で扱っている内容は研究者だけでなく一般の方にとってもおもしろいはずなんです。そのため、それらに触れられるような機会がもっとつくれるといいですよね。

——— いまのお話と関連しますが、この先は研究の道に進もうというお気持ちではないですか?

いまはまだ悩んでいますが、必ずしも研究ではないのかも、と思っています。

 

「研究の道ではないのかもしれない」という気づき

——— そのお気持ちの変化についてもう少しお聞きしたいです。

入学したタイミングでは博士課程まで進むという考えもあったんです。今は研究をはじめてからまだ2年も経っていないので、研究が自分に合っているかどうかはよくわからないのですが、私自身は研究者ではなく、また違う道もあると思っています。

前職の知り合いなど周りから「研究者に向いているよ」と言われることもありますが、実際にその環境に飛び込んでみると、そこで得た知識を活かす方法は、研究の道に進む以外の選択肢もあるのかなと、そう気づいたんです。それは飛び込まないとわからなかったことです。この気づきこそが、ある意味では大学院に入ったことで得られた最大の学びかもしれないですね。



——— それに気づいたときとはどういう感情でしたか。

率直に大学院に来てよかったな、視野が広がったなと。ずっと「いつか」と心の中に秘めたままだと、ありもしない幻想を思い浮かべて恋焦がれている状態を続けなければいけませんからね。ギリシャのことは変わらず好きですし、これからも色々な書物や論文を読んだりするでしょうけど、ギリシャと接する方法は研究者以外にもあるかもしれないと。それがわかって、肩の荷が一つおりたような感覚でしょうか。

大学院に入学してからの1年半、自分自身のことをすごく考えました。どういうものを好み、どういう生き方をしたいのか。自分に向き合う過程を含めて、この2年間は大きな価値がありました。研究では大きな成果が出ないかもしれませんが、私自身は人として、たぶん成長したんじゃないかなと思っています。

 

——— そういったことも大学院で学ぶ醍醐味ですよね。

社会人で働いていたときと比べてたっぷり時間がありました。その間、自分を見つめることができるんですね。とはいえ、1人で考えても出てこないこともあるので、コーチングを受けてみたんです。そのおかげで、考え方も変わってきましたし、受けてよかったと思っています。きっと、働いていたら新しくはじめていなかったと思いますね。



学問の世界は、広くて深い

——— 讃岐さんにとって、大学院で学ぶということはどういうことでしょうか。

研究の世界に飛び込み、好きなことに打ち込む喜びを得る場でもありますが、自分を見つめる時間にもなると思っています。この時間は、社会人になってから特にありがたみを感じます。新たな世界で仲間に出会ったり、普段は選ばないことをやってみたり、興味があることにチャレンジしたり、本当にいろいろなことができますから。その経験が将来の自分に少しずつ染み込んでいくのだと思います。



——— そうですよね。すぐに役立つ学びを求めがちですが、5年10年かけて自分の中に染み込むような学びがあってもいいと思います。

そうですよね。先日、転職エージェントの方とお話する機会があって、その方が仰った「大学院のこの2年間はキャリアとしてはブランクになりますからね」という言葉がとても気になりました。確かに業務経験も大事ですが、それだけがキャリアのすべてではないのでは、と思っています。どのような専門であれ、社会に出た後の学びが少しでも尊重されるようになると、社会人が大学院進学を選択しやすくなると思いますね。



——— 本当にそうですね。私もその風潮を変えたいです。では、最後のご質問になりますが、讃岐さんは大学院進学をどんな人に勧めたいですか?

社会に一度出てみたものの会社で働くことなどに疑問を感じたり「これでいいのかな?」って思ったりしたら、「転職」のほかに「大学院進学」という選択肢を加えてみてほしいです。大学院は「腰を据えて学ぶ」ことを大人になってから経験できる貴重な場所です。

何を学んだら良いかわからないときは、よく考えてしまうこと、とにかく好きなことでいいと思いますね。いつもこの本読んじゃうなとか、お酒が好きとか、そこから深められることはないだろうかとか考えていけば、きっと近いことを研究している学問はどこかにあると思うんです。退職して学ぶことは金銭的なハードルが高いかもしれませんが、奨学金もあります。調べずに諦めてしまうのは勿体ない。学問の世界は、すごく広く、深いですよ。

 

——— 学問の世界は広くて深い。これはいい言葉ですね。

何かを変えたいなと思っていたら、行き先の一つとして「大学院で学ぶこと」もぜひ考えてみてほしいです。

 

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