自信なく、行動できない自分にサヨナラを。武蔵美で学んだ共創と不完全の許容


働きながら学ぶ人を紹介する「先輩インタビュー」
今回は武蔵野美術大学大学院の造形構想研究科で学んだ関根諒介さんです。

仕事をしながら膨らんできた「このままでいいのか?」という想いに向き合い、大学院進学を選択した関根さん。倒産社長のナラティブにまつわるユニークな研究、著書の出版、そして今はオリジナルのそうめんづくり(!)と、進学をひとつのきっかけにして拓けていく「新しいものづくり」の途上でお話を聞きました。

関根 諒介さんプロフィール

三井住友カード株式会社、株式会社みずほ銀行を経て、現在はfreee株式会社に勤務。freee株式会社入社後は、事業企画、財務・IR、経営管理業務などを経験し、現在は金融サービスの事業開発に従事。

大学:武蔵野美術大学 造形構想研究科クリエイティブリーダーシップコース
研究内容:倒産社長の挫折体験を肯定的に意味づけするナラティヴのデザイン
入学年月日(年齢):2020年4月(36歳)
卒業年月日(年齢):2022年3月(38歳)

自分の弱みである事業構想力を鍛えたかった

———— 関根さんとは3年ほど前にfreeeの事業企画チームで一緒に仕事をさせていただいてました。2021年の年明けでしたか、社内のイベントでお会いしたときは「大学院の研究と並行して本をつくろうかな」とおっしゃっていましたよね。今日は大学院でどんなことを学んでいたのかもじっくり伺いたいです。よろしくお願いします!早速ですが、そもそもなぜ社会人で進学しようと思ったんですか?

一言でいうと、新しいサービスやプロダクトを作るためのお作法を体系だって学びたいと思い、大学院に進みました。元々、ものづくりやサービスづくりに携わりたい気持ちがずっとあったのですが、結果的にファイナンスやコーポレート畑を主に歩んできました。それらは苦手な領域ではないため、自分の居場所がある安心感を得つつも、事業を創る主体でありたいという焦りが段々と強くなりました。

ただ矛盾するようですが、結局、自分が行動するに足る自信がなかったんです。結局、事業を0から創った経験もなければ、知識もない。加えて、副業として支援していたクライアントとの関わりの中で、財務や資金調達面での価値提供はできるものの、事業構想やマーケティングなど経営の攻めの部分ではお役に立てず、「このままじゃ、マズいな」」と。自分の強みであるファイナンス領域を基盤としつつも、そこに事業構想という新しい領域を補完し、さまざまな領域を越境し掛け合わせることで、新しいものづくり・サービスづくりに挑戦できたらと思ったのが、大学院進学のきっかけです。




————
そのなかで武蔵野美術大学大学院を選んだのはなぜですか?

自分はMBAではなく、デザインスクール、MFA(Master of Fine Art)に進もうと考えました。VUCAと呼ばれる先行きが不透明で、将来の予測が不可能で、変化が早い時代においては、既存のフレームワークが問題解決には必ずしも有効ではなく、また、イノベーションを起こすには左脳型ではなく、右脳を活用したデザインが重要であるという主張に、フワッとした腹落ち感はあったんですよね。また、経営を幅広く学びたいというよりは、やっぱり事業やサービス・プロダクトづくりを学びたいと思い、デザインスクールを検討しました。それで、最初は海外の大学院を調べたんですが、海外の大学院だと1,000万円レベルで学費がかかってくるので、流石に厳しいなと……。それに海外の大学院はポートフォリオの提出を求めるところも多く、デザインバックグラウンドのない自分にはハードルが高く感じました。海外の場合は、もともとデザインをやってきた人や理工系で機械をつくってきた人などが対象なのかなとも思いましたね。

そこで国内に目を移した時に、たまたま武蔵野美術大にたどり着きました。サービスデザイン、デザイン思考、アート思考などのフレームワークの活用など、ビジネス・デザイン・心理学の領域を越境してものづくりを実践的に学べる場は、当時他には見つかりませんでした。




————
海外で学ぶのは夢ですがハードルもなかなかに高いですよね……笑。ちなみに、まわりの学生はどんなバックグラウンドを持った方が集まってましたか?

半分が社会人でした。もう半分が大学院からそのまま上がってきた方や留学生です。社会人の方たちの内訳をざっくりいうと、大企業のメーカーや広告代理店の方々や、経営コンサル、IT系のスタートアップ、弁護士などの士業の方々など様々です。みなさんそれぞれの場所で活躍している優秀な方々ですが、ムサビ菌に侵され、美大ならではの思想や価値観に影響を受け、いい意味で人格が歪んでいきます(笑)。



自分の内面から湧き上がってくるテーマとは

———— 仕事とは違う筋肉を使いそうですもんね。関根さんは最初はどんなことを研究しようと考えていましたか?

最初は、金融機関や会計事務所をハブとして、中小企業のクリエイティビティを促す仕組みを作るという研究計画書を提出しましたね。中小企業の経営者に接点が多いプレイヤーが、中小企業のイノベーション創出を支援できるようになれば、日本の商売がもっと面白くなるのではという妄想だったんですが。。でも教授陣にプレゼンしたら「面白くない」とか「なんか、他人事じゃない?」ってズバッと言われて(笑)。「その前に、君がまず面白いことやりなよ」とも言われ、確かにそうだな……と思って、別のテーマを探索することになりました。振り返ってみるとおもしろいのが、入学したときに「これやります」って言ったことが、そのまま修論のテーマになった人というのは、ほとんど誰もいなかったことです。




————
当初考えていたことが、様々な刺激を受けてみなさんどんどん変わっていくんですね。

そうですね。色んな授業を通じて、考えさせられることが多かった。まず、授業が結構多いんですよね。それこそ1年間がっつり週5日で夕方6時10分スタートの1時間半×2コマ入っていたり。それに加えて、座学というより、ユーザーインタビューや、手を動かしてチームでサービスのプロトタイプを作ったりなどの実践的な学びが多く、授業以外の時間で、チーム作業や個人の宿題があったり、結構大変でした。でも、不思議なことに作ってはフィードバックを受け、壊して作り直してってやっているうちに、なんとなく見えてくるものや感じるものがあって......思考が拡張され、深化していく不思議な感覚がありました。

あとは週1回程度、ゲストスピーカーをお迎えする授業があり、地方創生に関わっている方、デザイナー、アーティストなど、ビジネス領域ではなかなか出会えなかった方々のお話を聞く機会がありました。そういうものに触れ続けると、そもそも自分の価値観って何だったんだろうって、みんな考え始めるんですよね。そうすると、自分の内側から湧いてくる疑問や違和感を起点にした研究テーマに取り組む人が増えていきましたね。




————
最終的に修論のテーマとして何を選んだんですか?

修論では、自身が経営していた会社が倒産した社長=倒産社長のウェルビーイングをテーマにしました。倒産社長が倒産後の人生をどうしたら豊かに生きることができるだろうか? というリサーチクエスチョンをもとに、倒産社長数十名のインタビューを行い、倒産体験のプロセスや感情の把握など、探索的に研究を行っていきました。自分が銀行員時代にお付き合いのあった企業が倒産したことがあったんですが、それ以降、一銀行員として何のお役にも立てなかった自分に対する憤りや不甲斐なさの気持ちが強く残っていて、私がfreeeに転職した理由もそこだったように、結構、自分の中では傷が深いテーマだったんです。それをテーマに研究してみようかなと思ったという背景です。




————
おもしろいテーマですね〜!手法のあたりをもう少しお聞きしたいです。

倒産社長のインタビューに関しては、単純に話を聞くということだけではなく、当時の体験を可視化するツールを使いました。1つがExperience Mapという、いわゆる人生グラフ。倒産前後の体験を時系列でX軸に記入してもらうと共に、それらのイベントに紐つく感情のポジティブ・ネガティブの大小をY軸に記載してもらうものです。

もう一つは、文化モデルという、倒産社長と当時のステークホルダー、例えば、自社の役員・従業員、取引先や金融機関、家族や友人などとの間で、どのようなコミュニケーションがあったかを記載してもらい、それらに対する感情や相互的な影響力を記載してもらい、俯瞰的に当時の体験を振り返ってもらうようにしました。インタビューによって様々なインサイトが得られれるとともに副次的な発見があって、それはそういった過去の体験を可視化するツールを活用した語りにより、インタビュイーである倒産社長が過去の体験を肯定的に意味づけするととともに、将来的な見立てもポジティブに語る.....一種のカウンセリング・セラピー的な効果があるということだったんです。

どうやら過去の体験を可視化を通じて、俯瞰的な認知を得られることと、聞き手である私自身の理解や共感が促進され、積極的な対話がなされたことで、過去体験の意味変容がなされたと分析しました。いわゆる、臨床心理学でいうナラティヴ理論ってやつなんですけど。それから、挫折体験をポジティヴに意味転換するためのナラティヴのデザインツールの開発や、それを活用したワークショップを実施し、質的研究として分析するなどして、修論にまとめました。




————
なんと関根さんはその修論と並行して、著書も執筆していたんですよね。すごすぎる……

いやあ、修論だけでも結構大変だったので一緒にやるもんじゃないですね(笑)。『倒産した時の話をしようか - 8人の倒産社長に学ぶ「失敗」を「資産」に変える挑戦のヒント-(freee出版)』というタイトルで、過去の挫折体験を乗り越え、今を前向きにイキイキと生きる倒産社長のストーリーをまとめ、一冊の本にしました。

他者との関わりの中で創造性は生まれてくる

———— 大学院で得られた学びや気づきのなかで印象的なものって何がありますか?

対話や共創といったコラボレーションの重要性を痛感したことでしょうか。大学院では、チームみんなで連携して新しい物事を生み出し、社会に提案することを意識した、実践的なプログラムが大きな特徴です。進学するまでは、クリエイティブに対して「先天的」「属人的」「1人の天才が思い浮かべるもの」というイメージがどうしてもありました。しかし、プログラムを通じてチームのみんなと一緒に思考し、アウトプットすることを何度も何度も行うことで、クリエイティブって他者との対話や関わりのなかで、偶発性も含めて生まれてくるものなのかもしれないと感じるようになって。




————
他に、進学前と考え方が変わった部分はありますか?

昔は完璧主義......というか、自分の中で納得がいくまで外に出せないようなところがありました。要するに、本音としては中途半端なものを出すことで、他人から指摘されたり、否定されたいという気持ちが強かったんでしょうね。そうすると、結局いつになっても出せなかったり、アウトプットのスピードが遅くなる。一方で、大学院では妥協をするわけではないですが、まずは出してみる、それを媒介物にして対話をしたり、フィードバックを積極的にもらい、それをもとに高速で改善していく......そういうプロセスやマインドを得られたと思います。




————
なかなか仕事で不完全をあえて許容する雰囲気がなかったりしますよね。そこまで長い目で付き合ってくれる人もいなかったり。

そうですね。これってカルチャーや仕組みだと思ってて、「対話を通じて、一緒に作っていきたいから、まずは頭にあるものを出してみてほしい」というコミュニケーションがあってもいいと思うんですよね。一般企業だと、部長クラスは基本的に意思決定することが仕事になっているけど、もっと上流にある物事の発想の部分から関わって、アイデアを生み出すための問いを立てたり、ファシリテーションをしたり、一緒に云々悩み、ともに失敗するということが求められる時代なんじゃないかなと思います。



「対話」と「そうめん」の不思議な関係

———— 今後の活動もお聞きしたいのですが、どのようなことを考えていますか?  

はい、今は素麺を作ろうと考えています。




————
 素麺?? なぜ、素麺なんですか?

自分が研究を通じて感じたのは、倒産社長に限らず、自身の挫折や失敗を気軽に語れる人が少ないということなんですよね。 挫折や失敗に対して、日本人は過度に不寛容なところもあるなと。まぁ、優しく接するにしても、周りの人もなんとなく声を掛けづらいということもあるのかなと。そこで、失敗して少し凹んでいる人にそっと渡せる素麺を開発していまして...... なぜ素麺かというと、失敗も素麺も、水に流せるので......




————
なるほど!(笑)ここで倒産社長の文脈と繋がってくるんですね。

そういうことです。思いやりや応援する気持ちを伝える媒介物として、凹んでいる人に優しくそっと渡せるようなそうめんがあったらいいなと。渡された人が優しい気持ちになり、自分の悩みやつらみをポロっと吐露できる場所が生まれたらいいなと思っています。




————
なんて声をかけていいか分からないんだけど、「そばにいるよ」なのか、何かを言ってあげたいときってありますね。

僕の実体験からですが、素麺は単にツルッと気軽に安く食べれるという機能価値だけではなく、人と人との対話を生み出す価値があると思うんですよね。子供の頃にお母さんが大きい器に素麺をドンっと入れてくれて、家族全員集まって、それを箸で突きながら食、色んなことをみんなで喋ったんですよね。だから僕にとって素麺は、家族のコトバを生み、それらに紐つく感情がシェアされる、対話のデザインツールだったんですよ。

今開発している素麺の一つのベンチマークとしては、『キットカット』があるかもしれない。ただのチョコレートということではなく、それが受験の応援グッズとして意味が変わっているように、素麺をナラティブを促進する「コミュニケーションツール」として提案をし、世の中からどのように受け入れられるのかを検証したいと思います。




————
喧嘩したときにもいいですね。ちょっと水に流していただいて、って(笑)。ちなみに、これはいつ発売ですか?

2022年7月あたりの、素麺の需要が高まる季節を目指して絶賛開発を進めています。何より、夏って中高生の部活が引退の時期だったりするじゃないですか。 試合に負けて悔しい気持ちをしている若者にこそ、是非素麺を食べて欲しいですね。




————
楽しみです!それに関根さん自身がなんだか楽しそうです。

楽しいですね、楽しくないとやらないし(笑)。 やっぱり、楽しい=「FUN」の部分ってすごく重要だなって。社会人になると「楽しくない」とか一種の感情に基づいて発言すると、主観的だ、ロジカルじゃない、プロ意識にかけるとか厳しい反応がありますよね。とはいえ、人は機械じゃないので、自分に潜む根源的な感情を押し殺すのではなく、。自分の心の声を聴いて、まずは行動してみるのって意外と大切なんじゃないかなって思います、今となってはね。




————
なんか私も社会人大学院生を増やすためのグッズつくれないかな~

いいと思います!行動すれば手を貸してくださる人はきっといますよ。大体のことは、挑戦してみたらいいと思うんです。もしうまくいかなくても、やってみて気づくことってたくさんあります。結局、失敗こそが自分の貴重な資産でもあり、ユニークな個性になりますから。




————
ほんとにそうですね。あと、もし失敗してもそうめんもらえるし(笑)。


インタビュー・編集:秋山 詩乃
執筆:中田 達大

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