偶然と感覚の力で仲間と未来を作る 関西学院大学大学院

働きながら学ぶ人を紹介する「先輩インタビュー」
今回は関西学院大学大学院 経営戦略研究科を修了された、垣内健祐さんです。

メガバンクの法人営業を12年勤めた後、たこ焼き「たこ八」の取締役副社長に。インバウンドでどんどん利益が上がっている、でもこのままじゃダメだ!!と突き動かされるように大学院の門を叩いた垣内さんが出会ったのは、意外や意外「意識の奥に眠っていた自分」だったのです…

エフェクチュエーション理論を学んで加速した、垣内さんの生き方とビジネス。今日もどんどんエフェクチュアルに、実践を続けていらっしゃいます。

 

垣内 健祐さん

1972年9月生まれ、大阪生まれ大阪育ち。私立清風高等学校卒業、同志社大学工学部化学工学科卒業。三和銀行(現三菱UFJ銀行)勤務を経て、現(株)たこ八取締役副社長。株式会社真美総合研究所代表。趣味は、ゴルフ、ギター、ピアノ、旨いもん巡り。モット―「やってやれないことはない。なんとかなるさ」

修了した大学院:関西学院大学大学院 経営戦略研究科 
入学年月日(年齢):2020年(47歳)  
修了年月日(年齢):2022年(49歳)

著書・Webサイト
「エフェクチュエーション実践サロン スナックレモネード入門 論文披露の巻」Kindle版
スナックレモネード ウェブサイト:https://www.snack-lemonade.com

「ベンチャーに入る」から「ベンチャーを育てる」へ

—————垣内さんは、たこ焼き屋さん「たこ八」の経営者でいらっしゃるんですよね。ずっと会社の経営に携わっていらしたんですか?

いえ、実は僕、大学は同志社の工学部化学工学科でして。ところが卒業後に研究職になるイメージが湧かず、将来的に大きくなりそうだと思えるベンチャー企業で働きたいと考えるようになりました。今は立派な企業に育った化学系の会社から内定をもらったりしていたんですが、第一志望の企業には面接で落ちてしまって。ヘコんでいた時に先輩から「ベンチャーもいいけど、銀行に入ればたくさんの会社を育てていけるよ」と言われて、銀行ってそんなんできるんや?!と感動して銀行を目指すことにしたんです。

先輩たちにずいぶんサポートしてもらって、三和銀行(現在は三菱UFJ銀行)に入校し法人営業を担当しました。内定をもらった時は本当にうれしかったですね。それから12年間、銀行員として法人営業をやりました。

—————実際に入ってみて、希望通りの仕事でしたか?

はい、何百社も担当したのでベンチャー支援みたいなことも含めて色々な仕事ができました。大阪の鶴橋近くの生野支店からスタートして、その後茨木・高槻に異動になって。そこで上司と反りが合わず・・・早々に転勤を命じられ・・。運よく、東大阪のメーカーさんが多かった城東支店に配属され、5年半いました。経営の疑似体験のようなことを、たくさんやらせていただきました。

—————ここまで随所に「うれしかった」という言葉が出てきたんですが、垣内さんにとってのモチベーションって周りの人から期待される・感謝される、ということなんでしょうか?

そうですね、お客さんに喜んでもらうこと、それから自分が配属された支店ごとに何らかの資産を残すこともモチベーションでしたね。合計5つの支店にいたんですが、キムチ工場の新規建設をお手伝いしたり、お客さんが焼肉店をオープンするのを支援したり、お客さんの本社ビル建設をサポートしたり。今もお客さんだった焼肉屋さんに行くと、僕のことを覚えてくれてます。

—————そういうの、すごくうれしいですね!

銀行とたこ焼き、二足のワラジを履いた1年間

—————銀行の法人営業からたこ焼き屋さん、ってかなり違う道だと思うんですが…どんな経緯だったんですか?

たこ焼きを焼いてる垣内さんの写真

実は銀行員生活の11年目に、福岡支店に異動になり法人営業の最前線に配属されたんですが、異動初日に妻の実家のたこ焼き屋を継ぐことになったんです。

—————それは急転換…迷いはなかったですか?

いや、即答でOKしましたよ。もちろん妻の実家がたこ焼き屋さんなのは、大学時代に付き合い始めた頃から知っていましたし。僕に手伝ってもらうつもりはない、とは言われていたんですけど、中小企業やから何が起こるかわからないからね。急に手伝ってくれと言われてもちろん驚いたけど、家族のことだから断る理由なんかありません。

すぐ銀行に事情を話し準備期間をもらって、平日は単身赴任で銀行勤務、週末に飛行機で戻って「たこ八」で仕事、また福岡に戻るというダブルワークで1年間過ごしました。

当時福岡は自動車関連産業の企業がたくさんある地域で、とても景気が良かったんですよね。僕も銀行員として頑張ってきてやっと花形支店に転勤できたので、そこで仕事したい思いが強かったですから。妻の実家からは着任を急かされていましたが、頑張って両立しました。しんどかったけど楽しかったです。

儲かっているからって、このままでいいのか?!

—————たこ焼き屋さんの経営に携わるようになってから大学院入学まで、15年ぐらいですよね。その間に色々なことがあったと思うのですが、大学院に行こうと考えたきっかけは何だったんでしょうか?

娘が関西学院大学に入ったので、一緒に生協でご飯食べたかったんです(笑)。それを目的にパパも関学入るわ、と言って調べたら社会人大学院があったので受験しました。…なんて言ってますが、実はそれだけじゃなくて。当時はインバウンドでめちゃくちゃ忙しく、僕はまったく休みなく働いてたんですよね。3年間ぐらい盆暮正月も返上、平日は本社で業務をこなして、週末はずっと店に入るという生活でした。売上はどんどん上がってめちゃくちゃ利益は出るんですが、だんだんモチベーションが保てなくなってきて。

僕はゴルフが大好きなので、リフレッシュでよく友人たちとゴルフに行ってましたが、それも限界でした。このままでいいんだろうか?銀行勤務で学んだことを経営に生かそうと考えていたのに、結局ひたすら焼いて売上を上げることしかできないんだろうか?もっとインプットしたい、と思うようになっていったんです。

—————受験準備はどんな勉強をされたんですか?

僕が受けた経営戦略研究科は、学習計画書と面接だけで、英語や小論文の試験はなかったんです。特別な勉強はしませんでした。

—————大学院に行く、と言った時のご家族の反応はどうでしたか?

ええやん!って感じでしたね。娘は同じ大学だと聞いて、えっ?!て感じでしたけど(笑)。

—————結局、娘さんと学食でご飯食べられたんですか?

いや、そんなん恥ずかしいとか言われて、結局まだなんです(笑)。それに、大学院に入った4月からコロナの緊急事態宣言で、キャンパスではなくオールZOOMの授業になりましたから。お店も完全に止まって雑多な問題も起きない状態だったので、ほぼ1日中自分の勉強に集中できました。もしいつも通りだったら、レポートやらなあかんのに店に入らなあかん、とかで無理だったかもしれませんね。1年半はひたすらZOOMでしたが、最後の半年はリアルでゼミができました。初めて教授や同級生に会えて、研究もめちゃくちゃ楽しかったです。

エフェクチュエーション?これ、僕がやってるヤツやん!

—————研究テーマはエフェクチュエーションだったんですよね?

もともとは経営で大学院に入ったんですが、経営ってゼネラリスト的で面白くないなあ、と思っていました。そんな時にちょうど佐藤善信先生の授業で「垣内さんがやってることはマーケティングそのものですね」と言っていただいたのがきっかけで、佐藤先生のゼミに入ったんです。そして、神戸大学准教授の吉田満梨先生のエフェクチュエーションの授業を受けました。

その時に「僕、これやってるやん!僕が普段やっていることはエフェクチュエーションや!」と確信しましたね。自分が何気なくやっていることが、すぐれた起業家の原則として発見され、理論化されていたことに感銘を受けました。授業を聞きながら、これからひたすらエフェクチュアルに自分のビジネスをやっていこうと考えて、研究テーマもエフェクチュエーションになった、というわけです。

—————理論化されていることが拠り所になって、もっとこの理論を活用しよう、という気持ちになったんですね。

そう、だから授業が進んでいる間に色々なことをやりました。コロナ禍でほぼ売上ゼロでしたから、冷凍のたこ焼きを大学生協に拡販したり、キッチンカーを作ってイベントに出たり。冷凍のたこ焼きはインバウンドのお土産用に作っていた箱入りの商品を、個食用に改良したものです。今はオンラインショップや関東のスーパーでも販売しています。キッチンカーには娘も来てくれて、生協ではなかったけど最初の目標が叶いました(笑)。

それから「スナックレモネード」。これはせっかく大学院ですばらしい人たちに巡り会えたんだからその縁を大切にしたい、と考えて作ったコミュニティです。なぜスナックかと言うと、ミナミの仕事場の近くに行きつけのスナックがあって。お客さんが来たらギター弾いてみんなで歌ってものすごく楽しかったので、そんな場にしたいという思いを込めたんです。

レモネードは、酸っぱいレモンを摑まされたらレモネードを作れ、というエフェクチュエーションの「レモネードの原則」から取りました。メンバーはもう50人以上になっています。

—————もともとやっていたことが理論化されているとわかって、さらに加速した感じですね。

そうですね、実行するのがまったく苦にならないタイプなんで。とりあえずやったらいいやん、というのが銀行時代から僕の基本的な考え方で、無意識にどこまでだったらリスクを取れるか考えている。まさに、エフェクチュエーションの「許容可能な損失の原則」を使っているということなんですよね。

エフェクチュアルに進む仲間たちが一番の財産

—————大学院での最大の学びはやはり、エフェクチュエーションですか?

卒業式の様子

いや、やっぱり最大の学びかつ財産は仲間。仲間との出会いが一番大きかったです。コロナ禍で進んだビジネスは、大学院の仲間から縁がつながったものばかりですし。生協への販路だって、大学院の仲間からまず阪大を紹介してもらってどんどん広がっていったんです。

医療関係への拡販も同じです。仲間に助けてもらって、たこ八のお好み焼きを減塩食として取り入れてもらいました。これは偶然なんですが、店のアルバイトで帰る時いつもお好み焼きを買っていく子がいて。理由を聞くと「お父さんが透析していて塩分の多い食事が摂れない、たこ八のお好み焼きなら塩分が低くておいしいから喜んで食べてくれる」と言うんです。

これ、めちゃくちゃいいやん!と思っていたら、スナックレモネードに医療系に強いメンバーがいて。その人にアドバイスをもらって、国立循環器センターの減塩食ブランドの審査を受け、つい先日認可されました。この実績を活かして、病気があっても高齢者でも安心して食べられるたこ焼きを開発したい。このカテゴリーはブルーオーシャンなので、少しずつ広げていこうと思っています。こういうのはもちろんエフェクチュエーションだけど、勉強したからやっているわけではなく、僕としては普通にやっていることなんです。

—————大学院に行って学んだのは既に自分で実践していたことだった…それでも大学院に行ってよかった、と思いますか?

めちゃくちゃ行ってよかったです!今もティーチングアシスタントとして授業に参加したり、たこ八を授業の題材として取り上げて学生たちにビジネスプランを考えてもらったりしています。卒業生は聴講制度を使って安く学び続けることができるので、10月からまた授業を受けます。スナックレモネードは教授陣を巻き込んで活動していて、僕らはアカデミアと実務家の融合を目指しています。理論と実践を往復するのが、すごく楽しいですね。

—————今後やってみたいことはありますか?

とりあえずは事業を何とか継続していけるように、引き続き頑張ります。でも動いていく途中で色々な人と出会ったりするので、ここはエフェクチュアルにきっちり決めずに、突き進んでいこうと思っています。

—————つい聞いてしまいましたが、エフェクチュエーションを実践されている方に今後の目標を聞くのは野暮でした(笑)。

潜在意識に眠っていた自分に大学院で出会えた

—————大学院で学ぶって、垣内さんにとって何だったと思いますか?

大学院は自分の知らない自分に会える場でしたね。オギャーと生まれてから約50年、潜在意識に貯めてきている色々な経験は、暗黙知のままで形式知化されていない。それが、学び直したり多くの人と会って話したりするうちにどんどん表に出てきて、あらためてその存在に気づいたんですよ。そういう意味で、自分がまだ知らない自分に出会いに行く場、と言えるかな。

—————過去の自分の中から新しい自分が出てくる、ということですか?

そうです。自分では大したことないと思っている経験も阿頼耶識(あらやしき)の中にずっと蓄積されているはずで、ふとした拍子にひらめきをもたらしてくれる。潜在意識から顕在意識に反射的に出てくるラポールを発達させることが、大事だと思っています。頭で考えてやるのではなく、フィーリングでやっていく。会社の中では感覚はダメなものとして扱われれることが多いんですが、すべて計算して予測できるわけじゃないですからね。

—————エフェクチュエーションの授業は、全国に広がってほしいですね。

僕もスナックレモネード主催として、友達の会社や銀行時代の後輩の会社などでセミナーをやっています。エフェクチュエーションの授業を3日間やれば、必ず新規事業がひとつできるんですよ。メンバーが福岡県の自治体の役場で概略を簡単に話したら、研修開催の相談も受けたんですよ。1日のセミナーでもいいし、オンラインでもいいし。僕やスナックレモネードのメンバーがやりますよ。10月には日本マーケティング学会で僕が作った実践モデルや事例を発表するので、そこでも新しい出会いがありそうです。常に何かやっているんです。エフェクチュエーションは、とにかく実践するしかないですから。

————かなりエフェクチュエーションから遠そうな印象ですが、そこまで広がっているなんて、楽しみです!ありがとうございました。

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