幸せをつくる教育とは?実践で抱きつづけた問いにじっくり向き合うべく大学院へ 京都大学大学院人間・環境学研究科

働きながら学ぶ人を紹介する「先輩インタビュー」
今回は京都大学大学院人間・環境学研究科に在籍中の奥田麻依子さんです。

 

京都大学で心理学を学び、教員免許も取得しましたが、卒業後は株式会社ディー・エヌ・エー(以下、DeNA)に入社。離島の高校でのプロジェクトに参画するなど、さまざまな経験を経て再び母校に戻ってきました。これまでの多彩なキャリアと大学院生活についてお話を伺いました。

 

奥田 麻依子さん

卒業・修了した大学・大学院:京都大学大学院人間・環境学研究科

入学年月日:2022年4月
卒業年月日:在籍中

DeNAから転職、隠岐諸島と軽井沢で教育の現場に携わる

———経歴を教えていただけますか?

岡山県出身で、京都大学教育学部を卒業しました。専攻は心理学で、大学入学時点では臨床心理士(スクールカウンセラー)になりたいと思っていたので、大学院進学も選択肢にはありました。ただ、勉強していく中でカウンセリングはマイナスをゼロに戻していくようななイメージを持って。そうではなくて、マイナスになる前にもっとできることがあるんじゃないかと思い、別の道を模索し始めました。

両親が教員なのもあって、教育分野には以前から関心がありました。両親から向かないと言われていたので、教員にはならないだろうと思いつつも、人の人生に関わる教育の仕事への憧れもありました。

———卒業後は、DeNAに入社されたんですね。

大学院への進学をやめようと思ったタイミングで就活を始めました。何年か社会で働いてから先生になる方がいいかなと。高校の時に好きだった先生が企業経験を経て先生になった方で、ものごとの見方が新鮮で面白かったんです。

就活では、若手でも仕事を任せてもらえて成長できそうかというのを軸の1つにしていたのですが、そこで候補に上がってきたのがDeNAでした。社員さんに会えば会うほど素敵な方が多くて、学生相手にフラットにいろんな話をしてくれて。「こういう人になれたらいいな」と思える方が一番多かったのがDeNAでした。

———入社後はどんな仕事を?

カスタマーサービス部での業務に加え、CSR担当として小中高生向けのプログラム企画・運営等などを兼務しました。面接で教育をやりたいと言っていたので、担当させてくれたのだと思います。

この頃に、シブヤ大学という生涯学習を推進しているNPO法人の活動に参加して、いろんな生き方をしてる人に出会って感じるところがおおいにありました。こういう出会いを若い頃から経験できていたら、人生が変わるかもしれない。名前がついていない職業は世の中にたくさんあるし、仕事としてではなくても社会でできることはたくさんある。多様な価値観の人と関わって、自分が社会とどうつながっていくのか考えるのは大事なことだなと。ちょうど東日本大震災もあり、「いつまでも修行してないで、本当にやりたいことをやろう」と思うようになりました。

———そこで、海士町役場・隠岐島前高校魅力化プロジェクトに参画したんですね。

はい。Facebookのつながりで紹介してもらい、2012年の2月に初めて島に行って、3月に面接、4月には転職というスピード移住でした。「島まるごと学校」というコンセプトで高校生が地域の中で学んでいく学校。訪問した際に会った島の高校生たちが自分の言葉でしっかり話すのを見て、どうすればこんなふうに育つんだろうと思いましたね。

ここでコーディネーターという立場で仕事をしているうちに、そのおもしろさにはまりながらも、「やっぱり先生をやりたい!」と思うように。既存の枠組みでは難しいこともあるんですよね。高校に入る前の小中学校時代にもっとできることもあるんじゃないか。長い目で一人ひとりの成長を見守りたい。そういう実践ができそうだったので、軽井沢で幼小中混在の新しい学校づくりに関わらせてもらうことにしました。

———その流れで、公立中学校でも勤務されたんですね。

はい、その頃は大変でしたね。先生としての自分のできなさを思い知りました。免許は持っていて、生徒への想いはあるけれど、他の先生のような国語への愛みたいなものも弱いし、思うようにならないことだらけでした。

このタイミングで、島時代の元上司から「コーディネーターの仕組み化を進めていきたいから一緒にやらないか」と声をかけもらって、島根県、一般財団法人地域・教育魅力化プラットフォーム(以下、地域・教育魅力化プラットフォーム)へ。離れてみて改めてコーディネーターという役割の重要性に気づき、仕組みをつくる立場で教育に関わることにしました。

これまでの延長線ではない未来を考えるべく京大大学院へ

大学院は研究を通して新しい世界を拓く第一歩

———卒業後の予定は何か描かれていますか?

まだ具体的には決めていません。あえて決め切らない状態です。タイミングがくれば見えてくるのかもしれません。子どもも大人も多様な関わりの中で学べる環境を作っていきたいというのはずっと思っています。

大学院では、仕事で進めてきた調査研究ともつなげながら、研究をしていく予定です。たとえば、「一人ひとりと地域社会の持続可能な幸せをつくるために必要な学び・教育とは?」という問いに対して、ブータンと、持続可能な幸せのためのPBL(Project Based Learning:プロジェクト型学習)を共創するプロジェクトに取り組んでいます。幸せな学びとは何か?教育が幸せとどう関わっているのか、という興味深い内容です。

———大学院とは何ですか?という質問もまだ早いですかね?

そうですね、入学したばかりなので、まだ語れないですね(笑)。でも、進学して良かったなとは思います。大変なこともありますが、行き詰まってたところが開けた感じもあるし、これまでの仕事を別の視点で見ることができたと思います。社会人の皆さんが、ご自身の働き方を考えるにあたっても今の仕事をやめるやめないだけではない選択肢が見えてくると思います。出会う人もまったく変わるので、これまで気付かなかったことが見えてくるのではないでしょうか。

 

———2022年4月からは地域・教育魅力化プラットフォームなどで働きながら京都大学大学院に通っているんですね。

はい、京都大学人間・環境学研究科に在籍しています。実は、島根にいたときから、自身も取り組んできた高校魅力化(地域・社会との協働による魅力ある高校づくり)を評価するための共同研究に関わっていました。政策として仕組みにするためにはエビデンスが必要で、現場にもエビデンスと対話による施策・プロジェクトの推進 (EBPMならぬEDPM:Evidence & Dialogue-based Policy Management)の必要性を感じていました。

この調査研究の中で、学びの土壌(学校や地域の雰囲気や機会)の重要性にも気づいたんです。思い出してみれば、自分自身も就活や転職のときに、その組織の土壌や文化を意識していたなと。面白い分野だし、自分で分析もできるようになったらもっと幅が広がりそうだと思ったのと、ずっと持っていた「いつか先生に」という夢を手放し、この先まだまだ長い人生、どうしていこうかなと考えたときに、自分の道具が足りない、アプローチの幅を広げたいと思って大学院を考えました。

———いくつか大学院を検討しましたか?

島にいた頃から、自分たちの教育が本当に子どもたちの将来も含めた幸せにつながっているんだろうか?という気持ちがあったので、幸福学の第一人者である慶應義塾大学大学院 システムデザイン・マネジメント研究科(SDM)の先生の元で学ぶか、現在の指導教員の内田先生の元で学ぶか迷いました。内田先生の『これからの幸福について―文化的幸福観のすすめ』という本を読んだときに、「私が感じていた違和感の理由はこれかも」と直感したんです。この本で文化心理学という分野をはじめて知って、興味を持ちました。

両方の大学院を受けて合格したので、どちらに行こうかすごく悩みましたが、SDMは社会実装を重視していて、京大は幅広い学問にも触れながらアカデミックにどっぷり浸って学べるということで、実践での限界を研究で突破しようとしている私には京大のほうがいいだろうと考え、京大に進学することにしました。京大の研究室はグローバルで留学生がたくさんいて、ゼミは英語でやっています。



———フルタイムですか?

はい、そうです。前期は多めに授業を取ったので、週に4日は授業があります。基本はオンラインではなく対面授業なので、4月に京都に引っ越しました。ときどき島根にも出張したりしています。仕事自体を減らしたので夜だけでなく日中も勉強できていますし、逆に土日に仕事をすることもあります。朝活の場のホストをしながら自分も勉強しています。

———大学院はどんな印象ですか?

社会人もいますが、京大大学院全体では、学部からストレートに進学してきた方が多い印象です。入学して3ヶ月、大学生活は面白いですね。できない、わからないを味わえる楽しさというのでしょうか。仕事だと成果が求められるので。まだまだ自分が知らないことがたくさんあるんだと思えることも楽しいです。自分の専攻以外にも幅広い授業が取れるので、社会学の授業や、企業の方が講師を務めるデータ分析の授業などをいろいろ取っています。ほかの人の研究を聞くのも面白いですね。自分にはない視点を持っている人も多くて勉強になる一方で、英語だと伝えたいことが伝えられなくて悔しいと感じることもありました。

———受験準備はどんなことをしましたか?

先生に面談していただいたり、研究室の先輩からどんな勉強をすればいいか教えてもらったりして情報収集をしました。英語、専門科目の知識は入門書を読んで独学。併願した大学院用に小論文の準備もしていました。

 

———パートナーの方との関係で困ったことは?

あまりなかったです。パートナーは博士課程まで進んだこともある人なので「いいんじゃない?」と。理解のある環境で応援してくれました。親は、「まだ勉強するの?」と半ば呆れつつも、私の選択を尊重してくれていましたね(笑)。

 

———学費はどうしましたか?

教育訓練給付金の対象になる大学院ではないので自費です。奨学金も調べたのですが、年齢制限があるものが多かったんですよね。学費減免の申請はしていますが、社会人の学びの壁を感じます。

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