働きながら学ぶ人を紹介する「先輩インタビュー」
今回は、事業構想大学院を修了された浦住俊平さんです。
スポーツで培ったチームマネジメント力と「つくること」への情熱を携えて、広告代理店営業職に。仕事に慣れてくる反面感じた危機感が、社会人大学院への道を拓きました。起業し、いつ届くかわからないサプライズブーケを提供するユニークなサービス「偶然配達」をスタート。
「事業構想大学院に入る時は起業などまったく考えていなかった」とおっしゃる浦住さん。一体どんな変化が、大学院の2年間で起こったのでしょうか?
プロフィール
小さい頃から走るのが速いことが強みでした。それが今のお花の配達の際に活きていて、瞬足の賞味期限の長さに驚いている28歳偶然系お花お花届けboy。
▼略歴
1994年生まれの末っ子@福島県
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千葉市立打瀬小学校@野球
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千葉市立打瀬中学校@野球
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千葉県立幕張総合高等学校@ラグビー
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成城大学経済学部経営学科@アメフト
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株式会社アサツーディ・ケイ
(ビジネスプロデュース3年、新卒採用2年)
事業構想大学院大学@MPD取得
成城大学アメフト部コーチ
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株式会社インサイドゾーン設立
偶然配達:https://lossflower.buyshop.jp
株式会社インサイドゾーン:https://www.inside-zone.jp
●得意なのはチームマネジメント、やりたいのは何かをつくること
—————浦住さんは、学生時代からずっとスポーツをやっていらしたんですよね。
そうです、福島で生まれて物心つく頃に名古屋へ、小学校から千葉に引っ越して小中学は野球、高校はラグビー。大学は成城でアメフトをやっていました。
大学では経営学科だったんですが特に経営に思い入れがあったわけではなく、受験科目で政経を選んだので受けられる学部があまり多くなかったからです。大学時代の思い出はアメフト一色です。
—————卒業して、志望通り広告代理店に就職されたんですよね。なぜ広告代理店だったんですか?
小学校から大学までやっていた主将の経験が大きいですね。中でも大学の部活動は学生が主体になって色々なチャレンジができる環境だったので、主将をやれたことが私の人生にとって大きな影響がありました。
基本はチーム全体をマネジメントして、勝利に導くというのが仕事だと思っていたのですが、試合に出られないメンバーや女性スタッフの方々にも居場所ややりがいを感じてもらうために、色々なベクトルのモチベーションを発見することも大切な仕事だと運営をしていく中で気がつく場面がありました。そのように様々な目的や個性を持った仲間のリーダーになることの難しさとやりがいを感じていました。
そこで就活の時に「代理店の営業職」を知って、まさにこれだ!!!と思いました。というのも、代理店の営業って小さいチームをいくつも持って、クライアントさんと対話を重ねて、課題に対して最良のソリューションやアウトプットをするチームのリーダーを担う仕事なんです。自分にぴったりだと思い、目指しました。
…というのは、実は就活の面接用の回答で(笑)。裏には、何かをつくる仕事をしたいという動機がありました。高校の時に文化祭で映画を作ったことがあって、それがめちゃめちゃ面白かった。アーティスティックでもなんでもないギャグ映画みたいなものだったんですが、文化祭の最優秀賞を獲りました。一種の成功体験で、あれをまたやりたい!という感じだったんです。
—————なるほど、これが現在の浦住さんにつながってくるんですね!
●成功の理由を言語化できない…危険を感じて「自主練」に
—————広告代理店では何かを「つくる」仕事もやっていらしたんですか?
いえ、そういうスキルがないので制作には携わる機会がありませんでしたね。でも、入社したアサツーディケイ(以下ADK)はもう若手からバンバンやらせてくれる社風で。会社のポジションは、電通さん博報堂さんの次の3番手です。
1年目は何だかよくわからなくて、2年目ぐらいから仕事の面白さがわかってきて、3年目になったら”なぜか”すごく調子が良くなった。たまたまですが、電通さん博報堂さんなどから仕事を取ってくるということが、起きました。
自分でもすごいな、と思ったんですが理由がわからない。客観的に考えてみて、マーケやクリエイティブなどスタッフの方たちがかなり優秀だったのでその力が大きそうだなと思いました。が、それ以上の粒度で勝因はわからず、これは危険だ、と思いました。
—————危険ってどういうことですか?
ずっとスポーツやっていた時の経験則なのですが、自分でなぜ成功しているのかちゃんと言語化できないのに活躍できている時って、すごく危険だなと思っていて…実力不足極まりないはずなのに何だかうまく行っている、これはおかしい、ラッキーパンチが続いているだけなら、すぐに終わるな、と。どうすればクライアントから「浦住さんと仕事したいからADKを選んでこのプランにした」というように、再現性ある形で選ばれるようになれるのか、考えなくてはと思いました。
もうひとつ、コンサルに近いような立場で仕事ができるようになりたい、とも考えました。たとえばある新商品が出る、よーいドン!で電通さん博報堂さんたちと一緒にオリエンを受けてプロモーションを考え、プレゼンの準備をして資料を徹夜で作る。とにかく疲弊するんですよね。クライアントさんと一緒に事業を考えられるようになれば、もっと楽しくなるんじゃないか。これはスポーツの時同様、「自主練」が必要だ、と感じました。
—————自主練、ですか?!
部活でそういう成功体験がありまして。成城大学のアメフト部は2部リーグで、1部リーグとは実力で大きな乖離があります。3年目に入る時に、1部の人たちがやっている合同合宿に滑り込ませてもらったんです。同学年でもすごく高いレベルでやってる人たちを見て「こういうふうにやったらうまくなるんだ」「これが僕になかった視点なんだ」と感じることが多かった。自己評価ですが、この合宿を経て僕は爆発的にうまくなりました。ただ運動神経が良くてやっているのではなく、アメフトがうまくなった、と感じたんです。
—————成功している時にその理由を言語化したい、という方に初めてお会いしました!
●書店でQRコードを読み込み、誰にも相談せずスピード受験
—————なぜ成功しているのか言語化するための選択肢として、大学院がすぐ出てきたんですか?他の選択肢もあったんでしょうか?
いや、しばらくずっとモヤモヤしていたんですよ。大丈夫か僕?どうすりゃいいんだろう? という気持ちを抱えながら本当に忙しくしていて、色々な納品を終えた1月ぐらいに真面目に考え、もうこの問題からは逃げられない、と思って書店に行ったんです。「宣伝会議」という業界誌をパラパラ立ち読みしていたら、たまたま事業構想大学院の広告が載っていて。その場でQRコードを読み込んで、一週間後には受験していました。
だから受験準備なんてまったくしていませんし、落ちたら落ちたでいいや、と思っていました。誰にも相談していなかったので、会社にOKをもらうまでもなく、受かってから慌てて事後報告して、3ヶ月後に入学しました。
—————行動力がすごい…!パートナーの方はどんな反応だったんでしょうか?
入学した後に奥さんとは付き合い始めたので、タイミングとして了解を得る必要はなかったんです。でもきっと理解してくれたと思います。息子が生まれたばかりで起業すると言ってもOKしてくれて、本当に毎日感謝しています。
●考えることに価値があり、答えには価値がない(場合もある)
—————実際に大学院に行ってみて、ご自身の成功要因は言語化できましたか?
結論としては、できずに終わりました(笑)。ただ、教授の方々と話した結果そういうことを考えること自体に価値があり、答えには価値がないのでは?と思うようになりました。この現象はなぜ起こったのだろう?この後どうなっていくのだろう?と自分の心に問うことに、大きな価値がある。考えたことが正解かどうかまったく執着しなくなりました。
考えていることが果たして正しいのか、わかったと思ったと同時にまたわからなくなって、また思案して動く。それが人生だしそれが楽しい。間違っていても引きずることはないし、ずっと楽しいんです。
それに、人や物をちゃんとリスペクトできるようになったんですよね。事業構想大学院では、自分のコアな価値観に紐づく事業案を出すことを求められるので、自分との対話をし尽くさなくてはならないんです。楽しい反面、辛くもあるのですが、たとえば新しい商品を作る方たちも同じように自分との対話を繰り返して企画し、挫折も経験しながら満足し得るものを作っていくわけですよね。ものづくりだけじゃなくて、ミーティングひとつでも何かを進めようとするプロセスの一部であることには変わりない。だからミーティングが結果としてうまく行ったかどうかに関わらず、何かを進めようとした相手も自分もリスペクトできる。すべてのプロセスに価値があるし、みんなすごい!と思うようになったんです。
—————そのリスペクトする気持ちは、浦住さんがもともと持っていたものではなく、大学院で得られたものなんですか?
持っていたかもしれませんが、スポーツではのし上がることが唯一のゴールだ、と思っていた時期もあります。仕事でもそういうところがあって、これが続くと辛いから視野を広げたい、と思ったかもしれないですね。そもそも自分の思考がそんなに大切だとは、思っていませんでしたから。
成功要因の言語化は果たせなかったけど、それ以上のものが得られたと思っています。と言うか「こういうスキルが欲しい」「ここに行けば起業できる」「転職が決まる」などの目的を達成するために行っても、おそらく何も得られず2年間過ぎていく。でも、そんなことよりよっぽど豊かな経験が得られる大学院だと思います。
もうひとつ学んだのは「判断を先送りにする」ことですね。たとえばある事件が起こった時も、その良し悪しの判断をすぐにひとつに絞って突き進まずに、この事件が何を指し示しているのかよく考えるべきだということです。物事でも人でも、価値があるかないか決めるのが早すぎるんじゃないか、考える幅が狭いんじゃないか。判断すると思考が止まってしまう、ということなんじゃないかなーと思います。
—————同じようなことを私も大学院で学びました。ググればすぐ答えが出てくるのに慣れて、答えを早く求めすぎている。白黒つける前に、グレーの世界に留まって思考することが大事だ、と。
スピードを求め過ぎるのは危険だ、ということですね。僕が大好きな先生の一人に、「非目的論思考」を提唱されている田浦俊春先生という方がいらっしゃるんです。非目的論思考って最初は理解が追いつかなくて、12回の授業を受けてようやく頭と心に入ってきたんですが(笑)。
事業アイディアを作る時には、まず解決したい課題があってそのためにどんな事業をやればいいのか、と目的から考えることが多いですよね。でも田浦先生は「パスタと納豆から事業案を考えよう」みたいな授業をされるんです。
田浦先生の思考は、僕より若い。大事なのはどれだけ生きたかよりも、どう生きたかということ。自分も一つひとつの物事に感動したり驚いたりして、自分の思考をアップデートしながら先生のように年齢を重ねたい、と思っています。
●自分にしかできないこと×社会に貢献できること
—————起業されたのは、大学院でビジネスアイディアを考えたことがきっかけだったんでしょうか?
そうですね、大学院に入る時は起業はまったく考えていなかったので、事業構想大学院に行っていなかったら起業していなかったと思います。
現在「偶然配達」はサプライズブーケを贈るサービスなんですが、その前は一定の金額を支払ってもらっていつ何が届くかわからないサービスとして、実験的に何回かやってみたんです。同じものが来た人同士で、チャットでコミュニケーションする。まったく必要のないものが届いたら、月に1回オフラインの「偶然市」に集まってもらう。
お金を払っているのにいらないものが届くかもしれない、という文脈を面白いと思えるような価値観の人たちに出会えたら話のタネになるんじゃないか。そのぐらいの気持ちで考えたんですが、このままでは属人的すぎて趣味の域を出ない、と感じて花のサービスに切り替えました。
—————なぜ花のサービスになったんですか?
奥さんに花を贈ったのがきっかけですね。本当に喜んでくれて、その喜びようと言ったら払った金額がすごく安く感じられるくらい。恥ずかしながら女性に花を贈ったのはその時が初めてだったんですが、正直なところそれまで花の価値をナメてたな、と思いました。
おそらく女性と男性では花に対して感じる価値に大きな差がある、そこにチャンスがあるかもしれない。これまでは起業する方は男性の方が多い印象だったので、新しいプレーヤーが少ないフィールドかもしれない、と思ったんです。
—————そもそも起業に踏み切るって、すごいことですよね。
ずいぶん考えましたが、起業は生き方の表明でした。自分がどうありたいか、考えた時に起業を選択したということです。
ADKという会社は大好きだったし、どんどん仕事をさせてくれるいい会社だったんです。ただ、社会を良くしているという実感はあまり多くは得られなかったし、自分でなくてはできないことをしている感覚も薄かった。会社としてはいつ誰が辞めても替えがきかなくてはならないから当然なんですが、自分の人生の時間を投下する対象として、どうなんだろう?と疑問を持ちました。このままでは自分が価値があると思っていること、社会にとって価値があると感じられることは、まったくできないかもしれない。起業するのが一番いい、と思いました。
起業してからは、本当に楽しいです。起業1年目より今の ほうが楽しいですし(笑)。ロスフラワー(茎の曲がりなどで規格外となり市場に出荷されない花)を少しでも減らすために花農家さんとお話しして、自分で仕入れた花を自分でアレンジして、お客さんに届けて、お客さんが驚いてくれて、笑ってくれて、また来月もお願いしますね!と会話して。こんな幸せな日々ってあるか?!と思います。
—————自分でアレンジもやってらっしゃるんですか?!すごい、何かをつくりたいっていう夢も叶えてるじゃないですか!
そうですね(笑)。これから新しいサービスとしてやりたいことも3つぐらいあって、タイミングなど画策しているところですが、「偶然配達」はライフワークとしてずっとやっていこうと思っています。
●大学院でたくさんのメガネを手に入れた
—————社会人大学院って、浦住さんにとってどんな場所でしたか?
場所としては、サードプレイスのような感じなんですが…大学院で得たものは何か、と考えると、メガネをたくさん手に入れた、という感じなんです。
赤く見えるメガネとか、遠くまで見える望遠鏡みたいなメガネとか、逆にまったく見えなくなって聴覚を研ぎ澄まさなければならないメガネとか。そして、最後には鏡になっていて自分が見えるメガネ、ですね。
—————最後は自分に返ってくる…
そうですね、自分のあり方を問われたということですかね!