実行主義で知識を技術に変える。 名古屋商科大ビジネススクール

働きながら学ぶ人を紹介する「先輩インタビュー」

今回は名古屋商科大学大学院で学ばれた、河西祐介さんです。

学部学生の頃からイベント好きで、社会人になって間もなく赴任先で企画を実現。新規事業について体系的に学ぶため入ったビジネススクールで、デザイン思考やエフェクチュエーションに出会い、実行力にさらに磨きがかかりました。新規事業創出支援を行うため起業し、社会課題を解決するソーシャルデザイン事業のためのメソッド開発にも取り組んでいらっしゃいます。

これから社会人大学院を目指す人も既に卒業した人も、得た知識を使い倒す「実行主義」の塊のような河西さんのお話に、大いに刺激されるはずです。

 

河西 祐介さん

新卒で生花店チェーンに入社、その後アスクル・NTTドコモを経て独立。現在はアイコニックビート株式会社を設立し、企業の新規事業など、組織のイノベーション創出支援を行う。また、様々な企業の中で活躍する新規事業担当者が集い、プロジェクト活動を展開する場として一般社団法人REIONEを設立し、国内のイノベーターが活動する為の組織を提供している。

卒業・修了した大学・大学院:名古屋商科大学大学院
入学年月日(年齢):2016年9月入学(33歳)
修了年月日(年齢):2018年9月修了(35歳)

イベント好きが入社2年目で花開く

————学部時代は経営工学科で、どんな勉強をしていらしたんでしょうか。

プログラミングや経営管理などが中心でしたが、当時は同じバンドルに人間工学が含まれていたので、3年生からはそちらに軸足を置きました。卒論では、運転中に視野を外していい時間を算出する研究をやりました。運転者は前を見て運転していますが、目を外しても安全な時間を算出するという研究で、確か3秒ぐらいだったと記憶しています。最終的に、自動車メーカーに研究データを提供しました。



————それで卒業後の進路が生花業の日比谷花壇さん、というのは意外です。

先生にも驚かれましたが、当時は就活が非常に厳しかったので、受かった会社に行くのが良いだろうというのが正直なところでしたね。それ以前に漠然とですが、研究領域より経営やビジネスのほうに興味があったんです。実は大学ではダンス部に入って運営をやっていて、イベントを企画したりするのが好きでした。プロデュース業に憧れがあり、就活でもそれを意識していました。

入社した日比谷花壇は生花店の中で最も規模が大きく、帝国ホテルさんや高島屋さんなどハイエンドな所に店舗を構えています。僕自身も20代前半までは縁がありませんでしたが、就職すると言ったら親や祖母がとても喜んでくれました。

もちろん入社してすぐに企画やプロデュースを担当できたわけではなく、最初の3年ぐらいは現場経験を積むため茨城の水戸にあるホテルに配属されました。結婚披露宴にお花を用意する裏方仕事で、披露宴前日の夜に、会場設営のために従業員用の通路を走り回ったりしていました。

でもやはり何か企画をやりたくて、2年目に始めたのが披露宴のキャンドルサービスで使ったキャンドルの再利用です。ほんの少しの間しか点灯しないのに、当時は一度使っただけで産廃として、どんどん捨てていたんです。それを県庁や地元の商工会さんにお声がけして、地元のエコイベント、水戸芸術館のキャンドルナイトのために原材料として無料で使っていただくようにしました。着任当初はまったくのよそ者であった私も、いつの間にか、地域のコミュニティの一員として、温かく輪に加えていただけるようになりました。



————入社2年目でもうそんな企画を実現したなんて、県庁や経営者の方たちのところへ足繁く通う、など何か特別なことをされたんですか?

いえ、それまでは原材料費がかかっていたところへ無料で提供します、という申し出をしたわけで、たまたま思いついたことが先方にとっては損がない話だったから形になったんだと思います。ただ、この企画が社内イントラ上に掲載され、当時の社長がコメントをくれたのです。そんな期間を経て、その後は本社のインターネット通販の部門で企画職として従事することになりました。

うっすらと意識に残っていた勉強への思い

————アスクルに転職されたのも、新しい企画や新規事業をやるためだったんでしょうか?

そうですね、非上場企業から上場企業にチャレンジしてみたいという気持ちで転職先を探していました。アスクルの面接を受けた時に後々自分の上司になる方に出会い、入社が決まりました。この方は、とても丁寧にコミュニケーションをしてくださる方だったんです。僕がこういうことやりたい、と話すとやってみろ!と言ってくれるんですが、実はいつも裏で細かい調整を全部終わらせてくれている。僕は全部自分でやりきったつもりになっていて、後で「そうだったんだ!」と気づき、その瞬間に一気に成長する、という実感がありました。

その上司のスケジューラーは、毎日夕方4時半以降が非公開になっているんですよ。おそらくわからないようにどこかへ行って、いろいろ調整してくださっていたのだろうと思います。今も自分のロールモデルとして頭をよぎる、すごい方でした。



————アスクル時代に大学院へ進学されたわけですが、何かきっかけがあったんでしょうか?

実は日比谷花壇でEC事業を始めた頃にも、勉強したいと感じたことはありました。当時外資系企業の方と仕事で接する機会があって、マネージャーになる時はMBAが資格のボーダーになっていることや大学院のことを聞いていたんです。自分とは違う世界だなと感じた反面、うっすらと頭に残っていました。アスクルに転職して少し年収が上がったのですが、その時も生活水準を維持して差額を少しずつ貯めていたのは、いずれ機会があればと思っていたからのような気がします。

ただしそれは明確なものではなく、はっきり体系的に勉強したいと思ったのはアスクル入社から3〜4年目の頃です。新規事業がもう新規事業でなくなってきて、振り返った時にそれまで自分がやってきた新規事業が数としては少ないことと、見よう見まねで人に教えてもらいながらやってきたことに気づいて、体系的に学んでみたいと思いました。

「型」の手前の論点に気づいた公開授業


————
なぜ名古屋商科大を選ばれたんですか?

名古屋商科大にはイノベーション寄りのコースとマネジメント寄りのコースがあり、新規事業ならイノベーション寄りのコースだろうと考えて公開授業を見に行きました。ちょうどそのコースの初日の授業だったんですが、入学したばかりの人たちが「良いブレーンストーミングとは何か」というテーマでワークをしていて。しまった、そういうところから学び直さなければいけないのか、と良い意味でのショックを受けたんです。



————なるほど、ブレストにも新規事業を立ち上げるための型につながる、お作法があるということですね。

テーマの設定とかどれくらい経験者がいるかなど実験のようなこともやっていて、新規事業の新しい型を探したいなんて言うレベルじゃない、と気づきました。それ以前にもっと大きな論点がわかってなかったじゃん、型とか何カッコつけて言っちゃってんの河西?!って自分で自分に問う、みたいな(笑)。

グロービスや母校の法政も検討しましたが、その時のセンセーショナルな体験が大きくて、名古屋商科大で学びたいと思い半年後に入学しました。他の大学院にも同じような授業があったかもしれません。でも結局、生で見たあの授業が刺さって、その時の先生が僕のゼミの先生になりました。

得た知識を技術に変換する

————大学院在学中の2年間は転職せずにずっとアスクルにいらしたんですか?

いや、もう一度ちょっと外でチャレンジしたいなという思いがあって、最後の半年で転職しました。名古屋商科大でデザイン思考の演習科目を履修して自分のものにした感覚があり、そのタイミングでちょうどドコモでデザイン思考をベースにした社内新規事業制度づくりをする人材を外部から募集する、という案件を紹介されたんです。すごいタイミングで、こんなことがあるんだ!と。大学院の学びが活きて、そのおかげで転職できたと思っています。



————デザイン思考以外にも現在のご自分に影響が大きかった学びはありますか?

エフェクチュエーションですね。あの考え方は、自分を肯定してくれている感覚を持ちました。持っているものから始めて小さくてもカタチにして、人の力も存分に借りて、というやり方は自分でもやってきましたから。

もともと大学院で学んだことは必ず在学中に1回は実務で試してみる、と決めていて、授業で学んだ新規事業の作り方の中には、残念ですが概念的で実践には適さない、もしくは使うにはコツが必要だと感じるものもありました。でもエフェクチュエーションは試していくうちに、自分の副業のようなものがスタートしていきました。

一般社団法人を作ったのも、エフェクチュエーションの実践ですね。仲間と集まって自分たちがやってみたいことを整理して小さくやってみよう、できたらそれを元手にまた次をやってみよう、と進むうちにまあまあな規模になってきたんです。方針めいたものをドーンと決めて、そこに向かって進んできたわけではありませんから。みんなでピザ食べて飲んでるだけだった会が、今は行政機関から数千万円の案件を受注して烏合の衆でこなしていくみたいなことをやっている。信じられないですよね。数年前どころか数ヶ月前ですら、今やっていることをイメージできていませんでしたから。



————学んだことを試してみる、って大事ですね。

ある先生が「最近MBAがマイルドヤンキー化している。理論武装して言うことだけ変わって、何も作り出さない人間を増やしていることに難色を示したい」とおっしゃっていたんです。僕は絶対にそうなりたくないし、お金を使って自己投資しているわけですから、表現だけが変わってやることが変わらないというのはあり得ない、と。じゃあどうすればいいか考えたら、試して自分のものにできるかどうか確認するのが一番早い。アスクルにいた時に、勉強したがっている新卒の子たちを集めて「河西塾」みたいなものを勝手に作っていたんですが、うろ覚えの適当な知識では教えられません。だからまず、ちょっと試してみる。使い方がわかると学びは深まるし、知識として得たものを技術に変換して出すことができます。



————知識を技術に変換!いい言葉です。

デザイン思考も試してみたくて、地元のコワーキングスペースのピッチイベントに出たことがありました。大手企業在籍のビジネスかぶれが何言ってるんだ、とほとんどの方からバンバン言われたんですが、一社だけ手を挙げてくださって。その方には頭が上がりません。あれがなければ多分、ドコモへの道はひらけなかったと思います。



————実は卒業後に学びを実務に活かすことができない、という悩みを持っている方がかなり多いんです。MBA不要論みたいなものを作り出しているのはMBA取得者自身ではないか、と思っています。学んだ知識を溜め込まずに使って世の中に還元する、小さくていいから何かを始めてみる、ということを皆が当たり前にできるようになると良いですよね。

社会デザイン領域のインキュベーションを模索中

————ドコモでは、現在のご自身の事業に近しい新規事業制度の設計をされたんですよね。社外へ出て自分でやろうと思ったきっかけは、何だったんでしょうか?

まず自分自身も制度運営の当事者であり、需要が身の回りにあると確認できていたことですね。周囲で同じ役割を担っていた他の大手企業の方々も、みんな手探りで、制度を導入した企業も正しい解にたどりついていない状態でした。企業間の交流イベントでドコモの制度について質疑を受けたり、副業OKなら手伝ってほしいと声をかけていただいたりしているうちに、客観的に見て自分にできることがある、と感じるようになったんです。当時から、多くのこうした制度のデザインを手がけられていらっしゃる大先輩がいらっしゃいました。その方の支援の姿勢は大いに影響を受けました。勝手に師弟関係のつもりでいます。もともと起業を目指していたわけではないのですが、できるかもしれないと思ってからは早かったです。今はコンサルとして制度導入やその後の事業作りの伴走もやっています。やっぱり現場が好きなんです。



————こういう経緯も、エフェクチュエーション的ですね。常に実践。

そうかもしれません。ちょっとおせっかいでやってみたり、やるかやらないか迷ったら「やる」という選択をしたことが、後々大きく影響しているような気がします。

新しくやりたいことが出てきたら、どうやってそれを叶えようか奔走するタイプなのですが、最近興味を持っているのは社会デザインの領域で起業する人のためのインキュベーションメソッドです。社会課題に対して従来の資本主義だとマネタイズが難しい、資本主義のルールの中での意味づけが難しいビジネスを、ゼロから作る時に、どんな手法があるのか。体系化してみたいという思いがあります。



————えれキャリもリカレント教育を日本でアップデートするというミッションを持つ社会デザインのひとつなので、河西さんから学びたいです!

ビジョンを持って大学院で学んでほしい

————ご自身にとって、社会に出てから学ぶことってどんな意味があったと思われますか?

やりたいことを叶えるためですね。まずやりたいことがあって、大学院はそれを実現するための場所でした。



————色々な人が色々な考えのもとで大学院へ行くという選択肢にたどり着くと思いますが、河西さんはどんな人に進学を勧めますか?

成果を上げたいなら、学んだことをどう生かすか、先にビジョンを整理しておくほうが良いと思いますね。全部決め切らなくても、漠然としていてもいいんです。タイトルとしてMBAを取りたいという方もいらっしゃると思うんですけど、僕のメンタリティだとそれではちょっと難しい。タイトルがモチベーションだと、アクティビティがハード過ぎるんじゃないでしょうか。

僕は、同じ名古屋商科大に通っていた人の平均よりも少しハードに勉強していたと思います。でも、やりたいことがどんどん見えてきていましたし、こうなったらいいなというイメージが湧いてくるからハードな生活にも耐えられました。学生間では、よく、単位が取りやすい授業に行こうというコミュニケーションもありますが、単位が取れなくても自分の糧になりそうだったら受けた方がいいですよね。ただ、きれい事では済まない。それに耐えうる体力と気力を注がなくちゃいけない。ビジョンがなければ行動できない、と感じました。



————人生で大切にしていることを「実行主義」と回答してくださいましたが、具体的にどういうことなのか、聞かせてください。

無理だと言われたことや自分でも無理じゃないかと思ったことも、やってみたら道がひらけた。僕は何度かそんな経験をしてきました。人間っておかしいですよね、もしかしたらうまく行くかもしれないと思うことに賭けてみたくなる時があるんです。感覚が麻痺するのか、不思議と足を踏み入れてしまう。たとえその時はうまくいかなくても、次の機会に活きたり次の縁を呼んできたりしたこともあります。リスク分析を緻密にやって意思決定していたら、おそらく得られなかっただろうものが転がってくる。だから、大やけどはしませんが「やってみる」ということを大事にしています。



————社会人2年目で県庁や商工会を回ったのも、つまるところは実行主義。ここに集約されるんですね。

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