難しいことを紐解く。デザインと教育の掛け合わせ 社会構想大学院大学 実務教育研究科

社会人大学院の経験談を紹介する「先輩インタビュー」
今回は社会構想大学院大学 実務教育研究科を修了された中島 亮太郎さんです。

普段は、デザイナーとして働いている中島さん。デザイナー視点から教育に携わることでなにか見えてくるものがあるのではないかと思い進学を決意しました。中島さんがおすすめするアウトプットの方法や進学予定の方へのアドバイスなどたっぷりお話をうかがいました。



中島 亮太郎さん

デザイナー。札幌市立高等専門学校を卒業後、武蔵野美術大学に編入しデザインを学ぶ。卒業後はデザイン事務所、医療機器メーカー、ITベンダー企業を経て、Concentrix Catalyst(旧Tigerspike)にてデザイン・ディレクターを担当、2024年5月に独立。ユーザーとビジネスをつなげるプロダクトやサービスのデザイン戦略や体験設計を専門とし、個人活動では2021年9月に書籍「ビジネスデザインのための行動経済学ノート」を出版。

卒業・修了した大学・大学院:社会構想大学院大学 実務教育研究科
入学年月(年齢):2023年4月(43歳)
卒業予定年月(年齢):2025年3月(45歳)

デザイン領域で渡り歩いてきた中島さんのキャリア

—————まずは、今までのご経歴を教えてください。

北海道出身で、札幌市立高等専門学校を卒業しました。その後武蔵野美術大学に編入します。どちらの学校でも、デザインの勉強をしていました。



—————卒業後は、どのようなお仕事をしていたのでしょうか?

卒業した後は、デザインの仕事で4社ほど経験をしています。最初はデザイン事務所に2年ぐらいいて、その次は医療機器をつくる会社に5年弱勤務していました。その後、IT系の企業に入って、ビジネス領域のデザイン業務を担当するようになりました。今はUXデザイナーとして、企業でクライアントワークをしています。



—————けっこう長くデザインの仕事に携わっているんですね。

大体22、3年くらいです。デザインといってもジャンルがまったく違うので、20年以上いても、飽きないんだと思います。



—————デザインをするうえで、中島さんが大切にしている軸みたいなものはありますか?

私僕の軸は「使う人のために、デザインで何ができるかと問い続けること」です。例えばモノ物であれば、使いにくいものを使いやすくしようとしていますし、サービスもどうしたらユーザーが楽しく使いたいと思えるかなと考えています。デザインを使って、難しいを紐解いていくことがすごく好きで、日々書いているnoteにも共通している部分です。




—————今の話を聞いて、だから本やnoteみたいな絵が描けるんだなと、すごくしっくりきました。

僕はイラストとかを書く人間にしては、ちょっと理屈っぽいタイプだと思うんです。しかし、理屈で整理する人間からするとイラストを描くような砕けた感じなので、ちょうどいいバランスでやっています。



進学のきっかけはデザインと教育の掛け合わせ

—————進学のきっかけについて教えてください。

デザイナーが教育に関わったら、面白いことができるのではと感じたのがきっかけでした。ちょうど娘が中学受験に向けて準備している姿を見て「大人になって学校の勉強を見てみると、勉強はすごく面白いものだな」と思ったんです。

当時は行動経済学のことを学びながら、noteで発信していて、本の出版までできたところでした。次のテーマを探しているタイミングでもあったんです。



—————どのようなところで面白さを感じたのでしょうか?

例えば、理科の電気が流れる仕組みやてこの原理、算数の問題の解き方、社会の地理などです。大人になっても知識や考え方は役に立つし、知的好奇心という観点からも単純に面白いなと見ていて思いました。

ただ、本人からすると「勉強=大変なもの」という考えがあるみたいで、すごいもったいないなと思っています。もっと勉強って楽しくできるものですよね。教え方や面白さが先生によって異なる中で、もっと楽しく学べる方法ってあるんじゃないかなと感じました。



—————そこからデザインと学び方の掛け合わせにつながってくるんですね。そこから大学院で学ぶ必要があると思った経緯はどのようなものだったのでしょうか?

行動経済学は自分が携わるビジネスの領域とつながりがあったので、本を読んで独学で学んでいたんです。しかし、教育や学習の分野は素人で、本を読んでもあんまりわからないと感じました。独学ではなく体系的に知っておかないと、独りよがりなことしか考えられないと感じて、大学院進学を決意しました。



—————最初から学校に行って体系的に作られたプログラムを受けるのがいいかなと思ったんですかね。

行動経済学は結構デザイン要素が強いので、独学でも問題なかったのですが、教育の分野は本を読むだけでは深いところまで分からないと感じていました。

行動経済学の場合は、デザイナーや商品企画をする人が扱ったらどうだろうかと考える立場だったので、自分の軸を変えなくても探求できました。しかし教育の分野はデザイナーがいきなり入れるわけではないので、文化そのものを正しく知る必要があったんです。



知の理論で基礎を学んだことで理解が深まった

—————現在、学んでいることを教えてください。

現在は基礎固めを目的に科目を選んでいます。例えば教育学基礎理論や社会学基礎理論、認知学習論、インストラクショナル・デザインですね。僕は基礎的な講義を中心に選んでいますが、ビジネスにおける教育分野を学びたい人向けに、組織論などを教えてくれる科目も用意されています。



—————なるほど、結構幅広いんですね。1年目が終わってどうでしょうか?

基本を身につけて、情報の吸収量が変わったことはとても良かったです。

日本で出版されている教育関係の本は、正直すごく難しいです。知識なしで読んでも、頭に入ってきません。しかし、大学院で体系的に知識を身につけることで、本が読みやすくなりました。



—————1年間過ごしてみて、面白かった講義を教えてください。

面白かったのは、知の理論です。知の理論とは、知識を身につけるとはどういうことかを知る講義です。セオリー・オブ・ナレッジと呼ばれていて、国際的な教育プログラムの1つとして認定されています。なぜ人は知ろうとするのか、知識は世の中でどう活用されてるのかとか、何をもって知ると言えるんだろうかなど、メタ的なところから知るということを考えます。

例えば、知の理論では「知る」には8つの方法があります。

引用:note ジマタロ「知るための方法(知の理論)


新しい何かを知る想像があれば、感覚的に知る知覚などです。知るという言葉1つでも、いろいろな違いがあることは考えたことがなくて新鮮でした。人間ってこれだけ幅広く知るを使いこなしてるんだとわかると「情報蓄積する=人の学び・知識」というわけではないことが理解できて、とても面白かったです。

中島さんが知の理論について解説しているページはこちら



—————確かに、想像や直感とかも知るっていうことだと考えるとそうですよね。知の理論は一番最初の授業で必修ですか? 

必修です。学ぶことや教えることの前提をまず理解する意味で、必修になっていると思います。最初はすごくメタ的な話なのでよくわからない状態が続くのですが、知の理論の世界に慣れてくると思考が抽象と具体の間を行き来できるようになり、面白くなってきます。もし、知の理論を知らないままで、いきなり自分の研究テーマとかに入っていくと、すごく紋切り型になってしまいます。自分の知識の狭さを思い知らされた講義で、とても刺激的でした。



—————面白いですね!他にも面白かったことがあれば教えてください。

学問の基礎を学べたことが大きいです。教育の分野では、以下の3つの学問がベースになっていると言われています。

  • 知の理論
  • 教育学
  • 社会学

何かを学んだり、教えたりするにはまず知るとはどういうことかを理解します。これが知の理論。

引用:note ジマタロ「知るとはどういうこと?(知の理論)


次にこれまでに人は歴史の中でどのように学んできたかということから、どのように教えるか、学ぶかを知る学問が教育学。学んだり教わったりしたことが、暮らしや世の中にどう影響を与えるかという観点で学ぶのが、社会学です。

引用:note ジマタロ「教育と社会はすごく関係する(社会学基礎理論)


教育の基礎学問のつながりについて理解できたことも大きいです。



—————1年間通ってみて、大変だと思ったことはありますか? 

平日、仕事の後に授業があるのは大変ですね。21:40に授業が終わるので、その後はほとんど頭がまわらず何もできません。土曜日も授業があるので、時間は取られます。またnoteの更新もあるので、時間の確保は大変です。なのでなるべく日曜日には、ゆっくり休むようにしています。

ただnoteを毎週欠かさずに更新したことで、学習効果が実感できました。学んだことをアウトプットする場所を用意しておくことは、おすすめです。学習・教育の基本で、自分が他人に教えられるレベルになっている状態で初めて知識が自分のものになります。ばくぜんと授業を受けて、ノートにメモをしている状態だと、知識を蓄積するだけになってしまいますよね。これをSNSで発信するとなると、誰かに伝えられることが必要となり、理解度も一段階上がると思います。そういった意味でnoteでの発信は、良い学習効果が得られていますね。

これから大変だろうなと思うのは、学習スタイルを変える必要があることです。今は基礎だけで、自分の研究テーマについて積極的に調べることがありません。どちらかというと教えてもらうほうが多かったので、これからはこの学習スタイルだけでは通用しないと教育学を通じて分かったので、モードチェンジが必要です。



研究テーマは「創造性と学習」

—————今はどのようなことを研究しているのでしょうか?

創造性と学習をテーマにしています。

引用:note ジマタロ「創造性と学校教育の課題を考えてみた(教育社会学)


一昔前の教育では、創造性というキーワードはあまり重要視されていませんでした。しかし現在では、学校教育のなかでも創造力を高めて自分の好きを突き詰めることに関心が高まっています。創造性と学習は密接な関係があると思ったので、このテーマにしました。


—————創造性にフォーカスしようと思ったのは、入学してからですか?

入る前から考えていました。入る前は漠然と学習には創造性が足りてないから、必要だと思っていました。しかし、実際にいろいろ大学院で教わったり、調べたりしていくと結構、現在でも実践していることが多いのがわかりました。例えば文部科学省は、今必要なことや課題意識はすでに全部捉えて既に施策を打ち出しています。なので、僕がこうなんとなく思ってることはすでに取り組まれていたんです。

そのため、そこから先を見据えるにはどうするかみたいな研究テーマになりました。



—————創造性教育は、何が実践できないハードルになってるんですか?

今までは、テストで高い点数を取る勉強方法が主流でしたが、これからは自分で答えを見つけ出せるスキルを得ることが重要視されます。今の学校教育では、創造性を身につけるためにいくつか施策を実施しています。

例えば、探求学習ですね。自分でテーマを設定して調べて発表する勉強方法です。しかし、僕の考察だと今の探究学習では、創造性が十分に発揮できていないかなと考えています。多くの授業で見られる探究学習の最後は、結果を模造紙にまとめて発表するタイミングがありますが、創造性という側面から見ると、それだけでは不十分だと思っています。発表を踏まえて、自分たちはこう考えるとか、仕組みをこう変えてみたらいいのではないか、と提案するまでがセットになると、創造力が養われてくるのではないでしょうか。

また、先生側が創造力について教えられた経験がないと、生徒に向けてその能力を補うような授業ができません。なので、現時点の日本の学校教育の方針だけでは創造力について教えることは難しいのかなとも思います。

引用:note ジマタロ「創造性は教えることができるのか?(認知学習論)


—————確かにそうですね。これは、実務経験のある教員が小学校・中学校・高校に行くしかないのでしょうか?

僕の研究テーマがちょうどその部分です。実務家の人がどんどん入っていってサポートするというのも良いですが、どうすれば創造力を養えるか学習モデルや仕組みを考えて提示することも一つだと思います。先生方ができるようになるきっかけを作りも工夫をすればできるかなと考えています。



—————授業の進め方みたいなものをモデルを作るっていうことですかね?

ここはまだ今僕も研究中ではありますが、創造力はなかなか身につけるのは難しいと思われているなかで、デザイナーたちはアイデアを想像する方法論を身につけて、トレーニングをしています。このようなデザイナーが習得してきたことを、学校の授業に取り入れることができるかもしれません。

教師が教えることだけに凝り固まらずに視点を変えれば、学校で創造力を高める授業が実践できると考えています。



—————ビジネス領域に結構ヒントが落ちてるかもしれないってことですかね?

はい。デザイナーの創造力の高め方など、専門的な職業ならではのスキルを習得するための方法には、活用できることがたくさんあると思います。

ただ、実務家だけが無闇に教育現場に切り込むことは危険です。教えるということには責任があり、下手すると洗脳になってしまいまいます。間違ったことを教えると、間違った知識がどんどん広まってしまいます。反面、今の先生方は教員免許を取ってるので、教育プロセスはしっかりしていますよね。

なので、実務家教員に任せっきりにするのではなく、協力体制を取ることが大切です。

おすすめはテーマの先取り学習!学びを気軽に捉える

—————中島さんが入学前に戻れるなら、こうしておけば良かったと思うことはありますか?

正直、あまりありません。しいて言えば、もっと早く大学院を見つけられていたらと思っています。相談する人と多く出会うことができたらよかったかもしれません。

入学前にやっていて良かったのは、先行してデザイナーの学習をテーマに自分で調べていたことです。結果的に、授業の内容の解像度が高まりました。前提が何もない中で聞くよりも、ある程度自分が調べたり、学んだりして授業を受けると調べてたことはこういう意味だったのかと話がつながって、理解が深まります。



—————面白いです。テーマを持って先取りすることで、授業の内容が入ってきやすくなるんですね。これは入学を控えている方におすすめですね!

はい。おすすめです。



—————大学院に進学する方へアドバイスがあればお願いします。

進学する方に伝えたいことは、3つあります。1つは学ぶ目的を決めておくことです。明確な目的があることで、授業内容をしっかり自分ごと化して落とし込めます。自分のテーマと授業で知った知識が結びついたときに、活用方法など新たな発見が生まれるので、学習ももっと楽しくなります。

2つ目は、他の人がやっていない少し変わった領域に取り組んでみるということです。先行モデルやお手本がないと、不安になると思います。しかし、先行テーマから独自性の高い研究テーマを見つけるのはすごく大変です。自分のテーマの着眼点がユニークだと、のびのび研究ができるので、むしろ勉強が楽しくなります。

3つ目は、気軽な気持ちで進学してほしいということです。社会人大学院では自身のビジネスの課題を解決するために、大学院に進学する人が多いと思います。それも正解ではありますが、僕のように興味の向くままに勉強するのもおすすめです。自分がやりたいことを学べるので、純粋にそのテーマを楽しく考えられます。仕事と学びで気持ちが切り替えられるのもメリットです。なので、必ずしも実務と大学院を結びつける必要はないと思います。



—————そうですよね。興味があるからという理由で進学してもいいと思います。最後になってしまうのですが、中島さんから伝えたいことはありますか?

僕にとって学ぶとは、すごく楽しいことです。大人になるといつの間にか学ばなくなってしまいますが、僕にとっては娯楽よりも学ぶことのほうが飽きません。誰でも何かを知って学ぶ面白さを感じた経験はあると思います。学ぶことに抵抗がある人こそ、面白かった体験を思い出して、自分の興味関心のままに勉強してみてほしいです。



—————ありがとうございます。学んだら年収が上がるのかみたいな話になることが多いですが、学び自体が楽しいものだと広まってくれたらと思います。

昇給などを考えながら学んでいるとすごく短期的な視点になり、既定路線の中でしか効果を発揮できません。それは、あんまり面白くないかなと思います。



—————創造力ともつながりそうですね。本日は貴重なお話ありがとうございました!






執筆者:堀口 祥子



Elephant Letter

毎月、大人の学びに効くコンテンツをお届けします。

ステータスを選択してください

Elephant Letter

毎月、大人の学びに効くコンテンツをお届けします。

ステータスを選択してください

Elephant Letter

毎月、大人の学びに効くコンテンツをお届けします。

ステータスを選択してください
コメントを残す

CAPTCHA


関連キーワード
おすすめの記事