働きながら学ぶ人を紹介する「先輩インタビュー」
今回は、2021年9月からニューヨークにあるコロンビア教育大学院で成人教育と組織心理について学んでいる保倉 冴子さんです。
ウェディングプランナーの経験を通じ、人々が、自分の人生や日々の生活を深く内省する機会を日常的に作りたいと思い、成人教育に興味を持った保倉さん。なんと0歳児を連れて(!)のワンオペ海外留学中。子育てをしながら、ご自身のビジョンの実現に向かって奮闘する毎日で、どんなことが起きているのか詳しくお聞きしました。
明治大学の法学部を卒業後、新卒で大手電機メーカーに入社しR&Dのプロジェクトマネジメントを担当。その後、ブライダル事業を手がける株式会社CRAZYでウェディングプランナーを担当。現在は、コロンビア教育大学院で成人教育と組織心理について学んでいる。2021年に第一子を出産し、0歳の息子とふたりでワンオペ海外留学奮闘中。@SaekoYasukura
コロンビア教育大学院 成人教育・組織心理
入学年月日(年齢):2021年9月(30歳)
卒業年月日(年齢):2023年5月(32歳)
●大人でも学び変化し続けることができる
———— まずはサエコさんの簡単なご経歴からお聞きしてもいいでしょうか。
明治大学の法学部を卒業後、新卒で大手電機メーカーに入社しました。配属されたのがR&Dのプロジェクトマネジメントを担うチームで、同じ課には私しか女性がいないような場所で鍛えられました。その後、株式会社CRAZYというベンチャー企業に転職をして、現在の大学院進学を選択するところに繋がってきますね。
———— 電機メーカーからウエディングプロデュースなどを行うCRAZYさんに転職されたんですね。このキャリアチェンジのきっかけは何だったのでしょうか?
いま振り返ると、私が自分自身のことをちゃんと理解せずに電機メーカーに入社したのがそもそもの発端だと思います。自分の長所や強みを活かせている感覚がなく、働きながらどこかでずっとモヤモヤしていました。かといって、どうしたらいいのかも分からない日々が続いていたのですが、ある日CRAZY創業者の山川咲さんの本に出会いました。CRAZYは、お客様一人ひとりの人生を表現する完全オーダーメイドの結婚式やイベントをプロデュースする会社でした。その人が持つ素晴らしい部分や本来の姿を引き出し、活かしていくことを、サービスとしてもカルチャーとしても大切にしています。それが本を通じて伝わってきて、「ここに入りたい!」と思ったのが最初のきっかけです。
———— ウェディングそのものというより、会社の考え方そのものに共感されたんですね。もう少しお聞きしたいのですが、そこから大学院へ進学しようと思ったのはなぜですか?
ウエディングプロデューサーの仕事で一番好きだったのは、新郎新婦がこれまでどのような信念を持って生きてきたのか、この先の人生をパートナーとどう歩んでいきたいのか、といった価値観などを「問い」を通じて棚卸しするプロセスに関われることでした。そして、新郎新婦のオリジナリティを、装飾や当日のコンテンツに落とし込んで、たった一つの結婚式を創り上げる、そんな素晴らしい仕事に大きなやりがいを感じつつも、1つの結婚式をつくるには多くの工数と時間がかかります。結婚式という特大レベルのライフイベントを経験しなくても、自分自身の本音や感情と向き合い、人生の手触り感を持つきっかけが、日常のなかにもっとあるといいなと思うようになりました。
そんなことを考えていた時期に、たまたま夫の薦めで成人教育や成人発達理論の存在を知りました。成人教育は日本ではなかなか耳なじみのない言葉ですが、仕事や人間関係、コミュニティでの関わりや自己内省の先に、大人になってからも目的を持って学び、変化をし続けることについて理解を深める領域です。人が生涯を通じて学び変化し続けることについて、もっと知見を深めたいと大学院進学を決めました。
———— そのなかでも海外の大学院へ進学を決めたのは何だったんですか?
まず成人教育の分野は海外の方が選択肢が多かったことが1つの理由ですね。それと大学生の頃にアメリカに留学経験があり、「もう一度アメリカに行きたいな〜」という想いもありました。ちなみに戦略的な観点ですが、誰もが知っている大学院に行ったほうが、卒業後の進路の幅が広がるのではという考えも少しありました。5つぐらい選択肢が挙がった中でコロンビア教育大学院には100個ほどのプログラムがあり、その中に学びたい領域にぴったりのものがあった点も1つの決め手でした!
参考)サエコさんが出願した5校
①Teachers College Columbia University : Adult Learning and Leadership
②Harvard Graduate School of Education : Human development and Education
③Pennsylvania Graduate school of Education : Interdisciplinary Studies
④Tufts Graduate School : Educational Studies
⑤UC Berkley graduate school of education:Learning Sciences and Human Development
引用:Saeko Log「海外大学院出願までのプロセスについて」
●出願準備さえも学びのプロセスだった
———— 出願までの準備はどういったことをしたんですか?
海外大学院受験は、とにもかくにもTOEFLのスコアがなければ話になりません。トップスクールは基本的に100、ハーバードは104が足切りラインでした。20年1月に本格的に勉強を始めてから、毎日5時間はTOEFLの勉強をしていましたね。始めのうちはスコアが伸びますが、90→100と100→105のスコアの壁が高くて、精神的にかなりやられました。(笑)
参考)サエコさんの出願までのプロセス
19年7月 海外大学院進学を決意
19年8月 TOEFL1回目受験(ノー勉。65点)
20年1月 TOEFL勉強を本格的に開始、1月末に2回目のTOEFL受験(83点)
2020年7月 TOEFL102点
2020年8月 エッセイ準備開始 / 奨学金申込準備開始(伊藤国際・CWAJ:全部だめでした)
2020年11月 推薦状準備開始 / エッセイ準備を引き続き
2020年12月 WES / ECEへTranscript送付、TOEFL106点、UB Berkley出願完了
2021年1月 各大学院へのアプライ完了
2021年3月 Teachers College、Harvard Graduation School of Educationに合格
引用:Saeko Log「海外大学院出願までのプロセスについて」
———— 振り返ってみて準備期間はどんな時間でしたか?
準備そのものが人生が変わるきっかけでもあったなと思います。私は出願の際に提出するエッセイはしっかり書こうと決めていたので、内省を深めていき「どんなビジョンを持って、どういうことをしていくのか」をかなり明確に言語化したんですよ。CRAZYでの仕事でお客様の価値観を掘り下げることは行っていたので、自分に対して問いを投げ続ける時間でした。そのプロセスによって、進む方向が定まった感覚がすごくあります。実際、入学して1年弱経ちますが、どんな授業が大事か、どんな人と話し、どういう資格を取ったらよいかなどを全てビジョンに紐づけることで、ぶれずにここまでやって来れていますね。
●ワンオペ海外留学のリアル
———— 大学院での学びもお聞きしたいのですが、その前に0歳児を連れて大学院生活を送るというのが未知すぎて、どうやっているのかなと...
大前提として、子連れのワンオペはあまりおすすめしないですね。ちょっと大変すぎるので(笑)。8時から15時半まで息子を保育園に預けていて、その間に私は自分の勉強をしています。大学院に通う人専用の保育園もありますが、そこではなく一般の保育園に入っています。事前にTwitterを介して知り合ったその当時、コロンビアに在学中だった方がおすすめしてくれて。紹介してもらった保育園に連絡したら、保育園側もzoomでキャンパスツアーしてくれて、そこに決めちゃいました。
———— 授業はオンラインでなく大学に行って受けているのでしょうか?
基本的にはそうですね!zoomの授業もたまにありますが。私の受けているのが「Adult Learning and Leadership」という大学院の中でも平均年齢高めのプログラムで、社会人をしながら学位を取ってる現地の方が多いんですよ。なので、授業もフレキシブルなところが多くて。例えば、毎週 1 回ではなく、月 1〜 2 回、金曜と土曜に8 時間ぶっ続けで授業があったり。なので、やりくりは割としやすいほうかも。
———— ニューヨークという土地柄についてはどう感じていますか?
個人的には活躍する女性をたくさん見られることが嬉しいかな。例えば保育園に行ってるママ友も生後 4〜 5 ヶ月ぐらいの時からバリバリ働いている女性がたくさんいます。日本ってジェンダーギャップが大きくて、出産後は女性が男性と肩を並べて仕事がしにくい、というのが当たり前になっている風潮がありますよね。日本の友達も、出産、育休、産休、復帰というタイミングなんだけど、当たり前にできていた仕事ができなくなるケースも聞いています。女性が昇進を目指すことに悩んだりとか。そんな女性としてちょうど転換期にいるなかで、ニューヨークでは女性が当たり前に働けて活躍できている姿を見れて、そのことが嬉しいというか。もちろん、活躍をする裏には育休が短いとか、アメリカの社会保障制度が日本ほど良くないという実情はありますが。街の人たちも子連れに優しいし、子供を育てている人に対して、一人ひとりがサポーティブだなぁということも同時に感じます。
———— ありがとうございます。お子様連れで留学する方にアドバイスをするとしたらどんなことがありますか?
なんだろう……1つは保険かなぁ。0歳児がかかりやすいRSウイルスに息子も感染してしまい入院したのですが、費用が3 日間でなんと 400万円。やばくないですか?日本のような国民健康保険がないので、コロンビアの場合は留学生本人は大学の保険に必須で加入が求められます。私の場合は、そのときに息子も一緒に加入していたので全額支払いは免れました。
●一度きりの人生を走り抜ける
———— これまでで大学院での印象的な授業や学びはありますか?
そうですね。これまでのリーダーシップ経験の中で、乗り越えられていない壁をシェアする授業があったんです。私の書いた内容をチームメンバーの 2人が読んで1時間ほどかけてコンサルテーションをしてくれたのですが、とっても愛情深いものだったことを今も覚えています。当時の自分がどれだけ苦しくて困惑していて、でも変わりたいと思っていたのかを、まざまざと感じる経験でした。
リーダーシップという言葉には、人によって様々な解釈があると思うんです。人に命令して動かしていくリーダー像もあれば、ルフィのように先頭に立って動くリーダー像もあります。リーダーシップを発揮したいときは、holding environmentという、自分がサポートされている安心感や愛情を感じられる環境づくりが大切だと教えてくれる教授がいたのですが、彼女自身がそれを体現していたことも印象的でした。
———— 知識があるだけじゃなくて、人としても素晴らしい教授なんですね。
彼女の言葉一つひとつ、メールの文面やペーパーのフィードバックが、全て私の成長のためにやってくれていることがひしひしと感じられるんです。アメリカ人って基本的にメールがそっけないんですが、この教授は全然違って。他のアメリカ人の学生に聞いても、彼女の愛情や彼女の敬意が伝わっていて、みんなが喜んでいるのを見て、これはすごいなって。知識だけでなく体験を通じてリーダーシップについて学んでいる感覚です。
———— 少し先の話になりますが、大学院を卒業したらどんなことをしようとお考えですか?
私自身、自分の価値観を知って、変容させて、人生が変わってきた感覚があるので、それを人に伝えるようなコミュニティをつくりたいです。コーチングの資格も取ろうとしているところで、特に女性をエンパワー出来るコミュニティにしていきたいと考えています。
周りにも「コミュニティをつくりたい」と発信していると、その情熱に感銘を受けて協力してくれる人がたくさんいて。ダノンで重役を務めるドイツ人の 60 歳ぐらいの女性が「じゃあ、メンターをするよ」って言ってくれたり。教授たちも「こういうコミュニティがいいね」ってアドバイスをくれたり。「日本の女性たちのために話にいくよ」って言ってくれる人もいるので、まずはコミュニティの立ち上げに挑戦したいです。あともう1つは、一般企業に入社して人材開発や組織開発の文脈で実践経験を積みたいという思いもありますね。
———— 本日はありがとうございました!最後に、どんな人に海外留学を薦めたいですか?
行きたいと思ったら、チャレンジした方がいいと思います!もちろん「行きたい!」と願えば全ての人ができることではないのは重々理解しています。お金もかかるし、それ以外にも解決しなくてはいけないことはたくさんあります。でも、可能なのであれば、自分の心に正直にチャレンジしてみて欲しいです。私も妊娠が分かった時はかなり不安になりましたが、来てみたらなんとかなってるし、走り始めないとわからないこともたくさんあります。人生1 回きり。死ぬときに後悔のない人生を歩むために、時に心臓をバクバクいわせながらチャレンジしていきたいし、そんな人が増えたらいいなと思います。