公教育に最大限に関わるキャリア探求。30歳・高校教師のコロンビア教育大学院留学

働きながら学ぶ人を紹介する「先輩インタビュー」
今回は、コロンビア教育大学院で学ばれた田原 佑介さんです。

とある人との出会いをきっかけに、高校教師として受験生を担当する側、自身も大学院受験を乗り越える。「やりたいことは、言葉にして人に伝えよう」発信することでさまざまなチャンスを引き寄せ、着実にミッション実現に向けて準備を進める田原さんの生き方について聞きました。

田原 佑介さん

1990年生まれ。2児の父。四人兄弟の三番目として山口県で育つ。外郎(ういろう)をこよなく愛する。埼玉県の公立高校で8年間勤務。経済産業省「未来の教室」実証事業のHeroMakersに参加。大人とは、次の世代に素敵な世界が待っていることを見せる人のことなのだと気づく。留学経験はなかったものの、海外大学院への進学を決意。高3を担任した2020年、「私は世界一の大学を目指す。みんなも自分のベストを目指そう」と生徒に宣言し、アメリカの大学院を受験。2021年秋より、コロンビア教育大学院(Teachers College, Columbia University)でスクールリーダーシップを学ぶ。フルブライト奨学金など3つの奨学金を受け、1年で1000万円かかる費用をほぼ全額給付してもらい、修了。ブログやTwitterで、大人の海外進学や教育改革のアイデアを発信中。

コロンビア教育大学院 スクールリーダーシップ
入学年月日(年齢):2021年9月(30歳)
卒業年月日(年齢):2022年5月(31歳)


変わっていく背中を生徒に見せながら、共に乗り越えたかった

————まずは簡単に今までのご経歴を整理させて下さい。山口県のご出身で埼玉大学の教育学部に進学されたとのことですが、埼玉に行かれた理由などはありますか?

教育に関わりたいという思いが最初にありました。私の母は、勉強の大切さを繰り返し説いてくれた教育熱心な人で、彼女のように教育で人の可能性を広げられる人でありたいと思っていたからです。教育学部があり、総合大学で、センター試験の判定で受かりそう、それ以上の理由は特にありませんでした。英語を選択したのも点数が良かったからで、その時は海外留学の経験もありませんでした。

そんなごく普通の学生だった私が、教員となって5年目か6年目にHeroMakers(ヒーローメーカーズ)に参加しました。



————HeroMakersについて、少し説明をお願いしてもいいですか?

「未来の教室」という経産省の実証事業が始まったんです。その名の通り「10年後・20年後の日本の未来の教育とは何なのか」というのを想定し、今できることをやろうというプロジェクトです。授業を作る、新しい教員研修を作る、新しい部活のあり方を考えるなど、様々なプログラムが立ち並ぶ中に「HeroMakers」がありました。白川寧々さんが運営する教員研修のプログラムです。

ここでは、未来の教育に必要な教員とはどんな教員かということを話し合ったり、グローバルリーダーから直接話を聞いたりしながら、学校づくり・組織作りに取り組みました。日本中から色んな先生方が集まって、アントレプレナーシップを学んだのです。

組織が良くなるには、人に動いてもらうには、といったことを講座やセッションを通してヒントを得ます。それを「自校に落とし込むとしたら」「この視点で学校が良くなるのでは」など、教員だけではなくNPOの方や企業の方や、いろんな方々とコラボしながら新しい形を考えました。私は公立の教員だったので、勤務先の学校で組織を変えようと取り組みました。




————このHeroMakersとの出会いが大学院留学を決断させたのですね。

「教員こそが日本を牽引するグローバルリーダーに」という寧々さんの言葉がぐさっと刺さりました。生徒には「グローバルリーダーになろう」と言いながら、「あなたはグローバルリーダーですか?」と聞かれると、自信をもって「そうだ」と言えませんでした。だからまずは自分が受験しようと決めました。私自身のチャレンジする背中を生徒たちに見せながら、彼らのチャレンジを共に応援して、一緒に乗り越えたいと思いました。



スクールリーダーシップのアメリカ ✕ 1年プログラムで絞り込み

————大学の選び方について、お伺いしたいと思います。コロンビア教育大学院に行かれたと思うのですが、他にも選択肢はあったのでしょうか?そして、どんなことを選択の軸と考えたかなどをお聞きしたいです。

ハーバード、スタンフォードに始まり、日本人が知っている大学を上から順番に受けていってコロンビアに受かったので行った、というのが実態です。「選択の軸」についてですが、まずは「アメリカ」であることが重要でした。アメリカでスクールリーダーシップを学びながら、自分の問題意識と向き合いたかったんです。

アメリカでは「スクールリーダーシップ」という理論が確立しているんですね。リーダーシップの修士を取得して現場に戻ってきた若者に、教員でも管理職でもなく、ミドルリーダーとしてののポジションが用意されています。例えば、授業のカリキュラムを作ったり、テクノロジーコーディネーターとしてプランを作ったりといった形で様々なポジションがある。日本の「校長・教頭・教員」みたいな仕組みとは大きく違います。

留学先では30歳ぐらいの友達ができました。インターナショナル生とアメリカの学生が半々のプログラムだったのですが、彼らはどういう課題意識を持ち、それをどのように現場に持ち帰って改革しようとしているのかを知りたかった。アメリカ、インド、インドネシア、中国、ナイジェリア、アルゼンチン、と様々な国の教育リーダーとなる人と、教育についてディスカッションできることが本当に楽しかったです。

 


————
リーダーシップ理論の領域の中にスクールリーダーシップという学問がアメリカでは確立しているということですね。学びに来られるのは教員の方が多いのでしょうか。

やはり教員が多いのですが、NPOの方とか、教員ではないけど教育に関わる人たちも来ています。「スクールリーダーシップ」という学問は、学校を変化させるレバーをたくさん学ぶというイメージです。例えばファイナンス・交渉・政策・スクールチョイスなど、学校を変えるために必要な様々なレバーを理論として学ぶんです。キャップストーンプロジェクトは、NYにある学校にコンサルタントとして、半年ほど関わるというものでした。学校を変える理論を学びつつNYにある学校で実践するという授業の建て付けになっています。ですから、学校現場に立つ人にも、NPOの人にも、教育に関わる人たちはそれらが活かせるわけです。




————
MBAの教育に特化したバージョンのようにも捉えられますね。

そうですね。私の行っているプログラムでは、MBAとMA(Master of Arts)という文学修士のDual Degreeが取れるようになっています。日本だと「先生」ってビジネスとはかけ離れた場所の人というイメージが持たれがちですが、アメリカでは、教育関係者がMBAをとっている方がたくさんいます。取り組みをどうやってマネタイズしていくのか、どうスケールしていくかという考えが教育分野においても大事だと考えられています。




————その他に大学選びに関して検討した項目はありますか?

「家族」ですね。普通修士って日本だと2年かかるところが多いですし、アメリカも2年のプログラムが多いです。またアメリカで1年間学ぶのには1000万円かかるんです。金銭的な点からも、時間的な点からも、1年で卒業できるプログラムのみをリストアップしました。「スクールリーダーシップを学びたい」「1年で終わりたい」を大きな2つの軸としていたということですね。





————これはすごく
参考になりそうですね。やっぱり2年行くっていうのは厳しいけど、1年ならどうにかって思います。

大人のための海外支援と子供たちのInternational Education を当たり前に

————まもなく卒業というお話ですが、帰国後はどうされるのか、何か今後のキャリアイメージみたいなものってありますか?

大人の海外進学支援をしたいんです。例えば教員がもっと海外へ学びに行けるような、大人が海外にチャレンジできるような環境を作りたい。「情報がない」「お金が高すぎる」「エッセーが大変」「働きながらの準備が大変」などの、ネガティヴなイメージが先行しています。ただ、現状は海外進学を実現する道はいくらでもあります。私には子供が2人いるし、家のローンもあるし、教員で平日勤務で土日は部活だし、留学経験もありませんが、行けました。チャレンジして駄目なら仕方ないけど、そもそもチャレンジしてない人がほとんどで、それは勿体ないなと思うんです。まずは大人のチャレンジを応援したいです。そしてやはり子供達の海外支援をしたい。日本の高校生が海外にチャレンジできる環境を当たり前にしたいと思っています。




————
素敵ですね。いろんな人が話を聞いたり、相談できる環境が生まれるといいなぁ。

コロンビアで学んだことの中で、私が一番パッションを感じて、やりたいと気付けたのが「進路指導」なんです。一昨年高校3年生の担任だったんですが、キャリアカウンセリングは非常にやりがいがあります。いっそ進路指導だけを取り出して、そこに仕事として関われたらなぁと思います。あとは、グローバル教育を進めたい学校に関わりたいと考えています。カリキュラム開発をしたり、教員研修を行ったりします。

こういった整理がつくまでは、国際機関やアメリカのEdTech企業で働きたいと思ったこともありました。私が持っている学校現場での経験、海外大学院での修士、自分のパッションを考え、こういった考えにたどり着きました。30歳前後で修士をとれば、日本でもミドルリーダーとして教育に関われる、というケースをつくれるかなとも思います。




————
このまま高校に戻ってしまうと進路指導だけやるってわけにもいかないのですか?

大学をやりたいことではなく、偏差値で選んでしまう人がたくさんいて、入った学部からなんとなくそのまま就活のレーンに乗っていくのが現状で、これはすごくもったいないと思います。だいぶ先の話になりますが、将来は民間人校長をやりたいなと思っているんです。日本は35歳から校長ができるので。日本の公立校で校長になって、International Education を推進したいんです。もっと先の話になりますが、校長のあとは教育長になって、地方で学校を作りたいです。




————
公教育から離れるのかと思っていたのですが、そうではないのですね。

むしろ公教育に最大限に関わる道を探しています。教育委員会に行く道も考えたんですが、今の31歳の自分では何もできない。たかが1年海外に行っただけですから。35歳に向けて、着実にスキルや経験をためていきたいです。



短期プログラムの平日はみっちり勉強。休日はグローバルリーダーに会える

————留学先でのお忙しそうな1日の過ごし方、みんな結構気になるのかなと思うんですが、どんな風に過ごしてるんですか?

私の場合は、9か月で完了する短期のプログラムなので、1日の授業が多いんです。2年で終わるプログラムであれば1週間で授業が3つ~4つで済む人が多いのですが、私は5個ありました。毎日授業があるんですよ。

午前中は授業が3時間ほどあって、昼を挟んで午後はディスカッションなどのグループワークが入ります。そして図書館で宿題などをしつつ気付けば夜。夕食後はリーディングをする、みたいな感じです。土日は授業がないので、人と会ったりミーティングに行ったり、飲み会に行ったり。




————
大学に行かれる以外にも学会に参加したり、何かイベントに参加したりとかそういうこともあるんですか?

ここがコロンビアの魅力だと思うんですが、ニューヨークにあるという価値がものすごく高い。20分程度でタイムズスクエアに行けて、様々な人に会えるのはすごい。

印象に残ってるのはWorld Education Service(WES)の会社のCEOの話を10人程度の小規模で聞けたことです。彼女はスリランカ出身で、グローバル企業のCEOまでたどりついたのですが、その方の話は本当に刺激的でした。すぐそばで聞けるというのはZoom越しとは全然違います。



その他にも、私と同じくフルブライトの奨学金をもらっている人たちとの合宿に参加しました。様々な分野で学ぶ150人ぐらいの学生が集まり、ディスカッションする会があったんです。その場だから感じられた熱意や、どんな思いを持って留学してきたのかを感じられて、それも本当に良かったです。


わが子の入院、一緒にいられなくて超絶後悔...それでも留学してよかったと言える。

————そういえば、お子さんの入院の話をブログで読ませていただいたんですけど。

とてつもなく大変でした。その時に妻や子どものそばにいられなかったこと、ことは本当に辛かったです。さすがにその時は「アメリカに来なければ良かった」と思いました。留学して唯一後悔したことといえばそれです。

でもその一方で、私は家族の幸せのために留学したとも思っているんです。留学がキャリアアップにつながり、家族との時間を増やせるかもしれない。そうすれば、一緒に旅行に行ったり、もっと自由な時間を増やすことができる。そういった理由で家族には了承を得て送り出してもらいました。

突発的に想定外な問題も起きてしまうので、その時後悔はしましたが、仕方のないことでした。今はみんな元気にしています。




————よかった....。それを踏まえても、
進学して良かったですか?

はい、圧倒的に。さきほどの入院の問題以外は何もネガティブな思いは無かったです。行かなきゃ分からないことがたくさんあるなと実感しました。たまたま出会ったフルブライトの150人は奇跡的なタイミングで集まったと思うんです。留学したのがもし去年だったら、コロナ禍で行けなかったんです。当時コロンビアの寮に住んでた日本人は、帰国を指示されていたので。

私の周りには、当時留学すべきではないと助言する人が当然いました。合格したとしてもコロナで行けないかもしれないし、高校3年生の担任をしているのだから、今年は仕事に集中するべき、など色々言われました。それでもやっぱり自分が行きたいと思って納得したときに行くのがいい。29歳だった私は、20代最後のチャレンジとして受験をしました。

大人はタイミングを考え始めたらキリがないと思うんです。




————
本当にそう!タイミングなんてないですよね。

ない!(笑)仕事がある、家族がいる、お金が貯まったら、英語ができるようになったら、って先送りする人をたくさん見ました。行くって決めたらその1年で行っちゃうのが一番いいんです。



行けない理由は山ほどある。でも解決方法は必ずある。

————田原さんは、どんな人に進学を勧めたいですか?進学を検討している人にかける言葉などを頂けたらと思うんですが。いかがでしょうか。

行かない理由はたくさんありますが、解決策は必ずあると思う。例えば英語力が足りないとか、お金が足りないとか、エッセイが書けないとか。たくさん壁はあって、何をするべきか不確実なことだらけだと思うんですが、それでも必ず解決策はある。

私も、奨学金を1000万円もらえましたが、行く前は全く想定していなかったことなんですね。足りなかったら借金して何とかしようぐらいに思っていました。今はSNSで経験者に繋がることができるし、こういうメディアで情報を得ることもできる。行きたいと思った人には道が見つかると思います。

例えばですが、アメリカが難しければヨーロッパだってオーストラリアだっていい。費用を下げる道も、合格率を上げる道もある。行きたいと思ったその気持ちは大事にしてほしい。やりたいと思いつつ行動に移せない現場のストレスとか、こうしたらいいと思ってもなかなか上司や周りの人に分かってもらえないとか。そういう問題意識を持って海外に行けば、また違う視点が見つかったり全く異なる環境で頑張ってる人から刺激をもらうこともたくさんあると思うので、諦めないで欲しい。行きたいってちょっとでも思ったってことは、何かを感じてるはず。是非それを形にして欲しいなと思います。

————田原さんが受験についてまとめているツイートを一部抜粋させて頂きます。

尖り続けること。思いを言語化して発信し続けること。

最後に1つだけ。「やりたいことを言葉にして人に伝える」ということに挑戦してほしい!これを、おこがましくもお伝えしたいんです。

言い続けていると必ず誰かが助けてくれるんです。例えばこうやって秋山さんが記事にしてくださったり、セミナーに招いていただいたり。奨学金もこれと同じことだったと思うんです。「お金は足りない。でも学びたい。その先のやりたいことはコレです」と様々な人に伝え続けた。そしたら「じゃあ1,000万円あげます」という結果を引き寄せた。

思えば、海外に行く前から、私は自分がやりたいことを言語化し続けていたんですよね。過去にやってきたこと・現在の課題・将来の希望。それらをTwitterで毎日毎日発信し続けていれば、必ず誰かの目に留まる時代なんです。どこに居るか、どこに勤めているか、そういった立場関係なく発信し続けていくと、何かしら開けてくるのではないかと、この留学を通して強く思ったんです。言ったもん勝ちというか、こういう人です、こういうことをやりたい人ですっていうポジションを取ったから、色々と舞い込んでくるようになったと思うんですよ。

思いを言語化してブログにしてみる。Twitterで発信してみる。SNSが苦手なら人に直接言ってみるっていうことでもいいし。続けていれば誰かが拾ってくれることもある。これが最大の学びかもしれないですね。

———— 田原さんの大学院受験・生活についてまとめたブログはこちら↓

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