働きながら学ぶ人を紹介する「先輩インタビュー」
今回はご自身で人材開発・組織開発の会社を経営される、杉江 美樹さんです。
人と組織について学ぶ立教大学院リーダーシップ開発コースの一学生という立場を超えて、他者の成長や学びを後押しする当事者・プロフェッショナルとして、同期達とどう学ぶのかを探求された2年間についてお聞きました。
修了大学:立教大学大学院 経営学研究科 リーダーシップ開発コース
研究テーマ:1on1実施に対する上級管理職の心理的変容プロセス
入学年月日(年齢):2020年4月(49歳)
終了年月日(年齢):2022年3月(51歳)
株式会社Work F-style代表取締役
立教大学経営学部ビジネスリーダーシップ開発コース兼任講師
2022年2月立教大学大学院 経営学研究科リーダーシップ開発コース修了
1971年生まれ / 東京都出身 / サントリー株式会社、プルデンシャル生命保険株式会社を経て、2014年に人材開発・組織開発をサポートする株式会社WorkF-styleを立ち上げる。一人ひとりが一歩のチャレンジができて応援しあえる職場を作りたいという思いで日々邁進中。
●覚悟を決めさせてくれた中原淳先生との出会い
———— 杉江さんは立教大学院リーダーシップ開発コース(LDC)の同期生で、一緒に学んで色々とお世話になりました。授業ではもちろん、人生相談まで。今日もよろしくお願いします! 早速ですが、そもそもなぜLDCで学ぼうと思ったのでしょう?
何と言っても中原淳先生です。もう6年前のことなんですが、慶応MCC*(丸の内シティキャンパス)で中原先生の授業を受けて、その時初めて「人事や組織の仕事をずっとやって行こう」と決めることができたんですよ。それまではどこか自信がなくてビクビクしていたところがあって...それが中原先生の授業で「私がやろうとしていたことは間違っていなかった」と感じて覚悟が決まったんです。
———— 今までやってきたことが裏付けされた感じですか?
ズレてはいなかった、という感じですね。中原先生は、ふだん私が考えていることを学術経験というベースのもとで整理して伝えてくれた。ただ「このまま経験を積んでいけばいい」と思えただけでなく、さらに「もっとしっかり学ばなくちゃ」とも思ったんです。だから中原先生がLDCを作ると知って、これは行かなくては!と思いました。
もう一つは「ファイナルプロジェクト*」をやりたい、と強く思ったからですね。自分がクライアントと一緒にやりたいことがそのままファイナルプロジェクトになり、学位がとれる。2年間大学で学び、クライアントにお返しできる。それってすごい!と思いました。それにLDCで色々な人に出会うと発想が広がるし、共通言語で通じ合える仲間ができればこれから何かを一緒にやれるんじゃないか、とも思ったんです。
慶應MCCで学んだことで、自分のやり方は間違ってなかったという確認も持てたし、人材・組織開発の道で生きていこうと覚悟は決まっていたんです。おかげさまで事業の売上も右肩上がりだったし。あと数年はこのまま行けば伸びていくだろうなって思っていたけど、十年ってなると自信がなかった。時代に遅れるんじゃないかって危機感が常に付きまとっていて。そんな時にLDC開講の知らせが届いて、過去最高の売上を更新したタイミングで、ちょっとここでペースを落としたとしても学びに振り切ってみようって決断しました。
*LDC独自のプログラム。学生一人ひとりがクライアント組織に対しリーダーシップ開発・人材開発・組織開発を行い、その成果をまとめる。正式名は「リーダーシップ・ファイナル・プロジェクト」。
———— 事業が伸びている時にこそ、次を見据えて仕込みをする。なかなかできない決断ですよね。
仕事のペース落とそう〜って思ってたのに、なぜかM1の時にまた過去最高売上更新しちゃったんだけどね笑
●組織開発のプロとして担ったリーダー役
———— 実際にLDCに入ってみて、想定とのギャップはありましたか?
正直なところ、休学しようかと思ったくらい「ここでやっていけるのだろうか」と悩んだ時期がありました。一期生だということや、コロナの影響で、当時はまだ慣れないオンライン授業に変更になったこと理由かもしれませんけど、多様な人たちがいて少しギスギスした雰囲気もあって悩みました。でもここで逃げるのは違う、と思ったんですよね。自分は組織開発のプロで、どこにいても組織開発するのが仕事。ギスギスしているように見えるこの一期生の組織だって、よくなるように自分が働きかけていくべきだ、と思いました。
———— だから杉江さんは学習の場所を作るリーダーシップを発揮して、一受講者でありつつ全体をまとめる役割をやってくださっていたんですね!
中原先生の研究室の方たちは皆、とてもサポーティブだったでしょ?読書会や勉強会とか全員参加でなくても一緒に学ぶ場を作る、そういう文化を残していきたいと思ったんですよね。もちろん同期生の中でも競争はあるんだけど、一人で学べることは限られているから。やりたい人がやりたいことを色々立ち上げていく、頑張ったことは応援しあえるようにしたかったんです。
———— 私も、夏に読書会を企画しました。当時ヤフーの人事部長だった本間さんが担当していた授業で「秋山さんは読書会やった方がいいね」って言われて。今思えば「もっと共に学ぶことを覚えなさい」って助言だった気がしています。
あれがきっかけだったよね。社会人大学院ってそこに来る人たちと一緒に学ぶことに意味があって、一人より皆で学ぶからこそ得るものが大きいと思うんですよね。どんな人が来ても学ぶことがある、誰からでも学べる。出会った人に意味がある、何か教えてくれている。まあ、時々そう思えない自分もいるんだけど(笑)。
●論文を書く苦しさが成長の実感
———— これがあったから大学院に行って良かった!と言えることは何でしょうか?
論文を書きながら悩んでいる時間ですね。書くことは決まっているのに書けない、文章にならなくて苦しい、その瞬間が本当に楽しかった!先行研究の整理もできているはずなのに、この1行!というところが書けない、進まない。自分で「今、自分は成長してるかも」と思いながら、考え抜いている瞬間が意外と好きでしたね。学んでいるという実感がすごかった。仕事でクライアントワークはたくさん経験してきていますからね。プレゼン資料は作れても、論文を書こうとすると自分の考えの浅さや煮詰まっていない部分がわかってくるんですよね。これは新しい経験でした。研究者って本当にすごいなとリスペクトします。本当にこれいつ終わるの?!と悩んでいる時に、論文チェックしてくれた同期生もいましたし。LINEやFacebookでやり取りしたり、苦しさを分かち合った仲間にも感謝ですね。
●「チームで仕事をする・人を育てる」方向へ
———— ご自分で事業をやっている立場として、修了して事業に何か影響がありましたか?
LDCでのたたくさんのグループワークを通じて、自分一人では絶対に到達できないところまで行けた経験をしたので、これからは一人ではなくチームで仕事をしていく、と決めました。クライアントごとに適した人にメンバーに加わってもらって、例えばアカデミックの視点からアドバイスをもらったり、現場で起こっていることへの対応策を相談したり。既に同期生にも相談し初めています。まだ模索の段階ですけどちゃんとフィーもお支払いして、特に若い人に入ってもらいたいんです。
———— グループワークなどで一人で進める良さと皆で動かす良さを知ったということでしょうか?
はい。それだけでなく、年齢的にも体力的にもそろそろ自分が現場に立つより現場に立つ人を育てていく側に回っていかないといけないと、と感じているんですよね。学生にも入ってもらいたいなと思っています。
———— インターン生、いいですね!杉江イズムをどんどん継承していって欲しい。ちょっと話題を変えますが、同期生に杉江さんと近しい領域で自分で事業をされている方がもう一名いたと思います。その方と色々話してみて、変化や思ったことなどありますか?
ありますね、学ぶことがたくさんありました。その人は世の中はこうあるべき、という主張がはっきりしていて私とはまったく違う。私は、どちらかといえば主張より対話で何とかしていきたいタイプです。例えばAさんという人がいたら、Aさんが輝ければそのための手段はどうでもいいんです。だけど彼女は、世の中をはっきりこういう方向へ変えていこうという主張がある。純粋にすごいなって思います。彼女の悩みも聞けたし、プロジェクトを一緒にスタートしたし、楽しみです。
———— 興味関心や領域の近い方と出会えるのも社会人大学院の醍醐味ですよね。会食や勉強会などフランクな出会いではなく、2年間侃侃諤諤議論する中でビジネスの相性も見極めることができそうです。
●経営者が持つべき健全な危機感
———— 杉江さんの場合、LDC修了が事業のやり方の転換点になったわけですが、経営者が大学院に通うメリットって何でしょうか?
私の会社は小さいので経営者というほどでもないですけど、年齢がある程度上の人たちが若い人たちと「対等にいる」ということによる学びは、絶対にあると思いますよね。年齢が上で経営者だとどうしても上から人を見る癖がついているし、自分がやりたいことをやってきている人が多いから、あまり人の言うことを聞かないでしょう?
———— まあ、忖度される側になっちゃいますよね...
それが、違う人の考え方を受け入れて視点が変わる。最初にも危機感の話をしましたけど、健全な危機感が持てるようになるんですよね。色々と積み重ねてきたからこそ学び続けなければいけない、凝り固まってはいけない、という健全な危機感です。大学院に通って危機感が解消されるわけではなく、そのまま学び続けて行かないと自分が劣化する、と気づいた。学ぶ意味が変わった、と言うか。
学ぶイコール勉強すること、じゃないわけで。違う考え方を持った色々な人と学ぶことこそ、学びなんですよね。私は若い人たちのスピード感、ボキャブラリー、資料の作り方などを目の当たりにして、自分とのギャップから学ぶことが本当に多かった。立場・年齢・業種・価値観、すべてにおいてギャップを知ることの大切さを思い知りましたね。
●明確な目的を持ってLDCヘ
———— 最後に、LDCをどんな人におすすめしますか?
やっぱりファイナルプロジェクトをやりたい人ですね。つまり、組織を変えたいという思いがある人、実際に変える経験をしたい人。理論と現場をつなぐのがLDCの良さですから。もちろん理論を知っていれば現場を変えられるわけではなく、自分を高めていかないと難しいですけどね。辛くてもそれをやっていこうという思いがある人に、おすすめします。
———— ファイナルって何すればいいの?と私たちの同期でも戸惑っている人たちがいたので、入試要項ではもっとファイナルプロジェクトを全面に出すべきかもしれませんね。
募集の書類にクライアントがいない人は修了できません、と書いてあるけれど、やはり何をやれば良いのかわからずに先生に尋ねる人も多かったですよね。中原先生は「何でも良いんですよ」とおっしゃっていましたが、その通りです。ファイナルでやることを明確に決めていれば、どんな授業でも何かしら学ぶことがあるはずですし。明確に自分のやりたい目的を持って、ファイナルを目指して2年間勉強する気持ちでLDCに入ってほしいですね。