
「海外MBAって、どんな人が行くの?」「自分にとって意味があるのかな?」
そんな問いにリアルなヒントをくれるのが、今回のインタビューです。
スペイン・マドリードを拠点にし、世界ランキングでも常に上位に名を連ねるIEビジネススクール。その卒業・在学生である3人に、海外MBAで学ぶことの意義や魅力、そして挑戦について話を聞きました。
「キャリアを変えたい」
「海外で通用する力をつけたい」
「家族との両立に悩みながらも、挑戦してみたい」
そんな“思い”を胸に、それぞれIEへの進学を決めた3人。それぞれの原動力と、IEで得た変化を、ざっくばらんに語っていただきました。
IE入学後、転職し現在は官民系VC(ベンチャーキャピタル)で投資業務に携わる。子育て・転職・大学院進学が重なり合う中で、“今しかない”タイミングを見極めて入学を決意。2024年2月に入学、2025年7月卒業予定。
外資系IT企業のスタートアップ支援部署のマーケティングマネージャーとして、日本およびアジア太平洋地域のスタートアップ支援を担当。経営支援の視点を深めるためにMBAへ。2022年9月入学、2024年7月卒業。
パナソニック株式会社、Amazon Web Servicesでの勤務を経て、2025年3月からはスタートアップのカントリーマネージャーを務める。IE Business SchoolのIMBA(フルタイム)に合格し、マドリードに渡航してフルタイムで学ぶ予定であったが、新型コロナウイルスの影響により、2021年9月からパートタイムMBAでの受講に切り替え、キャリアと学びの両立を目指す道を選択。2021年9月入学、2023年3月卒業。
IE Universityはスペイン・マドリードに本拠地を置き、世界中から学生が集まります。多様性に富んだIE Universityはスペイン国外77カ国からの留学生、教授陣も50%がスペイン国外出身。
学生の学びの最大化のために、世界各国から最新の知見とスキルセットを携えた教授陣を集結し、ひとつの手法にこだわることなく様々な方法や最新の教材を用いて、実践的で楽しく受講できるように効率的に設計されています。まさに最高の環境がここにあると言えるでしょう。
フルタイムMBAやExecutiveMBA他、さまざまなコースを提供しているIE Universityの中で今回はパートタイムMBAのお話を中心に伺いました。働きながら海外MBAの取得に興味がある方必見です!
※記載は2025年4月時点の情報です。
●MBAを目指したきっかけ
—————まずは、海外MBAを検討したきっかけを教えてください。
伊藤さん:私は英語圏での生活経験がまったくなくて、留学もしたことなくて...。前職にいた時に、海外のスタートアップのボードメンバーが集まる会議に参加することになったので、そこでしっかりとコミュニケーションを取れるようになりたい!と思ったのが大きなきっかけです。正直英会話力を磨くだけでは太刀打ちできない気がしたので、MBAという形でビジネスの文脈で自分を鍛えたかったんです。それで本気でグローバルな環境に飛び込もうと決めました!
松下さん:2年の米国駐在を含めてパナソニックで12年働いた後、より多様な視点を持ちたい、そしてキャリアの幅を広げたいという想いから、欧州のMBAプログラムを選びました。学校選びの段階でIEは専願で、他校と比較して迷うことはありませんでした。IEのパートタイムMBAに入学する頃にはAmazonに転職していたのですが、キャリアを広げるということだけではなく海外MBAを通して多様性のある環境下でどうやって信頼作っていくかとか、自分の価値をチームの中で出していくかということを身につけたいと思っていました。
上原さん:キャリアのバックグラウンドがセールスからマーケティングに移り、スタートアップを支援する立場になった時に、経営やファイナンスについてもっと深く理解する必要性を感じていました。また、長い目で見て組織づくりにも携わっていきたいと思ったのもMBAを検討した理由です。外資の企業に新卒から勤務していて尊敬する先輩方が海外MBAを持っていたのと自分のキャリアアップや海外で働きたい、海外へのリロケーションも視野に入れて自ずと海外MBAを取りたいというマインドになりました。その中でもIEを知り、すぐに「ここだ!」と思いました。
●IEを選んだ決め手
—————数ある海外MBAプログラムの中で、なぜIEのMBAを選んだのでしょうか。
上原さん:3つの理由がありました。まず期間の短さ!IEは1年半でしっかり学べます。次にハイブリッドな学習スタイル。完全オンラインではなく、学期に1回、一週間の集中対面授業があるので、クラスメイトと密にコミュニケーションが取れるのがポイント高かったです。そして起業家精神やスタートアップへの理解を深めたかった私にとって、IEの"アントレプレナーシップ”に注力したカリキュラムも魅力的でした。IEは広報事務局の飯野さんがとてもサポーティブなので、わからないことは彼女に聞いたりもして、とても助かりました。
松下さん:過去に米国駐在経験があったので、欧州MBAを中心に色んなスクールを訪問していた中、最終的な決め手としては、IEアルムナイコミュニティの存在が大きかったと思います。IEの卒業生の方々に会って、「この人たちのようになりたい」と強く思いました。このような背景から、元々専願でIEのフルタイムMBAの試験を受験して、合格していました。その後コロナが蔓延したためにフルタイムからパートタイムに柔軟に切り替えられたこと、そしてIEに世界でトップクラスのパートタイムMBAプログラムが整っていることも後で振り返ると、結果的には、IEを選んですごくよかったと思った点になりました。
伊藤さん:情報収集のしやすさが決め手でした。IEは日本語のホームページがあり、日本人アルムナイが運営していて情報も充実していました。実際にどんな人が中にいるのか、生活や学びがどうなのかがイメージしやすかったからです。
—————海外MBAの受験というとエージェントを利用される方が多いと思いますが、皆さんもそうでしたか?
松下さん:僕は出願当時はフルタイムMBAだったこともあってエッセイカウンセラーをつけました。Laurenにメインカウンセラーをお願いしました。
※Laurenさん: https://mbaessayeditor.net/
上原さん:私もカウンセラーと契約してエッセイのブラッシュアップや、面接・ビデオテストの練習もしてもらいました。
伊藤さん:パートタイムMBAは使わない人も多いような印象ですけど、ここの3人はみんな使っていたんですね。私はまずは日本語でなぜMBAなのか、これまでの人生の振り返りも含めて日本人カウンセラーに壁打ちをさせてもらったり、マシューさんにもお世話になりました。
上原さん:MBA受験生界隈では有名なマシューさんは過去の受験生にMBA受験の相談をするとその名前が上がってきますね。
※マシューさん:http://www5.kcn.ne.jp/~aldridge/
●進学を決める上での不安と迷い
—————とはいえ社会人が大学院進学を考える際、誰もが不安や迷いを持つもの。3人はどのように乗り越えたのでしょうか。
上原さん:オンラインで学習を進めることになるので、本当に自分が投資して学びを深められるのかという不安はありました。でもそれについては事前に先輩方から話を聞くなどして不安を解消していきました。 もう一つの不安はMBAを自己投資と考えた時に、「この投資、回収できるかな?」っていう気持ちはすごくありました。社会人経験がまだ浅く、比較的自由なタイミングではあったので、将来の選択肢を増やすために「今しかない」って思って踏み出しました。
松下さん:迷いはなかったですね。もう行くならこのタイミングしかないって。
ただ、僕は当初フルタイムで準備してたので、コロナでスペインへ渡航できなくなったときはさすがに不安がありました。どういう形で続けるのがベストか、選び直さないといけなかったので。お金の面はフルタイムよりパートタイムの方が金額的にも抑えられますし、働きながら学びを進めることになったので困ることはありませんでしたが、仕事との両立は大変でした。MBA、仕事、家庭のバランスをどう取るかは常に考えていました。
伊藤さん:私はすごく迷いました。ちょうど転職・妊娠・出産・MBA進学、全部が重なっていて…。どの順番が一番いいのか、毎日シミュレーションしてましたね。もともとは2023年9月入学予定だったんですが、妊娠がわかって2024年2月に延期したんです。
特に子育てとの両立が大きな不安でした。子どもが4ヶ月の時にMBAのコースがスタートしたので、子どもが育てやすい子か育てにくい子かもわからない中で挑戦することになりました。幸い、夜はちゃんと寝てくれる子だったので何とか両立できました。よく子育てとの両立について誰かに相談しましたか?と質問されるのですが、相談しても結局は子どもの個性などによるところが大きいのではと感じていたこともあって、子育てとの両立については誰にも相談はしませんでした(笑)

●学費と生活費のやりくり、仕事との両立
—————つっこんだ質問になりますが、お金の面や気持ちの面の正直なところを教えてもらえますか?
松下さん:働きながら学ぶので生活費は変わりませんでしたし、学費は貯金とIEから奨学金を受けました。もともと費用はフルタイム用に準備してたこともあって、金銭面はなんとかなりました。
ただ当時勤めていたAmazonってめちゃくちゃハードワークなんで、周囲からは、どのようにWorkloadをTotalでManageしているの?と不思議に思われていたみたいです。IEのプログラムは働きながらでも十分に対応できる設計ですが、費やす時間や気持ち面では自分にとってのベースの優先順位(家族、仕事、MBA)や、その時々に集中するリソースを考えた上で、MBAでは100点狙わない、60点取れたらOKって“割り切り”ができたのは大きかったかも。
伊藤さん:それ共感です。育児・仕事・MBA全部に100点出そうとしたら倒れますもんね。私も貯金で学費を払いました。仕事は続けていましたが、子育てとの両立が大変でした。夫は非常に協力的でしたが、彼はハードワーカーなため朝早く夜遅く帰ってくるため、子供の世話はほぼワンオペでやっています。時には1日中彼とは会話することなく過ぎることもありましたね...。
松下さん:うちも会話ゼロの日もありましたね。
英語の先生とは30分しゃべってるのに、妻とは一言も話さず終わるとか(笑)
上原さん:私は、貯金と会社から一部教育補助があり、資金を調達しました。家族や友人もサポートしてくれました。パートタイムMBAなので仕事は続けられましたし、上司や同僚も応援してくれました。
●IEで想像と違った!と感じたことや驚き
—————海外MBAということでびっくりしたことや想像を超える何か、ありましたか?
松下さん:仕事で北米やアジア圏の人とビジネス上コミュニケーションをとることはありましたが、今まで比較的、直接の交流が少なかった地域(南米や東欧など)の学生とも深く議論をできる機会があったのは何より貴重な体験になりました。
その体験の中で国籍だけで人を判断することはできないと実感しました。日本人だから真面目、とか国によって特徴があるのではなく、その人その人によるんですね。
伊藤さん: わかります!中東の人とか、人生で一度も関わったことなかったけど、実際に関わると本当に価値観の違いが面白くて、びっくりの連続でした。自分を含めた日本人との比較で考えると、時間感覚の違いは大きいかなと思います。提出期限ギリギリまで誰も何もしないのに、なぜか最後はちゃんと出しますし(笑)
想像と違ったことを挙げるならIEは起業家精神を重視するスクールなので、みんな起業志望だと思っていたのですが、実際には大手企業に勤める人も多いということですかね。
上原さん: IEはアントレプレナーシップがキーワードとしてはあるけど、実際の学生はすごく多様ですよね。
私は世界中にクラスメイトがいるので時差を活かしてレポートを国をまたいでリレーするというのが面白いなって思いました。私がここまでまとめたら次は中東、ヨーロッパ、北米と繋がって私が次の日起きたらレポートが仕上がってる!みたいな驚きがありました。


●IEで得た最大の学び
—————IEでの学びを通じて、自分自身にどんな変化を感じましたか?逆に、変わっていない“芯”のようなものがあれば教えてください。
松下さん:どこのチームに入っても価値を出せる自信がつきました。与えられた状況の中で自分なりの価値を出す方法やコミュニケーションの取り方を学びましたし、自分の強みが何か、どこでどう貢献できるのか、明確に言語化できるようになったことが一番の収穫です。クラス代表も経験して、リーダーシップについて本当に考えました。「自分らしいリードの仕方」ってなんだろう?って。僕は前に立って引っ張るより、全体を俯瞰して支えるスタイル。常に相手が何を欲しているのか?それをクラスの中で誰よりも、丁寧に考えて一人一人と接していこうというマインドはMBA全体を通じてずっと意識していることです。日本的かもしれないけど、それが意外と海外の人にも刺さるんですよね。
伊藤さん:私は世界が自分事に変わったことです。世界中に知り合いができて、彼らの生活や家族のことを知ることで、ニュースで見る出来事が他人事ではなくなりました。例えば、ウクライナやレバノン出身のクラスメイトの国で紛争が起きると、「この人の家族は大丈夫だろうか」と心配になりました。知り合いがそこにいるだけで、自分事になる。そういう感覚の変化は大きかったです。
上原さん:「言わないと伝わらない」っていう当たり前の大切さに気づきましたね。
多様な価値観を持つクラスメイトとのディスカッションの中でどんどんアウトプットして衝突することもあったけど、その衝突を超えてこそ生まれるイノベーティブなアイディアがあることを実感しました。自分自身アウトプットの質も変わってきた気がします。
また、世界各地から参加している人たちの「前提」や「正義」を理解しないと本当の議論が始まらないんです。今目の前にある現実が本当にそれぞれの背景に根ざしていることを実感しました。だからIEって、多様性を“理想論”じゃなくて“現実”として体感する場所であって、その中で「自分は何を大切にしたいのか?」を、クリアにすることができるのだと思います。
伊藤さん:変化したこともありますけど、そんな中で気づいた変わってない部分もあって。
私、日本人はオタク気質があると薄々気づいてましたが、改めて細かい点へのこだわりの強さや機微に気づく気質をもっていることは誇れることなんだなって。細かい部分を突き詰めたり、深掘りしたりする姿勢って、日本的だけど強みなんだなって。
松下さん:あ、それ僕も思います。日本的な価値観って、意外と海外で尊敬される。和を重んじる」とか「自然体で相手のことを気遣える」とか、めちゃくちゃ大事にされてると思いました。
●これからの挑戦
—————今、IEでの学びも折り返し(あるいは卒業間近)という時期だと思いますが、いまどんな壁や挑戦に向き合っていますか?
松下さん:MBAはDestinationではなく、Journeyというのが自分の卒業スピーチでも話した想いなので、これからも今までと変わらず、自分の道をずっと続いているひとつのJourneyとして続けていきたいと思ってます。その想いを持ちながらAIスタートアップの日本法人立ち上げという新しい挑戦を始め、学んだことを実践し続けています。
伊藤さん:私は今まさに卒業プロジェクトで新規ビジネスのアイデアを作るフェーズに入っています。理論を実践に移す段階で、言うは易く行うは難しを実感しています。MBAは例えるなら原材料を詰め込まれている状態だと思っているんです。その材料を使ってこれから布を作っていくようなイメージでいます。今は地域経済を活性化させるような仕事に就いていることもあり、日本のものづくりや文化を世界に発信していくような活動も将来的にはしていきたいと考えています。
上原さん:すでにMBAの学びが仕事に活きていると感じている一方、日本のアルムナイの方々も挑戦をしている方が多くて刺激をもらっています。自分も何か新しいことをしてみたいと思い、突き詰めているところです。多様性に触れる中で改めて日本の良さがすごく分かったり、自分が生きてきたバックグラウンドに立ち返ったりもしています。今は日本や沖縄の文化的なユニークさを再認識し、そうしたコミュニティに何か還元できることをしたいと考えています。MBA修了後も新たな挑戦を常に考えたり、還元していこうというマインドセットが身についたと感じています。

●進学を迷っている人へのメッセージ
—————最後に、社会人大学院への進学を迷っている人に向けて、ひと言お願いします。
松下さん:迷っているならばまずは、何か具体的な行動を少しでも起こしてみること、その上で自分の実現したい目標に向けてMBAがあるのであれば、是非挑戦してみてください。
伊藤さん:興味があれば、まず行動してみることです。諦めるのは簡単ですが、一歩踏み出してみると新しい世界が広がります。無理のない範囲で、生命に支障のない範囲でチャレンジしてみてください!
上原さん:社会人になると同じような人とばかり会う機会が増えますが、MBAでは多様な背景を持つ人たちとフラットに価値観を共有できます。わからないことをわからないと言える学びの環境でさらの状態から新しいことを吸収できる経験ってとても新鮮ですよ。何か新しいことに挑戦したいと思っている人は、ぜひ一歩踏み出してみてください。

インタビューを通じて感じたのは、MBAに進む理由は人それぞれでも、学びの過程で「自分のためだけ」から「社会や世界へ還元したい」という意識の変化が共通して見られることでした。社会人大学院という挑戦は、新たな知識や人脈だけでなく、世界との繋がりや自己理解の深まりをもたらしてくれるようです。
「自分にはできない」と諦めるより、勇気を出して一歩踏み出してみる—3人の経験者の言葉には、そんなメッセージが込められていました。