社会人大学院の経験談を紹介する「先輩インタビュー」
今回は、北陸先端科学技術大学院大学に在学中の塚原美樹さんです。
上智大学卒業。キャリアを積みつつ学び、2004年3月中小企業診断士登録、同年9月(株)ヒューマン・リスペクト創業。2022年4月北陸先端科学技術大学院大学先端科学技術専攻博士前期課程入学、2024年4月博士後期課程入学。
卒業・修了した大学・大学院:北陸先端科学技術大学院大学 先端科学技術研究科(知識科学系)
入学年月: 2022年4月
修了予定年月:2027年3月
株式会社ヒューマン・リスペクト
https://www.human-respect.co.jp/
マインドマップの学校 塚原美樹 講師プロフィール
https://www.mindmap-school.jp/information/instructor/tsukahara-miki/
研究内容:研究内容:制度とWell-beingの関係 ーー副業者の事例研究ーー
●シャンソン喫茶に通い詰める女子大生
——— 塚原さんの話し方には、不思議と惹きつける魅力がありますよね。アクションラーニングの資格を取得するときに、コーチとして色々と経験談を語ってくださいましたが、なんか耳を傾けたくなっちゃうんですよね。
もともと人を惹きつけて話すみたいなことが、好きなんだと思います。あとは、大学時代に銀座のシャンソン喫茶に4,50代のおじさま・おばさまに混ざって通い詰めていた時代があって、その時に色々な歌手やお芝居をみて、興味がどんどんと高まっていきましたね。楽しかったんですよ、あの時代。美輪明宏とかも出てて。銀巴里(ぎんぱり)って知らない?知らないか笑。
———朝ドラの「ブギウギ」みたいな世界ですか?
あーそうそう、シャンソン歌手の淡谷のり子さんはブギウギに出てましたよね。
●劇団四季と歌手業
——— 新卒では、劇団四季を運営する四季株式会社に入社されたんですね。そこでの経験はいかがでしたか?
とっても面白かったですよ。いわゆる新入社員研修はなくて、入社の翌日には新人に一台ずつタクシーがチャーターされて、政界の有名人や常連さん宅にお土産ものを持って、挨拶に回るんです。「大町山荘のわさびの葉をお届けに来ました」とか言って笑。大町山荘っていうのは、四季の保養所があるところなんだけど、そこで育ったわさびの葉がビニール袋みたいなのにつまってて、タクシーに30袋くらいドーンと積まれてて、リストの上から順にそれを持っていくの。本田宗一郎さんのお家とか、すごい時代ですよね。
——— 入社1日目からそれはすごい!その後はどんなお仕事を?
私の業務は、表方(おもてかた)と言われる部分で、公演前の営業や受付などを担当していました。公演当日には舞台演出などを手がける裏方のメンバーと連携して照明を落とす合図出しもするんだけど、演劇の表にも裏にも関われる仕事で、とても楽しかったですね。四季では2年働きました。
———好きな仕事だったのに2年で退職されたんですね!
働きながら歌手業をはじめたんですが、当時はまだ副業なんて概念がないから、本業の仕事と重なるとうまくいかなくて。これは続けられないなと思い、歌の仕事に専念することにしました。92年に結婚するまでは歌手として、毎晩歌ってましたね。四季での仕事も、歌手業も、ステージに関わる仕事は好きだったので、今の講師業にもつながってるなと思います。
——— 人前に出る、そこから繋がるんですね。面白い。
人前に出て話した時に、みんながワーッと湧くのとか面白い。なんか、ウケを狙ってみたりとか。そういうのが結構好きだったんだと思います。私の原点はエンターテイナー!
●なんでもやるシャンソン歌手
———ご結婚後は企業に就職されたんですよね?その時のことを詳しく聞かせてください。
結婚したので少し真面目に働こうと思い、埼玉県にある機械メーカーに勤めました。四季で働いた後、歌手をやっていた経歴を社長が面白いと思ってくれたみたいで。その会社に勤めている間もいろいろなお店で歌い続けましたが、やっぱりオープンにはできませんでしたね。
そんな風にお店で歌いながら、コンクールに出場したら、優勝したんです。大阪のほうだったかな。しかも妊娠7ヶ月で。
——— 元気すぎる!
コンクールで優勝して箔もついたので、いくつかカルチャーセンターに売り込みにいったんです。講師やらせろ!って。まだ会社員なのに。
———肝がすごい。
ピアノが苦手だったから、音源は録音したやつ。普通シャンソンのレッスンだと、先生がピアノ伴走するんですが、私はパソコンでカラオケ音源を自分でつくって、それを伴奏にしてたんです。音源をMDとかカセットテープにいれて、一本500円くらいで販売もしてた。iMacでバンドインザボックスだったかな、そんな名前のアプリ使ってやってましたよ笑。
——— 歌手のほうでも副業つくって、すごいですね。音源もしっかり商材にしているところも、抜かりない。
そういうことやってたから起業したんでしょうね笑。なんだかんだいろんなことを自分でやっていたから。機械メーカーでも、ホームページ担当だったんですよ。ホームページをどうやって作るかとか、業界紙にどうやって広報すればいいかとか、どうやってお客さんを集めるかとか、そういう知見が得られたからこそ、会社を立ち上げることができたんだと思います。
●いいものをつくる、いい歌をうたうだけではダメ
———今の会社を創業するきっかけはなんだったんですか?
会社員だけで終わるのは面白くないなって思ったんです。会社員や歌手では、ビジネスを回せないんですよね。どんなにいい歌がうたえても、どんなに会社員としての仕事ができても、それだけではお客さんはきてくれないし、事業が伸びるわけでもない。そこから「どうやったら物って売れるんだろう」という部分に興味が移っていきました。
当時の会社の社長から神田昌典さんの「あたなの会社が90日で儲かる!」という本を読んでセミナーにいくようにと言われまして。マーケティングプロモーションを学んでいたわけですが、学んだことを会社の仕事だけでなく、自分の歌手業にも当てはめてお客さん向けにニュースレターを出したりキャンペーンをやったりと実践していたら、中小企業診断士を取りたくなって、せっかくなので中小企業のマーケティングを支援する会社でもやろうかな、と思って会社を作りました。そんないい加減な感じではじまったんです笑。
●マインドマップとの出会い
———創業後はマインドマップが事業の柱になっていきますが、どんなものなのでしょうか?
マインドマップとは、人間の自然な思考プロセスを反映したノート法です。頭の中で起きていることが「見える化」されるので、考え続けることが非常にラクになる、そんな思考法の一つです。
もともとは、神田昌典さんがトニー・ブザン(マインドマップの考案者)に日本での舵取りを頼まれたというので、私もインストラクターやろうかなと思ったんです。それが私にとって大きな転機でした。最初は自分自身が学びたくて始めたことですが、10年ぐらい過ぎた頃に「マインドマップの学校」っていうウェブサイトを立ち上げて、気付けば日本でマインドマップを最も教えている人の一人という立場になっていました。
●マインドマップとの出会い
———社会人大学院への進学理由は何ですか?
創業して17年ぐらい経ち、自分の知識もアップデートしたいな〜と思ってたんです。そんなときに、KJ法をつくった川喜田二郎先生の孫弟子さんが友人なのですが、彼がJAIST(北陸先端科学技術大学院大学)に入るっていうので、じゃあ私も!って。他の大学院の比較とかは一切せず、友人が入るっていうので、じゃあ自分も!くらいの感覚でした。その友人の兄弟子にあたるような人がJAISTの先生をされていて。そんなご縁もあったんですよね。
———すごい!マインドマップをされていたら、KJ法を研究されてる方がお友達にいらっしゃっても確かに不思議じゃない....でも、すごい世界だ。
あとは、国立大学の大学院は年間50万ちょっとしかかからないと知り、学費の安さも魅力でしたね。
———大学院に通ってみて、どうですか?
楽しかったです。修士に入った時は面白すぎちゃって、大学生時代に戻った感じというか。友達や新しい人脈もできるし、授業も面白くて刺激的でした。みんなAIやメタバースを使いこなしていたり、自分と専門分野が全然違う人もたくさんいることも面白かったです。JAISTって理系の大学だと入学した後に知ったんですけど、みんな普通にAIのモデルとか作っちゃうんだよね。
———入学した後に知るのはさすがに面白すぎます笑。研究は「副業」についてとのことですが、もともとこの研究をしようと?
全然決めてませんでした。それどころか、研究とは何かも全く知らないで入りましたし、実は論文も一本も読んだことがありませんでした。だけど、修士修了時には優秀修了者として表彰してもらったりして、結構頑張りました笑。
具体的には、会社に勤めながら非金銭的目的で副業をしている人たちについて研究しています。なぜ副業をしたいのかとか、副業した結果、どうなったのかとか、企業にとってのメリットはあるのかとか。研究しているうちに、副業は、組織内の文化、習慣、規範などを表す「制度」という概念と関係していることに思いあたり、今は、制度と人々のWell-beingの関係をテーマに副業研究を進めています。
———大学院に進学して、一番の学びは何ですか?
自分の知らなかった世界が広がっていることに改めて気づけたことが何よりもの学びです。長年同じ仕事をしていると自分の世界が狭まってしまいますよね。けれど、外に飛び出してみると、可能性はものすごく大きいことに気付ける。今、博士後期課程の1年ですが、研究の面白さが少し分かってきたところで、これからもっと楽しんでいきたいと思っています。
———改めて、社会人大学院で学ぶことの魅力は何だと感じていますか?
こんなにコスパの良い学習環境はないんじゃないでしょうか。特に国立の社会人大学院は、本当に安いと思います。文系の場合、日本企業はあまり大学院卒をありがたがらないという傾向があると思います。なので、とりあえず社会人になってしばらく仕事をして、そろそろ自分の能力のアップデートをしたいなと思ったタイミングで、大学院に入ってみるのはおすすめです。交友関係も増えますし、学ぶ力がグレードアップしますよね。
———最後に、社会人大学院への進学を考えている人へのメッセージをお願いします。
大学院での学びは知識の獲得というよりも、学ぶ力、探究する力の獲得ではないかと思います。修士課程はさほど大変ではないので、まず入学して、修論というものにチャレンジしてみてはどうでしょうか。博士後期課程はやはり覚悟が必要なのかなと思います。なので、修士で研究に興味が持てる、やっていけると思ったら、博士後期課程に進めば良いと思います。
終わりに
塚原美樹さんの人生は、エンターテインメントを起点に多様な知的好奇心が繋がり、新しい可能性を切り開いてきた軌跡そのもので、私たちに「学び続けること」の価値を教えてくれます。年齢や経歴に関係なく、新しいことに挑戦する勇気があれば、人生はいつでも新しい展開を見せてくれるのだと感じます。社会人大学院への進学を考えている人々にとっても、塚原さんの歩みは大きな励みとなるのではないでしょうか。