社会人大学院の経験談を紹介する「先輩インタビュー」
今回は、名古屋商科大学大学院を修了された松岡 直紀さんです。
神戸大学経済学部を卒業し、P&G FEインク(現P&Gジャパン)に就職。そこから株式会社ブリヂストンに転職し、在職中に社会人大学院に進学します。大学院入学に大きく関わる人生ノートや不安を上手にコントロールするコツ、進学するきっかけなどをお伺いしました。
プロクター&ギャンブル ファーイーストインク(P&G FEインク)、株式会社ブリヂストン、アメリカンエキスプレスインターナショナルインク、フォルクスワーゲンファイナンシャルサービスジャパン株式会社、ポルシェジャパン株式会社、スペシャライズドジャパン合同会社など、外資系を中心に一貫してマーケティング・ブランディング業務に従事。モータースポーツ、サイクルスポーツを手がけた経験から参加型スポーツに大きなホワイトゾーンがあることに気がつき、「スポーツする」を後押しするDXサービス「アシレック スポーツ(ASiRec SPORTS)」を展開するオールコンパス株式会社を創業。娘・息子の二児のパパ。
卒業・修了した大学・大学院:名古屋商科大学大学院 MBA
入学年月(年齢):2008年9月(31歳)
修了年月(年齢):2010年3月(32歳)
●いつもそばにあった一冊のノート
—————まずは、松岡さんの経歴についてお伺いできますか?
神戸大学経済学部を出ています。実は私が入試をしたときは、阪神淡路大震災があったタイミングでした。大学校舎が完全に潰れてしまい、大阪大学で受験した記憶があります。震災の状況を見て、自分自身がやりたいと思ったことをやりきりたいと思って、生きるための道標になればと思い「人生ノート」を書きはじめました。50歳までにやることをざっくり書いていて、その中に30歳で大学院に行くと書いていたんです。
大学卒業後は、P&Gに入り4年弱ぐらい勤めました。人生ノートには、内資系企業も見たいと書いていたので、その後は株式会社ブリヂストンに転職しました。
—————ブリヂストンに在職中に、MBAに入学されたとか。
そうです。ブリヂストンでは、マーケティングや商品企画、子会社づくり、新しいブランドの立ち上げなどたくさんのことをやらせてもらって、非常に忙しい毎日でした。ハードワークで、ふと気がついたら30歳になっていました。忙しい中でふと人生ノートを開けたら「30歳になったら大学院に行く!」と書いてあって、これは今がチャンスと思い名古屋商科大学大学院の東京校に入りました。ジェネラルマネジメントコースに進み、1年半で卒業しています。このときは本当に忙しくて、若かったからできたことだなと今は思います。
MBAでいろいろ学んだことで、ビジネスにおける金融の重要性を痛感して、その後はアメリカンエキスプレスインターナショナルインクに転職しました。その後はフォルクスワーゲングループの金融子会社を経てポルシェジャパンに移りました。その時、ポルシェのモータースポーツ事業責任者を勤めた経験からスポーツ業界に興味が湧いて、スペシャライズドジャパン合同会社にマーケティング部門の責任者として転職します。そこで参加型スポーツに残された領域があると感じ、その課題を解決するために、45歳のときに独立しました。
—————人生ノートを書こうと思ったきっかけはなにかあったのでしょうか?
やはり阪神淡路大震災がきっかけです。明日や来年が普通にくるかわからない。いつ死ぬかわからない。そう思ったときに、いろいろな人に話を聞いてまわりました。
その中で尊敬する社長に独立した理由を聞いたら「別にリスクは何もないよ、自分の人生なんだし。僕は、どういう人生を歩みたいかノートに書いて作るんたけど、何も考えずそれに従ってれば怖いこともない。」と教えてもらって、人生ノートを作ろうと思い立ったのを覚えています。
人生ノートは現状に疑問を感じたり、なにか決断したりするときに開いています。いつも私の人生のそばにあって、大事なときに後押ししてくれる存在になっていますね。
●迷ったときに開けば、そこに答えがある
—————30歳になったら社会人大学院に行くと決めていた理由を教えてください。
教師の家庭で育ち、親戚にも大学院に通っている人がいました。自分は学部からストレートでいくという感じは当初なかったので、なんとなく30歳くらいまでには、と考えていました。尊敬していた人の教えでもありますし、タイミングが来たので、何も考えずに通おうとなりました。
でも今考えてみたら、ノートを開くということは、人生に何らかの課題があったのかもしれません。ブリヂストンで毎日忙しく働く中で、本当にこれでいいのかと思っていたところはありましたから。人生ノートには現状を変えるMBAというヒントが書かれていたという整理が正しいかもしれませんね。
—————勉強や学ぶことは学生時代から好きだったのでしょうか?
勉強することは、昔から好きですね。今でもたくさん本を読むんですよ。新しいものに出会うことが本当に好きですね。
昔誰かに言われた言葉で「人の成長は移動をして、人と話をして、本を読むこと」だと言われて納得感を得たのを覚えています。私は人と会って話すのが好きで、会いに行く過程でも思考を深めたり、街を観察したりと刺激があるなと思います。本は人と会って話す行為の疑似体験ができることは大きいですよね。
また、私の父親も本を読みなさいと常に言っていました。私の祖父は戦死しており、祖母は私の父を女手1つで育ててきました。裕福ではなかったそうです。そういう経験をしている父親だからこそ、本を読みなさいと言っていたんだと思います。貧乏になったとしても、知識だけは奪われないので。本はいっぱいあるから、いつでも持っていけと言ってくれていました。
—————名古屋商科大学大学院に進学されたと思うのですが、それ以外の進路は考えていましたか?
慶応や法政なども考えましたが、スケジュール的に難しかったです。土日だけで取れるという条件で絞って、最終的に名商大に決めました。
というのも大学院のタイトルを取りに行くわけじゃなかったので、どこでも良かったというのが正直なところです。大学院は知識を得たり、勉強してもう一度自分を見つめ直せる環境だったりに価値を感じていました。
—————なるほど。学ぶ内容もスケジュールありきだったのでしょうか?
いや、興味があることを勉強したいという思いがありました。ビジネスか、デザインを学びたかったです。ただ当時はデザインシンキングが浸透しておらず、美大系の大学院が多かったので、経済畑の私が通うのは難しいと判断して、面白さを感じていたMBAに進みました。
●大学院で学んだことはビジネス上でのコミュニケーションの取り方
—————松岡さんが大学院で得た最大の学びを教えてください。
大学院で得た学びは主に2つあります。
1つ目は、自分と違う考え方を見つけられたときに怒らないことじゃないですかね。リアルなビジネスの場面だと、人と違う考え方を持っている方に対して、怒るという判断をする人は多いと感じています。名商大は、ディスカッションを優先しているので、怒らずに自分の考えをいかに通して、説得していくのかみたいなところは大きな経験になりました。もちろん知識の部分は身についたんですが、ときが経てば古くなってしまうので。一生役に立つコミュニケーションスキルを高められたのは、大きいです。
2つ目は自然発生的にできたチームをどのようにリードしていくかです。普通の会社だったら、あなた課長ねって言われたら、何の疑問も持たずに話を聞いてくれますが、大学院はそうではありません。みんな同じ立場で出会うので、自分の立ち位置を見極めてどのようにリードしていくかを勉強できました。
—————大学院の生活で良い意味でも悪い意味でも、何か裏切られたことはありますか?
学びで選択肢の幅が広がったことは、良い意味で裏切られたなと思います。勉強すればするほど、やりたいことが明確になっていきました。現状への疑問がクリアになって、さらにその先の選択肢が増えました。
例えば私は名商大に行ったことで、ファイナンスの大切さを知り、金融関係の会社に転職しています。MBAで経営者を目指している人々を見れたことも良い経験になりました。いろいろなことが知れた1年半だったと思います。
●満足=停滞。不安を上手にマネジメントしながら生きていく
—————本当にフットワーク軽く動かれてますよね。
考えすぎると不安で動けなくなるタチなんです。なので、何か起きる前に事前にじっくり考え、行動を決めておく。そして、実際にことが起きたら決めた通りに動く。それだけです。
—————そうなんですね。社会人大学院に行き、選択肢が増えたことで不安になりませんでしたか?
会社経営をしていますが、不安感はずっとあります。満足すると人の成長は止まってしまうので、不安がなくなることはありません。
私の行動のモチベーションは、不安だけれどいろいろ考えて策を作ることです。こういうことが来たら、こういうふうに行動しようと思って必死で考えて、準備をしておく。不安が現実になったら、準備していたとおりに動く。不安のために準備をしたことで生まれるちょっとした安心感の中を動いている感覚です。心が壊れない程度に不安をコントロールして、少しの満足感を自分で演出しています。
—————不安をマネジメントして、成長の糧にしている感じなんですね。潰れない程度の不安を自分で生み出すにはどうしたらいいのでしょう?
不安を自分で生み出す方法は分かりませんが、潰れてしまう不安とは、出口のない不安だと思います。
例えば人間関係。どうやっても相手が変わらないとき、終わらない不安に襲われて人は病んでしまいます。 出口のない不安にしないためには、自分ごと化です。 相手や会社がどうするとかではなくて、自分はどうなりたいのか、どう変えれば不安感が減るのかみたいなところを考えています。不安を無視するのではなく、自分の中での答えを探す方向にコントロールすることが大切です。
例えば事業が傾いてその理由が不景気だとしたら、仕事がなくなると悲観的になっていても状況は変わりません。であれば、ここの領域は明るそうだから、チャレンジしたらなんとかなるかもしれないねみたいな自分ごと化していくことによって、出口を見つけていきます。不安の原因を見つけるだけでも、そこに対してアクションできます。
—————ありがとうございます。不安の出口を見つける作業は、人に話を聞いてもらいながらやったほうがいいですか?
絶対それがいいと思います。私が人と話すのが良いと思っているのは、些細な言葉で心が救われることがあるためです。期待している答えではなかったり、思いもよらない返答だったりすることもありますが、科学反応みたいなものが起こって、不安を解決する糸口が見つかったりすると思うんです。
もともと人間はコミュニケーションの動物で、人と一緒に何か協力することによって生きてきた背景があります。たとえ新たなテクノロジーが出てきても、コミュニケーションの大切さは変わりません。私も困ったことがあれば、人をご飯や飲みに誘いますね。そこで印象に残った言葉は、Evernoteに残しています。
—————松岡さんにとって、人生ノートとメモがキーワードなんですね。
●学びは不安を解消してくれるもの。大学院を考えていなかった人ほど行ってほしい
—————今後描いているキャリアイメージについて教えてください。
今は起業をしていて、自分自身しか見えていない世界を、見に行こうとしてる途中です。経営する中で、不安に思うこともあります。ただ不安を解消してくれるのは、知識や人との繋がりです。自分が吸収したものを糧にしながら、今後のキャリアを歩んでいきたいです。
—————松岡さんにとって大学院で学ぶこととは、ズバリなんでしょうか?
大学院で学ぶとは、新たな世界を作るための道具を手に入れるということだと思います。学びで得られるのは、自分自身に根付いたものや気持ち、行動を起こすためのモチベーションです。だから、学ぶこと自体は道具。そこから得られるいろいろなことが、自分への糧なのかなと思いますね。
—————ありがとうございます!それをふまえて大学院をどのような人にすすめたいでしょうか?
大学院は、行こうと思ってなかった人ほど行ったほうがいいです。変な言い方ですが、そもそも大学院に行こうと思ってる人は、別にすすめられる必要はないと思っています。
大学院は自分が行くべきところではないと思っている人ほど、新たに見つかるものが多いですね。大学院への進学は、人生に大きな影響を与える出来事になると思います。
—————やはり松岡さん自身、大学院に行って人と会って、得られたことは大きいですか?
大きいですよ。今は横浜の経済団体に入っていますが、名商大の先生をやってる人に会ったときには、昔通っていたことを伝えて会話のきっかけにしました。大学院に通ったからこその会話ですよね。
人脈は名刺の数では計れません。会話ができる人がどのくらいいるかが大切です。ビジネスはなんだかんだ人脈なので、会話できる人が多いほうが良いです。大学院に行って、会話の幅が広がったことは大きなアドバンテージだと思います。
—————とっても興味深い話ばかりでした。本日はありがとうございました!
執筆者:堀口 祥子