58歳で社会人大学院に飛び込んだ広報のプロが語る、学び直しと独立の秘訣 社会構想大学院大学

社会人大学院の経験談を紹介する「先輩インタビュー」

今回は、 社会構想大学院大学 コミュニケーションデザイン研究科を修了された須永さんです。
大学院での学びや仕事、独立、そして今後の展望について語っていただきました。

須永 由美子さん

オフィスアンダンテ合同会社代表
広報・PR・マーケティングコンサルタント

同志社大学卒業後、西武百貨店に23年勤務し、その後45歳で株式会社山野楽器へ。執行役員 広報宣伝部長を最後に、2022年5月、60歳で山野楽器を定年退職。院修了を契機にオフィスアンダンテ合同会社を設立、現在は同社代表として、企業や自治体などへ、広報・PR、デジタルマーケティング、生涯学習などについてアドバイスを行っている。

コミュニケーションデザイン修士(専門職)/PRSJ認定PRプランナー/日本広報学会監事/ファミリービジネス学会会員

共著『「音楽する」は脳に効く』(GAKKEN)

卒業・修了した大学・大学院:社会構想大学院大学 ※入学時は、社会情報大学院大学 広報・情報研究科
入学年月(年齢):2021年4月(58歳)
修了年月(年齢):2023年3月(60歳)  

20代からPR・広報を軸足にあらゆる業界にてスキル形成

———まずはこれまでの経歴を教えてください。

新卒で西武百貨店に入社し、婦人雑貨売り場からキャリアをスタートしました。20代のうちに関連会社に出向し、そこで宣伝やメディアリレーションなどを初めて経験しました。

その後、西武百貨店に戻りシステムの研修講師などを経て、育児休職明けに傘下のカルチャースクールに異動。スクールの講座企画や宣伝広報を担当していました。西武百貨店の最後のキャリアは池袋本店での販売促進です。

スクールのキャリアから、教室事業強化を計画していた山野楽器に声を掛けていただき、40代半ばで山野楽器に転職。当初は音楽教室のマーケティングを担当していました。

その後、全社のウェブ強化などを働きかけ、2011年にデジタルマーケティング部門を、次いで広報部門を立ち上げ、広報をはじめサイト運営、SNS運用、web広告、媒体制作など、広報と宣伝部門の責任者を勤めていました。2018年には、同社初の女性執行役員に就任し、2022年に定年退職し卒業しました。

———PR・広報を軸足に、システムや教育などに経験を広げてこられたんですね。
そうですね。広報・PRを軸としながらも、店舗販促、教室運営、システム教育など、さまざまな分野での経験を通じてスキルを磨いてきました。これらの経験は、現在の仕事にも活かされています。

日本広報学会 年次総会にて

60歳以降のキャリアを考え、大学院進学を決意

———社会人大学院に進学を決めた理由を教えてください。

コロナを理由に少し時間に余裕がうまれ、60歳以降のキャリアについて考える時間ができたことがきっかけです。山野楽器からそのまま独立や引退も選択肢としてありましたが、2社だけの経験では不安もあったので、長年の経験を体系的に整理し、インプットを増やしたいという思いから、大学院進学を決めました。

———他の大学院は考えませんでしたか?

実は、半年前に別の大学院の説明会に申し込んでいたのですが、コロナの影響で中止になってしまいました。その後、偶然SNSで目にした社会構想大学院大学(当時は社会情報大学院大学)の説明会に参加し、興味を持ったのがきっかけです。説明会では、社会学的な視点を取り入れた学び方や、多様なバックグラウンドを持つ仲間と学べる環境に魅力を感じました。自分がこれまで経験してきた広報を専門に学べる大学院というのは他にありませんでしたし、そこからは、他の大学は検討せずに社会構想いっぽんでしたね。
説明会に参加したのが、応募締め切りの2週間前で「今年は諦めようかな〜」と思っていたところに、説明会を担当されてた先生から2週間あれば間に合いますよ!と乗せられて、あれよあれよと入学していました笑。

———タイミングがぴったりだったんですね。大学院では、どんな学びを得ましたか?

広報の実務については経験として積み重ねてきたつもりでしたが、その背景としての理論を体系的に学ぶだけでなく、その幅広さが魅力的でした。企業広報だけでなく、これまで馴染みのなかった自治体やNPOなどの広報についても学ぶことができましたし、さらに組織運営といった経営との関係や、社会課題との向き合い方などにも新たな視点を気付かされ、広報の幅広い可能性を実感、視野が広がりました。

また自治体やスタートアップ企業など、さまざまな業界、さまざまな世代の同級生と交流することで、多様な視点を得ることができました。世代の異なる同級生たちとのプライベートも含めた交流はとても楽しいものでしたし、授業の中でのディスカッションは、違う視点を気付かされることも多く、毎回刺激を受けました。様々なバックボーンをお持ちの実務家の先生と、アカデミア両方の先生方からの学びはもちろんですが、受講生同士でも学び合う環境が充実していたように思います。専攻研究科を超えて受講できる講義もありましたし、社会学的な視座を取り入れた幅広い学びが自分にとっては魅力的でした。

修論審査会で集まった同級生らと、大学院前で

長寿企業の研究を通じて、中堅・中小企業でも実現可能なサステナブル経営について提言

———修士論文では、何について研究されたのでしょう?

変化に対応してきた長寿企業の企業文化について研究しました。リソースを潤沢にもち、しっかりとサステナブル経営等に取り組む大企業、新事業・新市場へ向けて急成長を遂げるスタートアップ企業らの狭間で、このままでは従来型の中堅・中小企業は時代に置いていかれるのでは、と危機感を持ったのがきっかけです。

山野楽器も、音楽専業の老舗ですが、規模は大きい企業ではなかったので、経営の一旦を担う中で、人などのリソース不足は痛感していました。近年、長寿企業の倒産も少なくない中で、しっかりと時代の変化に対応している歴史ある企業というのも存在します。それらの企業から、中堅・中小企業でも実現可能な持続経営へのヒントが導き出せないかと考え、研究に取り組みました。

長寿企業の調査研究から、変化対応できる企業の特質を企業文化の面から明らかにし、さらに中堅・中小企業の存続へ向けて、自社の不足要素のギャップを埋める提言なども行いました。この研究成果は、中堅・中小企業の経営者にとって、企業文化の重要性や、自社が取り組むべき課題などを再認識いただけるきっかけになるのではないかと考えています。

卒業後、母校社会構想大学院大学にて 、ゲスト講師を務めた際の一枚
修論追い込み中は、地方の同期を仲間と訪ねて、ワーケーションしながら執筆も

両立の苦労もあったが、気づけば学ぶことが当たり前の日常に

———学ぶ中で大変だったことはありますか?

そうですね、子育ては、子どもがちょうど社会人になるタイミングだったので落ち着いてはいたんですが、広報に加えSNSも管掌していたので24時間追われる忙しい仕事でしたし、仕事と学びを両立する時間の確保が一番大変でしたね。

実は最初は、仕事を終わらせて平日などの授業開始時間に間に合うのか、というのを心配していたのですよね。ところが、授業時間確保どころではない、そこでの学びを最大化しようと思うと、前後の予習復習の方が大変なんです。講義によっては課題もありますので、この時間捻出が大変でしたね。授業は夜22時前には終わりますが、その後夕食をとってから、夜中にレポートを書くとか。あとはなんとか忙しい中でやりくりしようと思うと、家事を簡素化するしかない。家事では夫にかなり助けてもらいました。

また仕事以外の時間のほとんどは論文を書くことに費やすなど、時間の使い方は、日常の中でも我慢というか、工夫しました。読むべき専門書も多いので、2年間の間は、楽しみのための読書は控えて、TVでも娯楽番組はほとんど見ませんでした。週末も、気分転換に趣味のバンド活動などは続けていましたが、それ以外のほとんどの時間を勉強に費やしていたと思います。

授業中の一枚。コロナ禍でリアル受講もソーシャルディスタンス

ただ大変なことも多いんですが、学び自体はとても面白く刺激的で、楽しいものでした。ゼミの先生からの親身なアドバイスもありがたかったですし、特に論文執筆がメインになる2年次などは、日々同期と励まし合って、なんとか濃い2年間を乗り切った、という感じです。2年間という限られた期間だから頑張れたのかもしれませんね。

卒業後、ゼミOG旅行(たまたま参加が女性ばかり)で、指導教授とワイナリー見学へ

———社会人大学院への進学を迷う方のお悩みが、お金と仕事との両立が二代巨頭なのですが、アドバイスがあればぜひお願いします!

まずは一歩踏み出してみることが大切かなと思います。案ずるより産むが易し!仕事との両立は確かに大変ですが、社会人としてのマルチタスク能力を活かせば、なんとか工夫で乗り切れると思います。リモートでの受講も当たり前になりましたし、どうしてもリアルタイムで授業を受けられない時はアーカイブで学べる環境も整ってきています。お金については、教育訓練給付金制度などを活用すれば、負担を軽減できます。

二年間大変な毎日だったので、卒業後はぽっかり穴が空いてしまったようで寂しいくらい。学ぶことが当たり前の日常だったので、物足りなくなりました。実は独立後、教室事業の経験などから、生涯学習に関するアドバイスなどのお仕事もいただくようになりました。生涯学習も改めて学び直したいと、この春から、社会教育士の養成講座にも通っています。

———キャリアに悩むPR・広報パーソンに、何か一言かけるとしたら、どうしますか?

広報は専門的な仕事であり、幅広い役割を期待される業務です。経験だけでなく、体系的な知識を身につけることで、より質の高い仕事ができるようになります。日本広報学会や日本パブリックリレーションズ協会など専門団体が主催する中にも比較的手頃な講座もありますし、身近なものなら、SNSの勉強グループなどで経験値の高い人の話を聞くこともできます。学ぶ機会を意識して見つけ、積極的に活用してみてはと思います。スキルアップすることで、より効果的な情報発信や、メディアリレーションなどのコミュニケーション戦略を立てることができるようになるはずです。組織を活性化させるという意味で、インターナルコミュニケーションの重要性も年々高まってきています。

さらにまとまった時間とお金をかける覚悟があれば、社会人大学院では、実務経験を理論的に裏付けるという、実務と理論両面の理解が学べます。本来の広報という機能を正しく知識として持ちながら、広い視座を持ち、ご自分の業務を、より経営に生かすことができるようになると思います。

人的資本やサステナブル経営へも関心が高まっていますし、広報の範囲は、企業のレピュテーションを維持し高める、リスクマネジメントを行うなど、求められる範囲や質が、年々広く、また高くなってきています。

広報というのは、本来、目的達成や課題解決のために、組織や個人がさまざまなステークホルダーとのコミュニケーションによって関係構築を行っていく、まさしく経営機能の一つなんですよね。大学院で学ぶことで、ご自分が置かれている企業・団体などの経営に資する大きなリーダーシップを得られるのではと思います。

学位授与式での一枚。ハットトスで満面の笑み

専門家としてだけなく、誰もが生涯を通じて学び活躍できるような環境づくりに貢献したい

——— 須永さんがお仕事する上で大事にしていることはありますか?

「1つ上の役職の人の目を持つ」ですね。実際にできていたかは別にして、20代の頃からずっと意識し続けてきました。係長だったら課長、課長だったら部長。部長だったら役員。自分の一つ上の立場の人がどんな世界でものを見ているのか、ということを意識するだけでも仕事の質というのは変わってきますよね。高い視座をもつということは、上から目線で考えるということではなくて、少し離れたところから全体を俯瞰してみるということ。それができるようになると、近視眼的にならずに、自分の仕事や周りとの関係、置かれている場などへの理解が一層深まり、一段高い判断もできるのではないかな、と思います。

———ありがとうございます。最後に、今後の展望を教えてください!

大学院で学んだことを活かし、広報・PR、マーケティングの専門家として、企業や自治体へ、経営・組織貢献へ向けたコミュニケーションについてのご支援は続けていきます。加えて生涯学習の分野でも、誰もが生涯を通じて学び活躍できるような環境づくりに貢献できたらと考えています。また学会での研究活動や趣味の活動も継続し、自分自身の生涯学習を続けていきたいと思っています。

編集後記

須永さんのインタビューを通して、社会人大学院での学びが、キャリアアップだけでなく、人生を豊かにする可能性を感じました。仕事や家庭との両立は大変ですが、強い意志と周囲のサポートがあれば、必ず乗り越えることができます。この記事が、社会人大学院への進学を検討している方の背中を押すきっかけになれば幸いです。

インタビュー:秋山詩乃

編集・ライティング:秋山詩乃

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