「未練か適性か」研究の道を見極める JAIST北陸先端科学技術大学院大学 

働きながら学ぶ人を紹介する「先輩インタビュー」
今回は北陸先端科学技術大学院大学で学ばれている市村春嘉さんです。

学部卒後は研究ではなく就職を選択した市村さん。

冷めやらぬ機械学習への探求心から、社内プロジェクトを渡り歩き、転職をし、ご自身で学びを深めていきます。働きながら大学院へ進学し、研究職という道が現在の市村さんにはどのように映っているのでしょうか。興味深いお話を伺ってみようと思います。

 

市村 春嘉さん

■経歴概要
○2016年4月:大学卒業後、日本IBMに入社
・2016年4月~2017年12月までは、大規模SI案件やWebアプリ保守開発案件にSEとして参画しシステム開発を経験。
・2018年1月~2020年3月までは、機械学習エンジニア/データサイエンティストとして主に医療分野の画像解析やビッグデータ分析案件に参画。

○2020年4月:日本IBMを退職し、フルカイテン株式会社に入社。
ゼロベースでのMLOps基盤の設計・開発、モデル開発に従事。

○2021年9月:フルカイテン株式会社を退職し、株式会社stand.fmに入社。
主にレコメンドエンジンの開発を担当。

■その他の活動
○北陸先端科学技術大学院大学社会人コース
2020年10月より、北陸先端科学技術大学院大学(JAIST)社会人コースに入学し、情報科学の修士号取得に向けて勉学を開始。機械学習技術の基盤となる数学力の向上や、研究活動を目的としている。将来的には社会人博士号の取得も目指している。
○採用活動への協力
 2017年より継続して採用活動に参加。
・年間約3名の内定アドバイザーを担当し、入社にあたっての疑問点・不安店の解消と入社意欲向上に努めた
・年2~3回、就活生やインターン生向けの社員紹介座談会や業務内容を伝える講演会に登壇
○LTへの登壇
・医療従事者・エンジニア等が参加するオンラインサロンに参加し、医療xITの切り口でライトニングトークを実施

■リンク
GitHub https://github.com/canonrock16
Kaggle https://www.kaggle.com/harukaichimura
Qiita https://qiita.com/canonrock16
Zenn  https://zenn.dev/canonrock

・今の仕事について

株式会社stand.fmでレコメンドエンジンの開発をしています。会社が運営しているstand.fmという音声版youtubeのようなサービス上で、個々人の好みに合ったコンテンツを表示できるよう、

レコメンド基盤の開発やモデル開発、バックエンド開発をしています。


卒業・修了した大学・大学院:
JAIST北陸先端科学技術大学院大学JAIST東京社会人コース
入学年月日:2020年10月

言ってるだけじゃ誰も動いてくれない。新人時代から戦略的なネゴシエーション

————ご経歴について少しお聞かせください。大学卒業後に日本IBMに入社されたそうですが、学部は理系だったのでしょうか?

生物学部でした。生物学部って数学をやらないんで、理系なのか?みたいなところはありますけど(笑)。分子生物系で脳神経系に興味があり、研究室では脳神経系に影響を与える細胞に対して分子生物的にアプローチするといった感じのことをやっていました。

実は、就職活動の序盤は広告業界も考えていたのですが、業界の方々と私の人種があまりにも違いすぎて「あっっ、ごめんなさい違いました!」と思いまして(笑)。再度就職について考えてみたときに、ITとか理系寄りの方が自分には合っていそうだと思ったんです。日本のあらゆる業界が衰退する中でIT業界だけは必ず伸びるだろうという展望があったのも大きいです。あとは当時IBMがWatsonという人工知能を宣伝していて、人工知能強いのかなと思って入りました。




————
IBMには2020年までお勤めになるわけですが、その間は機械学習のエンジニアとして?

入社したばかりのころは、いわゆるIBMの伝統的なSI系のプロジェクトに入っていました。大規模官公庁さんに入っている、長く続いているシステムのプロジェクトだったのですが「なんか...面白くないなー」と思ってしまって(笑)。機械学習方面へ行こうかなと思って、そこから勉強をしたり、社内プロジェクトを異動したり、みたいなことをしていました。

新人は皆「今のプロジェクト面白くないから変わりたい」と思うし言うのですが、素直にそれを口にするだけではその要望は基本通らないんです。例えば移りたいプロジェクトの人とコネを作るなど、社内政治的なことを少し頑張ったりすると結果が違ってくることもあるって感じですかね。飲み会に入れてもらったり、社内イベントの後で気になる部門やプロジェクトの偉い人のところに話に行って飲み会に誘ってもらい、そこでコネを作る。みたいなことを半年ぐらいかけてやっていました。

当時IBMでは医療系の部門が先進的なプロジェクトである機械学習やデータサイエンスに関することをやっていて、社内で成果発表もしていました。

そのイベントに参加し、発表していた部門の偉い人に「私興味あるんですよ」と話しかけてみて、その流れで飲み会に呼んでもらい、そこでもやりたいことの話をしていたら、ちょうどそこに新人が欲しいプロジェクトがあって、そこに呼んでもらった感じでしたね。




————1-2年目にしてめちゃめちゃ戦略的で行動力がヤバいですね。

最初に入ったプロジェクトが本当につまらなく感じてしまって...。ずっとここにいたら自分のキャリア終わるなと入って3ヶ月くらいの時点で思い始め、転職も考えました。さすがに入社半年で転職というのはキャリア的にもダメだと思いとどまり、できるだけ社内で頑張ろうと思ったんです。

最初のプロジェクトの上司には「別のプロジェクトに異動したいです」と素直に伝えたんですが、「この話、預からせてもらってもいいですか?」と言われたきり1-2ヶ月は特に動きもなく、ただ言っただけでは誰も動いてはくれないよなと思い、自分で無理やり動いてしまったって感じでした。

上司からしたら、何もできない新人が何を言うんだという感じだったと思います絶対(笑)




————今になるとそういった上司の気持ちも分かるんですけどね。でもそこで腐らず適切にポジティブに行動に変えていったのはすごいなあと思いました。

プロジェクトを移りつつ、やりたいことを手繰り寄せる

————異動先では機械学習エンジニアとして働かれていたのですか?

異動先の医療系部門の中でも、いくつかのプロジェクトを渡り歩きました。

1つめのプロジェクトは、電子カルテに書いてある内容を自然言語処理し、構造化して表示するというものでした。普通の日本語でさらさらっと書かれたカルテを「この人の初診はどこで、どういう病歴で」というのをデータベースに入れやすい形式に書き下すシステムです。

自然言語処理の部分は、Watson ExplorerというアメリカのIBMが開発したシステムがやってくれるので、私自身が機械学習部分に関わることはなかったんです。いわゆるエンジニアの仕事をしていましたが、AngularJSという当時はまだ新しかったフレームワークを使えて良かったかな、という感じです。

2つめはデータサイエンス寄りのプロジェクトで、入社1-2年目ぐらいの人が欲しいということで空きが出て、そちらに異動して記述統計・データ分析をしていました。例えば、日本全国の病院に特定の病気の患者さんが何人いるかといった集計をもとに、投薬した薬の種類と、その予後を分析する、みたいなことです。生存時間分析をしていて、ひたすらSPSSというIBMの統計処理ソフトみたいなものに大量のデータを流しこんで分析していました。

3つめのプロジェクトが医療分野の機械学習系のもので、画像分析をするといった感じのものでした。2つめの記述統計のプロジェクトに関わっていた頃から、やはり機械学習をやりたいなという思いがあり、裏で関係する勉強はしていたんですね。飲み会の席で「機械学習に興味があって、最近Kaggleやったりしてるんですよね」と話をしていたこともあり、1人空きが出たタイミングで入れてもらいました。



————なるほど!ここで画像分析が出てくるんですね。

患者さんのいろんな画像をもらってきて判定処理をするんです。人間のお医者さんの診断済みの写真をもらって。それこそCT画像や、皮膚科だったら皮膚の写真なども集めて「これは病気」「これは病気じゃない」と学ばせていきます。興味ある分野のプロジェクトでしたし、面白かったです。

研究結果が実用化されないもどかしさ→転職

————プロジェクトが楽しくてそのままIBMで続けていくのかなと思いきや、転職されたんですよね。これはどのようなきっかけだったんですか?

2-3案件くらい担当しましたが、どれも実用化に至らないんです。

機械学習の案件は、おそらく医療分野に限らず全部そうだと思うのですが、エンタープライズ向けだとPoC(Proof of Concept:概念実証)で止まってしまう状態が非常に多いんですね。

実際に製品化するまでの道のりが長く、特に医療の場合は人の命に関わるので厳しい。さらに医療機器を販売するためには「医療機器認証」というものが必要となり、その申請が大変なんです。アメリカのIBMの場合は、申請を通すための専任チームが数百人規模で組まれるぐらいの大がかりな仕事なのですが、私のいたチームは5-6人。当然そんな医療機器に関する専門知識を持った人はいないので、医療を扱っている時点でPoC止まりになることが確定しているとも言えるんです。実用化ができないなら、何のために仕事をするのかなと思うようになりました。




————そういったことが次のフルカイテンへの入社のきっかけに繋がっていくのですね。

転職活動をしながらいろんな会社に当たって話をしてみたのですが、受託系のAI企業はどこの会社でもPoC止まり問題は存在していると感じました。これはIBMだけの問題というよりは、そこが受託系AIの限界ではないかと思ったんです。

また、クライアントワークよりも事業会社の方が面白そうだと思いましたし、IBMのような大規模な会社よりも少し小さめの会社の方が自分の貢献が分かりやすいのではないか、という若者特有の思いがありまして(笑)

ベンチャー規模のSaaSで、社会貢献を目指しているようなプロダクトがいいなという気持ちもあり、フルカイテンは、大量廃棄問題にアプローチできるという社会貢献度もあるし、SaaSで、自分が作ったモデルが利用者さんに使ってもらえ、事業会社で、ベンチャー規模。そういったところがいいなと思って入りました。




————ここではマシンラーニングのMLOps基盤の設計・モデル開発に関わっておられたのですか?

そうですね。MLOps基盤を作っていた時期が長いですね。

モデルを作るだけだったら単発で1回Pythonで頑張って書けばできるんですけど、継続的にMLモデルをサービングしようと思うと、データをDBから取得してきてモデルに流し込み、更にそのモデルをどこかにサービングして、そのサーバーが生きているかどうかも監視しなくてはならない。インフラ寄りな感じです。




————MLOpsという仕事があるんですね。Webアプリで言うと、そのアプリを作る人ではなく、それより下層にある基盤を作る感じですかね?

そうですね、本当に基盤のところです。DBを立てるところからやってる感じですね

MLOpsエンジニアという形で募集してる会社さんもあります。モデルを作るのとはまた別の方向性の話なんですよね。

ここでエンジニアとしてやりたかった経験ができて、今の会社への転職につながりました。




————なるほど、そこから今のstand.fmに入られたということですね。転職されてもう9ヶ月ぐらいですかね?やりたいマシンラーニングなどはできているのでしょうか?

そうですね。とても仕事がしやすいです。

最近はひたすらレコメンドエンジンの開発をしています。ユーザーの視聴履歴に基づいて、この番組がおすすめかも?みたいなものを出してあげるシステムを作っているんです。

研究職への思いと適性を見極めるために大学院へ

————2020年に進学されていますが、フルカイテンでのMLOpsの基盤を作っている中で生まれたきっかけなのでしょうか?

実は修士の勉強をすることは、IBM時代から考えていたことでした。

時間ができたらすぐにでも勉強したいと思っていたんです。もともと研究職になりたい気持ちは学部生のころからありました。ところが、生物系は茨の道と言われていて、博士まで取ってもその先が厳しすぎる状況が見えていたので、生物系で研究するのはやめておこうと思い就職をしたんですね。でも、研究職に対する未練が捨てきれず、やっぱり修士行きたいかもなぁという気持ちでいた、ということかなと思います。

もともと理系的なことを学ぶのが好きだったことが、出発点としては多分あって、理系的なことを学ぶだけじゃなくて、自分で何か新しく発見できたら面白そうだよねとか、かっこいいよね、みたいな単純な理由な気はしています(笑)




————仕組みを知るのが好きなんですかね?

そうかもしれないですね。自閉症や統合失調症で不調が来てる人はどういうことが原因で発症してるんだろう?ってことを調べることによって、何が正常な脳の働きにとって重要なのかが逆説的に分かるという研究の方向性があります。そのような研究を積み上げていくことで、人間の脳の働きがわかるのが面白いなと思います。




————今はどんな研究されてるんですか?

最初は脳神経に近い、元々の自分の興味に近いところをやろうとしてたんですけど、なかなか難しい感じなので、もうちょっと現実的に修論を書ける方向性にチェンジしようとしています。




————具体的に「現実的」ってどんな感じになるんですか?

私が研究というものをよくわかってないだけな可能性がすごく高いんですけど、脳神経系の研究って「これができたから成果として認められる」っていうのが曖昧に思えるんです。

情報系の場合は、例えば先行研究が精度80%を記録してたとして自分の手法では精度85%になりましたという結果が出たら、確実にそれを成果と言えますよね。

生物系に近い分野だと何をもって成果としていいのかな?って思いますし、曖昧なので話の持って行き方でどうとでもできるように思えて。自分の中で、これを成果と言って良いのかな?と思ってしまい、モヤモヤをどうしても拭いきれないところがあります。

例えば「この遺伝子が壊れたらこの病気となることが分かりました」みたいな成果は一番わかりやすくて単純明快なんですけど、なかなか生物ってそういう風にならないんですよね。遺伝病も1個の遺伝子が壊れただけで発生してるのって結構珍しくて、複数の遺伝子と環境の影響もあるという場合が多くて、これが原因だ!という風に特定しづらいんです。

修士という短期間で成果を出すためには、単純明快な情報系寄りの研究の方がやりやすいなと思ったので、レコメンドエンジン周りで研究テーマを見つけようとしています。




————他の大学院への進学も検討はされましたか?

かなり検討はしました。私が知っている関東圏の有名な大学の修士の募集について調べて、実は記事も書いたんですけど、

東京近郊でフルタイム勤務しつつ情報系の修士号が取れる大学院を調べてみた【2020年9月ver】

すごい。これめっちゃ参考になる!(そしてすかさず掲載許可をいただく)




————今のところの最大の学びは何でしょうか?これがあったから来て良かったことはありますか?

ううーーん...研究が難しいということがわかった!(笑)

授業で学べることももちろんありましたが、本を読めば分かることが多いんです。私が社会人大学院に入ったのは「研究がしたい」というのが1つとても大きな理由としてあるんですね。研究という道に対して未練的なものにケジメをつける意味でも、一度ちゃんとやってみようと思ったんです。

もしかすると博士の道に本格的に進もうということになるかもしれないし、ちゃんとやってみた上で、この人生においてはやらない方がいいと分かるかもしれない。

実際博士に行くかはまだ決めていませんが、思っていたより大変そう...。




————今の時点では、研究は向いてると思われますか?

向いているか非常に疑問はありますねぇ(笑)楽しいは楽しいんですが。

学部の研究って中途半端であまりちゃんとやった感がなかったんですが、今は研究テーマを決めるところから全部自分でやるんですよね。筋のいいテーマを見つけるのってこんなに難しいんだってことがわかりました。

9ヶ月後に話を聞いたら感想が変わってそうですね(笑)

環境や条件で諦めず見つけてほしい

————受験準備について伺いたいのですが、もしかするとブログがありますか?

北陸先端科学技術大学院大学(JAIST)東京社会人コース受験体験記

個人ブログの方にまとめてありますので、よかったらどうぞ。




————
大学院に行くと言ったときに、パートナーや会社への説明などで大変だったことはありましたか?

特に障壁はなかったです。パートナーは「がんばれー」と応援してくれましたし、会社も副業OKという会社でしたし、基本JAISTが土日なので、仕事には特に影響なく行けました。




————資金面について教えてください。

会社負担はなく費用は完全に実費で、教育訓練給付金は対象となっています。

ただJAISTの場合は、長期履修申請をすると教育訓練給付金を申請できない、というトレードオフがあったように思うんですよね。給付金の支給を受けるためには2年で卒業する必要があるそうです。社会人の大半は2年で卒業というのは難しく、少しのお金のリターンのためにタイムアップになるくらいなら長期履修申請を出した方がいいとJAISTの人が話していたように思います。




————どんな感じのスケジュールで過ごされていますか?

課題は平日の夜か土日にやります。情報系の授業は基本土日なんですけど、知識科学という社会科学寄りの授業だけは平日にあります。月曜から金曜の18-22時がその授業で、これがある期間は1週間が辛くなります。9時から18時まで仕事をして、その後授業が22時近くまであり、さらに課題があるハードスケジュールとなります。こういうスケジュールの週を2,3回くらいやると1単位、みたいな感じだったと思います。




————卒業後の思い描く姿は博士に行こうか今迷われてるところですかね。

そうですね。あとはCS系の修士号を取れることになるので、例えばアメリカとかだとCS系の学位を持っていることが募集要項に書いてあったりすると思うのですが、今すぐではなく数年後とかにアメリカの会社にフルリモートで入るなんていうのをやってみたいなと思ったりします。




————ご自分にとって大学院とは何ですか?

ステップアップの意味合いが1つと、もう1つが研究をちゃんとやってみることによって、研究職という道を目指しきれなかった自分の未練を断ち切るという意味がありますね。

60歳ぐらいになって「あー大学院行っとけばよかったな」と思いたくないんですよね。




————どんな人に進学を勧めたいですか?

社会人大学院行きたいって気持ちがあるんだけど、例えば平日日中は会社休めないから行けないと思ってるんだとしたら、チャレンジしてほしいなと思います。情報系の場合はですが、JAISTともう1個くらい選択肢になる大学院があります。

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