働きながら学ぶ人を紹介する「先輩インタビュー」
今回は、一橋大学大学院経営管理研究科を修了した高橋諒さんです。
公務員とコンサルティング会社を経てフルタイムで一橋に入学、修了後一年弱でクリエイティブチームAKANESASUを起業した高橋さん。会社のことや非常にハードだったという大学院生活のことについて伺いました。
国家公務員、コンサルティング会社、個人事業主を経て現職。
卒業・修了した大学・大学院:一橋大学大学院経営管理研究科
入学年月日(年齢):2019年4月入学(34歳)
修了年月日(年齢):2021年3月終了(36歳)
●修士論文のインタビューをきっかけに起業
——— 合同会社AKANESASUというデザインとビジネスをつなげるという会社の代表だそうですね。
はい、クリエイティブ全般を扱う会社を2022年2月に立ち上げました。社名の「あかねさす」は和歌の枕詞。次に美しかったりポジティブだったりする語句を引き出す修飾語で、自分もクライアントの明るい未来を引き出すような存在になりたいという思いと、何だろう?という興味を引いてもらえる名前がいいなと思い、この社名にしました。私以外は全員アーティストとデザイナーです。おかげさまで優秀な人が揃ってくれました。
——— 皆さんなんかめちゃめちゃすごい人ばかりで。高橋さんもクリエイティブ系のことをされてたんですか?
それが、実はしていないんです。グラフィックも描けないですし動画も作れません。デザインやアートはもちろん好きですが、特に技術を持っているわけではありません。
——— それなのに会社を立ち上げたきっかけは?
M2になってからワークショップ(ゼミのようなもの)のコースにマーケティングを選びました。マーケティングって懐が深くて幅広くテーマにできたので、空間デザインとマーケティングを組み合わせる、もっと言うと、クリエイティブなことに対して人の感性を震わせることでマーケティングに活用できるのではないかという仮説を修了時に書いたのですが、それを実践したいなと思い起業しました。
———高橋さんのミッションやビジョンに共感してくれた人が集まってくれたんですね?
みんな理解はしてくれているとは思います。一方でチーム参加のモチベーションは結構バラバラだと思います。チームでやることで一人ではできないことを経験したいとか。
———もともと公務員をされていたんですよね?
はい、国家公務員を経て、コンサルティング会社に入社しました。でも、どちらの仕事も激務で疲れ果ててしまい、退職。復職せずに大学院へ入学しました。入学後は個人事業主としてフルタイムの合間を縫って働いていました。
———どうして大学院へ?
キャリアの中で業務改善や組織課題を担うことが多かったのですが、実務経験と独学のみで体系的な深い知見がなく不安だったので、新しく学びを得たいと思いました。
———そして、修了後にいまの会社を起業したわけですね。何かきっかけがあったんですか?
きっかけは、修論を書いたときに行ったスターバックスの元社員の方へのインタビューでした。建築士として店舗開発責任者をされていて、空間の楽しさや美しさを非常に重視されている方で、組織とともにそうした価値観をビジネスで表現されていると感じました。しかし、それらはとても素敵だけれど、日本の企業でそれができている企業は少ないのでは?とも思いました。だったら、自分でやってみるのも面白いんじゃないのかなと。
欧米のMBAは起業する方が多い印象がありますが、日本のMBAは必ずしもそういうわけでもありません。一橋の全日制コースはざっくりと 1/3 が留学生、 1/3 が学部から上がってきた学生、 1/3 が社会人という感じで、ほとんどの方は卒業後に就職するか元の会社に戻るか。なので私一人ぐらい起業しても面白いんじゃないかと思いました。
●経営学の歴史と少人数制にひかれて一橋へ
———大学院はフルタイムですか?
はい、フルタイムです。平日昼間に講義やゼミがあるので、社会人は休職(企業派遣含む)するか辞めるか、もしくは合間に出来る仕事を選ぶ必要があります。
———進学にあたって、パートナーや会社への説明、関係性で困ったことはありましたか?
会社には大学院の話はせず、「辞めます、体が持たないので」と伝えました。家族にはやりたいことがあるからと。
———会社を辞めるのは不安ではなかったですか?
あまりなかったですね。楽観的な性格なのかもしれませんが、入学してみて、やっていることに意義があると思いましたから。一流の教授に学び、優秀な同級生と議論する。非常にレベルの高い方々と一緒に何かを作り上げていく経験ができる。ビジネス関連のあらゆる書物が揃っている図書館も使える。とても充実していました。
———給付金制度は利用しましたか?
使いませんでした。というより使えませんでした!悲しいことに、公務員は教育訓練給付金の在職期間に換算されないんです。
———大学選択の軸や他に検討した大学を教えてください。
一橋を志望したのは、経営学・商学の歴史があって日本をリードしてる点と、慶応早稲田と比べて人数が少なかったからです。実際に少人数のため生徒一人当たりが受けられる教授の方々のリソースが増えるし、アットホームで一緒に学んでいるというチーム感がありました。同学年の全員の名前を覚えられて一人ひとりに対する親しみが強かったです。学費も国立なので安いですし、それに対して得られることはすごく大きかった気がします。学生もみな非常に優秀で。主にアジア圏から来られている留学生の方々のレベルも軒並み高かったです。
———受験準備はどんなことを?
学部は経済学部で経営学ではなかったので、最初に入門書を数冊読みました。文庫・新書を読んで大筋を理解してから、網羅的な内容をカバーしているハードカバーの専門書を数冊読み勉強しました。
小論文は、河合塾のMBA専門コースの授業を1つ取り、また在学生の方にレビューしていただきました。アカデミックな書きぶりを知ることができて、入学後の予行練習ができました。
過去問は英語が必須で、欧米の専門誌から出題されると思い原文のまま読んでいました。ただ、時間内で終わらせられるかどうかは不安でした。本番は時間ギリギリでした。
●一番の思い出はかなりハードだった”古典講読”
———大学院生活はどんな感じでしたか?
1年目は1限からの授業が多かったので9時くらいからスタートして、社会人時代とあまり変わりませんでした。グループワークや課題の提出など 1 つひとつが重いので、あんまり詰め込みすぎると私の処理能力が追いつかないと思い、一日あたり3コマ以下にしていました。
せっかく入ったんだからいろんな授業を取りたいんですけど、そうするとグループワークのミーティングに出る時間が作れない。チームにコミットして他の人からも学びたいし・・・。このバランスを取るのが難しかったですね。
フルタイムなので時間の余裕がありそうですが、時間がある分、こだわろうと思うと深掘りしてしまって結局時間が足りなくなるといったシチュエーションが多くありました。
———入学前後でギャップはありましたか?
悪いギャップはありませんでした。思っていたよりすごかったのは古典講読という授業です。必修でグループを組んでやるんですけど、これが一番厳しかった!!他の学生に聞いてもみな同意見だと思います。昔の名著と呼ばれる本を1章ずつ読んでチーム毎に要約・発表するという授業なんですが、古典なので非常に記載や言い回しがクラシカルで難解。日本語訳なのに日本語読んでる気がしない(笑)。私のときはアルフレッド・D・チャンドラーJr.の『組織は戦略に従う』を使いました。
———いやー、難しい本ですよね。私も数ページめくって諦めて今ここに積んであります(笑)。
私も 1人だったらとても読めないですよ。チームで担当する章を各メンバーが1、 2 日目はお互い読んできて、 3 日目ぐらいから話し合い、発表内容をチーム内ですり合わせる。でも、なかなか意見が合わないこともあります。 1 回読んでも意味が分からないから、 2 回 3 回読んでペーパーにまとめるんですが、たった3人のチームでも、ああでもないこうでもないと、ホワイトボードがもうぐちゃぐちゃで、いつまでもまとまらない。自習室に残って終電までやるというノリで、これが毎週各チーム持ち回りで3ヶ月ぐらい。マーキュリータワーというMBAの講義が行われる建物があるんですが、当時は24 時間空いていたので普通に泊まっている人もいました。
毎週要約のペーパーを提出するんですが、それが朱入れされて返ってくる。先輩のTA2名からのレビューもあって・・・あれはフルタイムでないと文章のクオリティを担保するのは無理だと思います。当時は体力・処理能力ともに自分にとっては非常に辛かったですけど、深い思考力とか、自分の考えを人に伝えるための文章作成といった総合的・普遍的な力がつきました。社会人時代にも大学時代にも、ここまで深く物事を考えることはありませんでした。知的生産性が本当に高かったなと思います。
———大学院で一番印象に残っていることといえば・・・
講義では古典講読ですね(笑)。
———一橋の大学院の特徴はありますか?
一橋では、1人じゃなくてチームで生み出すことに価値を感じられるかどうかが結構大事な気がします。基本的に人と共に学ぶというか、人とディスカッションすることで新たな知見を得ようというスタンスがない人にとっては辛いかもしれないです。
私は1人で黙々とやるよりもみんなでワイワイやることが好きなので、一橋が合っていたと思います。なので、社会人のみならず新卒の方にもすごく良い環境じゃないかなと思うんです。企業ではチームで動くことが大半ですから、新卒生には就職してからの良い予行練習になると思います。
●大学院は自分のレベルを引き上げてくれた場所
———高橋さんご自身のあり方として、大事にしていることは何ですか?
”快感を得られるかどうか”ですね。仕事でも学びでも、それをやっていて気持ちいいかどうかを基準にしています。その方が結果的に物事を継続して深化させることができると感じています。
——— 高橋さんにとって大学院とは?
「新しい視点や考え方を作ってもらった場所」です。グループワークやレビューで自分の考えを相対化、客観化して見ることができ、物事をより高い視点で見ることができるようになりました。思考のレベルを引き上げていただいた感じがします。
——— どんな人に進学を進めますか?
まず、知的欲求が大きい人。知的欲求がないと社会人大学院というところは面白くない場所だと思います。 次に、MBAに特有な点として、勝負事や競争が好きな人。経営学というのは自分に競争力をつけていかに他に勝つかという側面がある学問ですから、競うのが苦手な人がMBAに入っても興味が持てないのではないかと。特に一橋は一位とるぞ!という意思が強い人、向上心、競争心が高い方が多い気がしました。