働きながら学ぶ人を紹介する「先輩インタビュー」
今回は立教大学大学院経済学研究科で、税法について研究された佐々木 秀幸さんです。
大学院への進学は、税法研究による税理士試験の免除がきっかけでしたが、その効果は試験免除だけではないと語る佐々木さん。「人と人を繋ぐこと」「その人の人生が何かをプラスαできる存在になること」をテーマに、バックオフィスコンサル・税理士・飲食の掛け合わせて築くキャリアについて聞きました。
株式会社KAKERU 代表取締役
1990年1月、東京・巣鴨にある自営業の家庭にて、生まれる。学生時代、会計学を専攻し、日商簿記検定1級と税理士試験の簿記論を取得。関連会社の管理業務代行を含め30名以下の中小企業のバックオフィス業務を6社ほど経験。さらなるステップアップを求め、2017年よりfreee株式会社に転職。士業事務所向けの導入支援、コンテンツマーケティングを担当した後、プロダクトマネージャーとしてfreee会計のさらなる利便性向上に携わる。目に見えない数多くの方々よりも、目の前のスモールビジネスの方々に貢献したいという気持ちが強くなり、2021年8月に個人事業主として独立。同年12月に法人化した。
趣味は、旅行、釣り、料理(スパイス料理中心)、スポーツ(特に野球、バスケ、サッカー)、サウナ、さんぽ。
立教大学 経済学研究科
入学年月日(年齢):2020年4月1日入学(30歳)
卒業年月日(年齢):2022年3月31日卒業(32歳)
●税理士を目指すも、まずは社会人としてのキャリアづくりに狙いを定める
———— まずは、今までのキャリアについて教えていただけますか?
高校生で自分の進路を決めるときに最初になんとなくで薬剤師になろうかなと思ってたんですが、化学が絶望的に苦手だったので文系の道に進もうと思ったわけです。じゃあ自分何やりたいのかな?って考えたときに3つに絞られたんです。まずは子どもが好きだから、保育士さん、それから旅が好きだからツアーガイドや添乗員。最後が税理士。自分の性格的にサラリーマンは向いていないのではと漠然と思っていたというのと、あとは小さいころからぜんそくがひどく、体調を崩しがちなところがあるので、ちょっと季節労働者的なもののほうが自分の中ではバランスが取れるんじゃないかと思っていたわけです。
当時は完全に誤解していて、税理士っていうのは確定申告期だけ忙しいのだと思っていたので、じゃあ税理士になろうということで明治大学なら経営学部、早稲田でいったら商学部とかその辺りが見えてきて明治大学の経営学部に入学しました。そしたら、私が入学したタイミングで四半期レビューや内部統制監査の導入など公認会計士を取り巻く環境が色々変わり、公認会計士の合格者が増えたんです。会計士ってより短期集中型の試験なので、勉強し始めて2,3年で受かったりするのですが、税理士は一般的に短くても3~4年はかかってしまう。会計士受かったら税理士資格も取れるよという周りの言葉もあり、、それならばと矛先を変えて会計士を目指して勉強したのですが、いざ始めたら会計士の専門業務になかなか興味が持てなくて(笑)。それならばちゃんと勉強したことを元にサラリーマンとして社会に出て、キャリアを積んだほうがいいかなと思ったんです。
———— そこから就職活動をされたんですね?
経理職をやりたいと思いつつも、周りの同級生とかに聞いてみたら、大企業に入っている人は本当に経理業務全体のごく一部にしか携わってなくて。たとえば、ひたすら固定資産の減損処理だけをしていますとか。、それには私自身は面白みを感じられず、やるからには会社全体を見渡せるポジションで端から端までを経験したいと思いました。、しかし、それが可能な小規模の会社だと新卒採用をしていないという現実に気づき……(笑)。なのでいきなり中途採用で転職活動を始めました。面接では「今までの経歴があんまりないようだけど、他の人に負けない武器はなんですか?」と聞かれて、「“若さ”です!」と言って売り込んで、30人くらいの会社に入らせてもらって、キャリアがスタートしました。
最初の会社で、経理や財務はもちろんこと、ありとあらゆるバックオフィス業務に関わらせてもらいました。来客用のお茶くみから資金調達まで本当に多岐に。しかしその頃、あまりに忙しすぎて耳鳴りや眩暈が続くようになり、ある日、終電間際で急いで帰ろうとしたときに、意識を失い、階段から落っこちちゃったんです。それでも「自分が辞めたら周りに迷惑をかけてしまうし」と悩んでいたら、当時の上司に「経営陣でもないあなたがそこまで抱え込まなくてよい」と助言を受けて、気持ちが楽になりました。と同時にこれから先どういう人生を歩んでいくのか、しっかり考えようかなと思い始めました。
———— 第二新卒から目まぐるしい変化ですね。そのとき、おいくつでしたか?
24歳くらいです。それで、マインドマップを描いたんです。自分はどういう人になりたんだろうって。それで思ったのは、自分がやりたいことは「人と人を繋ぐこと」であり、それによって「その人の人生が何かをプラスαできる存在になること」だったんです。具体的に言うと、気軽に人と人が繋がれる場所をつくって、そこに集った人同士が何か共通の話題を基に仲良くなり、そこからプライベートや仕事が豊かになるお手伝いをできたらいいなと思って。そういう場をつくれる人になりたいと思ったときに、具体的に場所ややりたいことのイメージは湧いたのですがビジネスとしては成り立ちづらいことに気付いて、それなら軸としての本業は別に置きたいが何にしようと改めて考えました。
そこで、改めて、昔一度志した税理士を本業にしようと思い、そしてあとはコミュニティづくりのほうをどうすればいいかと考えて、2社目の転職ではシェアハウスやシェアオフィスの管理会社、かつバックパッカーの人が集まるホステル事業を新規で行うという会社に入りました。シェアハウス、シェアオフィスの管理をバックオフィスを中心に行いながら、ホステル事業の立ち上げに関わり、ホステルの下にはバーがあったので、同時に飲食店経営なども経験させてもらいました。コミュニティづくりの面白さや大変さを学びましたね。将来カフェをやっていくにあたって、オペレーションをどうするかといった、そういうものイメージもより具体的に身に付けることができたかなと。
それからようやく自分の本業としたい税理士をちゃんとやっていけるように、税理士資格を取る、そしてあとは自分がどういう税理士になりたいのかをちゃんと考えようと思いました。当時も経理代行とかを含め、6社程度のバックオフィス業務経験はあったのですが、それだけでは突出したものではないので、何をやったら他社と差別化の図れる自分の武器になるかを考えたときにIPOとかM&Aとかも浮かび、それを経験できそうな会社を探していたところ、たまたまであったのがfreeeでした。当時freeeのことは正直あまり知らなかったし、募集もバックオフィスではなく、カスタマーサクセスというあまり聞きなれない仕事だったのですが、面接を通じて、税理士などの士業にfreeeの提供するツールを導入する仕事だと知り、いろんな先輩税理士さんたちと関わり、成功例もうまくいかなかった例も知ることができる良い環境だなと思いました(笑)。そもそも将来的にカフェや税理士事務所をやるなら江の島とか鎌倉とかでやりたい、でも知り合いは東京にいる――。それだと定期的に東京に来なきゃいけないと思っていましたが、クラウドなら可能だなと思ったのもきっかけです。
freeeには4年いましたが、気が付いたら会社がどんどん居心地が良くなってしまい(笑)。最後はプロダクトマネージャー職に就いていましたが、私のやりたいことは『見えない何十万、何百万の人ではなく、目の前にいるひとりの人を助けること』だと気付いたんです。自分のやりたいことに挑戦するためにfreeeに入ったのだから、自分の真の願望に気付けたなら次に行くべきだと。それで、独立することにしました。
●大学院で学問的に税法を学ぶことで、税理士への道を切り拓く
———— 立教大学 経済学研究科に行かれた経緯をお話いただけますか?
キャリアとは別軸で、税理士試験の勉強がはかどらなかったんですよね。そこで、大学院で税法を研究してその課程を卒業できると税理士試験が2科目免除になるという仕組みを利用しようと考えたわけです。単発勝負で1日しかない税理士試験を受け続けるよりも、2年間かけて資格を取るほうが確実に近道になるんじゃないかと思いました。
同時に、試験のための勉強ではなく、ちゃんと学問的に学んでみたいという気持ちが湧いたので、まずどうやったら大学院に入れるかというのを調べてみることに。「スケジュールももっとカツカツなのかな」と思っていたのですが、想像していたよりもゆとりがあることが分かり、社会人コースだったのできちんと仕事をやりつつ通えそうだなと思って、受けることにしました。
———— 税理士業務を学問的に学ぶというのはどういうことですか?
税理士業務というより、“税法”について学問的に学ぶという感じですかね。試験の勉強だけしていると、どういうパターンのときにどんな計算をするかというとこばかりに目がいくわけです。公式をひたすら覚えて、パターンを暗記することに終始してしまうのですが、そうではなく、日本には日本国憲法があり、その下にいろんな法律があって、すごく複雑ではあるけれど、たとえば法人税は何のためにこうなっているのかとか、そういった仕組みを深く知る機会は少ないじゃないですか。
税法は結局、政治や財政と関わってきます。税金は公共経済で使われていきますが、その流れで徴収されている税金は結局どこに使われているのかといったことは税理士試験では深くは勉強しませんから。大学院という環境でなら、そういう仕組みを強制的に学べそうでしたし、税法の条文だけを覚えるよりも、その裏にある背景をしっかり理解しておくことで、これから先、さらに見えてくるものがありそうだなと思ったんです。
———— ほかに検討された大学院はありましたか?
母校が明治だったので、明治の大学院も考えました。あとは説明会が気に入った青学(青山学院)も検討しました。立教含めて、どこも税理士試験2科目免除の実績がある大学院です。その3つの違いで言うと、立教は経済学研究科の中にあり、青学は法学研究科の中にあり、明治は経営学のところにあり、どちらかというとMBAを取得する人が行くところなんです。だから明治は、MBAと税理士の科目どちらも取れますよという感じで、その分学費が120万円ほど高かった。どの学部の中にあるかという違いも面白かったなと思いました。私は自分にとって立教が一番バランスが良さそうだと感じたので、そこを選びました。
●税理士資格を獲得してから、キッチンカーへと事業の幅を広げる
———— 一番印象に残っている、面白かった授業はどんな授業でしたか?
授業の名前は憶えていませんが、財政学系の授業がとても印象的でした。先生も元々官僚側の方でとある行政と国民を繋ぐインフラシステムの立ち上げをした人だったんです。ちょうど時期的にコロナの特例国債を発行して、給付金を配ります、Go toトラベルやりますというタイミングで、そのお金がどうやって流れているのかとか、法案はどうやって通っているのかなど、税法×財政×時事ネタという授業で、それは本当に面白かったですね。
税法に関しても、先生が元国税庁の方だったりしたので、行政側、国側からの視点で見られるのも良かったです。立教はわりと、先生になる前に官僚をやっていましたとか、どこかの経営顧問をやっていましたとか、そういった方が多かったので時事ネタがかなり反映されていた気がします。
あと、単純に大学時代、もっと勉強すればよかったと思いましたね。社会人になってから改めて学校に入って勉強すると全然違うんですよね。色々と繋がるというか、ものすごくインプットできて、深く知ることができたんです。大学時代は自分が幼かったのかもしれないですし、授業が面倒くさかったイメージしかなかったですが(笑)、今学んだほうが100倍くらい面白かったです。
———— お仕事をしながら通われていたと思うのですが、スケジュール的にはどんな感じでしたか?
会社がフレックスタイム制だったのもあり、出勤時間を8時~17時くらいにさせてもらいそこから大学に行くようなスケジュールを立てていました。結局18時過ぎくらいまで仕事をすることにはなってしまいましたが、でも、平日に2コマ取って、土曜日に1コマ取るような感じで進めていたので、本当に社会人でも通いやすかったですね。
————そこから、キッチンカーを始めるまでには、どんな紆余曲折があったのでしょう?
独立後、お客さんのバックオフィス周りの課題を解決するコンサルティングをやっていたのですが、たまたま飲食関連のお客さん何件かと関わらせてもらえて。その中で、飲食店の大変さとのびしろを感じ、もっとテクノロジーを駆使したら、飲食店の方々の隙間時間を作ったりして、お客さんと向き合う時間を増やしたり、休みを作ったりできそうだなと。カフェをやりたいという目標もあり、ずっと料理は独学でやっていたのですが、飲食店をガッツリやったことがなかったので、ちゃんとやってみたらどうだろうと思っていたところ、ちょうどキッチンカーのレンタル業をしていた方が自分のお客さんにいて、平日の昼間なら貸せるよって話になって。料理も人につくってはいましたし美味しいと言われていたけれど、販売する価値があるほどのレベルなのは知りたいなとも思っていて。
それで一回やってみたのですがそれでレンタルでやることのメリットもデメリットも分かったので、じゃあ、キッチンカーを自腹で買うか!となり、購入しました(笑)。
また、メインの事業は独立後まもなく軌道に乗り、サラリーマンの時にもらっていたお給料以上には報酬も得ることができていました。でも、経理時代やfreee時代に得た知識や経験をただ切り売りしている感覚で、あまりワクワク感を感じられず……。人を増やすことも考えましたが、このタイミングで事業軸を一つ増やすのもありだなと思ったこともキッチンカーを本格的に始めるきっかけになりました。これを経験しておくと、今後さらに飲食業の方向けにコンサルティングさせていただく際も、糧になるかなと。実務を経験している人の方が細かいニュアンス分かち合えるじゃないですか(笑)
実際にキッチンカーをやっていて、イベントとかで出店していると出店者同士で仲良くさせていただくこともあったりするんですが、話を聞いているとキッチンカー一本でというよりも、メインとして店舗を構えていたり、実は本業は全然違うことをやっています!って言うパターンもあったりするんですよ。。皆さん経営している中でで、お金回りとか人材回りの悩みとか抱えていたりすることもあり、「実は僕、本業はバックオフィスコンサルティングなんです」というと、「じゃあ、今度相談させてください」みたいな話も自然と生まれたりして、面白いなと思ったりします。
———— 見事な循環が生まれているんですね。
無鉄砲にやっているように見えて、一応そういう流れになるだろうなというのは予め考えてはいたんですよ(笑)。キッチンカーではトントンくらいの収支でいいので、コンサルのほうの収入を増やせるようにしていければいいなぁと思っています。飲食の業界は横の繋がりも多いですし、ニーズはあると思います。
●何を学びたいのかをしっかり考えてから、大学院へのアプローチを
———— 最終的な目標のカフェのほうはいつくらいの開業を目指しているんですか?
カフェ兼税理士事務所は元々2025年の開業を目指していたので、そのくらいかなと思っています。古民家を改装して、1階はカフェ、2階は税理士事務所。確定申告なんかの時期は相談できるようにして、普段はのんびりできる場所にしておくという感じですかね。知り合いにスキューバダイビングのインストラクターや歌の先生をやっている人、陶芸教室を開ける人みたいな人がいたり繋がりもいろいろあるので、そういうイベントなんかをやっても面白いなと思っているんです。それがきっかけで人が集まって、雑談して、懇親する場所が生まれて、自然に人が繋がっていくっていうのが理想ですね。
———— 最後に、少し受験準備のことについてお伺いしたいのですが、実際にはどんなことをされましたか?
研究計画書を書くために、何を書こうかというのをしっかり考えましたね。結局修士論文ではまったく違うことを書きましたけど、その時点で書きたいなと思ったことを調べたからそれくらいですかね。面接対策とか論述試験の対策は別に何もしてないです。面接では専攻研究について突っ込まれることもあまりなかったですし……(笑)。
———— 大学院を目指す人に、アドバイスみたいなのはありますか?
最近、学生時代にお世話になった先生等のご紹介で、進路を考える大学生の相談に乗る機会がたまにあるのですが、よくよく聞いてみると「まだ社会人になるのは少し早いから、大学院行こうかな」という感じも結構あったりします。それだとちょっと微妙かなと思ったんですよね。大学院に行くなら、ちゃんと目的があったほうがいいと思います。それと、税理士試験の科目免除になるから、という理由で来る人も、決して“試験よりラク”ということはないというのを伝えたいですね。論文書くのもかなり大変です(笑)。
私は将来自身が税法の専門家としても活動するにあたり、その前に学問的に税法を学んで知識を深めたいという理由がありましたから。やはり大学院に入るのを決める前に、自分は何のために大学院に行きたいのかをしっかり考えることをおすすめします!