地方からでも大学院に通える時代。多摩大学大学院

社会人大学院の経験談を紹介する「先輩インタビュー」
今回は多摩大学大学院を修了された小泉裕一さんです。

モンゴルでの青年海外協力隊を経て、現在は人口わずか1,800人弱の離島で理学療法士として活躍している小泉さん。地域の健康問題を解決したいという思いから、多摩大学大学院へと進学されました。

離島からオンラインで授業を受けていた小泉さんは、自宅と大学院が離れていても学べることを実証してくださいました。

社会人大学院で学びたいけど、遠すぎて通えない……と悩んでいる方は必見です!



小泉裕一さん

理学療法免許を取得後に大学病院で勤務。その後、青年海外協力隊員としてモンゴル国立第三病院に派遣され、循環器疾患の急性期リハビリテーション立ち上げプロジェクトに従事。帰国後は在宅医療を経験し東京都神津島村に移住。
村役場で保健事業のチーフとして勤務しつつ、地域活動としてインクルーシブな島づくりを実践している。

卒業・修了した大学・大学院:多摩大学大学院経営学研究科経営情報学専攻(MBAコース)
入学年月:2022年4月
修了年月(年齢):2024年3月

青年海外協力隊としてモンゴルで働き、そして神津島へ

—————まずはご経歴を教えていただけますか。

高校卒業後、専門学校で理学療法士の免許を取り、その後に福祉経営を学ぶために、別の大学へ通信で通いました。

大学病院で働いたり、モンゴルでの青年海外協力隊として活動したりという経験を経て、現在は都心から180km離れた、人口 1,800 人にも満たない神津島という離島で理学療法士として働いています。

多摩大学大学院に入学したのは神津島に移り住んで6年目、2022年の4月でした。修了したのは2024年3月です。



—————神津島に移り住んだのは、何かきっかけがあるのですか?

青年海外協力隊でモンゴルに行ったときに、「地域をどうしていくか」ということにすごく関心をもったんです。モンゴルは首都ウランバートルとそれ以外の地方との「格差」がすごく大きくて、同じ国なんだけど、地方に行くと全く別の国に感じるぐらい、首都と地方では生活状況が違ったんですよ。

中でも、地方では人と人とのつながり、助け合って生活していくコミュニティの強さみたいなものがあり、地域社会はこうあってほしいと感じました。そして、モンゴルで得た知見や経験を日本に戻ってから還元したいなと思ったんです。

神津島は、妻の祖母が住んでいたところで、家族の縁がありました。島の高齢化に伴い村役場で理学療法士を募集していて、僕が手を挙げ、赴任しました。



健康にフォーカスするだけでは、健康問題を解決できない

—————どうして大学院へ行こうと思ったんですか?

僕は理学療法士として、島民の健康増進や介護予防などに携わってきました。仕事を初めて5年くらい経ったときに、「健康」にフォーカスするだけでは、住民の「健康問題」を解決できないことにだんだんと気づき始めたんです。

僕がもつ既存の理学療法士としての知識とか経験だけでは課題が解決できないという現実にぶち当たり、すごく苛まれた。もっとより幅広い知識とかを得たいという思いがあって、大学院への進学を考え始めました。

医療職と呼ばれる人たちは大学院に行く人が結構いて、僕のような理学療法士は理学療法の大学院に行くのが定石なんですが、僕は医療系ではなく「経営」や「社会デザイン」といったことを学び、健康などの課題をもっと大きな側面からジェネラルに捉えたいと考えました。

だから、医療系ではなくMBAへの進学を決めました。



—————大学院はいろいろなところを見ましたか?

いろいろな大学院をリサーチしました。

僕は修士論文を書きたかったのでグロービスなどの専門職系の大学院は除外していましたし、神津島に住んでいるのでそもそもオンラインでやるしかないという環境でした。

論文を書けて遠隔で学べてかつ自分の学びたいものに合っているところと考えたときに、多摩大のMBAか、立教の社会デザインが候補に挙がりました。

家庭の事情も含めて熟慮した末に、多摩大への入学を決めました。



地域コミュニティで未来創造活動を創発するプロセス

—————多摩大に入学してみてどうでしたか?

正直想像以上によかったです。

オンラインだから人との繋がりみたいなところは望めないのかなと思っていましたが、めちゃくちゃつながりもできて、同期と切磋琢磨しながら学べました。

多摩大のいいところは、「ハイブリッド」なところ。普段はオンラインだけど今日の授業だけ来れるなら現地に来ても全然いいよ、みたいな感じでフレキシブルなんですよ。

だから8回の授業のうち1回だけ、東京に行けるタイミングでキャンパスに行って受講することもありました。少しでも対面で参加できたのはすごくよかったです。



—————今日行けるなら行く、ってシステムいいですね……!授業の内容はどうでしたか?

多摩大は「知識創造理論」の研究にとても力を入れていて、これは一橋大の野中先生という方が提唱しているSECIモデルを中心とした理論なんですが、野中先生と一緒に研究した先生が多摩大にはたくさんいたんです。

僕はこの知識創造理論にすごく関心があったので、この理論に関わる授業は全部取っていました。やはりその授業が僕にとっては一番よかったし、今に生かされているように思います。

僕はこのSECIモデルをベースにして、地域課題が生じて解決行動にいたるまでの行動プロセスをモデル化し、修士論文「地域コミュニティで未来創造活動を創発するプロセス ー東京都神津島村のアクションリサーチを通してー」としてまとめました。



—————面白そうな研究ですね。 具体的な研究内容をかいつまんでお聞きしてもよろしいですか?

1年以上かけて、コミュニティ活動がどのように創出していくか?ということをアクションリサーチを通して実践研究していきました。実際に自分で行動を起こして、活動がどのように創発し発展していくか、そのプロセスを明らかにして、行動モデルを提案しました。

具体的な活動としては、神津島村の高齢化課題をはじめとしたコミュニティの課題に対して、行政主導ではなく、住民主導で行動を起こしていくためには、どのようプロセスが必要かという事を実践しながら明らかにしました。どのようなプログラムを実践したか?という研究は多いのですが、いかに地域活動を創発したか?という地域経営視点の研究は先行研究でもあまり見つからず、自分で実践する以外、明らかにできないと考えたんです。

本当に最初の活動が萌芽する瞬間に焦点をあてて、最初の何気ない1対1の対話の内容や、徐々に集団が広がっていく動態を当事者の視点で分析していきました。

実践と研究を両立することは大変でしたが、地域が良くなっていることで研究の意義を感じることができました。今、神津島ではリビングラボのような場が生まれ、地域主導で小学校とコラボレーションした福祉啓発の授業が実践されたり、地域イベントで障害のある方が参加できるようなインクルーシブな試みがされたりしています。

これだけではただの実践ですが、このプロセスを物語化し、インタビューなども組み合わせて知識創造理論に基づきSECIモデルのフレームなどを用いながら行動の要素を分析していきました。最終的に行動プロセスが場づくりやリーダーシップなどの要因で駆動していくモデルを作成しました。



—————このプロセスが整理できて、小泉さんとしてはすっきりできましたか?

めちゃくちゃすっきりしましたよ! うまくいかない原因や、つまずいている箇所がはっきりしたのは大きな収穫でした。この研究をきっかけに「神津島村の福祉を考える会」、通称「シマフク」を立ち上げて活動しているんですが、地域に大学院で学んだことを還元できていると感じます。


—————興味深い研究を聞かせていただきありがとうございます。他に、こんな学びがあったよっていうのがあれば教えてください。

幅広い分野を学べたというところがよかったです。

多摩大は授業の幅がすごく広くて、必修科目は少なく、120くらいある授業の中から自分で一つずつ選ぶスタイルで、僕は卒業までに全部で50単位くらい取りました。

具体的なところで言うと、多摩大が力を入れているルール形成の授業とか、ソーシャルイノベーションの授業などがよかったです。幅広い授業を受講して教養が広くなりました。

多摩大で学べるのはMBAなんですが、既存のMBAの否定から入るところもおもしろかったです。多摩大は、過去のケーススタディを研究していてもそこからはイノベーションを生み出せないというスタンス。どうやったらイノベーションを生めるかを大事にしているので、ケーススタディとかフレームワークも勉強しますが、自分の事業や組織の課題が起点となり授業が進んでいきました。

「君は何をやりたいんだ?」とか、「志はなんなんだ?」とか、そんな問いかけをたくさんされましたね。

自分が本当に何をやりたくて、何のために生きたいのかを考え、自分ととことん向き合った2年間だったなと思います。



オンラインだから、地方でも学べる

—————大学院に行って、意外だったことはありますか?

オンラインでも全然不便ではないところが意外でした。先生は正直なところできるだけ来て欲しいと思っているかもしれませんが……。

僕はほぼオンラインでの参加でしたが、積極的に発言するなどして能動的に参加すれば、学びには全く差し支えありませんでした。



—————オンラインと現地でのハイブリッド。先生は大変かもしれないですけど、学生にとってはすごくありがたいですよね。

本当、めちゃくちゃありがたいです。コロナ禍がきっかけでオンラインでの学びが広がっていったと思うんですが、オンラインが始まってから、地方から学びに来る人が明らかに増えたと思います。


—————そうですよね。今まで東京、大阪、福岡くらいでしか学べなかったのが、全国各地で学べるようになりましたもんね。

これは、結構革命だと思っていて。神津島のような離島から学べるなんて、ほんの十年前は考えられなかったですからね。


—————教育格差をなくしていますよね。もっとみんなに知ってほしいですね。

雇用保険なども使って、ぜひみなさんに行ってほしいです。

多摩大は、学費が230万円と、MBAの中では抑えめなのもよかったです。グロービスとかもMBAでは有名ですけど、300万円くらいして高いですし……。

私は公務員だったので雇用保険にも加入していなかったため学費は少しでも抑えたかったというのも本音です。ただ、幸いにも多摩大学大学院の特待生に選考されて学費が半額免除になったのは有難かったです。

あとは、キャンパスが品川駅前にあるので通いやすいのもよかったです。地方から新幹線で学びに来ている人もたくさんいましたよ。

それと多摩大は卒業後も学べる仕組みが整っており、在学中に学校運営に貢献したり、優秀論文賞を受賞したりすることで、ポイントが貯まる仕組みになっているんです。そのポイントが5ポイントたまると、卒業後も授業が1つ(1回の授業ではなく1つの授業を全回)聴講できます。私も5個の授業が聴講できるポイントが貯まっています。入学時期が早いだけでかなりポイントが貯まるみたいですよ。



環境を整えつつ、学べるうちに学べ!

—————進学前に遡れるならこうしておこう、ってことはありますか?

オンラインで受講するのであれば、PC環境は妥協せずに早めに整えておくということでしょうか。

僕は最初ノートパソコンで受講していたんですが、授業に支障が出てしまうことがたびたびありました。例えば統計の授業で、統計のソフトとzoomを一緒に開いているとzoomが固まってしまう、とか。

デスクトップパソコンにデュアルモニターもつけてから問題なく授業にも参加できるようになりましたが、最初からこうしておけばよかったなと思います。

あとは、家族に子供が3人いる環境の中授業に参加するわけなので、妻には負担をかけました。ですので自分ができる家事をこなすなど、家族への信頼残高みたいなものはやっぱり貯めといた方がいいだろうなと思います。



—————家族にも理解してもらうためには、信頼残高は大事ですね。最後に、これから進学する人に向けて、アドバイスをお願いします。

少しでも気持ちがあるのであれば、早めに進学するのをおすすめします。

時代の変化するスピードってすごく早いじゃないですか。だから、急速に変化する時代に適応するために、自分も常に進化していくという態度をもっておくことが大事だと思います。

学ぶ気持ちがあるんだったら、さっさとやった方が新しい未来も開けてくるし、これまでとは違う未来が見えてくる

年を追うごとに体力や気力も減っていくことを考えても、学べるうちに学んでおいたほうが絶対にいいと思います。



—————小泉さんのお話は、地方に住んでる人たちにとってめちゃめちゃ応援になると思います。

そうなってくれると嬉しいです(笑)。

僕は地方から学ぶ人がどんどん増えてほしいなと強く思っています。日本の地域問題って、その地域の中で何かを起こすエネルギーがなくなっているところに問題があると思っていて。

だから地域から学ぶということを介して、エネルギーがいろんなところから湧き出てくると、それこそ本当の地方創生になっていくのかなと思っています。



—————地方から学ぶ人が増えるよう、えれキャリでもどんどん発信していきます。今日はありがとうございました!





執筆者:aida


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