臨機応変にキャリアをデザイン。京大MBAでのエフェクチュエーションの学び


働きながら学ぶ人を紹介する「先輩インタビュー」

今回は、異色の経歴からIRキャリアを歩みはじめ、現在では京都大学経営管理大学院(MBA)に在学中の「かえるさん」にインタビューしました。

かえるさんプロフィール

サービス企業の現場にて顧客対応(約3年)→IR担当(約6年)→契約管理担当(約1年)ののち、21年4月より休職し、京都大学経営管理大学院のフルタイムMBAに進学

留年、レジ打ち、契約社員からのIR


———— 今日はよろしくお願い致します!かえるさんとはTwitterスペースで一度、社会人大学院生で集まりお話させて頂きましたよね。改めてかえるさんのご経歴を教えてください。

そうですね、一橋とか都立大の方と一緒に4人くらいで話しましたね。ほぼ初対面みたいなものですね。経歴はですねーあまり履歴書に綺麗に書ける感じではないんですが、学部時代の就活で鉄鋼メーカーに内定をもらったんですが、中国語の単位を落として留年しまして、次の年も就活しましたが、なかなかうまく決まらず、結局ダイエーでレジ打ちをしながら税理士を目指すっていうところからキャリアがスタートしました。

その後は、税理士事務所でアルバイトを一年程度してみたんですが、ちょっとこの先に自分のキャリアはなさそうだなと思ってました。やめて旅でもしようかなーでもお金ないなーと思っていた時に、今の所属企業で働くことになりました。
ホームページにアルバイト募集と書いてあったので「どこでもいいんで、明日からいけるとこないっすかね〜」って人事のお姉さんに電話しました。「明日からですか笑 ちょっと遠いけどいいですか?」って言われてすぐに徳島にいくことが決まりました。





———— なんと。私も必須単位を一個落として留年したので、親近感がすごいです笑。そして徳島いいっすね、お魚が美味しくて最高ですよね。

最初はレストランで3週間アルバイトして、その後契約社員になりました。そうしてるうちに正社員の社内公募が目に入って「経営企画」という経験のない職種だったんですが、ダメ元で応募してみたら、忘れた頃に連絡が来て、とんとん拍子で異動が決まりました。

IRって一般的には、広報や財務系の中にあるイメージが大きいと思いますが、うちの場合は経営企画の中にあり、経営企画への異動と同時にIRのキャリアがスタートしました。



問を見つける力が足りない

 ———— IRでの仕事では、やりがいや楽しさは見出せましたか?

IR自体はすごく面白いですね。社外の投資家向けに自社の現状や戦略を魅力的に思ってもらえるようプランニングするのは、難しいですがやりがいがあります。自分の仕事に対して達成感はあるものの、それと同時にもっと上手くできるんじゃないかって欲が出てきました。

ふとした瞬間でした。中期経営計画書を作り統合報告書にまとめるプロセスの中で、自社の競争力の源泉を見出して言語化する力が足りないなと思うことがありました。そこにある数字をまとめることはできるけど「自分から問を見つける力」というか、課題設定能力みたいなものをもっと磨きたいと思うようになりました。





———— IRはあらゆる経営知識をフル動員して、会社の見通しをアピールする仕事ですもんね。アピールポイントを見出すためには、スキルも経験も同じくらい必要そうな印象を受けます。

たしかに経験も大事だと思います。同僚や上司を見ていると、時流に合わせて必要なスキルを学んだり経験を積んでいます。だけど僕は、キャリアの積み方はそれだけじゃないと思っていて、必要に迫られて学ぶのではなく、体系的に学ぶことで、IRとして成長する道があってもいいんじゃないかと思ったんです。

学術的な世界であれば、アドホックな学びではなく体系的に学べるかなと思い、MBAを意識しはじめました。まずはMBAの雰囲気を知りたいなと思って、名古屋商科大学の単科を取りました。MBA基礎っていう本科生も受講する講座があるんですよ。

自分が学びたいことが本当にMBAにあるのか確かめたかったし、実際に学んでいる人の雰囲気もわかりますしね。最初は面食らいましたね、みんな働きながらこんなこと学んでるのかって。

スケジュールとしては、2018年の夏にMBAを意識しはじめて、年明け2019年の年始に進学を決意し、2019年の4月から7月に単科講座を受けてました。


全てかなぐり捨てて来た大学院だから、得られるものは全部得たい

———— 大学院選びのポイントはありましたか?

お金もなかったので、国立に絞って考えていました。一橋大、東京都立大、筑波大、神戸大あたりですね。あとはパートタイムで、夜と週末だけで通えるところがいいなと思っていました。

都立大と京大に合格をもらい、最初は都立大に行こうと考えていました。少人数で先生たちからのフォローが手厚く、特に人材開発やキャリア系では有名な教授も多く、真っ当にいったらスキルが伸びて期待通りの学びが得られそうだと思いました。一方の京大はMBAがあること自体あまり知られていないし、行ったらどうなるかな....なんか気になるな....みたいな存在でした。最後は、期待通りにいかないかもしれないけど、飛び込んでみるか!と京大に決めました。





———— 「じゃない方」にいくってのが、かえるさんっぽいですね。経歴のお話を聞いていても、普通の人はそうしないだろうなって選択肢を選んでいますよね。京大での生活はどうですか?

週7日、朝の9時から夜の9時までずーーーと自習室にいて、講義を受けたり予習復習に追われています。会社を休職させてもらって、全てかなぐり捨ててこの生活を手に入れているので、得られるものは全て得ようと思ってます。上限数まで授業をとっていて、ちょっとやりすぎたかなって思ったけど後悔はしてないです笑。

後期ではリーダーシップとエフェクチュエーションの授業は特に面白かったです。リーダーシップの方は、半分はリーダーシップ研究の歴史について、残りはリーダーシップ開発を理論ベースに学ぶ授業でした。
もともとリーダーシップには興味があり、他者にどう働きかけると物事を上手く進められるのか理解したいと思っていました。リーダーシップにも色々と種類がありますが、僕に合っているのはサーバント型の他者に尽くすようなリーダーシップだと授業を通して再認識しました。

サーバント型リーダーシップとは
Robert Greenleaf が 1977 年に提唱した “Servant first, Leader second”(リーダーは,まず相手に奉仕し,その後,相手を導くものである)という従来の先頭になって周囲を導くという強いリーダーのイメージとは違った、支援型のリーダーシップのこと。





———— サーバント型のリーダーシップは、おもてなし文化の日本人の肌にも合う気がします。エフェクチュエーションの方はどうでしたか?以前Twitterスペースで話した時もお話されていたので、かなりお気に入りなんですね!

理論の提唱者であるサラス・サラスバシー氏の書籍を日本語に翻訳した、吉田満梨さんが授業をしてくれて、構成される要素についてレクチャーがあったのちに、自分でエフェクチュエーション的行動を実践してみて、次の授業で振り返る・共有するというものでした。理論自体はすごく面白いなと思う反面、自分の心の中に何かストッパー的なものがあって、うまく実行するのが難しいなと感じました。自分自身でもまだ何がストッパーになっているのかわからないのですが、すくなくとも今は休職中で副業なども禁止なので、何かあたらしいことにチャレンジするという環境を作ること自体がむずかしいのかもしれないです。





———— かえるさんのキャリアのお話を聞いていると、エフェクチュエーションの塊では??と思いましたが、ご自身は苦手意識があるんですね、意外でした。ただ、エフェクチュエーションの授業があるのは、かなり羨ましいです。心理的安全性の次にビジネス界隈で盛り上がるのはこの理論じゃないかなって個人的に思っているので。今は難しい翻訳書しか出版されていませんが、エッセンスを上手くまとめて実務転用しやすくしたビジネス書が近々出る気がしています笑。

「エフェクチュエーションの塊」という評価は意外でした。私はもしかすると、自己評価が厳しすぎるのかもしれませんね。次の話につながりますが、同期の皆さんを見ていても同様に感じることがあったので、今回の対談は私にとっても自己を内省するきっかけになりました。

エフェクチュエーションとは?
優れた起業家に共通する思考プロセスを研究したインド人の経営学者サラス・サラスバシー氏が提唱した理論。それまで学習不可能だとされていた起業家的思考や行動を、学習可能なものとして整理し注目を浴びており、5つの要素から構成される。


1.手中の鳥の原則
新しい方法ではなく、既存の手段を用いて何かをつくること

2.許容可能な損失の原則
損失が出ても致命的にはならない許容範囲のリスクをあらかじめ設定すること

3.クレイジーキルトの原則
形も柄も違う布を縫い合わせて1枚の布をつくるクレイジーキルトに例え、顧客や競合他社、従業員などをパートナーと捉え、一丸となってゴールを目指していくこと

4.レモネードの原則
酸っぱくて使い物にならないレモンに工夫を凝らして、甘いレモネードを作る(=価値を持つ製品へと生まれ変わらせる)こと

5.飛行機の中のパイロット原則
前出の四つの原則を網羅した原則でもあり、不測の事態に備えて、状況に応じた臨機応変な行動をすること



海千山千の同期たちと学び、アニマルスピリッツに芽生える


————
いろいろと面白い授業が多い京大ですが、当初の目的だった「問いを見つける力」は達成できそうですか?

そうですね、さまざまな理論やケースから知識をインプットし続けていて、物事を見る視点が増えた気がします。あとは、同期のアグレッシブさ・ポジティブさに刺激を受けています。僕の感覚だと「そのクオリティありなんだ」って思うものでも、みんな臆せず突破していくんですよね。教科書的じゃないパターンでも、自分の腕っ節や若さで乗り越えていく姿をみると、自分もとりあえずやってみようと思うことが増えました。





———— 京大MBAには、どんなメンバーが多いのでしょう?

フルタイムのMBAなので、他大に比べて経営者の方が多いですね、あとは学部からそのままストレートの方とか。海千山千で、自分の経験に裏打ちされた持論を持っている人たち、言い換えればアニマルスピリッツに溢れた人たちが多いです。

属性問わず、自学自習を超えた学びを得たい人にお勧めの大学です。一人で学ぶにはやっぱり限界があります。僕もそうでしたが、一つの理論とっても一人で理解するのと、他者の解釈を交えて理解するのでは理解の深さや幅が違います。色々なバックグラウンドをもった人たちと一緒に学ぶことで、より本質的な学びを得たい人におすすめします。

京大生の年齢のボリュームゾーンは35歳から40歳くらいで、60歳くらいのかたもいます。属性問わずに、学び続けたいと思う人に開かれていますね。





———— アニマルスピリッツの中で体系的に理論を学ぶ経験ってなかなかないと思うので、京大MBAは貴重な場ですね。受験準備はどんなことをされましたか?

先述の名古屋商科大の単科講座をうけたのと、河合塾のMBA受験対策コースを取りました。どちらも学びが多かったです。後者は筆記対策や、経営学の基本的知識をインプットする場としてはとても優れていたと思います。ただ、研究計画書や面接対策は個人的には微妙なところもあったので、一度体験にいかれることをおすすめします。





————
MBAだと河合塾の受験対策講座を受けてる方、結構多いみたいですね。慶應・早稲田は半分近い方が受けているとか。名古屋商科大の短期講座も3ヶ月という長さでちょうどいいですね、教育給付金の対象にもなってますし、まずはここからはじめてみるのも良さそうですね。



あとがき

今回は異色の経歴から京大MBAに進学された、かえるさんにお話を伺いました。かえるさんご自身は「実務でエフェクチュエーションを実践するのは難しい」と仰っていましたが、私としては、かえるさんの生き方そのものがエフェクチュエーション的だなと感じました。不測の事態があっても常に臨機応変に、今ある選択肢の中で最大限のパフォーマンスを出すことを常に考える。社会人として大学院を卒業したからといって、未来が約束されているわけではないけれど、状況を臨機応変に判断しながら結果をデザインしていくスタンスは、良いキャリアを描く方法にも通ずるなと思いました。

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