家族のバックアップを得て博士課程へ。公務員から大学教員へのキャリアシフトを目指す

働きながら学ぶ人を紹介する「先輩インタビュー」
今回は2020年に博士号を取得したsammytzさんです。

フリーター→非正規工場労働者→ブラック企業→公務員と渡り歩き、自分を高めるために、2017年から大学院に通い、2020年に40代で博士号を取得したというユニークな経歴の持ち主であるsammytzさん。

入学までの経緯や大学院で得た学びについてお話を伺いました。

 

sammytzさん

修士入学時年齢:32歳
修士修了時年齢:34歳

博士入学時年齢:40歳
博士終了時年齢:43歳

公務員からのスキルアップを目指して博士課程へ

———経歴について簡単に教えてください。

人文系の学部を卒業したあと、フリーター時代は、コンビニの深夜勤、ボウリング場でアルバイトをしていました。非正規社員として携帯電話の組み立て工場で働いたこともあります。そのあと公務員に。このインタビューで初めて明かしますが、'教育'公務員でした。




———大学院を検討したきっかけは?

公務員からのスキルアップのためです。なので、修士課程はバリバリの仕事関係で通いました。ただ、入学後に横道にそれてしまい(笑)、仕事と関係ない研究にはまって、結局修士論文も、仕事と関係ない題目で書くことに。とりあえず、目標としていた専修免許はとれたのですが、そこには全く興味が向かず。それでも、とりあえずこれで管理職への道は開けたかなと思っていました。

修了後も、ちまちまと仕事とは全く関係ない、自分が関心のある分野の論文を書いていたのですが、やはり「修士」レベルだと、研究内容も方法もちょっと相手にしてもらえてない感じがあったので、これは「博士」に行くべきだと思って、進学しました。




———大学院の選択基準は?

私のテーマとする(欲しい学位の)学問は結構マイナーなので、近くに合致する大学院がない。そこで、他県を調べてみると、結構遠いところに、よさげな大学院があることがわかりました。博士課程は大学で選ぶのではなく、先生で選ぶということも何となく知っていたので、専門の先生がいるかどうかHPでリサーチ。でも、よくわからなかったので、大学の事務局にメールで連絡したところ、自分で探してくださいと速攻で断られたので、HPで公開されている教員の連絡先を調べて、私の研究テーマに近い先生宛にメールを送ったところ、返事をいただけて、直接お会いすることに。2016年の夏、本格的に博士課程進学に向けて動き出した瞬間でした。




———進学にあたって会社やご家族の反応は?

奥さんはかなり協力的で、本当に助かりました。修士のときも博士のときも、一言も反対は言いませんでした。博士の時は、学会などで宿泊することも多かったのですが、それも一言も文句なく。奥さんの協力なしでは修士も博士も絶対無理だったと思います。




———ご家族の協力があってこそ、ですね。会社には相談しましたか?

職場へは、修士のときも博士のときも言いませんでした。なので、上司も同僚も、私が大学院に行っていることを知っている人は誰もいません。完全に隠密行動でした(笑)。仕事に支障がなければ、17:00からは基本自分の時間ですから。終業後にライザップに行くことをいちいち職場に言わないのと同じ感覚です(笑)。

そのかわり、大学院に行っているから、仕事の時間を融通してほしい、配慮してほしいなどと言ったことももちろん一度もありません。修了については修士のときは言いましたが、博士はまだ誰にも言っていません。博士まで行くと、大学教員へ転職したいというのが見え見えですからね。

修士は研究計画書をしっかり書けるかどうかが重要

———受験準備はどんなことをしましたか?

修士の時は研究計画書については相当悩みました。いかんせん書き方が全く分かりませんでしたから。今思えばよく受かったな~っと思うような計画書でしたね。研究計画書については、大学関係のどなたかに見てもらうことが必須だと思います。大学関係者の知り合いがいなくても、社会人ならお金はあると思うので、有料で添削サービスなどを利用するのがいいと思います。

博士の時は、計画書の作り方はわかってないとそもそも進学できないので、書き方が分からない人はいないと思います。ただ、修士のときの行き当たりばったりとは違い、計画書を作るのに1年くらいかかりました。とにかく先行研究のレビューが命ですから。




———進学前後でのギャップはありましたか?

修士課程の時は、学部のように講義があって、それを聞いてみたいなイメージを持っていたのですが、まったく違ったので苦しかったです。研究の内容も、方法も、論文の書き方もすべて一から自分で勉強しました。博士は想定通りです。大学に行かず、ひたすら自室で論文書きです。




———在学中の過ごし方(1日・一週間のスケジュール)はどんな感じですか?

修士:

月~金はフルタイムで仕事。17:30に終わり、その後大学院へ、22:30くらいまで講義&大学の共同研究室で論文書き。23:00頃帰宅。この頃第1子が生まれたばかりだったのにほとんど自宅にいなかったので、奥さんにかなり負担をかけていました。土は大学の図書館で研究&勉強。日は家族サービスです。

博士:

月~金はフルタイムで仕事。その後、子どもを迎えにいって18:00に帰宅、子どもをお風呂に入れたり、こまごまとした家事をしたりして、20:00から自分の時間になり、論文書き。23:00就寝。土は朝から深夜まで終日論文書き。それくらいしないと間に合いません。日は家族サービスです。




———かなりお忙しくされていたんですね。

フルタイムの仕事をしながらの学生は、とにかく時間を捻出するのが厳しいですね。




———大学院で一番思い出に残っている瞬間・授業は?

修士は、いろいろな職業の学生とディスカッションをしたり、講義後に飲み会をしたり、ストレートで学部から上がって来た学生とつるんだりして、大学生活再びという感じで楽しかったです。

研究の初歩から自分で学ぶので、教授とのやり取りがうまくいかないことが多く、泣きたいことも多々ありました(いや、泣いてました)。2年間という短い期間でしたが、濃縮された2年間だったと思います。博士は、まったく大学に行かないので、思い出はほとんどありません。




———大学院での一番の学びは?

課題解決に導くプロセスを学べたことです。それまでは何となくうっすらと考えていたことが、大学院で論文を書いたことで、課題解決へ導く思考が身に付いたことが一番大きいです。この思考は、他の学問でも援用できますし、仕事にもとても役に立っています。苦労した甲斐がありました。




———大学院に進学してよかったですか?

もちろんです。

博士課へは生半可な気持ちでいかないほうがいい

———卒業後はどんなキャリアを思い描いていますか?

四年生の大学教員一択です。が、短大や高専も視野に入れて、現在は公募にチャレンジしています。




———どんな人に進学を勧めますか?

修士課程は、論文の書き方や構造について学び、書くので、課題解決思考が身に付くと思います。研究だけでなく、日々の仕事を進めるうえでも必ず役に立つ思考力ですから、社会人も学部学生にも全員にお勧めします。

ただし、文系の学部学生が一回も社会に出ずに博士まで行くのは、引き返せない世界になるのでお勧めしません。博士だと年齢的に一般企業にも就職できず、厳しい研究競争で研究者にもなれず、最悪一生博士フリーターになる可能性も出てきます。

世の中にはとんでもなく能力が高い人もいるので、くじけるくらいなら、修士で就職してしまいしょう。仕事をしている社会人なら博士課程に行ってもいいと思いますが、簡単な資格を取ろうくらいの気持ちで行くと1年でフェードアウト確定です。ちなみに、私の行った大学院では、社会人の9割フェードアウトしていました(笑)。生半可な気持ちで行くなら、時間とお金がもったいないので、ゴルフに行ってビールを飲んだ方がよっぽど有益です(おじさんちっくなコメントですみません)。

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